僕は時計メーカーが発表する製品を予測するのが苦手なのだが、これはまさにうってつけだ。昨日、時計愛好家たちがチューダーのウェブサイトに表示されるカウントダウンタイマーを心配そうに見つめているとき、僕はブラックベイ プロが何であるかを考えていた。数時間前、ジュネーブの路地に響くウイスキーに浸ったささやき声のなかからその名前を耳にしたが、それが何なのか見当もつかなかった。
さて、実機がここにある。ブラックベイラインの一般的な進化の範囲内に収まるような、それと認識できる外観を持った39mmのフライヤーGMTだ。もし、GMT、チューダー、そしてレガシーたるロレックス エクスプローラー IIに対する僕の好みをご存知ならきっとおわかりいただけると思う。この時計は、僕が身につけるのを最も楽しみにしていた時計であり、これを予想できなかったことに対する自分に失望もした。
ブラックベイ プロ。これは、ブラックベイのハイスペック版で、よりツール的なものだ。つまり、広大なブラックベイファミリーの遠縁の親戚にあたる、非常に優秀なペラゴスシリーズたちとの架け橋になるようなものだと思った。ブラックベイ プロは、より衝撃的な新作でありながら、ブラックベイとしてまったく違和感のない仕上がりだ。チューダーは、ロレックスが持つエスプリをより手頃な価格で表現することに長いあいだ取り組んできた。今回は、エクスプローラー IIが持つ一般的な雰囲気と具体的にはRef.1655の外観をベースにしたブラックベイ プロで、“Time is flat circle”(すべては繰り返され、以前起こったことは再び起こるに違いない)のアプローチが取られた。
ブラックベイ プロは、前述のとおり、直径39mmのスティールケース、マットブラックダイヤル、鮮やかなイエローのGMT針、そして非常に特徴的な24時間表記の固定式スティールベゼルを備えている。厚みはドーム型サファイア風防を含めて14.6mmで、ラグからラグまでの全長は47mm。ラグ幅は20mmでドリルラグではなく、風防はサファイアクリスタル製、ソリッドケースバックを採用した。デザインが改められたリューズはねじ込み式で、防水性能は200mだ。
ブラックベイ プロは、一見するとエクスプローラー II Ref.1655によく似ているが、これは決して悪いことではない。文字盤はもちろん、大きなガードレス・クラウンも、その出来栄えが大きく異なる。しかし、そのベゼルは、すぐに初期のエクスプローラー IIを連想させるような、特徴的で認識しやすいデザインフレームになっているのだ。それでいて実際は、マットブラックでドーム型のダイヤルは、非常にチューダーらしく、間違いなくブラックベイのデザインエッセンスが用いられている。
ブレスレット、ラバーとファブリックによるハイブリッドストラップ、NATOストラップのようなブラック&イエローのファブリックストラップが用意されたブラックベイ プロは、ヴィンテージGMTウォッチ的雰囲気を持ちながら、ブラックベイのデザイン言語を反復してきた豊かな歴史から生まれた感覚を備えている。ブラックベイ プロは、大型ですべてマット仕上げの針とマーカー、イエローのGMT針とそれに合わせた文字盤のハイライトなど、視認性が高くハンサムでありながら、ブラックベイというよりノースフラッグに近い無骨さを感じさせる。細部までこだわり抜かれたデザインのため、見栄えのする仕上がりだ。スポーツウォッチとしては地味な部類に入るが、僕が目で見て時計を楽しむ“時計鑑賞”には十分だし、ブラックベイプロの魅力は、手軽さと明瞭さだと感じた。
実際に手にしてみると、ブラックベイ プロは僕の期待にほぼ応えてくれたと言える。特にファブリック製ストラップは、かさばることなく、僕の18cmの手首にぴったりと密着し、時計を薄く感じさせてくれる。直径39mmは素晴らしく、輝かしいブラックベイ フィフティ-エイトの延長線上にあり、チューダーではおなじみの要素が満載だ。とはいえ、ブラックベイ プロはフィフティ-エイトのような美しいプロポーションではない。それは主に厚いケースによるものだ。14.6mmという厚みは目立つが、腕につけたときに煩わしさを感じることはない。少しバランスが悪く、トップヘビーに感じるかもしれないと思ったのだが、装着してみるとプロポーションは良好で、この厚みは決して時計を諦める理由にはならないと感じた。
ブラックベイ GMTと比較すると、ブラックベイ プロは数10分の1mm薄くなり、ラグからラグまでの全長は3mm短くなった。ブラックベイ GMTについては、これまでにもいろいろと書いてきたし、今でもとても気に入っている(記事「チューダー ブラックベイ GMTを1週間レビュー」参照)。しかし、もしあなたが少し小さくても同様の機能を持つものを望んでいたなら、ブラックベイ プロをよく見てみるといい。
そして、ブラックベイ GMTとブラックベイ プロが同じムーブメントを採用し、利便性の高いGMT機能を共有しているのには理由がある。僕は何年も前から、チューダーがCal.MT5652を41mm以下のケースに収められるとは思っていなかった。Watches & Wondersのデイリーポッドキャストの第1回目で述べたように、完全に間違いだった。しかも、200mもの防水性まで実現したのだ。
リューズひとつで操作するCal.MT5652は、70時間のパワーリザーブ、自動巻き、COSC認定、ローカルジャンピングGMT機構を備えている。ローカルジャンピングとは、他のタイムゾーンに移動する際に、他の針の位置に影響を与えることなく時針を前後に移動させることができる、という意味だ。つまり、時針とGMT針の両方を自国のタイムゾーンに設定している場合、新しいタイムゾーンに到着したら、メインの時針を進めたり戻したりして現地時間を表示し、24時間のGMT針は引き続き自国の時間を表示することができるというわけだ。また、日付表示も時針と連動しているため、午前0時をまたぐと日付もそれに合わせて動く。
ブラックベイ GMTは、24時間回転ベゼルで第3のタイムゾーンをトラッキングする機能を備えているが、ブラックベイ プロの固定ベゼルは、エクスプローラー II、特にRef.16550のフォーマットを踏襲している。初代1655は実際にはふたつの異なるタイムゾーンを表示せず、第4針で24時間表示を行っていたのだ。
ブラックベイ GMTと外観を比較すると、ブラックベイ プロは、レイアウトこそ共通しているが、その出来栄えは大きく異なっている。マーカーにはモノブロックの夜光セラミックが使用され、文字盤上の光量をアップ。結果として印象的な効果をもたらしている。針とマーカーは白でもなく、エイジング加工でもない黄色がかったオフホワイトで、環境光によって輝度が変化する。また、針は完全なマット仕上げで、その周囲もマット仕上げとなっており、ブラックベイ プロは他のモデルとは一線を画していると言える。
しかし、ブラックベイ プロのデザイン要素で僕が一番気に入ったのが、GMT針だ。ミニッツトラックまで届く針は、彩度の高いリッチなイエローで、先端が丸みを帯びた均等なテーパーを描いている。ブラックベイ GMTとは異なり、夜光のダイヤモンドは針の先端からやや内側にセットされている。バランスもよく視認性も抜群で、まさにクール。また、風防も他のブラックベイに比べ、よりモダンなデザインになっている。ブラックベイ プロは、僕たちが慣れ親しんでいるヴィンテージ感のあるボックスクリスタル風防ではなく、美しいドーム型風防で、ベゼルのエッジに流れ込む煌めきと輝きを最小限に抑えている。美しい仕上がりだ。
ブラックベイ プロの価格は、僕たちがチューダーに期待するとおりの設定。ふたつのストラップはどちらの仕様も41万9100円で、ブレスレットタイプは45万5400円と少し金額がジャンプする。他モデルと比較するとブラックベイ GMTは43万6700円から、ブラックベイ フィフティ-エイトは39万4900円(すべて税込)。マニュファクチュールムーブメントを搭載し、適切なフライヤーGMT機能を備えたチューダーとしては、決して悪くはない価格だろう。
個人的にはファブリックストラップを選び、従来のNATOや少し厚みのあるレザーストラップをシンプルに装着するのがいいと思う。とはいえ、ブレスレットは非常に素晴らしく、マイクロアジャストメントシステムを搭載して再設計されたクラスプを備えている。ブレスレット好きなら、少々高くても買う価値があると思うし、ブラックベイ プロとの相性も抜群だ。ハイブリッドストラップは、装着感も見た目も抜群だが、フォールディングクラスプがやや厚みを感じさせる。素材は柔らかくて心地よいので、ぜひ手首につけて試してみて欲しい。
以上がブラックベイ プロだ。GMT市場は人気の高まりを見せていて、最近もロンジン スピリット ズールータイムやグランドセイコーのスプリングドライブGMT SBGC249&251などがリリースされた。競争が激化するなか、チューダーは、よく考えられよくできた、機能的かつハンサムな時計を提供し続けるという、彼らのフォーマットを踏襲している。ブラックベイ プロは、ブラックベイシリーズのなかでもややとっつきづらい印象があるかもしれないが、それが魅力のひとつでもあると思っている。
ダイバーズウォッチを十分すぎるほど持っていて、GMTの穴を埋められないような男として、僕はブラックベイ プロをとても気に入っている。意外かもしれないが、チューダーが過去の親しみやすさとブラックベイラインが成長する視点をうまく融合させたのが、この時計だ。具体的に言うと、僕が欲しいと思っていなかったものを生み出し、今ではその存在をとてもうれしく思っている。
詳細は、チューダー公式サイトへ。
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