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Photos by Fujio Emura
スタイルエディターのマライカ・クロフォードが愛用の腕時計をより最高の状態にするための方法を紹介する、How To Wear Itへようこそ。このセクションではスタイリングのコツから、現代におけるファッションの考察、歴史的な背景、ときには英国流の皮肉も織り交ぜて、その魅力をお伝えしていこう。
私は10年以上前からスタイリストとして、アクセサリーの着こなしや組み合わせをアドバイスして生計を立てている(少なくとも一部は)。そして腕時計は、アクセサリーのなかで最もスタイリングが難しい。なぜなら時計選びは、ハンドバッグを選ぶよりもはるかに多くのことを考えなければならないからだ。とはいえ両者には共通点がある。財布を愛する人がエルメス バーキンの夢を見るように、最高で完璧な時計を手に入れるために、何年もお金を貯めるコレクターがいるということだ。またある人は時間をかけて厳選して手に入れたものをローテーションで周期的に使い、またある人は毎日“ビーター”を腕に巻いている。
時計にはたくさんの意味が込められている。それはセンチメンタルな気分にさせる受け継がれていく家宝だったり、なにか節目で手に入れたシンボルとしてだったりする。さらに時計収集の世界では、広範囲な収入の度合い、ありとあらゆる技術的な専門知識、そして生来のスタイリッシュさによる違いもある。
時計は洋服と同じように文化を表現してくれる。何十年、何百年前のデザインだったとしても、昔から衰えない人気とそれが持つ高い価値により、身につけられる着こなしにも時代の流れが反映されていると思う。
確かに時計は機能的な面も持ち合わせているが、必要だから身につけるという人はもういないだろう。腕時計を選ぶということは、手首をとおして自己主張するということ。セイコーのダイバーズウォッチとイエローゴールドのデイトナは同じように存在感を放つが、このふたつはまったく異なるメッセージ性を持つのだ。
スタイリングというのは時計選びと同様、本来とてもパーソナルなものだ。ただこのセクションが、ロレックス デイデイトやカルティエ「タンク」のような、定番以外の時計を身につけたいと考えている時計初心者にとって、また長年時計を愛用していて新しい着こなし方や意外性を見つけたいという人たちにとって、有益な情報源になればと願っている。
今回の時計
ヴァシュロン・コンスタンタンのパトリモニーは、ピュアで控えめなラグジュアリーモデルだ。シンプルかつ清潔感のあるクラシックなものを探しているのなら、この時計はプレスしたてのパリッとした白いボタンアップシャツのようなものだと言えるだろう。この時計は2004年にデビューしたが、ある意味2023年らしい時計でもある。というわけで今この瞬間に取り上げてみた。
VC パトリモニー Ref.81180は、直径40mm、厚さ6.8mmと、満足のいく薄さを持つホワイトゴールドで出来ている。スーツジャケットの袖口の下からとても上品にのぞくが、(思い切り無頓着な)Tシャツとジーンズにもよく似合う。
さまざまな不揃いのパーツがすべて思いがけずにうまく調和しているときこそ、私がいちばんうまく成功したと思うスタイリングだ。カジュアルな服装+フォーマルな時計、そこから導き出されるのは完璧にバランスの取れたアンバランスさといった風に。
ドレスウォッチといえば、私はヴィンテージにこだわることが多い。しかし最高にトラディショナルなドレスウォッチに対して、モダンな要素を持たせるというのは、私にとってはとても刺激的なことである。それがヴァシュロンのパトリモニーなのだ。
正直にいって、もっと小振りなサイズの時計が必要だと時計愛好家が口々に言っているのを聞いているうちに、すっかり疲れ果ててしまった。彼らの意見もわかる。私も同感だ。均整の取れた時計をつけるだけで難なくエレガンスを表現してくれるし、時計に描かれたロゴを部屋の端にいる人に見せる必要もない。だが私は、時計が持つサイズ感の多様性も同様に支持している。そのため今回は、少し大き目なドレスウォッチを用意した。大振りなケース径に、極薄と言えるプロポーションのコントラストを楽しめるということだ。そしてそれが効くのだ!
パトリモニーはブランドのなかでは見過ごされてきた時計であるが、ファッション界で注目されている、物静かなラグジュアリーを象徴しているとして目立たない存在(ある意味ではそれが常に維持されていた)になっている時計のひとつだ。ザ・ロウ、セリーヌ、ケイトなどの服飾ブランドは、基本的にワードローブの定番アイテムでありながら、優れた仕立てと高価な素材を用いてほんの少し格上げされたアイテムを求める、消費者の動きを反映している。ブルネロクチネリやロロ・ピアーナ(富裕層たちのベーシックアイテム)も以前からそうだった。
物静かなラグジュアリーという美学は、ほかのファッショントレンドと同様ポップカルチャーの時代精神の流れからきている。例えば『メディア王 〜華麗なる一族〜』(原題:Succession)のキャスト、『ター』のケイト・ブランシェット、そしてグウィネス・パルトローによる最近のワードローブなどをイメージしてみてほしい。また経済情勢もデザイナーがランウェイにふさわしいと判断するものに大きな影響を与えることも忘れてはならない。2023年にロゴ入りのハンドバッグ、YGでできたスポーツウォッチを愛用するのはいささか古めかしい感じがする。
大衆が気づかない、ブランドの高額ハンドバッグを所有するのと同じように、控えめで目立たないドレスウォッチもまた物静かなラグジュアリーであることを披露しているのだ。ヴァシュロン・コンスタンタン パトリモニーもこのタイプに当てはまる。40mmという大きさのこの時計は、ドレスウォッチの伝統的なサイズである33mmから35mmという慣例にとらわれない一方、文字盤とベゼル、ベゼルからラグまでの比率は極めて伝統的なものである。サファイアクリスタルとベゼルのドーム型の斜面、(横からみたときに)滑らかなディスクのようなフォルム、ケースに沿っての弧を描く湾曲したバネ棒が、さらにエレガントなラインを描いている。
VC パトリモニー Ref.81180 / 000G-9117は、ジュネーブ・シール認定済みの手巻きCal.1400を搭載し、18KWG無垢の裏蓋のなかに納まっている。ではこれを分析しよう。ジュネーブのホールマークの基準により、職人が内部の仕上げを行っており、これは時計職人以外の誰も目にすることはできない。この事実はラグジュアリーのなかでも最も物静かなラグジュアリーであるように感じられる。
シルバーのマット仕上げのダイヤルはエッグシェル(クリーム色のホワイト)のような外観を持ち、手作業で植字された完璧なまでに細いWG製インデックスが、ダイヤルの傾斜に合わせてカーブを描いている。パトリモニーは、ミッドセンチュリー時代(超薄型ドレスウォッチの最盛期)に誕生したヴァシュロン・コンスタンタンのドレスウォッチからインスパイアを受けているのだ。ヴィンテージ感あふれるバトン針、モノトーンのステッチを施したブラックのアリゲーターストラップに裏地はカーフレザー、またバックルはWGのマルタ十字ピンバックルを採用している。
いかにして着こなすか
ルック1: ツイードをとてもコンテンポラリーに表現
このクリーミーなツイードスーツは、グッチの元クリエイティブ・ディレクターであるアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)氏の天才的な才能に対する、ささやかで個人的な賛辞である。このルックはミケーレ氏が同ブランドで最後に行ったランウェイショーから取り入れたものだ。“#Twinsburg”と題されたこのコレクションは、68組もの双子がランウェイで着用した、2×68のルックで構成されている。ミケーレが7年間の任期を終えることを知らなかったとしても、このショーは大きな衝撃を残した。
ミケーレ氏は、ロマンあふれるアイデア(ハリウッド、ローマ建築、ルネサンス様式の絵画、そして今回の場合は双子)をモダナイズしてアレンジ、装飾して混ぜ合わせ、カラーパレット、パターン、プロポーションをパッチワークのようなキルトで表現して取り入れる能力に長けていた。いつもがほぼコミカルなオーバーサイズのサングラス、派手な宝石、そして何らかの毛皮のトリミングで飾られている。
ミケーレ氏は過去の華やかさに魅了されつつも、自由でクリエィティブな表現を押し進めることに全力を注いでいた。キャスティングや服装に関して、あらゆるものを受け入れる彼の絶対的な姿勢はファッション界における政治的体制を形成し、クールさや美しさといった、一般的な定義を完璧に狂わせた。ミケーレ氏はある種のエキセントリックなクラブを作ってそこで“醜くも美しい”服の鑑賞を行い団結するという、突然時勢に通じたことをしたのだ。
このスーツは、いわゆるWASP的な女性らしさを象徴する20世紀のシャネルのツイードスーツになぞらえたものであり(ココ・シャネル自身、伝統的な男性らしさと女性らしさという概念を混ぜ合わせたことで知られている。好例としてツイードスーツの考案がある)、ミケーレ氏の差別撤廃の意図をさらに示すこととなった。
パトリモニーでこのルックをスタイリングする際考えた私のアイデアは、サイズとプロポーションで遊びつつも、伝統とモダンが共存するバランスを作り出すことだった。
伝統的なドレスウォッチながら、より大きくて現代的なサイズという組み合わせに似ているのだが、このツイードスーツもまた、その概念を覆し、現代風にアレンジが加えられている。シャネルのクラシカルな定番スタイルをグッチ流に解釈し、スカートではなくパンツと合わせた。さらにゆとりのあるジャケットと、1970年代当時を思わせるカッティングパンツで、プロポーションにゆとりを持たせている。インスピレーションを総動員させて数十年の時を経たルックを組み合わせているが、それがどうしてか成立していく。スーツや靴を文字盤に合わせることで、モノトーンの落ち着いたムードを演出している。
私は意図してこのスーツをチョイスしている。ミケーレ氏は男女ともに、花柄のドレスやチャップ(脇のひらひらした飾り)付きのブレザー、フェザーボア、プッシーリボン(ブラウスなどにつける大きなネックウェア)を身につけるという、ジェンダーフルイドなビジョンを表現している。このサイトでも何度も言うように、ジェンダーレスな時計はもはや流行なのだ。そしてこれからも、その傾向は続いていく。
全世代の服装に影響を与えたミケーレ氏。そしてこのシンプルで控えめな時計は、表向きは彼のバロック的な世界観とは正反対だが、実は完璧にそれを引き立てているのだ。
ルック2: テクスチャーのミックスマッチ
TikTokなどソーシャルメディアのプラットフォームを通じて、ミレニアル世代やZ世代のコンテンツクリエイターが今後流行るファッションを予見している。例えば“コテージコア”のようなマイクロトレンドが彼らの生活圏だ(知らない人はググってみて。いや、やっぱりやらないほうがいいかも)。
ランウェイショーで披露したあと、数シーズンかけてハイファッションからハイストリートへと、少しずつ浸透していくような広範な物語とは異なり、マイクロトレンドは、あらゆるインスピレーションの源から自分の好きなものを選びとっていくことが大切だ。
このルックではテクスチャー、色、年代を混在させた。しかしそのなかでも重要なのは、直線的に配された絶妙なホワイトのアクセントである。アースカラーのエルメスのスエードショートジャケットに施されたホワイトステッチが、アンダーシャツからチェック柄パンツにもあるホワイトのディテール、シューズ、パトリモニーのクリームの文字盤に至るまで、すべてを引き締めている。
美しいアースカラーの、テラコッタカラーのスエードで作られたエルメスのジャケットは、ジッパーで開閉できるクラシカルなブルゾンジャケットを現代風にアレンジしたものだ。装備された大きなポケットが70年代の雰囲気を醸し出し、そこにショート丈の袖をセットすることでコンテンポラリーにも仕上げている。
撮影前、ラックに並んだ服を整理する際、(そして服を整理整頓したあと)私はまず最初にすべての服や生地にゆっくりと手で触れて、テクスチャーや重さを確認する作業をしている。そして次に、仕上がりが大きく変わるような、カメラにうまく映えるディテール(ステッチ、ボタン、ベルトループ、プリーツなど)を探すのだ。腕時計を見るときも、これと同じようにしている。文字盤の形やアクセント、テクスチャーには特に気を配っているつもりだ。
パトリモニーはパリッとしたクリームカラーのようなホワイトに、WGがもたらす小さなきらめきがある、というのが印象的だった。そこでトラディショナルさとコンテンポラリーのバランスが取れた服を選び、それを表現する方法を探してみた。腕時計と同じように。
ルック3: シンプルでないバギージーンズとTシャツのセット
アンダードレス(質素でくだけすぎた服装)よりもオーバードレス(豪華すぎる服装)のほうがいいに決まっている。時計選びにおいて、このポイントをダブルアンダーラインで線を引いて猛烈に強調したいところだ。今すぐ聞いてほしいのだが、ドレスウォッチはあらゆるシーンで活躍する。ただしステンレススティールでできたスポーツウォッチはそうじゃない。
これはシンプルなTシャツとジーンズの組み合わせのように見えるかもしない(ダボダボのジーンズはシンプルとはいえないが、Tシャツとジーンズは現代における永遠のドレスコードだ)。ただ文脈的に、それは間違っていないし、むしろそれ以上のものがある。
イギリス系ジャマイカ人のメンズウェアデザイナー、マーティン・ローズ(Martine Rose)氏が手がけたこのTシャツは、あらゆるサブカルチャーへの探求心に対する願望を込めたものだ。マイクロトレンドに立ち返ったのだ! マーティン・ローズ氏はレイヴやヒップホップ、パンクといったサブカルチャーへの関心と、サウスロンドンで育った生活からインスピレーションを得ている。彼女のデザインは常にこれらのサブカルチャーを参考にしており、ローズ氏はミケーレ氏と同様、メンズウェアの伝統的なプロポーションを崩してファブリックを重ね合わせ、今日のメンズウェアコードで認められている、ぎこちなさをより際立たせた遊び心をうまく取り入れているのである。
ルイ・ヴィトンのジーンズはミニマリズムとマキシマリズム(引き算と足し算)のあいだを揺れ動き、またミニマリズムに戻るという振り子を思い起こさせる。これは時計にもいえることだ。スモールウォッチの議論に疲れた私は、サイズ感という問題に関して、文字どおり大きく考えるようになった。40mm径のWGのドレスウォッチにスケーター風のオーバーサイズのルイ・ヴィトンのジーンズ、それとマーティン・ローズのTシャツを合わせるのが、時計の世界のエチケットに対する私なりの回答だ。
エチケットといえば、このコラムの哲学をVC パトリモニー Ref.81180以外のタイムピースでも自由に当てはめてみてほしい。そしてぜひ、ここにお気に入りのドレスウォッチを入れてみて。How To Wear Itセクションに規範となるようなものはない。言い換えればこれらが唯一の着こなし方ではないということだ。私は目の前のあなたが心に刻んだ紳士のための手引き、あるいはあなたの脳にしっかりと刻み込まれた、畏まったルールを捨てさせる手伝いがしたい。曲げたり、形を整えたり、はたまた遊んだりするための新しいルールを提供したいのだ。なぜなら本当のスタイルとは、パーソナルなスタイルだからだ。
Groomer: Sophie Ono at The Brooks Agency, Model: Mamadou at Crawford Models, Photo Assistants: Hailey Heaton and Matt Keough, Digital Tech: Jonathan Pivovar, Styling Assistants: Jade Boulton and Obadiah Russon
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