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時計に対して感じている魅力の大部分がノスタルジーにあると考えているのは、決して私だけではないはずだ。これは時計とクルマへの情熱を結びつける重要なパーツのひとつであり、メカニカルな要素に限らず、デザイン上のロマンについても向けられるものである。2023年にラグナ・セカで開催されたレンシュポルトを訪れたとき、私は時計と自動車の歴史のなかで時計が果たしてきた役割への郷愁に深く引き込まれた。そこでは信じられないようなクルマ、興味深い時計、そしてその両方に魅了された大勢の人々を見ることができた。しかし何よりも私の心に残ったのは、そこにあったダッシュボードタイマーだった。
そう、タグ・ホイヤーのブースにはあらゆるものが展示されていたが、そのなかでも古いラリータイマーとポルシェ 718 ケイマン GT4 RSパナメリカーナに搭載された新しいダッシュボードタイマー&クロックのペアを眺めながら、私は数分ほどぼうっと立ち尽くしていた。そのとき、私は心のなかで思っていた。「なぜ、もうこのようなプロダクトを誰も作っていないのだろう」と。そして、何かノスタルジックで素敵なものを見つけたときと同じように、私はすぐにスマートフォンを取り出し、ホイヤーの古いダッシュボードタイマーの情報を探し始めた。
いまダッシュボードタイマーが欲しいなら、市場にひとついい選択肢がある。ハンハルトだ。しかし、バルチックのおかげで選択肢がもうひとつできた。実際、リリースの数週間前に一緒に時間を過ごすことができたこのセットに対する最大の驚きは、その点にあった。バルチックは素晴らしい時計を製造しており、彼らが新しいクロノグラフを発表したと聞けば、最高のものが上がってくると期待することができる。信じて欲しいが、私もバルチックを1本所有している。しかし彼らが次の限定版をダッシュボードタイマーをセットにして発表すると教えてくれたとき、それは驚きであると同時に、おそらく必要ではないけれど欲しくてたまらないものを買うように誘惑する、私の脳のノスタルジーに支配された部分を心地よく刺激した。まずは時計について見ていこう。
バルチックの新しい限定セットの構想は、4月21日から27日まで開催されるフランスのロードラリー、ツアー・オート2024の公式タイムキーパーを務めるブランドの活動を後押しするという目的から生まれた。このラリーの起源は1899年に始まったツール・ド・フランス・オートモービルにさかのぼり、現存する最古のラリーとなる。今回のルートはパリからビアリッツまでとなっており、ル・マン、ヴァル・ド・ヴィエンヌ、ノガロ、パウ・アルノスの各サーキットを経由する。ある意味、このような若いブランドがこのような古いレースと関係を結ぶのは少し不思議かもしれない。しかし彼らと会話をするなかで、バルチックのチームがカースポーツとクルマの歴史をこよなく愛していることが分かった。
バルチックのクルーはこのイベントのスポンサーであるだけでなく、参加者でもある。彼らはバルチックのデザインを落とし込んだBMW M1を所有している。伝説のラリーカーであり、パリ・ダカール・ラリーで4度の優勝経験を持つアリ・バタネン(Ari Vatanen)がチームのドライバーを務めている。クルマも時計も一般的に高価な趣味だが、この限定クロノグラフが示しているように必ずしも高価である必要はない。
バルチックの3レジスター クロノグラフをいくつか取り扱ったことがある私の目に真っ先に飛び込んできたのは、非常にきれいに仕上げられた繊細なトリコローレフレンチのテーマだった。赤、白、青がミックスされ、それぞれ微妙に異なる色合いを時計の各所に配している。この3色は互いに衝突しない程度に調和がとれており、“星条旗柄”のショートパンツのようにフランスのナショナリズムを前面に押し出すようなこともない。
ケースのサイズは直径39.5mm×厚さ13.5mm(厚さのうち2.5mmは大型のダブルドーム型クリスタルによる)で、ラグ幅は20mm、ラグからラグまでの長さは47mmとなっている。クラシックなデザインを現代的に再現した時計としては、ごく一般的なサイズ感だ。その内部には、9時位置に秒針停止機能付きのスモールセコンド、3時位置に30分積算計、6時位置に12時間積算計を備えたセリタ製カム式クロノグラフの手巻きムーブメント SW510-Mが搭載されている。2万8800振動/時で駆動し、パワーリザーブは63時間だ。
このようなメモリアルウォッチは、もしあなたがお金を払ってミッレミリアに出場しているのであればショパールからもらえるような、その大会における素晴らしい記念品となる。だが、ブランドが時計に“テーマ付け”をしたり、あるいは標準的なリリースと差別化する方法は多岐にわたる。バルチックはトリコロールのアクセントに加えて、文字盤の下部で“TOUR AUTO”の文字を強調した。また、ケースバックにもラリーのロゴを配し、そこにはシリアルナンバー入りの限定モデル(500本限定)である旨も示されている。
そのほかは、私がすでに所有しているバルチックのクロノグラフで気に入っている基本な要素をしっかりと踏襲している。ドリルラグ、しっかりとしたポンプ型プッシャー、リューズの適切な巻き上げ動作などだ。サテン仕上げのアルミニウムベゼルの上では、すでに色褪せてしまったような質感のゴールドのレタリングがトリコロールとは別にポップな印象を添えている。
ストラップの交換が簡単なドリルラグを採用しているが、バルチックはステンレススティール製のフラットリンクブレスレットにもクイックチェンジシステムを搭載している。また、カースタイリングのいいアクセントとして、上質な質感のネイビーブルーのアルカンターラストラップが付属している。もともとはブレスレットでの装着を好んでいた私だが、最近はストラップもよく使うようになった。適切なストラップであれば、印象はまったく違ってくる。
さて、この新しい限定セットで私が本当に驚いたことに話を戻そう。各ボックスには、前述のダッシュボードタイマーも付属しているのだ。そのデザインとレイアウトは、先ほどお見せしたクロノグラフウォッチとよくマッチしている。左のモジュールは30分積算計を備えたフライバッククロノグラフで、フランス国旗にインスパイアされたデザインコードを踏襲している。右側は、レトロな魅力が漂う素敵なフォントを選択した極めて実用的な時計である。
しかし、バルチックはこれらを単独で開発したわけではない。あるブランドが、時代錯誤の機械式ダッシュタイマーの市場をほぼ掌握しているという話をしたのを覚えているだろうか。このフライバック機能付きストップウォッチは、ハンハルトの機械式ムーブメントを搭載している。リセットの動作は少々不安定で、時折最後まで押し込めず、部分的にしかゼロに戻らないことがあった。まあそれがレースの真っ最中なら、おそらく私は必死にこのグリップを握りしめ、命懸けでクリックを繰り返すことだろう。
一方、時計はシーガルのST3600/6497ムーブメントを搭載している。これについては多くを語るつもりはない。時計をセットして動かしてみたが、問題なく動いているように見えた。プロトタイプのダイヤル下部には“2023”と書かれている。当然、実際の発売時にはこの数字は更新されるだろう。しかし、私にとって一番のニュースは、このコンビがよくマッチしているだけでなく、最近はまったく目にしなかったプロダクトが、比較的若く手ごろな価格のブランドから出てきたということだ。
価格と発売日について話をしよう。このセットは4月22日午前10時(EST、日本時間では23日の午前0時)からバルチックのWebサイトで2100ユーロ(日本円で約34万5200円、日本での販売なし)で販売される。セットとしてはとてもお買い得だ。私が以前購入したトリコンパックスはそれ以上の値段だったが、ラリータイマーは付いていなかった。そうすると、私はこのセットを手に入れるべきなのだろうか? さて、このような時計は欲しいが必ずしも必要ではないもののカテゴリーに入ると書いたのを覚えているだろうか? 私は現在クルマを持っていないので、1日のなかでダッシュするタイミングは朝コーヒーを買いにデスクを往復するときだけだ。だからと言って欲しいとは思わないかというと……、そんなことはない。
バルチック(BALTIC) “ツアー・オート” トリコンパックス&ダッシュボードタイマー限定セット。時計は直径39.5mm×厚さ13.5mm、316Lステンレススティール製ケース、ラグからラグまで47mm、ラグ幅20mm。マット仕上げのライトベージュダイヤル、ギヨシェを施したホワイトのサブダイヤル、スーパールミノバとフレンチ“トリコロール”ダイヤル、アルミニウムタキメーターベゼル。ムーブメントはセリタ製手巻きクロノグラフCal.SW-510-M。50m防水。ハンハルト製機械式ムーブメントによるフライバック機能付きストップウォッチと、シーガル製機械式ムーブメントCal.ST3600/6497 によるダッシュクロックを備えたダッシュボードタイマーセット。スティール製マウント。シリアルナンバー入り限定500セット。価格は2100ユーロ(日本円で約34万5200円)、日本での販売予定はなし。
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バルチック ツアーオート限定セットの詳細については、Webサイトをご覧ください。
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