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Historical Perspectives IWC ヘリテージピースから振り返るビッグ・パイロット・ウォッチの現在地

この時計はIWCの思惑通り、きっとユーザーの裾野を広げるに違いない。だが、同時に旧来のファンも満足できる時計だと思う。

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ポルトギーゼ、ポートフィノ、ダ・ヴィンチ、インヂュニア、アクアタイマー、そしてパイロット・ウォッチ。 IWCには明確な個性を備えたアイコニックなコレクションが豊富にラインナップされているが、そのなかでもほかとは少し異なった展開をしているのが、パイロット・ウォッチコレクションだ。

 ポルトギーゼコレクションにも“ヨットクラブ”のような特殊なサブモデルがあるが、パイロット・ウォッチコレクションは大きく分けるとマークシリーズに代表される主力のパイロット・ウォッチ、そして46.2mmの大きなケースと円錐形状の巨大なリューズが印象的なビッグ・パイロット・ウォッチという2つの特徴的なシリーズによって構成されている。

 このパイロット・ウォッチコレクションにおける2つのシリーズの立ち位置の違いを理解するためにも、貴重なヘリテージピースを交えつつ、まずは簡単に歴史をおさらいしておきたい。

スペシャル・パイロット・ウォッチ(1936年)

 1936年にIWCが開発したスペシャル・パイロット・ウォッチ。まだ多くのパイロットが飛行中に懐中時計を使用していた時代に、パイロットのために特別設計されたこの時計は頑強な風防、矢印のマーカー付きで短時間の計測ができる回転式ベゼル、耐磁性脱進機に加え、鮮やかなコントラストを与える夜光性の針と数字を備えていた。IWCのみならず、ゼニスが同時代に手がけた時計と並び、この時計は時計史における本格的なパイロットウォッチの元祖とも言える存在だ。またこの時計はマークⅨとも呼ばれ(当時。現在ではスペシャル・パイロット・ウォッチとマークⅨは区別されているようだ)、これに続くマークX(1944年登場)、マーク11(1948年登場)とともに主にイギリス軍に供給された。これらイギリス軍向けのパイロットウォッチであったマークシリーズに範を取ったモデルを原型としているのが、現在のパイロット・ウォッチシリーズだ。

ビッグ・パイロット・ウォッチ 52 T.S.C.(1940年)

 そしてビッグ・パイロット・ウォッチシリーズの祖となったのが、1940年に自社製の高精度な懐中時計用ムーブメントCal.52 T.S.C.を搭載し、軍用基準に適合した大きな秒針を持ったビッグ・パイロット・ウォッチ 52 T.S.C.(以降、52 T.S.C.とする)だ。
 マークシリーズは主にイギリス軍のパイロット向けであったのに対して、52 T.S.C.はドイツ軍向けに開発され、当時のクロノメーターに求められた高い精度基準と技術的な要求事項を満たした超高精度機だった。その優れた精度から、飛行監視要員向けの時計や航空用甲板時計(デッキウォッチ。マリンクロノメーターと時刻を合わせ、その時刻をパイロットに伝達する役割を担う)、航空用クロノメーターとして使用されたと言われている。直径55mm、重さ183gという大迫力のケースを備えるこの時計は IWC史上最大のサイズを誇るモデルで、時計を秒単位の精度で合わせることを可能な秒針停止機能(ハック)付きセンターセコンドやフライトスーツの上から着用できる長いレザーストラップを備えた。

パイロット・ウォッチ・ダブルクロノグラフのブレスレット仕様(Ref.3711-003)。

 IWCのパイロット・ウォッチコレクションは、主にスペシャル・パイロット・ウォッチの流れを汲むパイロット・ウォッチシリーズ、そして52 T.S.C.に源流を持つビッグ・パイロット・ウォッチシリーズという異なる原点を持つ2つのシリーズから成り立っている。とはいえ、どちらも軍用モデルであり市販されたものではない(1948年に登場したマークXIは軍関係者のみならず、民間の航海士やパイロットにも愛用されていた。市販というニュアンスではないが、軍用ではないものも一部存在したようだ)。直接的な祖となる市販モデルが登場するのは、それから半世紀以上の時を経た1990年代以降のことだ。

 まず最初に市販化されたのは、マークシリーズを原型とするパイロット・ウォッチシリーズである。1988年にIWCはジャガー・ルクルト製のメカクォーツムーブメントを載せたクロノグラフモデル(Ref.3741)を開発、これが現在のパイロット・ウォッチシリーズの直接的な祖となった。その後、1992年に当時のバーゼルフェアで発表されたIWC初の自動巻きダブルクロノグラフ Cal.79230を搭載したパイロット・ウォッチ・ダブルクロノグラフが、94年には現行のマーク XVIIIへと連なるパイロット・ウォッチ・マークXIIが登場し、パイロット・ウォッチコレクションの中核を担っていった。

 そしてビッグ・パイロット・ウォッチシリーズの直接的な祖となるモデルが登場したのは2002年のこと。ビッグ・パイロット・ウォッチ Ref.5002である。2000年にIWCは自社製自動巻きムーブメントのCal.5000を発表したが、このRef.5002はそれを改良したCal.5011を搭載した。

ビッグ・パイロット・ウォッチ Ref.5002(2002年)

 Ref.5002は直径46.2mm、厚さ15.8mmのケース、そして円錐形状の巨大なリューズを持ち、まさに原型である52 T.S.C.を彷彿とさせるスタイルを備えていた。加えて52 T.S.C.は前述の通り、当時のIWCが誇った高精度な懐中時計用ムーブメントを使用した超高精度機であったが、Ref.5002ではこのコンセプトも踏襲。自社製自動巻きのCal.5000をベースとする高精度なムーブメントを搭載した。

 Ref.5002が搭載したCal.5011はペラトン式自動巻き機構、そしてシングルバレルによる7日間ものロングパワーリザーブを備えた。当初は1万8000振動/時であったが、生産終了間際の2005年には振動数を2万1600振動/時に改め、さらにフリースプラングテンプに変更されたCal.51110を搭載(2008年からはさらに一部に改良を加えたCal.51111が登場)。現行のビッグ・パイロット・ウォッチ(Ref.IW501001)においては、2万8800振動/時とさらに振動数を上げて高精度化を図ったCal.52110が搭載されているが、Cal.52110ではさらにブレゲひげゼンマイを採用するほか、双方向ペラトン巻き上げ機構、そしてふたつの香箱による7日間パワーリザーブといった変更が加えられている。さらに自動巻きの巻き上げツメとホイールはブラックセラミック、そしてローター軸受けはホワイトセラミック製となり、これら硬質なハイテク素材によって実質的に損耗や破損がほぼ生じない、極めて優れたムーブメントへと進化を遂げた。

2012年に発表されたバリエーションモデル、ビッグ・パイロット・ウォッチ “トップガン” Ref.IW501901。Cal.51111を搭載した。

 自社製ムーブメントを搭載するモデルもあるが、現行のパイロット・ウォッチシリーズは基本的にエボーシュをベースとしたムーブメントを使用している。対してビッグ・パイロット・ウォッチシリーズに搭載されるムーブメントはごく一部を除き、ほぼすべてロングパワーリザーブと高精度を特徴とする自社製だ。さらに前者の選択肢が基本的に3針デイト表示付きかクロノグラフである一方、後者は3針デイト表示にパワーリザーブインジケーター付きを標準とし、アニュアルカレンダーやパーペチュアルカレンダー、トゥールビヨン、そしてIWCが特許を取得する独自のタイムゾーナー機能付きなど、高機能なモデルがラインナップされている。加えて、前者は36mmから豊富にサイズ展開されているのに対し、後者は46mmオーバーの大振りなサイズのみ。
 こうした違いもあり、パイロット・ウォッチシリーズが幅広いユーザーをターゲットとしているのに対し、ビッグ・パイロット・ウォッチシリーズは、どちらかといえば時計マニア向け、好事家向けの選択肢という印象がどうしても強かった。


ダウンサイズモデルは、新規ユーザー層向けか?

左はブラックダイヤルに「EasX-CHANGE」システムを採用したブラウンカーフストラップ仕様のビッグ・パイロット・ウォッチ 43 Ref.IW329301(106万1500円)。右はブルーダイヤルに同様のチェンジシステムを持つブレスレットタイプのRef.IW329304(118万2500円)。ともに税込。

 2021年、IWCはビッグ・パイロット・ウォッチシリーズにダウンサイジングをした新作ビッグ・パイロット・ウォッチ 43をラインナップに加えた。時計の詳細については、4月にコール・ペニントン(Cole Pennington)が執筆したIntroducing記事、そして同じく彼によるA Week On The Wristの記事をご覧いただくとして、この時計最大のポイントはやはりケースサイズが43mm(既存モデルは46.2mm)にダウンサイジングされている点にある。それは、IWCのクリエイティブ・ディレクターを務めるクリスチャン・クヌープ(Christian Knoop)氏の発言からも明確だ。

 「多種多様なモデルの発表を通して、私たちはビッグ・パイロット・ウォッチの象徴的な地位について認識を深めましたが、同時に、人間工学の観点から限界があることも把握していました。デザインは気に入っても、46mmのサイズでは抵抗を感じる方も大勢います。そこで、より人間工学に配慮されたケースサイズの新しいバージョンで製品のポートフォリオを補完することを決断したのです(プレスリリースより引用)」

 筆者が既存のビッグ・パイロット・ウォッチに感じていた印象もまさにこれだ。優れたスペックは魅力的であったし、デザインも個人的には申し分ない。とはいえ、ラグはやや短めで腕に沿うように工夫はされているものの、46.2mmというサイズは明らかに大きい。よほど体格に恵まれた人でない限り、時計だけが妙に主張しないように自然につけこなすことは難しいだろう。見ている分には本当にカッコよく、今も憧れの時計の一つだがつけて楽しみたい自分には合わず購入までには至らなかった。筆者と同じような考えの方は決して少なくないのではないだろうか?

43mmのビッグ・パイロット・ウォッチ 43(左)と46.2mmのビッグ・パイロット・ウォッチ(右。旧型のRef.5002だがサイズは現行モデルと同じ)。3mmものサイズダウンともなると、見た目の違いも明らかだ。

 またビッグ・パイロット・ウォッチ 43では「EasX-CHANGE」システムを採用している。これは専用工具を使用せずにストラップやブレスレットを簡単に素早く交換することが可能な機構で、時計に不慣れなユーザーでも扱いやすい。そしてIWCはつい先日、チタン(Ref.IW329701)、そしてブロンズ(Ref.IW329702)とケース素材の異なるバリエーション、ビッグ・パイロット・ウォッチ43・スピットファイアをラインナップに加えた。

 つけやすくなったサイズに、ダイヤルカラーやケース素材などさまざまな好みに応える豊富な選択肢。実際に筆者もビッグ・パイロット・ウォッチ 43をつけてみたが、ビッグ・パイロット・ウォッチならではの存在感はそのままに、日常的に使いやすいサイズ感が実現されていることを実感することができた。この時計はIWCの思惑通り、きっとユーザーの裾野を広げるに違いない。

 そして同時にビッグ・パイロット・ウォッチ 43は時計マニアや好事家も満足できる時計だと感じている。既存のビッグ・パイロット・ウォッチはダイヤルにパワーリザーブインジケーターやデイト表示を備えるなど、高性能な反面、よりピュアなオリジンに近い見た目を求める人にとっては不要な追加要素があった。だが、この時計は見ての通り、ダイヤルに余計なものが一切ない、1940年に誕生した52 T.S.C.の極めて純粋なデザインに回帰したシンプルな3針ウォッチに仕上がっている。特にデイト表示は不要と考える人が多い時計好きは満足できる仕様だと思う。

 そして搭載されているCal.82100は、筆者がA Week On The Wristで1週間レビューをした、大好きなポルトギーゼ・オートマティック 40が搭載するCal.82200のセンターセコンド版だ。7日間のロングパワーリザーブではなくとはいえ、既存のCal.52000系と同様、自動巻き機構に関する主要なパーツをほとんど摩耗しないセラミックパーツに置き換えた高性能な自社製。IWCの卓越した技術に裏打ちされた、質実剛健と評される時計づくりに魅力を感じていた旧来のファンも楽しめる時計になっていると言えよう。

 クヌープ氏が意図したように、日常的につけることができる43mmモデルを投入したことによりビッグ・パイロット・ウォッチシリーズのポートフォリオはより盤石になった。そして今後はこの43mmサイズでのバリエーションの拡充も見えてきた。では、主力であった46.2mmサイズをはじめとする大振りサイズではどんなモデルが登場するだろう?

 筆者は先鋭化したコンセプトを持つ個性的なモデルや、より実験的なワン・アンド・オンリーなモデルの開発がより一層進むと考えている。事実ビッグ・パイロット・ウォッチ 43のほか、デザートカラーのセラミックケースを持つビッグ・パイロット・ウォッチ・トップガン “モハーヴェ・デザート”やモノプッシャークロノグラフに仕立て上げたビッグ・パイロット・ウォッチ・モノプッシャー “プティ・プランス”、そしてIWCが8年の歳月をかけて開発し、特許を取得したという先進的な耐衝撃機構「SPRIN-g PROTECTシステム」を搭載するビッグ・パイロット・ウォッチ・ショックアブソーバー XPLなど、よりニッチなモデルが新作として続々と投入された。日常的に使いやすいモデルが充実する一方、ビッグ・パイロット・ウォッチシリーズは、やはりこの先も時計マニアや好事家を引きつける時計で我々を楽しませてくれることだろう。

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時計の詳細は、IWCの公式サイトまで。

Photographs by Keita Takahashi