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Just Because モノプッシャー・クロノグラフの不思議な魅力

実用性が低いということは、より楽しいということだ。

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"ノスタルジア "という言葉は、ギリシャ語のνοστοσ(ノストス)とαλγοσ(アルゴス)の複合語である。前者はホメロスに記載されており"帰郷 "を意味し、後者は "痛み "を意味する。古典ギリシャ語の用語としてよく説明されるが、実際にはもっと現代的な用語であり、1688年にバーゼルのヨハネス・ホーファーが、スイスの傭兵が感じたホームシックを表現するためにつくった造語のようである。
 19世紀になると、当初スイス人だけがかかりやすいと認識されていたこの症状は、一般にも病気として認識されるようになり、特に南北戦争では最初の2年間で北軍の2588人が症状を見せ、そのうち13人が死に至るほどだった。勇猛で知られるスコットランド軍さえも例外ではなく、1840年版のペニー誌によると、「海外遠征中のスコットランド隊にもバグパイプの音色が同じ症状をもたらすことがあった」と記されている。

 この言葉、ノスタルジアが、もともとスイス人から出て、今や特に高級時計はもちろん、広く機械式時計一般にも影響を与えているとは、私たち無知な現代人にとっても興味深い事実だ。現在の時計界で面白いと思うのは、モノプッシャー・クロノグラフが、ただ生き残っているだけでなく、比較的手頃な価格のツールウォッチから世界で最も高価で複雑な時計においても、あらゆるもので見受けられるほど、進化してきたということだ。

ロンジンのモノプッシャー・クロノグラフ。ムーブメントは2012年に初登場したコラムホイール式Cal.L788.2/ETA A08.L11。

 今日のモノプッシャー・クロノグラフは意図的に時代錯誤を狙っているが、過去にはそれしかなかったわけである。私はいつも、クロノグラフが時計の歴史の中でこれほどまでに遅れて発展してきたことを面白いと感じる。今や天空の星や海の砂のように多くの種類があり、その遍在性の高さから、当たり前のように感じているというのに。確かに、そのおかげかクロノグラフは永久カレンダーやリピーターのような高貴な地位には達していない。しかし、今日のクロノグラフは、ストップウォッチを内蔵し全体の動きを停止させることなく、スタート、ストップ、リセットが可能な時計であり、これは比較的新しい技術革新と言えよう。

1880年、パテック フィリップのインキング・クロノグラフ。

2008年にクリスティーズで落札された。

 1820年代のリューセックのインキング・クロノグラフは、懐中時計サイズに小型化することに成功し(しかも驚くほど長く存在していた)たが、文字盤にインクを滴下することは、せいぜいニッチな層にアピールする程度のものだろう。1816年にルイ・モネによって作られたcompteur de tiercesは、驚くべき機械だが(この機械は30Hzで鼓動するシリンダー脱進機を備えており、2012年にこの機械がオークションに出品されたが、私には到底競り落とせない金額だったろう)、厳密に言えば、クロノグラフではなく、天文観測を助けるために設計されたタイマーだった。スタート、ストップ、ゼロリセットが可能な最初のクロノグラフは、ハートピース(ハートカム)の発明まで待たなければならなかった。

 ハートの形をしたカムは、平らな面をしたハンマーがその上に落ちると、カムの一番低い部分がハンマーに当たるまで回転し、これがクロノグラフの秒メーターのゼロに対応する。1844年にアドルフ・ニコルが特許を取得し、ボタン1つのクロノグラフが誕生した。

カルティエ CPCPトーチュ モノプッシャー クロノグラフ。

 シングルプッシャーの欠点は、時間を計るとき、一時停止してから計時を再開することができないことだ。スタート→ストップ→リセットは一連でなければならず、続けて計時したい場合は、クロノグラフを停止し、経過時間をメモしたり記憶したりしてリセットし、再度スタートさせなければならない。

 このような現代文明の危機は、1934年にウィリー・ブライトリングが特許を取得するまで解決されなかったが、この特許は現代的な2つのプッシュボタンを備えたものだった。上のボタンはスタート、ストップ、リスタート、下はゼロへのリセット用だ。20世紀はクロノグラフのデザインに大きなイノベーションが起きた時代であり、興味深い主流のイノベーション(自動巻きクロノグラフ、カム&レバー式クロノグラフ)が生まれた一方で、その場限りの奇抜なデザイン、例えば、ゴムを留めるための歯付きプレートで動くゴムのクラッチプレートをもった垂直クラッチといった、歴史のゴミ箱に捨てられて当然のアイデアがいくつか生まれもした。

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ベル&ロスの第一次世界大戦時代の、モノプッシャー・クロノグラフヘリテージ。

 ツープッシャー・クロノグラフの方がモノプッシャーよりはるかに多いのには、たくさんの明らかな理由がある。使いやすい、時間計測のための実用性が高い、さらに、最近ではほとんどのクロノグラフのキャリバーがツープッシャー用になっているため、モノプッシャー・クロノグラフを作るには、既存のキャリバーに手を加えてモノプッシャー用の構造に変更する必要がある。そのため、同じメーカーのツープッシャー・クロノグラフよりも概して高価になる。そしてそれが、近年人気が高まっているにも関わらず、いまだにニッチな製品である理由だ。

モンブラン エクゾトゥールビヨン ラトラパンテ モノプッシャー ラトラパンテ クロノグラフ。

 モノプッシャーが、ツープッシャーに比べて実用性の観点からは明らかに劣っているにも関わらず、クロノグラフ市場の中で小さいながらも着実に成長を遂げてきたのは驚愕に値する。しかし、ノスタルジアが機械式時計への興味や欲求を駆り立てているとすれば、実際そうなのだが、この現象はより理解しやすくなる。モノプッシャー・クロノグラフは、過去とのつながりを毅然かつ明確に表現しており、その外見だけでなく、触覚的な特性も時計製造史の中にしっかりと根付かせている。さらに、モノプッシャー・クロノグラフには何かとてもエレガントなものがある。ツープッシャーのデザインには、それがどんなに高度なレベルであっても、実用的な要素がほのかに感じられてしまうのだ。それが、ラトラパンテ・クロノグラフの通が、モノプッシャーの形状を好む傾向にある理由だと思う。

6時位置にシングルプッシャーを搭載したオメガ製クロノグラフのモダンな限定モデル。ムーブメントは1918年に完成。

 スイスの発明から始まったノスタルジアが、時計産業を介してスイスの最も重要な輸出品の一つになったと考えるのは面白い。モノプッシャー・クロノグラフは、ツープッシャーのそれに比べ生産量は少ないものの、より文明化された時代のためのエレガントな時計として、他にはない経験を味わわせてくれる。