Illustration by Andy Gottschalk
「長年にわたってその人物について伝説となっていることを維持するのは、とうてい不可能だ」
今週、ハリウッド史上最も伝説的なパワーカップルのストーリーを語る6部構成の新しいドキュメンタリーがHBO Maxで公開された。ポール・ニューマン(Paul Newman)とジョアンヌ・ウッドワード(Joanne Woodward)だ。
この大作は『ラスト・ムービースター(原題:The Last Movie Stars)』と言い、同じく映画スターのイーサン・ホーク(Ethan Hawke)氏が監督を務めている。時計マニアにはたまらない作品だ。ポール・ニューマンが彼の名を冠したロレックスを身につけている姿が、全編にわたって映し出される。この作品はドキュメンタリーであり、映画評論であり、今日の我々の生活のスナップショットでもある。警告。一部ネタバレあり。しかし、すでに起こった出来事のドキュメンタリーに、ネタバレというものがあると思う人にのみ。
注目する理由
『ラスト・ムービースター』は昨日ストリーミング配信されたばかりだが、批評家たちに大好評だ。そして私は批評家たちとともに、この退屈になりがちなジャンルに独自の切り口を見出したイーサン・ホークに拍手を送りたい。
1980年代、ポール・ニューマンは友人の脚本家に回顧録の執筆を依頼した。この大仕事を遂行するために、ニューマン本人を含むニューマンの人生に関わったすべての人にインタビューを行い、そのインタビューをテープに録音した。その結果、ロバート・レッドフォード(Robert Redford)氏などの俳優仲間やジョージ・ロイ・ヒル(George Roy Hill)監督を録音した莫大な時間のテープができた。ニューマンの妻ウッドワード、そして最初の妻ジャッキー・ウィットさえも含まれた。彼は皆に自分の意見を言ってもらいたかったのだ。
しかしある日、ニューマンがそのテープを持ち出して火をつけ、完全に破壊してしまったのだ。その火は声だけを焼いた。なぜなら、何千ページにもわたるインタビューの完全な記録が作成されていたからだ。それから約40年後、ホークはニューマンの娘たちから、これらの記録を基にした映画を監督してもらえないかという依頼を受ける。ホークの提案は彼の有名な友人たちをできるだけ多く集め、彼らにインタビューを見せ、演技させることだった。
ホークは、高予算のボイスオーバーのシナリオを組んだわけではない。俳優たち(ニューマン役のジョージ・クルーニー、ウッドワード役のローラ・リニー)はそれぞれ、コンピューターのマイクを使って自分の役をZoomで演じているのだ。その結果は心にしみるほど美しい。
ニューマンとウッドワードの物語は、彼らが出演した映画と彼ら自身の言葉による語り口で語られる。彼らや彼らに近しい人々を通して、彼らがどのような人物であったのか、名声のなかで長い結婚生活を送ることがどのようなものだったのか、そしてそれが彼らの家族にどのような影響を与えたのか(彼らの子供たちもこの映画に参加している)、まったく新しい姿を知ることができるのだ。
ここ時計の世界では、ポール・ニューマンといえばロレックスのデイトナという方も多いと思う。それはデイトナのなかでも、ポール・ニューマン・デイトナとして知られるエキゾチックダイヤルを持つモデルがあるからだ。ニューマンでないデイトナとニューマンデイトナのあいだには、ダイヤル以外の機械的な違いはない。そしてそのために、ニューマンデイトナは世界で最も人気のある時計のひとつになったのだ。
ポール・ニューマンのデイトナで最も有名なのは、彼自身が最も身につけていたものであり、彼に最もゆかりのあるものである。それはRef.6239だろう。6239のホワイトエキゾチックダイヤルは、2017年にフィリップスで1700万ドル(当時約20億円)以上で競り落とされたことで有名だ。この時計はウッドワードから贈られたもので、ケースバックには“Drive Carefully Me”と刻まれていた(ニューマンはレーシングドライバーとして本格的に成功を収め始めていた)。その後、この時計はニューマンの娘のボーイフレンドの手に渡った。80年代半ばにポールから贈られたのだ。その時計の全貌については、2017年のオークション記事とポール・ニューマン デイトナのReference Pointsをご覧ください。
そして、この映画はその時計を非常に興味深い方法で取り上げ、かつてアイコンが所有していたモノに我々が与える意味を問うている。ドキュメンタリーの最後となる第6部は、クロノグラフのカチカチという音で始まる。1分もしないうちに、我々は見慣れた顔を見ることになる。オークショニアであるオーレル・バックス氏が、伝説となったポール・ニューマン デイトナのオークションで壇上に立っているのだ。有名なケースバックと時計が映し出され、入札が開始される。
このシーンのすぐ後、ホークが妻のライアン・ショーヒューズ(Ryan Shawhughes、本作のプロデューサー)とZoomで話しているのが聞こえる。彼は、CNNが映画の初期カットをどう思うかを彼女に尋ねる(映画を見ながらそれを見ているので、何かメタ的な瞬間だ)。彼女はホークに、彼らは6つのパートにまたがる物語の弧が気に入っていること、そして「時計のオークションについて彼らはわからなかったようだ」ということを告げる。ホークは戸惑い、なぜわからないのだろうかと考える。「僕にとっては、死者を食らうハゲタカのようなものなのに」
そんな彼の背中を押すのが妻だった。「あの時計に入札している人たちを辱めることが、あなたの目的だとは思えないわ」
「いや、そういう意味じゃないんだ」と彼は言う。「つまり僕もその時計が欲しいんだ! 欲しいと思っているのに僕は何を言っているんだろう」
このシーンの重要性はオークションを敵に回すことではなく、ニューマンという人物がいかに評価されているかを示すことにあると、2人は理解した。「ポール・ニューマンの時計は買えない」とホークが言う。「それは彼の時計だ。時計は彼のもの。それを美しくしているのは彼だ。時計は何ということもない。奥さんからのプレゼントなんだ」
このZoomの会話が行われているあいだ、バックス氏の映像が流れ、入札が増え続けるオークションの様子が映し出される。「私的なものが、今、死をもって公にされた」とホークは言う。「しかし、それは現実のものでもあり」、 そしてバックス氏は当時世界一高価な腕時計の落札のハンマーを振り下ろした。
それは感動的な瞬間であり、特にこの時計の世界に深く入り込んでいる我々にとって考える価値のあるものだ。ときに我々は人間らしさを見失いがちになる。今、この映画を6時間近く見て、ニューマンと彼の時計、そして彼の妻との関係が、まったく新しいものに見えてきた。古い家族のホームビデオを見るシーンがあるが、そのなかでニューマンはデイトナをつけている。家庭でも、その後の運転でも、彼の相棒だった。ウッドワードとの関係は細いが強いものだったから、二人の人生の弧をすべて見終わった後、映画の第6部でケースバックの刻印を見ると、より一層特別なものに感じる。それが時計の大切なところなのだ。
見るべきシーン
ドキュメンタリーの第5部では、ニューマンの飲酒問題が中心になっている。ウッドワードとニューマンの結婚生活が困難な時期に、ある夜、彼が泥酔して彼女が彼の帰宅を許さないというエピソードがある。彼女は彼が帰ってくるには、酒をやめなければならないと言う。彼は「最後通牒は嫌いだ」と言い、彼女は「これは交渉ではないの」と答える。この会話が展開されるなか、ふたりの写真が画面に表示され[00:07:55]、レザーのブンドストラップにニューマンのデイトナがはっきりと見える。そして彼は、もしビールしか飲まなかったらどうかと尋ねる。彼女はうなずく。
この第5部の中盤で、ニューマン(声:クルーニー)は、薬物過剰摂取で亡くなった問題児スコットの父親として、自らの失敗を思い出している。ニューマンは、もっと別のやり方があったのではないか、兆候に気づいていながら行動しなかったのではないかと、自分自身を見つめ、反省している。レース場での彼と息子の有名な写真、チキータ・バナナのTシャツを着た息子、そしてデイトナをつけたニューマンなど、一連の映像がスクリーンに映し出されている [00:27:28] 。
『ラスト・ムービースター(原題:The Last Movie Stars)』(主演:ポール・ニューマン、声:ジョージ・クルーニーと本人、ジョアン・ウッドワード、声:ローラ・リニーと本人)は、イーサン・ホーク氏が監督。我々は今HBOマックスで全6部作を配信中。
ロレックス デイトナについて詳しくは、公式サイトをご覧ください。HODINKEE Shopでは、ロレックスの中古・ヴィンテージウォッチを取り扱っています。
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