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Auctions フィリップス 香港オークション(2025年5月23〜25日)に出品されるVOGA Museum Collectionsの注目ロット5選

VOGA Watch Museumによる時計のオークション出品は、この5本で終了となる。素晴らしい結果と共に、有終の美を飾ることができるだろうか? 

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先日、5月10日から11日にかけて実施されたアンティコルム ジュネーブオークションに出品されたVOGA Museum Collectionsが素晴らしい結果(バイヤーズプレミアムを含まない数字で127万5750スイスフラン、日本円で約2億2333万円)を残したことをお伝えした。実はアンティコルム ジュネーブオークションに続き、2025年5月23日から25日にかけて実施されるフィリップス 香港オークションにも、わずかだがVOGA Museum Collectionsの一部が出品されている。

 先日公開した記事のなかでも紹介しているが、4月上旬に行われたアンティコルムのオンラインセール、そして5月10日〜11日に実施されたアンティコルム ジュネーブオークション、そして今回のフィリップス 香港オークションの売り上げが、VOGA Watch Museumを設立した故・益井俊雄さんの故郷である島根県浜田市の教育支援事業へ寄附されることとなっている。オークションに出品されたVOGA Museum Collectionsのラストを飾るのが、以下に紹介する5本のロットである。いずれも厳選して出品を決めた個体だけに、ぜひとも注目して欲しい。


Lot 861:モバード テンポグラフ Ref.19006

Lot 861:モバード テンポグラフ Ref.19006のエスティメートは、6万2000~15万香港ドル(約115万〜280万円)。そのほかの詳細はこちらから。

 この時計について、わざわざ筆者が紹介する必要はないだろう。つい先日、興味深いヴィンテージウォッチを中心に紹介する人気の連載企画Bring a Loupeを担当するリッチ・フォードン(Rich Fordon)が、このモバード テンポグラフがいかに貴重な1本であるかをしっかりと紹介しているので、詳細はこちらの記事をご覧いただきたい。

 モバードの時計は、いまやコレクターのなかでもよほどのもの好きしか注目していないニッチな存在だ。VOGA Museum Collectionsには多くのモバードウォッチが展示されていたが、本個体はそのなかでも特に魅力的な1本である。


Lot 862:ユニバーサル・ジュネーブ コンピュール コロニアル

Lot 862:ユニバーサル・ジュネーブ コンピュール コロニアルのエスティメートは、12万~25万香港ドル(約225万〜465万円)。そのほかの詳細はこちらから。

 ユニバーサル・ジュネーブ コンピュールは1934年に誕生し、1940年代まで同社の主力クロノグラフとして販売された記念碑的なモデルである。9時位置にスモールセコンド、センターに黒グラフ秒針、3時位置に45分積算計を持つのが特徴だ。なかでもコロニアルケースモデルはフラットな独特のケース形状を持ち、コインエッジのねじ込み式ケースバックを備えた世界初の防水クロノグラフとも言われている。スポーツウォッチ黎明期の試みであったとされており、さまざまあるコンピュールのなかでもコレクターの注目を集めるレアピースだ。

 なかでもこの時計をいっそう興味深いものとしているのがダイヤルである。本個体のアワーインデックスはプリントではなく、ダイヤルに奥行きを持たせるべく下層に配されている。いわゆるパネライのサンドイッチダイヤルのように切り抜かれているのだ。1930年代半ばに製造された初期のコンピュールでは、このような個体はきわめてまれだという。益井さんも、かつてこの珍しいダイヤルについて調べたようで、ほとんど市場に出回っていない珍しいものだと分かり、とてもうれしそうにその時計を見せてくれた思い出がよみがえる。筆者もさまざまな取材を通してたくさんのコンピュールを見てきたが、同じようなダイヤルは見たことがない。エスティメートは、12万~25万香港ドル(約225万〜465万円)となっているが、近年ユニバーサル・ジュネーブの注目度が高まっていることを考えると、もう少しいい結果を残すのではないかと思っている。


Lot 914:ロレックス プレ・デイトナ Ref.6238

Lot 914:ロレックス “プレ・デイトナ” Ref.6238 のエスティメートは、 24万~40万香港ドル(約445万〜740万円)。そのほかの詳細はこちらから。

 Ref.6238は1960年代初頭に登場した、ロレックスが製造した最後の“デイトナではない”クロノグラフであることから、“プレ・デイトナ”と称される。生産されたRef.6238のほとんどはステンレススティール製であったとされており、イエローゴールド(YG)製は特に希少だ。本個体は14KYGのケースとブレスレットを備えるが、14KYGの使用は北米市場向けの時計に限られると言われている。それを裏付けるように、ムーブメントにはアメリカへの輸入を示す“ROW”の刻印が施されている。

 2024年11月に開催されたTOKI-刻-オークションでは、ケース番号がふたつ違いの類似品(1697078)が出品されていた。フィリップスによると、この時計も米国市場向けに14KYGで製造されたもので、おそらく1967年に出荷された同じロットのものと思われると見解をを示している。2024年11月に出品された個体と、今回の個体の大きな違いはブレスレットだ。前者は米国製ブレスレットを備えていたのに対し、この時計はスイス製の14KYG製ブレスレットを備えている(フォールディングクラスプにあるリスのホールマークが判断のよりどころだ)。このブレスレットの不一致により、同個体のエスティメートは思いのほか低めである。

 ブレスレットの不一致はあるものの、非常に希少な時計であるにもかかわらず益井さんはこの時計を買い取ったあと、古い機械式レジスターのなかにしまい込んだことを忘れて、それごと廃棄してしまいそうになったと言っていた。時計が大好きなのに、なんともおおらかな人柄がうかがえるエピソードで、このプレ・デイトナはVOGA Museum Collectionsのなかでも筆者が特に好きな時計のひとつである。


Lot 1010:ジャガー・ルクルト トリプルカレンダー 484

Lot 1010:ジャガー・ルクルト トリプルカレンダー 484のエスティメートは、4万~6万5000香港ドル(約75万〜120万円)。そのほかの詳細はこちらから。

 最近はめっきり市場でも見かける機会は少なくなったが、Cal.484を搭載した、1940年代製のジャガー・ルクルト トリプルカレンダーである。同社がシリーズ生産の腕時計として、特別にデザインした初の複雑カレンダーウォッチのひとつで、ティアドロップラグ、ケースバックとミドルケースが一体にデザインされたサイドのスリットなど特徴的なディテールを持つ。本個体で見るべきはダイヤルである。

 市場でよく見られる個体の多くはゴールドカラー(コッパーカラー)ダイヤルがほとんどだが、同個体は珍しいブラックダイヤルだ。もちろんケースに小傷などが見られるものの、全体的な、特にダイヤルのコンディションにはきわめて良好と言っていいだろう。珍しいブラックダイヤルがどのように評価されるのか、興味深い1本と言えよう。


Lot 1036:トルネク・レイヴィル Ref.TR-900

Lot 1036:トルネク・レイヴィル Ref.TR-900のエスティメートは、10万~20万香港ドル(約185万〜370万円)。そのほかの詳細はこちらから。

ケースバックにはミルスペックナンバーなどと共に、“If found Return to Nearest military facility(発見した場合、最寄りの軍事施設に返還せよ)”という文言が刻まれている。

 トルネク・レイヴィル Ref.TR-900については、これまでにもさまざまな記事で取り上げてきた。過去にはHODINKEE本国エディター、マーク・カウズラリッチ(Mark Kauzlarich)が「Found 軍が支給した本物のトルネク・レイヴィルが市場に登場」という記事で紹介したことがあるし、過去のフィリップスオークションにも登場したことがある。この時計はベトナム戦争下のアメリカ海軍・海兵隊に支給された、世界でも希少なダイバーズウォッチのひとつ。1000本ほど作られ、戦後に700本ほどが回収・破壊されたそうだが、約300本が未回収のままとなったと言われている。この時計は、そんな未回収のうちの1本だ。

 この時計についても過去に益井さんはコメントを残していた。彼が時計ディーラー時代にアリゾナ州フェニックスへ買い付けに行った際に手に入れたこの時計は、何度も買い付けに行っているなかで退役軍人の現地ディーラーと仲よくなり、その彼から持ち込まれたものだった。いつ購入したものか、はっきりと語られることはなかったが、“eBayもない時代(eBayの創業は1995年)に購入したもの”と言っていたことから、少なくとも1995年よりも前に手に入れたことになる。今でこそ希少な時計としてコレクターたちに認識されているが、当時はこの時計の由来はほとんど知られておらず、誰も興味を示さず売れ残っていたらしい。それを購入して欲しいという依頼を受けて手にしたそうだが、もし今のようにすぐに時計について調べられる環境が整っていたら自分のところにやって来ることはなかっただろうと振り返っていた。

オークションの詳細は、フィリップスのWEBサイトをご覧ください。

Photos by Keita Takahashi