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Hands-On カルティエ タンク フランセーズ 日本限定モデルをハンズオン

これを企画した担当者は、きっとヴィンテージのテイストが好きなんだろうと思う。

 間もなくWatches & Wonders 2024も始まろうというこの瞬間に、どうしてもハンズオンを執筆したかった時計がある。新世代に移行したタンク フランセーズは、日本人女性のあいだで一大ブームを巻き起こしたこのシリーズをよりモダンでミニマルなデザインへとアップデートされた。以前は抑揚の効いたブレスレットのリンクが女性らしい印象もあり、その他のタンクとは一線を画した存在であったように思う。当時は、日本が世界で最もタンク フランセーズの売れる市場であったそうだ。

 果たして、新生タンク フランセーズは、1996年にタンクにおけるブレスレットウォッチとしての役割を担って誕生したそのルーツに立ち返り、時計のケースとブレスレットの一体感をさらに強調。ひとコマ目がケースからシームレスに伸びる形状は、角形のブレスレットウォッチとして唯一無二のシェイプであり、ここ数年でカルティエが主導したと言っても過言ではないインターチェンジャブル機構も、タンク フランセーズでは搭載していない。それは、ブレスレットまで含めてタンク フランセーズのデザインであり、革ベルトの装着を前提としない時計だからである。

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タンク フランセーズ 日本限定だけに宿る魅力

 登場から1年を経て、タンク フランセーズに日本限定モデルがこの3月に追加された。ひと目で他のモデルと大きな違いであると分かるダイヤルは、ケースと一体化してしまったかのようにシルバーラッカーをヘアライン仕上げとしたインデックスが特徴。文字盤のベースカラーはホワイトオパラインであり、完全な白ではなくシルバーラッカーとトーンオントーンとなるようデザインされた。インデックスは、12と6時のみローマ数字が残され、それ以外は省略されたあとにラッカーが施されている。ミニマルを究めたようなデザインであるが、プレスリリースによると“日本芸術の伝統のなかにある簡素を尊ぶ文化から着想を得た”とのことだ。簡素、とは飾り気や無駄がないさまのことだが、なるほど、確かにカルティエデザインの大きな魅力は、引き算の美学で時計やジュエリーのシェイプを引き立てるところに一端がある。本質的なカルティエらしさに照らし合わせて、このダイヤルデザインは非常に納得できるもので、レギュラーモデルではなかなか実現できなさそうなことをよくやってくれた、という印象だ。

 僕個人の感想だが、おそらくカルティエ ジャパンの時計企画担当者は、自社のヘリテージをかなり研究していると思う。80年代ごろのサントス カレにはインデックスのない、単色のラッカーダイヤルを備えたモデルが少数あった。ボルドーカラーやシルバーカラーが有名で、現在では他のダイヤルに比べて高い人気を持っている。今回のタンク フランセーズのミニマルなルックスは、かつてのサントス カレを彷彿とさせるのだ。

こんな雰囲気の、グレー文字盤のサントス カレが存在する。

隙のないブレスレットの出来と、徹底してミニマルなサイドビュー

 ケースやブレスレットの基本的なプロファイルは通常モデルと同様だ。サテン仕上げをメインに、短いセンターリンクへ効果的にポリッシュを配したブレスレットは華美過ぎず、高級感もキープしている。ブレスレットはテーパードのかかっていない形状で、まさにアクセサリーとしての太めのブレスレットをイメージさせるデザインだ。ほどよくスポーティさも感じられるため、女性らしさが強調されていた先代モデルの面影を見ることはまずないだろう。

 カルティエらしさの一面が垣間見えるところにケースバックがある。タンク フランセーズはブレスレットウォッチを志向したものということは前述したが、腕の形に沿うように裏蓋もフラットではなくわずかに丸くシェイプされているのだ。着用されるシーンを想定して、形状までデザインされているわけだが、細かに手を入れたところをカルティエは声高に語らない。着用者だけが意識せずに実感するようなポイントだが、ベーシックなステンレスモデルでも非常に高い質を保っているのがカルティエなのである。

 日本限定モデルの企画にあたり、MMを選択したのはある意味で苦渋の選択だったと推測するが、サイズの面ではユニセックスであるし、我々日本人男性にとっては多くの人にマッチするだろう。小径化のトレンドのなかにおいても、32×27mmのケースはかなり小ぶりな部類。7.1mmの厚さと相まって、ブレスレットウォッチのなかでここまでさり気なくつけられる時計は他にないと思う。クラスプのない両開きタイプのバックルは、ケースとのバランスで厚みが出ることを嫌った選択だろう。正直、僕は使い勝手の観点からブレスレットにはクラスプがついていて欲しいタイプで、このタイプのバックルは苦手。開く際の力加減がモノによって異なるので気を使うことと、腕がむくんできた夕方くらいの時間帯に何かの弾みで開いてしまうことがあるためだ。

 まあ、それを差し引いても折りたたみ部分は薄く、腕の形に合わせて湾曲させるなど芸の細かさがここでも際立っている。つけ心地の面では申し分ないブレスレットなわけで、クラスプ問題については慣れで解決できるのだと考えたいところではある。機会があれば、このタイプのブレスレットをもう少し長く試してみて、またフィーリングをお伝えしたいと思う。

クォーツであることをどう捉えるか、それが問題だ

 さあ、先程MMサイズを選んだのが“苦渋の選択”であると書いた。これは、現状タンク フランセーズのMMにはクォーツのみしかラインナップされていないため、サイズを取るか機械式ムーブメントを取るかの選択があったはずなのだ(ちなみにLMはCal.1853を搭載した自動巻きモデルだ)。現行のサントス デュモンにおいても、最近までLMサイズはクォーツしかラインナップがなかったので、将来的には機械式のタンク フランセーズ MMが登場する可能性もあるだろうが、現時点では日本限定としてはMMのクォーツモデルがベースに選ばれた。

 最近、知人からカルティエの時計購入相談を受けることがよくあるが、それが男性でも女性でも、長く使ったり自分自身の時を刻むパートナーという意味でも機械式がよく、それを優先すると好みの素材やサイズが選べなかったりするという悩みを耳にする。時計選びはどんなときにもトレードオフがつきもので、だからこそ選びぬく楽しみがあるのだが、この日本限定でも同じように悩む人がいそうである。現行のタンク マストにはCal.1847 MCを搭載した80万円ほどのモデルがあるためタンク フランセーズでも実現できないのかとふと考えてみたが、この自動巻きムーブメントは直径25.6mmと本機に搭載するには少し大きいようだ。カルティエが現在ラインナップしている機械式ムーブメントでは手巻きでしかそれを実現できなさそうだが、タンク フランセーズの現代的な特性を考えると搭載するならば自動巻きだろうとも思う。

 まあ、この時計は幸い2針だ。美観的に機械式とクォーツの決定的な差である秒針の運針は今回は気にする必要がないわけで、ミニマルなダイヤルデザインに完璧にマッチしたこのMMサイズとブレスレットを楽しむと考えれば、それはかなり素敵な選択になると僕は思う。

タンク フランセーズ MM 日本限定 Ref.CRWSTA0086 32×27mm、7.1mm厚、SSケース&ブレスレット、ムーンストーンのカボション、ホワイトオパライン シルバーラッカー ダイヤル、ポリッシュ仕上げロジウム製剣型針、長寿命化されたクォーツムーブメント搭載、時・分表示。日常生活防水。価格:72万6000円(税込)

その他、詳細はカルティエ公式サイトへ。

Photographs by Yu Sekiguchi