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WATCH OF THE WEEK オメガ 「1894」と偉大な時計づくりについて

過剰にもてはやされる時計と、それに乗る者を静かにたしなめる。

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HODINKEEのスタッフや友人に、なぜその時計が好きなのかを語ってもらう「Watch of the Week」。今週のコラムニストは、我らが編集長だ。ヘッドライン画像:オメガ「1894」限定モデル、1994年製、ニューオールドストックの30mmキャリバー、269を搭載。

もう何年も前、大学院に戻ることで経済的な将来を棒に振ることを決意した、はるか昔の1990年代後半のこと。私は毎週日曜日に、隠れた逸品を見つけようと26番街の蚤の市に通っていた。定期的に見つかってはいたが、たとえ隠れた名品であっても、手の届かない値段であることが多かった。そのなかでも、巨大で複雑なアガシの懐中時計は、ケースにフォートノックスの半分を埋め尽くすほどの金が使われていて、基本的に金の価値で値段が決まるのだが、驚くほど美しいムーブメントであったのを覚えている。また、レピーヌの薄型フルブリッジ・ムーブメントを搭載した時計もあったが、時計製造史におけるその重要性にもかかわらず、おそらく今日でも数十年前の当時と比べてさほど値段は上がっていないはずだ。

 しかしある日、理由は思い出せないが、いつもより少し現金を持っていた私はゴールドケースに入った小さな手巻きのオメガを見つけたのだ。今なら、ちょっときれい過ぎるダイヤルに不審を抱くところだが、ダイヤルの“Omega”のすぐ上に“chronomètre”の文字があった。1940年代に製造されたオメガのクロノメーター、Cal.30T2RGは、私が時計キャリアの初期に探し求めていた時計のひとつだった。

Omega 1884 Anniversary Limited Edition still life

 30mmキャリバーシリーズについて時計職人の意見を求めるなら、ロジャー・スミス(Roger Smith)氏は2004年の『インターナショナル・ウォッチ』のインタビューで次のように語っている。

 「現代から見ると、オメガの30mmキャリバーは、これまでに作られたムーブメントのなかで最も優れたデザインのもののひとつであり、長年にわたってさまざまな形やタイプで登場してきたと私は考えています。時計製造において、人は常に過去から最良のものを取り入れることで新しいアイデアを発想し、それを再発明するのです。このオメガのキャリバーは、私のシリーズ2ムーブメントのデザインアプローチに影響を与えるアイデアとインスピレーションの源となっています」

 また、時計職人のカーティス・トンプソン(Curtis Thompson)氏は別のインタビューでこう語っている。

 「私の考えでは、これらのムーブメントのなかで最も優れていたのはオメガの30mmでした。見事なプロポーションで、工業的に生産されたムーブメントでありながら、作りのクオリティに手抜きがない。そのため、部品の摩耗も少なく、分解や組み立てが簡単で、ムーブメントと一体化しているため、メンテナンスも容易でした」

Omega 1884 Anniversary Limited Edition, caliber 293

 私はその時計を500ドルで購入した(時計の専門家ではない売り手は、見積もり時に“本物の金でできていると思う”と弁護するように言った)。家に持ち帰り、掃除とオイル塗布をしたところ、1940年代の時計であるにもかかわらず、完璧に動いた。スミス氏の言うとおり、時計が自分自身で組み立てているようだった。Cal.30T2RGのクロノメーターバージョンには特別なファインレギュレーターが搭載されているが、私のものはそれ以前のキャリバーで、補正切りテンプと青焼きのヒゲゼンマイを備えていた。

Omega 1884 Anniversary Limited Edition, dial closeup

 私は本当に余裕がなく、購入してから約1年半後にその時計を売らなければならなかった。学生にとって500ドルは大金だ。特に小さくても育ち盛りで、年がら年中、食事や衣服を与えなければならない男の子がいる場合には、なおさらである。しかし、この時計は今日に至るまで、売ったことを後悔している唯一の時計である。特に今となっては状態の良いものを500シモレオン(昔の俗語で1ドルという意味だが、まあ、同じように古めかしい時計であることは確かだ)で見つけるなんて、とんでもないことだ。

 昨年、たまたまCrown & Caliberを覗いていたとき、ほとんど存在を忘れていた時計を発見した。その時計は基本的に現代のCal.30T2RG、もっと言えば同系列のムーブメントであるCal.269であった。私は息が止まりそうだった。この時計は40年代に作られたものではない。オメガが保管していた新品のオールドストックムーブメントを使い、1994年にオメガ創業100周年記念限定モデルとして作られたものだ。それはまさに数十年前の私がまさに欲しがっていた、現在の私にとっては聖杯のような時計だ。残念ながら、大学生になった子供たちを抱えている私にはとても買えないが、友人を多少なりともいじめて買わせた。

 これ以上、もう言うことはない。普段は好きな時計に対して投げかける言葉に困ることはないのだが、今回はこのような時計の自己充足を前にして、大げさな表現は不要であるばかりか、むしろ馬鹿げているような気がしてならない。この時計は、卓越性をシンプルに追求することによって芸術の域に達した、最も純粋な時計製造の表現のひとつなのだ。30mmのシリーズを商業的に生産する際に、オメガがこのような意図を持っていたかどうかは疑問であるが、私にはケースとダイヤルの純粋さとエレガンスが、ムーブメントの純粋さとエレガンスをシームレスに継承しているかのように感じられる。

Omega 1884 Anniversary Limited Edition on the wrist

 半世紀ぶりに作られたムーブメントだ。30mmのムーブメントファミリーはとっくに失われているが、高級時計の機構としてではなく、高精度で極めて堅牢、メンテナンスが容易な一生もののムーブメントとして意図的に作られた、精密でしっかりとした作りの手巻きムーブメントなのだ。

 かつて非常に偉大で恐れられていた演劇評論家の故ジョン・サイモン(John Simon)が、『シラノ・ド・ベルジュラック(Cyrano de Bergerac)』について、「偉大な戯曲ではなく、完璧な戯曲に過ぎない」と書いたことがある。冒頭このように述べたあとで、彼はシラノ・ド・ベルジュラックがなぜすばらしい演劇であるかを、このエッセイの残りの部分を費やして説明している(私はピーター・ディンクレイジ〈Peter Dinklage〉主演の最新の映画版を観ていないが、観たいとは思う。ただ、いくつかの時計と同様に私が最初に観たバージョンに恋をしていることが私を引き止めている)。誰もが異議を唱えることなく“すばらしい”と呼ぶことができる時計はたくさんあるが、「1894」とそのシリーズはそのような時計ではない。それが逆説的ではあるが、私にとっては史上最高の時計となっているのだ。

Photos, Tiffany Wade

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HODINKEEはオメガの正規販売店です。上の写真のコンステレーションは、オメガのほかの30mmムーブメントと同系列で、同じ品質で作られたクロノメーター級の自動巻き Cal.751を使用しており、これまで作られたなかで最も優れた量産ムーブメントのひとつと言われている。このキャリバーは1975年に生産を終了している。