trophy slideshow-left slideshow-right chevron-right chevron-light chevron-light play play-outline external-arrow pointer hodinkee-shop hodinkee-shop share-arrow share show-more-arrow watch101-hotspot instagram nav dropdown-arrow full-article-view read-more-arrow close close email facebook h image-centric-view newletter-icon pinterest search-light search thumbnail-view twitter view-image checkmark triangle-down chevron-right-circle chevron-right-circle-white lock shop live events conversation watch plus plus-circle camera comments download x heart comment default-watch-avatar overflow check-circle right-white right-black comment-bubble instagram speech-bubble
March 06, 2021
In-Depth セイコー クレドール 叡智Ⅱの全て

In-Depth セイコー クレドール 叡智Ⅱの全て

ミニマリストを驚嘆させるこの時計は、地球上で最も興味深い3針時計であるのか?

集団的同調性の傾向が強い国民性として、ステレオタイプ視されている日本という国を本拠にする企業として、セイコーの製品は驚くほど多様である – ときに時計愛好家初心者にとっては、ラインナップのおびただしさに困惑するほどだ。セイコーが製造する時計は、シンプルで安価なクォーツ時計や人気のセイコー5から、本記事で紹介する作品まであらゆるジャンルを網羅している:セイコー クレドール叡智IIは、生産数が極めて限られる手作業によって装飾された磁器製ダイヤルと、魂を奪われるほど徹底的に仕上げられたスプリングドライブムーブメントを搭載するハンドメイドのプラチナ製腕時計だ。おそらく世界で最も興味を惹く時計だろう。

セイコー クレドール叡智IIは、日本独自の人の手の温もりを感じさせる超高級時計だ。

 長野県塩尻市にあるセイコーのマイクロアーティスト工房で作られるクレドール叡智IIは、セイコーの中でも本質的ではない要素を徹底的に削ぎ落す表現法に則っている ― ミニマリズムそのものを意識したものではなく、時計そのものの完成度に加え、それを作る職人の心意気を表現することを目的としているのだ。ミニマリズムが内包する問題点は、注意を怠ると(多くのデザイナーが怠りがちなのだが)、結果的にシンプルではなく単調なものになってしまうことだ ― それでは不毛な気持ちを覚えるだろう。しかしセイコー クレドール叡智IIは不毛ではない。しかし、一度ならず5回見返してもその魅力を見落としてしまうかもしれないが、それは現代の高級時計好事家の内輪ネタみたいな存在だからなのだ。叡智IIは1974年に発売されたクレドールシリーズの40周年となる2014年にデビューした。

 クレドール 叡智IIは、その名のとおり2008 年に先行して発売された叡智Iの後継機であるが、この叡智Iは、小径で好き嫌いが分かれる時計だった。叡智I(発売当時の呼び名は単に叡智)は、セイコーのスプリングドライブCal.7R08を搭載したプラチナケースの35mmの時計である。ノリタケ磁器にハンドメイドで装飾を施したダイヤルを備え、クレドールのロゴやパワーリザーブ表示も付いている。25本限定で作られた時計であり、ほとんど出回っていない;完売してから暫く経っているので当然ではあるが。

初代叡智は2008年に発売されたもので、叡智Ⅱよりも少し小さめのサイズだった。

 その磁器製ダイヤルには、ちょっとした秘密がある(少なくとも、それに気づくには観察力が必要か、あるいは、そもそもそのことを知らなければ気付けない)。それは、数字の2、4、および7は、光沢のあるダイヤル上のマットエナメルで描かれているという事実であり、ちょうど光が直角にダイヤルを透過するときに辛うじて気づく程度だ。

初代叡智にはダイヤル側にパワーリザーブがあるのに対し、叡智Ⅱはムーブメント側にパワーリザーブが搭載される。

叡智Ⅱは、マイクロアーティスト工房の全員が一堂に会し、どうすればより良い時計が作れるかを考えた結果生まれたのです。

– マイクロアーティスト工房 組立師 中澤義房氏

 対照的に、叡智Ⅱでは、初代叡智に見られた余計な装飾(おこがましい表現だが)は全て消えている;3針と“Credor”のロゴ、ただそれだけだ;だが同時に、荒涼とし、空虚で、味気無い印象は全く受けない;磁器の微妙な木目のような質感と手の深い藍色の虹色の輝きが、叡智IIを、少なくとも初代叡智と同じように魅惑的なものとしている。初代叡智とは異なり、叡智IIは限定生産ではないが、生産量は非常に限られる。年間約20本が生産されるが、需要が生産量を上回っているため、そのコストとニッチ性を考慮しても、購入希望者は待つことを覚悟しなければならない ― 現在、アメリカでの納品待ちは、注文時期とマイクロアーティスト工房の生産スケジュールに応じて変動するが、概ね9ヵ月から1年である。

 叡智Ⅱは初代叡智よりも優れているのだろうか? それは個人の好みの問題だが、最近のインタビューの中で、マイクロアーティスト工房の時計師にして「組立師」のタイトルを保有する中澤義房氏は、“叡智IIは、マイクロアーティスト工房の全員が一丸となって、より良い時計を作るためにどうすればいいかを考えた結果生まれたのです”と振り返っている。

シンプルな時計だが、叡智 IIはデザインと仕上げにおいて非常に洗練されている。

 磁器とエナメルが同じものかどうか疑問に思ったとしたら、答えは「それに近いもの」だ。磁器は一般的に粘土が含まれるが、エナメルには含まれない。エナメルはガラスを細かく砕いた粉末を、高温焼成によって「ガラス化」する(つまり、均質なガラス表面に変化する)。磁器は約2000年前に中国で開発され、日本には17世紀初頭に伝播した; その約1世紀後、ヨーロッパで製造が始まった(最初は非常に小規模だったが)。叡智の時計に使われている磁器ダイヤルは、前述したように手描きで、その精巧さは信じられないほどだ;この手の仕事をするには、かなり規律のある生活をしていなければならないと想像される。

磁器製ダイヤルは手描きで、1日1枚しか作れない。

ヒートブルーの針と手塗りのダイヤルは、シンプルな中にも上品さがあり、見れば見るほど印象深い。

 ご覧のように、顕微鏡で拡大しない限り、手仕事で書かれたダイヤルのわずかな“揺らぎ”を見ることはできない。これらの揺らぎの素晴らしいところは、それらが不規則ではないことだ;つまり、揺らぎ自体はミスではなく、修練の過程で生まれた特徴であるということなのだ。同様に、針も非常にシンプルだが、非常に繊細で、時針と分針の先端が美しく、スプリングドライブ特有の滑らかな運針によって弧を描く秒針の先端はわずかに曲げられている。


スプリングドライブムーブメントの秘密

叡智IIの非常に重要な特徴の一つは、スプリングドライブムーブメントを採用していることだ。セイコーのスプリングドライブ技術は誤解されやすいのだが、これはムーブメントの基本的な性質に起因している。スプリングドライブは、純粋な機械式ムーブメントではないのはもちろん、標準的なクォーツムーブメントでもない;調速自体はクォーツ水晶の振動によって行われるが、バッテリーやコンデンサーを搭載していないからだ。

グランドセイコー スプリングドライブCal.9R65Aは、熟成したスプリングドライブ技術を採用する。

 スプリングドライブは、グランドセイコーラインにも広く採用されている。Cal.9R65Aは、その代表格であり、今日の成熟したスプリングドライブ技術は、故・赤羽好和氏が取り組み始めた開発(概念実証機、試作機を含めると600モデルを製作したそうだ)を起源とし、1998年のバーゼルワールドで初披露され、翌1999年に商用化されたものだ。

 このスプリングドライブムーブメントは、一見すると従来の自動巻き機械式ムーブメントに酷似しているが、実際そのほとんどが従来の自動巻き機械式ムーブメントを踏襲しているといえる。巻き上げローター、主ゼンマイ、そして駆動系は、基本的には全て標準的なレバー脱進機の機械式時計に見られるものを受け継いでいる。

ムーブメント上部には自動巻き上げシステムと主ゼンマイが収められる香箱が見え、11時にある小さな3つ山の丸みを帯びたブリッジはパワーリザーブ用の部品である。

 一般的な機械式時計の特徴である脱進機、スイスレバー、テンプ、ヒゲゼンマイがないことで、初めて大きな違いに気づくことができる。スプリングドライブ搭載機の輪列には脱進機が存在しない。その代わり、輪列の最後尾の歯車が、スプリングドライブのムーブメントで"グライドホイール "と呼ばれる歯車を駆動する。

通常の機械式時計には調速機構があるが、スプリングドライブには "グライドホイール "に置き換えられている。

グライドホイールは発電機のマイクロモーターとして機能し、また、針の動きを制御するために電磁気的にブレーキをかける仕組みを担う。

 グライドホイールが回転すると、非常に微小な電流が発生する。この電流はクォーツ調速回路に電力を供給したり、磁場を発生させたりするために使用され、グライドホイールに制動力を与え回転速度を制御する;磁場の強さ、つまりグライドホイールの回転速度は、1秒間に正確に8回転するように水晶振動子で制御される。

 スプリングドライブムーブメントの "判別法"は、秒針の滑らかな運針だ。従来のクォーツ時計では、秒針は(一般的に)1秒単位でステップしながら運針し、もちろん機械式時計では、テンプが脱進機のロックを解除し輪列が正方向に進むたび秒針が前方に小刻みにジャンプする仕組みだ。

 ではスプリングドライブは、機械式かクォーツのどちらなのか? 上述したように、そのどちらでもない ― この混乱の有力な一因として、セイコーが機械式自動巻き時計に類似した巻上げローターを充電のための発電用として応用するキネティックムーブメントを製造していることが挙げられ、ローターの巻き上げがグライドホイール(発電機のローターとして機能し、その電力は、クォーツ調速回路に調整されたうえで、磁気ブレーキとして再びホイールの回転速度に還元される)を駆動する主ゼンマイを巻く仕組みと誤解されやすい。つまり、スプリングドライブは、機械式、従来のクオーツ、およびオートクォーツ/キネティックムーブメントとはまるで異なるのだ。


クレドール スプリングドライブ Cal.7R14

叡智IIは、珍しい手巻き式スプリングドライブムーブメントを採用する(一般的にグランドセイコーやクレドールなどの高級ラインに搭載される)。ダイヤルをできるだけすっきりとさせるために、パワーリザーブはムーブメント背面側に移動された(初代叡智のダイヤル側とは対照的だ)。

スプリングドライブCal.7R14は、手巻きのスプリングドライブムーブメントを搭載した希少なモデルだ。

Cal.7R14は、シンプルでエレガントな2ブリッジ式レイアウト設計を採用する。

 Cal.7R14 は、初代叡智のムーブメントを踏襲している ― 初代叡智のCal.7R08A は、ブリッジの構成がやや複雑で、ロジウムメッキ真鍮製の叡智II Cal.7R14 とは異なり、メレコート(ジャーマンシルバー)製だ。7R14の技術的な特徴は、あまり触れられていないが(美観が取り沙汰されるからかもしれない)、セイコーが銘打つ「トルクリターンシステム」を搭載していることだ-主ゼンマイが完全に巻かれているときに発生する余剰トルクを回収し、それを主ゼンマイの巻き上げに再利用する機構で、叡智IIの60時間のパワーリザーブに貢献している。

Cal.7R14とは異なり、初代叡智が搭載するCal.7R08Aはジャーマンシルバー製だ(地板のレイアウトもやや凝っている)。

 ロジウムメッキのCal.7R14は、7R08Aの無垢のジャーマンシルバーよりも明るく、やや硬めの光沢があり、控えめに言って非常にハイレベルな仕上がりとなっている。マニアでも一見では見落としてしまいそうなダイヤルの品質とは異なり、ムーブメントの壮大な仕上げは一目瞭然で、ムーブメントそのものを雄弁に語る。端から端まで完璧に調和のとれた面取りが施され、穴石をセットするための配された皿穴の完璧さを強調するかのような繊細な装飾が施されているのみである。

 これを見て、「ふむ、適切な訓練を受ければ、私にもできるかもしれないな」と思うことがあるかもしれない(家族がギャングに殺された格闘技映画のヒーローのように、悪者にお仕置きするために10年間訓練を費やす筋書きのような)。時計師になることを夢見るのは一般的な愛好家の儚い空想だが、時計の仕上げ工程は現実問題の壁となる ― あまりの仕上げの完璧さに、どれだけ努力しても、どれだけの時間をかけても、これほど良いものを作ることができるとは到底思えないものがある。叡智IIはそのような時計の一つなのだ。 

 注目すべき重要な特徴の一つは、ムーブメントの皿穴に近接するブリッジの面取りが変化することだ ― 比較的遠いところから、エッジで辛うじて触れているところと、実際に皿穴を横切って浮いているところでは面取りの緩急に違いがみとめられる。

Cal.7R14は、初代叡智のムーブメントと同様、非常に高いレベルの仕上げが施されている。

青焼きされたネジ、皿穴、面取りなどは、全て最高水準の手作業で施される。

Cal.7R14は、初代モデルに搭載されていたCal.7R08Aよりもやや幅広の面取りを採用しており、流線の明瞭性が若干向上した。

 クローズアップによるこのレベルの精査に耐えられる時計は非常に少なく、叡智の品質の全般的なレベルを見ると、年に20本ほどしか生産されないことは想像に難くない(マイクロアーティスト工房の年間生産量は、ミニッツリピーターのクレドールと叡智の時計を含めて全体で僅か25本ほどだ)。

 叡智と叡智IIがフィリップ・デュフォーの「シンプリシティ」とよく比較されるのは当然のことだろう。デュフォーはこの有名なマイクロアーティスト工房に仕上げ技術の相談をしており、工房の中澤義房は「シンプリシティ」からインスピレーションを受けたと語っている。

シンプルな時計の良さを理解する人は限られるのです

– マイクロアーティスト工房 組立師 中澤義房氏

組立師・中澤義房氏は1978 年セイコーに入社後、2005 年よりマイクロアーティスト工房(2000 年設立)に在籍する。そこで生産される時計はすべて彼の手を経ており、現在工房で働く11人の職人たちとのコラボレーションでもある。シンプルな時計とは何かという問い以上に、叡智の哲学を表現している言葉は存在しないと私は思う。

中澤義房氏 2015年、マイクロアーティスト工房内の自席にて。

 “この手のシンプルな時計は高級品であることに変わりはありませんが、決してこれ見よがしなものではありません。ファッションとして購入するものではなく、購入者がその品質を知っているからこそ購入するものなのです。他にもいくつかの高級時計、例えば宝石が入っていたり、ゴールドを贅沢に使っていたりするものは、その目的が透けて見えます。シンプルな時計の品質は、一部の人にしか理解されません。それは自分自身と自分の好みを満足させるために身に着けるものです。それこそがシンプルな時計なのです”

 “シンプルな時計のもう一つの側面は、価値が一定であることです。時間が経っても品質が変わらない。100年経っても価値があるので、子や孫に受け継ぐことができます。長く大切に使えるのも魅力の一つだと思います。”

クレドール叡智II:究極の "シンプルウォッチ "へのセイコーの挑戦。

 叡智 IIは、デュフォーの作品からインスピレーションを受けているにも関わらず、非常に日本的情緒を湛えた佇まいである。工芸品を非常に高いレベルまで追求するということは、工芸品そのものへの敬意からではなく、仲間やコミュニティへの義務感から行われるもので、もちろん日本人特有のものではない。しかし、集団文化の傾向が強い日本では、おそらく他国よりも高いレベルで実践される姿勢でもあるのだろう。

 私自身の経験から言わせてもらえば、この域に達するには、瞑想や武術における精神性から体得されるものであり、成果や特定の結果を予想すると結果として損なわれてしまうものだ;目標は方向性を示しはするが、目標達成への執着は成長への妨げとなる。叡智、そしてそれが表現する職人技は、技術の熟練と精神力から生まれる直観を研ぎ澄ます必要性の2つの要素が実体化したものである。この技術の重要な面は、生きた経験を通して継承されることが理想であるということだ。中澤氏は次のように語る:

 “マニュアル化された基本や基準、作業工程の種類を教えるのはもちろんですが、私も含めて職人が自分の気持ちや感性に頼らざるを得ない部分が多いのが時計作りの醍醐味す。言葉にするのは難しいので、実際に体験してもらうのが一番ですね。そういう勘を養わなければなりません”

 セイコーは叡智が「知恵」を意味する単語と説明するが、それは小さな時計が負うには重すぎる荷である。しかし、間違いなくその言葉通りである。モノが、それを創り出す職人の魂を体現できるからこそ、ただの高級品を超えたレベルの時計作りができるのではないだろうか-そして、それが叡智IIを極めて満足のいく時計にしているのだ。

セイコーについて詳しくは、2015年のセイコー訪問記事を今すぐチェックしてみて欲しい。

セイコー クレドール叡智II:ケース、プラチナ950製、プラチナリューズ、39mm×10.3mm、防水3気圧、4,800A/m(アンペア毎メートル)または約60ガウスまでの耐磁性。ムーブメント、スプリングドライブCal.7R14、手巻き、精度±15秒/月。パワーリザーブ60時間、41石、"トルクリカバリーシステム"搭載。価格は570万円(税別)。米国およびその他の国のセイコーブティックで特別注文にて受付。