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In-Depth 今、なぜパテック フィリップ Ref.2526なのか?

僭越ながら言わせてもらえば、これはヴィンテージウォッチの全てではないにしても、ヴィンテージパテックのベストバイな時計なのだ。

※本記事は2016年3月に執筆された本国版の翻訳です。 

パテック フィリップのRef.2526は、長きにわたり、ヴィンテージパテック カラトラバファミリーの弟、いや、長老になっている。それはツートンのRef.570のような超セクシーなものではないし、スティール製のRef.565のようながっしりとしたのでもない。また、小さなRef.96のようなオリジナルのカラトラバでもなかった。Ref.2526が何であるかというと、僭越ながら言わせてもらえば、これはヴィンテージウォッチの全てではないにしても、ヴィンテージパテックのベストバイな時計の1つなのだ。本稿でその理由を解説しよう。

 しかし、その前に、腕時計における“ベストバイな1本”とは、何を意味するのかを明確にしておきたいと思う。それがバーゲンプライスであることを意味するか? いや、1万ドル以上もするヴィンテージパテックがバーゲンと言えるはずがない。では、もっと価値があるはずだという意味か? それも違うが、ある程度、私はRef.2526が現在よりもその価値が評価されるべきだと信じてはいる。私が言いたいのは、その美しい36mmの、スクリューバックケースを備えた時計は計りしれない魅力をオーナーに提供しているということだ;パテックの最高級キャリバー、12-600ATが象徴する技術力、そして2度の焼成によるエナメルダイヤルが価値をさらに高める。そして、初期のカレンダー無し3針モデルであるRef.570と565の人気が過熱している状況下で、Ref.2526は見過ごされていると思う。もう少し掘り下げてみよう。


今、なぜRef.2526なのか?

 多くの人がRef.2526をパテックの最初の自動巻きと呼んでいるが、Ref.2526はパテック フィリップ初の自動巻キャリバーである12-600 ATを使用したひと握りのモデルの1つに過ぎない。私はこれには異論はないが、Ref.2552や他の同じムーブメントを使用した自動巻き時計よりも先にRef.2526が市場に出たかどうかは不明だ。ちなみに、同じことがホイヤーのモナコにもいえる - 実際には、同じCal.11を採用し1969年に市場に登場したホイヤーの1モデルに過ぎなかったわけだが、モナコは初の自動巻きクロノグラフと呼ばれている。このムーブメントの高い品質がRef.2526が特別な理由の1つであるが、もちろんそれだけではない。Ref.2526には、同じ12リーニュの自動巻きキャリバーを搭載した他のモデルと一線を画す多くの特徴があるのだ。それは一体何だろう? まずはムーブメントの話から始めよう。

世界で最高の3針ムーブメント(もしかしたら、史上空前の?)

 それでは、パテックにとってのCal.12-600 ATとは何かを見てみよう。それは1953年に発表された12リーニュムーブメントであり、直径は約6mm。そして自動巻きムーブメントであることが、12-600 ATと名付けられた所以である。これは、ロレックスがパーペチュアル自動巻き機構の特許を取得してから約22年後に発表された、パテック フィリップ初の自動巻きムーブメントであった。このことは、パテックがロレックスに追いつくのに20年かかったのではなく、ロレックスがその機構に関する特許の効力を20年間保有したため、パテックをはじめとする他社は、このようなフルローター自動巻きムーブメントを販売することができなかったのだ。

1931年に特許を取得したロレックス初の自動巻きキャリバー。

 ロレックスが特許を取得した後すぐにパテックが12-600 ATの開発に着手したと仮定すると、彼らがロレックスのムーブメントと自社キャリバーを差別化するためにかけたであろう手間暇は想像に難くない。そして、両社とも最高のキャリバーであるものの、パテックのCal.12-600 ATはロレックスよりも数段上にあり、多くの人々がCal.12-600 ATをおそらくこれまでに作られた最高の自動巻きキャリバーとして称賛するまでに至っている。

 Cal.12-600 ATにはパテックのジャイロマックステンプ(1951年に初登場)が搭載されている。ジャイロマックステンプの調整スクリューは、一般的に見られるテンワのリムの外側にはなく、実際にはリムにはめ込まれている。スクリューといっては語弊がある - ジャイロマックスの偏心錘はフラットで回転可能であるからだ。ジャイロマックステンプは今日でもパテック フィリップのトレードマークだ。また、スワンネック緩急針と温度補正付きブレゲ巻き上げ式ヒゲゼンマイが確認できる。テンプと脱進機、4番車は独立した受けに取り付けられており、3番車とセンターホイールは大きなブリッジに取り付けられていて、このムーブメントの最も重要かつ特徴的な18Kゴールド製ローターのベアリングを支えている。ローターは、おそらく装飾が施された最初のローターであり、現在でもローター装飾の規範となっている。見事なエンジンターンドモチーフを特徴とし、中央の美しい“PP”のロゴは、2009年に導入されたパテック フィリップ独自の品質シールのインスピレーションにもなり、全てのパテックの時計が備えていたジュネーブ・シールに取って代わった

オーナーの手首の動きに合わせて、優れたメンテナンス調整を施した後の日差は、最大で±1秒しかありません。

– パテック フィリップ REF.2526のブローシャ―より

 1万9800振動/時で鼓動するキャリバーは、5姿勢差、温度差での等時性が調整される。それと、受け石として何と30石が使用されている! これは、当時のムーブメントの多くと比較すると約2倍の数だ。Ref.5196(おそらくRef.2526に最も近い仕様の現行時計)に搭載されているCal.215 PSはわずか18石だ。手巻き式なので、理論的にはもっと少なくできるはずだが、現行の自動巻き Cal.324ですら29石である。

 Ref.2526のブローシャーには、ジャイロマックステンプのフラットな形状が、比類のない空力特性を実現し、ムーブメントの性能を科学的に完全補正した、非常に高品質なムーブメントであることが誇らしく記載されている。パンフレットによると、調整後の時計の日差は最大±1秒となっている。考えてもみて欲しい。1953年にこれほどの精度を叩き出すなんて!

 そしてその仕上げときたら! Cal.12-600 ATを見て欲しい - 面取りの深さ、幅広で完璧なジュネーブストライプ、そして先述したローターの類まれなる装飾を。勘弁してくれ。このキャリバーのローターは、これまでに製造されたものの中で最も美しく、外周から中心点に向かうにつれて徐々に緻密になるエンジンターンドパターンが描かれている。

 「もっと良い仕上げのムーブメントを見たことがある」と言う人がいるかもしれないが、確かに現代の基準からみればもっともだ。しかし、この時計は1953年に発表され、製造工程が完全に手作業であったことを割り引かなければならない。また、サファイアケースバックが一般的になったのは40年後のことで、パテックは将来修理のために時計師が開けて見る以外にムーブメントを人目に晒す想定がなかったことを考えてみてくれ。顧客は今日のように、このムーブメントの仕上げを眺めることはできなかったが、パテックは当たり前のようにそれを実行していたのだ。それはどんなに素晴らしいことだろうか?

 この記事を書いたり、過去1年ほどの間にRef.2526を研究したりする中で、私はこの時計とそのムーブメントについて多くの人と話をしてきた。私が話した6人ほどの熟練した時計師の間で一致した見解は、パテック フィリップのCal.12-600ATが、あらゆる時代を通して偉大なものの1つであるということである。ある時計師は、これ以上ない最高の修理サービスを提供することで有名だが、次のように述べている。「今日、世界で最も優れた自動巻きキャリバーは、デイマティックに搭載されているランゲのCal.L021.1です。ただし、もしパテックが現在もCal.12-600ATを製造していたら、ランゲは2位になっていたでしょう」

 Cal.12-600AT は、数あるリファレンスの中で約7000 本が製造された後、1960年頃に製造中止となった。完璧なムーブメントではないが、現在まで作られた中では完璧に近い自動巻きムーブメントだという声もある。

永遠に美しさを保つダイヤル

 Ref.2526には素晴らしいムーブメントが搭載されているが、時計にはそれ以上のものがある。Ref.2526を特別なものにしているもう1つの特徴は、そのダイヤルにある。エナメルダイヤルは、現在でも非常に特別なものであり、エナメルダイヤルの時計が市場に出回ると、コレクターは即座に注目する(例A例B)。エナメルは繊細で製造が難しいため、現在ではほとんど使用されていない。しかし、パテックがRef.2526にエナメルを採用したのには別の理由があった。

 Ref.2526のパンフレットには次のように記されている;“焼成エナメルのダイヤルは、日光による褪色など外部要因の影響を受けません” 本質的に、パテックは永遠に続く時計を作りたかったのだが、我々が経験してきたとおり、1950年代のほとんどのダイヤルは耐候性がなかった。このリファレンスを別次元に押し上げる要素は、Ref.2526のエナメルダイヤルだと私は信じて疑わない - パテックが使用したエナメルのエッグシェルカラーはまさに神々しいものであった。

 エナメルダイヤルで上の画像のような惨憺たる状態になることはありうるだろうか? 確かにあるだろうが、ダイヤルの繊細さについてはやや誇張されているのではないだろうか。普通の金属製のダイヤルよりも壊れやすいか? 確かに。しかし、上の画像のようなクラック(ヒビ)が入るのは相当な衝撃が加わったためであり、完璧な状態のカラトラバが粉々になってしまう程度をはるかに超えるものだろう。

画像提供:アンティコルム。

画像提供:アンティコルム。

 重要なことは、Ref.2526の全てのモデルにエナメルダイヤルが付いていたわけではないということだ。実際、Ref.2526で見つけられる最も特別なダイヤルは、間違いなくエナメルではない - ダイヤモンドマーカーが埋め込まれたダイヤルや、“Do Unto Others As You Would Have Them Do Unto You(汝が欲するところを人に施せ)”と書かれた有名な“LBJダイヤル”などだ。これらは一般的な金属製ダイヤルで、LBJとダイヤモンドのダイヤルは人気があるが、もしRef.2526を所有するのであれば、エナメルダイヤルにすべきだと思う。

 最後に、Ref.2526がエナメルを使用しているという事実がどれほど特筆すべき点であるかというと、これが量産時計だったということである。限定版や愛好家のためだけのレアな作品ではなく、むしろパテックが彼らのコレクションの屋台骨になるモデルになると満を持して売り出した時計であった。本質的に、Ref.2526は、たった1つのモデルで時計製造の頂点に立とうとしたモデルなのだ。現在、この生産規模で、エナメルダイヤルを採用した通常ラインの時計がお目にかかれるならぜひ見せて欲しい。実現するとは思わないが、パテックは60年前に既にそれをやってのけたのだ。

いかついブレスレット群

 Ref.2526のもう1つの不思議な特徴は、かなりの割合で大きなゴールドブレスレットを工場出荷時から装着されていたか、あるいは別売されていたことである。ここでも、ゴールドブレスレットは一生と呼べる程長く、着用者に最も頑丈で長持ちするストラップオプションを提供することを考えていたのだと思う。様々なオプションが存在したが、おそらく最も一般的なのは“G”ブレスレット、通称“ロブスター”と呼ばれたものだ。

 ロブスターブレスレットは、クラスプ(留め金)にPPの頭文字の刻印があり、内側には完全なサインが刻印される。下の画像のピンクゴールドのブレスレットのように、ゲイ・フレアー社の刻印が入っているものも存在する。ここでは、その価値に明確なヒエラルキーはなく、多くのRef.2526のオーナーはこれらのブレスの違いを気にしていないが、これらのブレスは時計に特別な力を与え、紛れもなく興味深いものとなっている。

 さらに、これらのブレスレットには価値がある。ある特定のコレクターにとって、これらは現在の市場で2万ドルの価値がブレスレット単体だけであるかもしれず、全てのRef.2526モデルが、最も頻繁にゴールドブレスレットと共に売られたものであったことは実に興味深い。

究極の時計メーカーが贈る究極の時計

 日差±1秒の精度を誇り、極限まで仕上げられた高品質なキャリバーと、今日では世界で最も特別な時計にのみ使用されているエナメルダイヤルは、ほんの序章に過ぎない。Ref.2526で見ることができるダブルP刻印のリューズは、Cal.12-600 ATのために導入され、このリファレンス特有の仕様ではないが、おそらく最も想起される特徴だろう。このリューズは、ただただ美しく、個人的にお気に入りの仕様の一つだ。

 では、ケースとダイヤルの実際のデザインに触れてみよう- 私はこのの時計のこの上ない特徴だと思っている。防水性を確保することを意味するねじ込み式の裏蓋(スクリューバ ック) - それは当時の本当のセールスポイントであり、そしておそらく今日も同様だ。スクリューバックの時計は今ではスナップバックのものに比べてかなりのプレミアム価格で販売されているが、Ref.2526の場合、厚めのケースは自動巻きムーブメントと相まって、手首に巻いた感触がRef.565や570よりもはるかに満足感を得ることができる。

 スモールセコンド、ミニッツインデックス、美しいドーフィンのアクセントが施されたダイヤルは欠点がなく、シャープでありながらも曲線を描くラグが特徴的なケースは見事にバランスが取れている。

 Ref.2526で実際に得られる価値は、間違いなくパテック フィリップが作った最高の3針時計であるということ。ムーブメント、ダイヤル、ケースとダイヤルデザイン、そして手首に巻いたとときの存在感の質の高さは、Ref.2526をパテック フィリップの模範としたと私は信じており、明らかに究極の時計として設計されていた - “他の追随を許さない至上主義”を高らかに掲げたのである。同時に、パテックは価格設定においても他の追随を許さなかった。

 1950年代半ばのRef.2526の小売価格は、レザーストラップのイエローゴールドモデルが2000スイスフラン強、ダイヤモンドマーカー付きのプラチナモデルが5500スイスフランという驚異的な価格だった。その間には、ローズゴールド、イエローゴールド、ホワイトゴールドのエナメルダイヤル、ブレスレットの有無などバリエーションが派生したが、ゴールド(プラチナではない)製ブレスレット付きの標準的なRef.2526が3400スイスフラン程度だったと仮定すると、イメージが掴めるのではないだろうか。なぜそれが驚くべき価格なのか? それは、当時世界で唯一存在していた永久カレンダー クロノグラフであるRef.2499が、約3800スイスフランで販売されていたからである。つまり、ブレスレット付きのRef.2526は、新品価格においてRef.2499に比肩したのだ。信じられない話だが、ここでもまた、Ref.2526はパテックがそれを世に送り出して以来、常に何か特別なものであり続けてきたという私の主張を繰り返すことになる。


Ref.2526を収集する

 私は初めてパテック フィリップRef.2526を見たときのことをよく覚えている - 私はGQ.com(実際には、それは当時men.style.comだった)の編集者を伴って、ニューヨークのパトリッツィ&カンパニーの内覧に出かけた。編集者はイエローゴールドのRef.2526を指差して、それを見てみたいと言った。パトリッツィの専門家は「ご冗談を。それは年寄りの時計ですよ!」と答えた。確かにそうだが、私が時計に携わってきた限り、Ref.2526はずっとそうだった。話題をかっさらう時計ではなかったし、率直に言うと、現在もそうだ。

 冒頭で述べたように、今日ではスティール製のRef.570は、無地の何の変哲も無い古いダイヤルでも数十万ドルで売れるようになった。初期のカラトラバ Ref.570と565(Ref.96、2508ほど稀少ではない)-は、最近人気のモデルであり、そんなことは百も承知である - 私はRef.2508を所有したし、今でもRef.565を所有している - しかし、素晴らしいとは言えないツートンダイヤルの時計、はっきり言えば大物のRef.530よりも、Ref.2526ははるかに特別な時計だ。私はRef.2526についての事実を上述のとおり概説した - 最高のムーブメント、見事な焼成エナメルダイヤル、そして素晴らしい歴史の全ては、紙面上においては、Ref.2526を偉大なものにする。しかし、我々が時計収集について、ある原理原則を知っていれば、称賛は何も意味をなさないということは自明だ - 全ては需要と供給に決定づけられているというわけだ。今現在、Ref.2526の需要は比較的低く、手にできる素晴らしい機会をもたらしている。次に、Ref.2526を集めるための基本をお話ししたい。

初期ダイヤルの識別方法

 何度か言及したように、エナメルダイヤルの製造は並大抵のことではない。最初に製造されたRef.2526のダイヤルは、他のモデルと比べて特別な特徴をもっている。アワーマーカーが、ピンによって文字盤にセットされているのだ。それ以降のダイヤルは全て、アワーマーカーがソリッドエナメルの表面に接着されている。ダイヤル自体にマーカーを固定することは非常に問題があることが判明し、パテックはすぐにこの方法を放棄したわけだ。あなたはこれが何を意味するかピンときただろう - 困難で短期間しか行われなかったことが証明されているときはいつでも、収集家はそれを望むだ。それはRef.2526の初期ダイヤルを見れば一目瞭然だ。では、どうやって初期ダイヤルを見分けることができるのだろうか? ダイヤルを斜めにしてアワーマーカーを見てみてみよう。後期ダイヤルは、アワーマーカーが完全に平らになっている。下に、私が言っていることを分かりやすく示した例示がある。

後期ダイヤルからアワーマーカーが外れた様子。

初期ダイヤルからアワーマーカーが外れた様子。

 右の画像は、初期ダイヤルからアワーマーカーを取り外すとどのようになるかを示している。左の画像は、後期ダイヤルにおいて同じ状態を示している - 前者はダイヤルに取り付けられているが、後者は接着したものだ。これがエナメルダイヤルの大きな違いであり、Ref.2526のダイヤルをさらに細分化する人もいるが、私はそれを初期(ダイヤルに取付穴付き)と他の全てのものとの比較で考えるようにしている。初期ダイヤルの方が希少性は高く、より望ましいが、購入する際の最重要事項ではない - どちらかというと、好みの問題である。

ケース素材の謎

 Ref.2526は、イエローゴールド、ローズゴールド、ホワイトゴールド、プラチナの4種の貴金属で生産された。イエローゴールドはご存じのように最も一般的なので、あまりにも多くのお金を費やすことなく入手したい場合は、エナメルダイヤルとイエローゴールドケースの組合せが、おそらく最善の選択となるだろう。その組み合わせはまだ市場に残されているので、探すのに苦労はなさそうだ- 今が買い時だと私が主張する理由である。ダイヤルにクラックが入っておらず、ケースが研磨されていないことを何よりも確かめたいと思うだろうが、これが時計製造の粋を尽くした時計であるというだけで十分に購入に値すると思う。

 ローズゴールドの個体は素晴らしい時計で、温かみのある色合いで多くの魅力を与えてくれる。その多くは南米で販売されていたもので、ベネズエラの首都カラカスの正規代理店であるセルピコ・イ・ライノ(Serpico Y Laino)で販売された個体が多い。

 私はエッグシェルダイヤルとローズゴールドが素敵な組み合わせだと思ってしまうが、これらはむしろかなり珍しい組み合わせだ。ローズゴールドのRef.2526の非常に良い個体は、イエローゴールドの個体よりもかなり多くの費用がかかる - 繰り返すが、より望ましい色であるし、イエローゴールドとローズゴールドの存在する比率は8:1であることを考慮すると納得だ- 実際はさらに少ないだろう。

 次にホワイトゴールドだ。プラチナとホワイトゴールドのRef.2526を見つけるのは非常に困難といえるだろう。実際、ある推定値によると、プラチナでは25本以下、ホワイトゴールドでは20本以下が市場に出回っているということだ。つまり、極めて少数ということになる。さらにホワイトゴールドとプラチナのRef.2526のほとんどが、ダイヤモンドマーカー付きのメタリックダイヤルを備えていたということだが、その事実の裏は取れていない。

 ここにご紹介する時計はプラチナ製のRef.2526だ。2015年11月にフィリップスにおいて22万7000スイスフラン(約2640万円)で販売されたが、多くの人がこの時計としては保守的な価格だったとうなずくだろう。脚注によると、この時計はエナメルダイヤルのプラチナ製モデルとして知られている5本のうちの1本だ。ホワイトゴールドのモデルでエナメルダイヤルをもつものは、さらに希少価値が高いかもしれない。ちなみにSSケースのRef.2526は存在しない。これに最も近いものは、偉大なCal.12-600 ATを採用したRef.2585だが、エナメルダイヤルはなく、ケース形状も異なる。このモデルが最後に発見されたときに記事に取り上げたが、その後、78万5000スイスフラン(約9130万円)で販売された。もしSS製のRef.2526が発見されたら、さらに高値が付くと思っていいだろう。

ダブルネームとスペシャルダイヤル

 前述の通り、Ref.2526シリーズの2本の聖杯は、ホワイトゴールドまたはプラチナ製の、完璧なエナメルダイヤルを備えたモデルだ。これらのモデルは、どこから見ても事実上、アンオブタニウム(訳注:非常に希少であることを示す架空の素材)である。驚くべきことに、マット・ジェイコブソン氏とのTalking Watchesで実際にこのモデルを見たことがある。 ホワイトゴールドとプラチナの時計には、様々な金属製のダイヤルがあるが、その全てがダイヤモンドマーカーを備えている。ダイヤモンドのダイヤルが付いたRef.2526GやPは、確かに日常使いできる時計ではないが、世界で最もエレガントな時計の1つかもしれない。それでも、エナメルダイヤルよりはありふれているため、ダイヤモンドインデックスにも関わらず価格は低く抑えられている。しかしながら例外も存在する。ブラックメタル、ダイヤモンドのダイヤルをもつホワイトゴールドの個体がそれである。多くの収集家は、ホワイトゴールド、ダイヤモンドマーカーのないエナメルダイヤルの個体をRef.2526ファミリーの頂点と崇め、市場に現れると争奪戦となる。

 他にも金属製ダイヤルにはティファニーネームが入る上の(さらに上の)写真のように“Do Unto Others As You Would Have Them Do Unto You(汝が欲するところを人に施せ)”と書かれている。この時計はLBJ(リンドン・B・ジョンソン)が米国大統領になる前に注文したもので、彼はニューヨークのティファニーの上顧客だったからだといわれている。これらのダイヤルはパテックによって取り付けられたのではなく、アンリ・スターン時計代理店に時計を卸した後にティファニーによって取り付けられた可能性が高いことに注意すべきであり、パテックは近年、そのような時計のアーカイブを発行していない。さらに、これらの時計の大部分はリダン(ダイヤル補修)されているため、状態がよく適度に経年変化し、記述もオリジナルのダイヤルをもつ個体が見つかることは非常に稀だ。私にとっては、これらは金属製ダイヤルのRef.2526の中で私が最もクールで興味深いと思う個体だ。

 エナメルダイヤルの話に戻るが、フィリップスで2016年3月15日に販売されたピンクゴールドのセルピコ・イ・ライノの最初のシリーズのようなダブルネームの個体があるが、これはダブルネームでない個体よりも希少価値が高いと考えられている。セルピコ・イ・ライノの時計は、常にケースバックに“S&L”の刻印があることを確認して欲しい- 刻印がない場合、それはダイヤルが別のケースに移植されたことを示唆するか、ケースの研磨痩せにより刻印が消えてしまった可能性がある。いずれにせよそのような個体は見送った方が良い。

 おっと、刻印についてもう少し補足しておこう。全てのRef.2526には6時位置のラグの間とラグの裏に刻印がある。ケースがどれだけ研磨されているかを判断するために、必ずこのマークを確認することだ。

 こちらは、3本のエナメルダイヤルRef.2526の写真だが、全てセルピコ・イ・ライノのサイン入り。ブラックダイヤルや、プラチナ製の非常にレアなモデルもある。

 さて、ダイヤルの話題に戻ろう。ホワイトゴールドケース、エナメルダイヤルのRef.2526と比肩しうるのは、オリジナルだと確認できるブラックエナメルダイヤルだけだと思う。ブラックダイヤルのRef.2526を見つけるとしよう - 私はそれを年に1回(いや2回か)の頻度で市場に出てくると考える - しかし、それらの大部分は、後付けされたダイヤルの個体だ。そう、これはあり得ることなので、その時計が発売時にブラックダイヤルであっことを確認しなければならないが、そうでない場合は全く別のオファーになる。例えば、公式に販売された最後のブラックダイヤルのRef.2526だが、オリジナルのダイヤルではないとクリスティーズでさえ認めている。しかし、2015年11月に8万1000ドル(約840万円)の値が付いたのだ。

 2016年3月15日、フィリップスはブラックエナメルダイヤルのRef.2526を出品し、今回は生産時から同じダイヤル仕様であることが証明された個体であった。落札予想額は6万〜9万スイスフラン(約700万〜約1050万円)と見積もられたが、結果は大幅に上回る結果となった。ただ単に出自が違うだけで約10万ドルの差が生まれたというわけだ - 驚くべきことだが、本当の話だ。そして誰かがあなたに特別なダイヤルでRef.2526を勧めてきたときには注意すべきというわけ;裏は必ず取っておくことだ。

 最後に、いくつかの特別なダイヤルのRef.2526が知られ、それらの価格設定は難しいものの、素材とダイヤルの種類に基づいて査定されるべきである。例えば、アンディ・ウォーホルは、ブレゲ数字ダイヤルとイエローゴールドのRef.2526を着用していた。 また、ブラックエナメルダイヤルに夜光アラビアのアワーマーカーが付いた個体も存在するが、これはRef.2526の中で最も興味深い個体の一つだと思われる。

 Ref.2526の何が素晴らしいか。ダイヤルの種類が実に何十種類もあり、Ref.570や565系と違い人気がそこまでないという点だ。だから、時計の価値を正確に知らないディーラーからRef.2526の非常に珍しい派生モデルを抜け駆けできるかもしれないのだ。

 最後に、“シグマダイヤル”についてひと言。6時位置に“Σ(シグマ)”のマークがあるRef.2526は、サービスダイヤルである可能性が高いと言われている。これはダイヤルがパテックによって交換されたことを意味し、多くの場合、ダイヤルはもはやエナメルではなく、ラッカー塗装された金属製ダイヤルである。シグマダイヤルのRef.2526全てがエナメルダイヤルではなくラッカー仕上げになっているとは言い切れないが、購入する際には、シグマダイヤルの個体であるかを注目して欲しい。

情熱、魅力、そして装着性

 さて、この記事の完全に主観的な部分だが、私は個人的にRef.2526を愛している。私はこのモデルこそミッドセンチュリーのパテック フィリップの腕時計を特別なものにしているものの集大成だと考えている - エンジニアリングの粋を尽くした素晴らしいキャリバー、見事でリッチなエナメルダイヤル、完璧な36mmの防水ケース、そして完璧なダブルPリューズ。繰り返すが、Ref.2526は本当にパテックから生まれた文句のつけようがない3針時計、“他の追随を許さない至高の時計”であることを意図したものであり、現代人の嗜好はそこからかけ離れてしまった部分があるにせよ、私はその謳い文句が今日でも真実味を帯びていると信じている。

 さらに、全盛期のパテックがRef.2526をいかに重要視していたかがうかがえることである。それは後に大統領となる人物や、ウォーホルが選んだ時計であり、最初のRef.2526は大物顧客であるJ.B.チャンピオンに与えられた。1953年のRef.2526は革命的な製品であり、今日では製造されないであろう時計だ。パテックがこのように特別な3針時計を製造し、その複雑さの中で価格を付けるには、今日ではあまりにも多くの要素が絡み合っている。今日、私たちがRef.2526に最も近いものは、A.ランゲ&ゾーネのリヒャルト・ランゲ “プール・ル・メリット”であり、これは250本(2種類のプレシャスメタルケースで展開。※2016年当時)の限定版であった。

 そう、時代を超越したデザインとエンジニアリングに誇りをもっていた時代は、多くの偉大な時計ブランドにとって過去のものになってしまったのかもしれないが、だからといって今もそれが見られないわけではない。これまで述べてきたように、イエローゴールドのRef.2526は、新品のSS製ノーチラスとほぼ同じ価格で手に入れることができるが、どちらがより手仕事感があると感じるだろう? さらに、Ref.2526のケースサイズと形状は完璧で、Ref.570よりも厚く、さらにバランスが取れている感じられ、Ref.2526は男性にも女性にもよく似合う(上の画像でご覧いただけるように - 人生の伴侶とシェアできるというのは良い交渉材料になる)。

 Ref.2526は、今日でもパテック フィリップの最も美しく永続的な業績の一つであると少なくとも私の目には映っている。この記事の読者が同意してくれることを願ってやまない。