Photos by Mark Kauzlarich
オーデマ ピゲが、ジョン・メイヤー(John Mayer)とのコラボレーションによる最新ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー(RO QP)を発表した。ホワイトゴールドを使用した信じられないほどゴージャスな本モデルは、Cal.5134で駆動し、驚くほど革新的な“クリスタルスカイ”仕上げのファセット文字盤を備えている。世界限定200本で、価格は18万700ドル(日本での価格は要問い合わせ)だ。オーデマ ピゲはまた、ジョン・メイヤーが“クリエイティブコンジット(ブランドに創造やアイデアを提供する役割)”という新たな肩書きも得たと発表をした。
以上が概要だ。これはオーデマ ピゲの過去と未来のすべてが、1本の時計の中に凝縮された美しい姿であり、限りなく魅了される。リリースのなかには、デザイン、ブランドの歴史、ジョン・メイヤーのコレクションにおける話など、小さなニュースや話題がたくさんあった。メイヤーと私は、ロイヤル オークや、より具体的にはRO QPがいかにして彼のコレクション(あるいは彼の個性)を象徴する時計のひとつになったか、1対1で少し話をした。ユーザーに共有すべき意見はいくつかあるが、引用はない。メイヤーが自分の意見を言いたいときは、私たちが彼に期待するような情熱と知識を持ってそうするだろうと考えているからだ。ただ、もしよければ舞台を整えるために、本題から少し逸れて音楽の話をさせて欲しい。
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1週間ほど前、私はクルマでニューヨーク郊外の旅行から戻っていた。ジョン・メイヤーがお届けする新しいSirius XMステーションにチャンネルを合わせると、ちょうど彼のお気に入りの曲であり、グレン・キャンベル(Glen Campbell)のカバーで知られたジョン・ハートフォードの“ジェントル・オン・マイ・マインド”について話しているのを聞いた。
ハートフォードはかつて、放浪者と彼の失われた愛を描いたこの曲を“言葉の映画”と表現した。グレン・キャンベルはそれを“人生に関するエッセイ”と呼び、その情景描写に“圧倒”されたと述べた。メイヤーがラジオで説明したように、 “私の心に心地よく(gentle on my mind)”という美しいフレーズは、完璧な愛を表している。それは愛であり、憧れであるが、一緒にいられなくなっても、それを持っていなくても痛みを伴わず、どこかにあると知っていることで慰められる愛である。存在を知っているだけでいいのだ。
ふたりの愛についてこれほど雄弁に語られているものを時計に落とし込むのは、こうしたことにこだわる人にとっても、少し極端な気がする。時計愛好家は、それなりに(ときに奇妙な)情熱的な人々のため、この曲は、私がヴィンテージとモダン問わずRO QPについて感じてきたことに、少なからず真実味を帯びていると認めざるを得ない。
何年ものあいだ、私はロイヤル オークを、現代におけるパーペチュアルカレンダーの頂点であり、美しく見やすい表示と素晴らしい時計製造の系譜を持つ、前衛的でアイコン化されたジェンタのデザインであると長年考えていた(そのすべてについては後ほど説明する)。また時計収集の旅において、オーデマ ピゲが終着点だと思っている人も多いだろう(ほとんど知られていないグランドコンプリケーション、そしてCODE 11.59 RD#4を除いては)。直接手に入れることができなくても、彼らの製品について情報を得たり、感動したりすることができる。そして私は、オーデマ ピゲの時計との自身の絆や繋がりがわかるような時計が1本欲しい。もちろんそれを想像するのはいいことだが、それは“遠くから見る”だけのちょっとした恋心であった。
この時計が私の心にどれだけ優しくのしかかるのか、まだわからない。そしてこれが私の予算には収まらないこと、また今後20年分の予算にも含まれないという事実を受け入れた。ただ、ほかのほとんどのQPは羨望の的であり、時間をかけて徐々に魅力を感じさせるのに対し、このモデルはそれらとは異なる。これはメイヤーの時計に対する情熱とオーデマ ピゲに対する情熱の結晶であるだけでなく、私の時計遍歴のなかでも、忘れられない瞬間になるだろう。私が中学生のときギターを手にしたのは、叔父、ジェームス・テイラー(James Taylor)、そしてジョン・メイヤーの3人のおかげだ。実際、子どもの頃にかっこいいと思った時計を探す人がいるように、私は今でもメイヤーオリジナルのマーティン・シグネチャーギターを探している。そして祖父が始めた腕時計趣味に戻ったのは、ベン(・クライマー)、ジョン、そしてHODINKEEのおかげだった。そしてブランドの歴史とコレクターコミュニティの願い(with immense gratitude and appreciation)を裏蓋に凝縮した、ベンの初となる限定モデルが誕生した。
彼の時計が世界に発信された夜、ジョンと私は、彼とオーデマ ピゲとの歴史についてたくさん話をした。私にとって、最初に“ピン”と来たオーデマ ピゲ RO QPは、2016年頃に彼の手首に巻かれていたローズゴールド製のブルーダイヤル(Ref.26574OR)バージョンを見たときである。そしてそれは彼にとってもピンと来た瞬間だったようだ。彼の時計はナンバリングされていて、それは最初の100本のうちの1本だった。そしてほかの顧客と同じように、ニューヨークのブティックで自分で手に入れている。
彼の初オーデマ ピゲはこれではなかった。メイヤーは2014年に最も身につけた時計記事で、15202をつけていたことを思い出させてくれた。しかし、彼の情熱はどのようなものであれ、すぐに深みにはまる性質だ。2016年には、オーデマ ピゲ ロイヤル オーク コンセプト GMTトゥールビヨンを最も身につけた時計として発表している。デッド・アンド・カンパニーのステージでつけていたが、知らない人は高級時計だとは思わなかっただろう。完璧な選択である。
2017年、ジョンはオーデマ ピゲがブラックセラミック製のRO QPで業界をリセットし、ブランドが新しい黄金時代に入ったことに気づいたと語った。これはオーデマ ピゲがピークを迎え、彼らができるとは思ってもみなかったことをやってのけた瞬間だったが、もちろんこれまで何度もその瞬間を成し遂げている。人々はケースの形にこだわるが、中身を見ようとしていないのだ。その後、RD#1はロイヤル オークのスーパーソヌリ(メイヤーが身につけているのが目撃されている。ミュージシャンと鳴り物時計との親和性は高い)に発展し、そしてその先へと続いていった。
ときが経ち、彼の情熱が高まるにつれて、メイヤーはブランドの友人からアンバサダーとなり、そして新しく“クリエイティブコンジット”という正式な肩書きを持つようになった。彼はこの新しい役割を、コレクターとブランドの架け橋になることだと説明する。つまり、両方の世界に足を踏み入れ、顧客としての地位を維持しながら(実際に欲しい時計を購入する)、ブランド内で密接なつながりを持つという立ち位置だ。これにより、彼は自分が情熱を注いでいる(そして情報を得ている)時計のストーリーを、コレクターのコミュニティに共有し、彼らのフィードバックを自分自身が顧客としてブランドに返すことができるのだ。
その役割をとおして、最終的にメイヤーが究極のRO QPをデザインしても驚くに値しない。私たちはエド・シーラン(Ed Sheeran)のユニークなロイヤル オーク QPを見てきたし、トラヴィス・スコット(Travis Scott)は昨年の秋に魅力的かつクリエイティブな(そして賛否両論ある)RO QPをリリースしている。どちらも超クールな時計だが、こちらのほうがはるかに強烈だ。ジョン・ハートフォードの言葉を借りると、これは“心地よく”感じられる時計ではない。しかしこの時計は、大胆でも派手でもなく、ソフトなタッチでデザインされ、常にコレクションに加わる可能性を感じさせる。これは明白に“ジョン・メイヤーとのコラボモデル”だが、“カクタスジャック”モデルとは異なり、彼の名前はどこにも書かれていない。結局のところ、ジョンがブランドに対して抱いている(プロモーションといった)異なる種類の経験を物語っているのだ。
メイヤーが独自のデザイン案を当時のオーデマ ピゲのCEOフランソワ-アンリ・ベナミアス(François-Henry Bennahmias)に提出したあと、ベナミアスは別の案を出した。“その代わり、限定版を作ったらどうだろう?” それは多くの意味で完璧な選択肢であり、何かが世に出るという不安から、自分自身を疑問視するプレッシャーを感じることなく、アイデアが生まれたからである。それでも、元のアイデアは彼が最も欲しがった時計だった。文字盤が光と戯れるようなコズミックなファセットで、何時間でも楽しむことができるパーペチュアルカレンダーのロイヤル オークであり、彼が最も望んでいた時計であることに変わりはなかった。
基本的には近年のRO QPと同じスペックだ。18KWG製ケースは、41mm径×9.5mm厚という快適なサイズであり、シースルーバックと20mの防水性、またQPに必要な機能をすべて備えている(そして私が個人的に使わない機能として、週表示機能がある)。Cal.5134ムーブメントのパワーリザーブは約40時間しかないが、時刻調整したくないからワインダーに付けたいだろう。時計の裏にはシリアルナンバーがついている。しかし文字盤の創造性に比べると微々たるディテールだ。
新しい時計と、以前オーデマ ピゲにあったトスカーナ文字盤とのつながりに気付いた。音楽ファンが言いたいように、これらの時計はある種深みがある。珍しいロイヤル オーク(それとほかのいくつかの時計およびほぼすべてのQP)に見られる鎚目文字盤を指す“トスカーナ”という用語は、オーデマ ピゲの社内で公式に言及されたことはなかった。これはトスカーナの夜空に思いを馳せた、イタリア人コレクターがつけたニックネームだと噂されている(それ以外に誰かいるだろうか)。残念なことに、初期の鎚目仕上げは必ずしも最高の見栄えとは言えず、プラスチックのような見た目の質感になりがちだった。オーデマ ピゲが昨年この文字盤を復活させたとき、同社はまたしてもプレス資料に“トスカーナ”の名前を出さなかった(この事実について今週口にしたとき、ある幹部は苦笑いを浮かべていた)。それから製造技術の向上により、ほぼ完成したと思っていた。それは“知る人ぞ知る”リリースであり、ブランドの歴史を真に愛する人々へ敬意を表したものだった。
現行のRO QPリファレンスのなかで私が好きなディテールのひとつは、NASAの画像から作られた写実的な月を持つアベンチュリン製ムーンフェイズだ。もし私がその時計を所有していたら、顔に近づけてアベンチュリンの“星々”を何時間でも見つめていただろうと、数え切れないほど人に話してきた。アベンチュリンダイヤルのCODE 11.59 QPは、そのアイデアを採用、さらに最大限まで発展させた。
新しいクリスタルスカイ文字盤は、オーデマ ピゲがこれまでに行ってきたこと、そして今後行う可能性のあることすべてに時間をかけて検討し、その真ん中へ着地しようとデザインされた文字盤である。これはオーデマ ピゲの新しいモチーフだ。真鍮の文字盤板は電鋳金型によってプレスされ、意図したダイヤル設計の裏側を原子ごとに組み立てることで、高い精度と細部までのディテールを実現している。その後、文字盤は深いブルーPVDコーティングが施される。
特定の光の下では、オリジナルのトスカーナダイヤルQPに似た効果を発揮し、インダイヤルがより明るく、目を引き、ギヨシェ模様が際立ち、視認性を高める一方で、文字盤は光の斑点が舞うダークブルーにフェードアウトする。より直接的な光の下では、時計が動くたびに信じられないほどシフトし、何日眺めていても、そのたびに違った表情を見せてくれる。そして電鋳プレスによって、まるでアメジストのジオードの内部のような結晶構造を作り出している。ほかにもちょっとした工夫がされていて、例えば“31”の日付はほかのRO QPのように、赤く塗られているのではなく2段にオフセットされ、月初めの“1”と視覚的にわけられている。さらに週を示す針は水色で、必要なときにのみ目立つように設計され、ほとんどの場面では視界から消える。これらはすべてメイヤーの頭のなかにあるもので、時計を最もエレガントな形に絞り込もうとした結果である。
また、これはオーデマ ピゲの歴史のなかで最も重要なムーブメントのひとつである、Cal.2120/2800が搭載される最後のモデルである。具体的に言うと、これがCal.5134を見られる最後の機会なのだ。このムーブメントはオーデマ ピゲが1967年に初めて導入した伝説的な2120をベースに、2015年に導入した超薄型パーペチュアルカレンダームーブメントである。2120は、信頼性の高い超薄型ムーブメントを作るために、ジャガー・ルクルト、ヴァシュロン・コンスタンタン、パテック フィリップと共同で開発された。この時代はすべてのブランドが(またしばしば互いが顧客として)密に協力していた時代であり、2120はロイヤル オークに搭載されたあと、1976年にはノーチラスに、1977年にはヴァシュロンの222に搭載されることになる。
そのキャリバーの長い歴史は驚くべきものであり、おそらくそれ自体が独自の物語に値するが、その後の18年間で、オーデマ ピゲは同キャリバーを搭載した7000本の時計を製造することになる。1980年にはオーデマ ピゲのオープンワーク クロノグラフ、1986年には初の自動巻きトゥールビヨンウォッチ、1992年にはミニッツリピーター、1996年にはグランドコンプリケーションへの道を切り開いた。ただおそらく最も重要なのは、1984年に登場した最初のRO QP Ref.5554に2120/2800を搭載したことである。これはRD#2が発表されるまで、RO QPで最も薄いもので、わずか7.5mmしかない。57年以上にわたり、オーデマ ピゲはムーブメントを改良する方法を見つけてきたが、それを手放すときがきたのだ。歴史的なものに別れを告げることは、感情的であると同時に、メイヤーにとって名誉なことだと言えるだろう。私の立場から言えることは、それがふさわしい見送りだということだ。
長い旅路の末、メイヤーモデルは最後のRO QPであり、オーデマ ピゲの歴史に正式にその足跡を残した。まさに歴史への美しいオマージュである。それはオーデマ ピゲが自分たちの進化の次のステップを想像していたように、モダンで、人目を引くものでありながら、それでいて私の想像を超える思慮深いものだ。
メイヤーやアーティストなら誰もがよく知っている時計だが、彼にとっては非常に個人的な経験なのだろう。時計であろうと、絵であろうと、デザインであろうと、歌であろうと、計り知れない時間、何日も、あるいはこの場合は何年も、自分自身の表現について悩み、それが進化し、変化していくのを見守ったあと、最終的には決断しなければならない。かつてある教授が私に言ったように、自分の作品をベッドの下の靴箱に入れて、たまに自分で眺めるだけで満足することもできる。あるいは思い切って自分の作品を世に出して、それがもはや“自分のもの”ではなく、自分ではコントロールできないほかの何か、自分よりも長生きする“別のもの”になることもある。オーデマ ピゲとジョン・メイヤーが後者を選んでくれてよかったと思う。そして時間が経つにつれて、この時計はますます私の心に心地よくのしかかるだろう。
オーデマ ピゲ ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー “ジョン・メイヤー” 限定モデル。Ref.26574BC.OO.1220BC.02。18Kホワイトゴールドケース、直径41mm、厚さ9.5mm、20m防水。ブルークリスタルスカイ仕上げのダイヤル、夜光塗料を塗布したホワイトゴールド製アプライドインデックスとロイヤル オーク針。自動巻きCal.5134搭載、直径29mm、厚さ4.5mm。時・分、日付・曜日・月・うるう年表示、週表示つきパーペチュアルカレンダー、アストロノミカルムーン、パワーリザーブ40時間、38石、部品数374。18Kホワイトゴールドブレスレット、APフォールディングバックル。世界限定200本。18万700ドル(日本での価格は要問い合わせ)。2024年4月発売予定
ジョン・メイヤーとのコラボレーションによるオーデマ ピゲ ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダーの詳細については、オーデマ ピゲの公式ウェブサイトをご覧ください。
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