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Interview 宇宙へ行った腕時計の名前をすべて言えますか?

その数、実に1899個。今回インタビューしたのは、そのすべての目録をひとつのデータベースに保存している人物だ。

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2022年1月19日午前6時、宇宙飛行士アントン・シュカプレロフ(Anton Shkaplerov)が国際宇宙ステーションから船外活動(EVA)を行った。そのとき彼が腕にはめていたのは、初めて宇宙に行ったパネライとなったラジオミール 45mm PAM00210だ。

 ロバート・ジャクソン(Robert Jackson)氏のWatches Used In Space Exploration(宇宙探査で使われた時計)のデータベースをいつも見ている人にとっては、この話も初耳ではないだろう。エントリーが1899件(現在も増加中)にも及ぶこのデータベースには、宇宙で使用された時計に関する完全なデータが保存されている。ジャクソン氏は、昼間は教育関係の仕事に携わっているが、夜になると、利用者がデータを分類しやすいようにデジタルデータベースにこつこつとデータを蓄積している。

 時計に対する情熱を表現する方法は人それぞれだ。時計のスプレーアートを描く人もいれば、時計のイラストを描く人もいる。デジタルで表現した時計をオンライン販売して利益を得ている人もいる。あるいは、時計をモチーフにしたクッキーを作っている人もいる。このデータベースは、趣味に取り組み、時計コレクションのコミュニティに価値を付加するジャクソン氏なりの方法だ。今回のインタビューでは、彼がどうやってデータベースを構築したのかについて話を聞いた。

watches

ジャクソン氏の個人コレクションからピックアップしたソビエト製の時計。

HODINKEE:そもそもプロジェクトはどのように始まったのですか? このようなデータベースを作るきっかけは何だったのでしょうか。

ロバート・ジャクソン:新型コロナウイルスによるロックダウンがきっかけでプロジェクトが生まれたことは間違いありません。あるとき、みんながソファに座って手持ち無沙汰にしているのを見て、何かをしなければと思い立ちました。

 最初にしたことは、プロジェクトの範囲を理解し、方法論を策定することでした。最初はばかげた思い付きのように感じましたが、私には、これが経験過程を経てはじめて答えがわかる問題であることがわかっていました。このプロジェクトには限界があるのです。

 次にしたことは、コミュニティの構築でした。私はFacebookのグループを立ち上げました。そこからプロジェクトが発展していきました。コレクターによって価値観はさまざまですが、すべての時計が平等に扱われるようにしたいと思いました。データベースに保存されるのは、すべて宇宙を旅した時計です。グループには、ラリー・マグリン(Larry McGlynn)氏MWUのフィリップ氏など、すばらしいメンバーが数人います。コレクターであり、学者でもあるクレイグ・コンリー(Craig Conrey)氏は調査を主導し、多大な貢献をしてくれました。彼の専門はスペースシャトル時代です。私の専門はNASAの初期時代であり、ソビエトに関連する知識も少しあります。もうひとりの人物の主な関心事はフランスの宇宙開発です。

 それから私は腰を落ち着けて、毎回の飛行ごとに使われていた時計を調べました。多分、毎晩30分から1時間ほど調査に費やしたと思います。その後、プロジェクトはかなりの速度で進行しはじめました。

Astronaut in space

2000年にSTS-99に搭乗したドイツのゲルハルト・ティーレ(Gerhard Thiele)氏はメリーランド州のタウソン・ウォッチ・カンパニー(Towson Watch Company)が製造したスペース・クロノ・ミッション(Space Chrono Mission)を着用している。

それは大変な作業ですね。つまり、人類初の宇宙飛行士である1961年のユーリイ・ガガーリン(Yuri Gagarin)に始まって、飛行ごとに時計を探すわけですね?

 その通りです。時計を探し始める前に、宇宙に行ったすべての宇宙飛行士の正確なリストが必要であることに気付きました。そして、そのようなリストが存在しないことがわかりました。この宇宙時計リストは、この世に存在する唯一の完全なリストだと思います。

Astronaut in space

STS-114に搭乗した野口聡一氏は“フロム・ザ・ムーン・トゥ・マーズ”のスピーディを着用している。

それはすごいですね。そのようなリストは時計コミュニティ以外の人にも役立ちますよ。つまり、あなたは宇宙に行ったすべての飛行士と、それぞれが参加したミッションが網羅されたリストをお持ちなのですね。使用された時計はどうやって推測するのですか?

 公式写真はかなり優れた情報源ですが、写真がフィルムからデジタルに変わると同時に、さらに情報のすばらしさが際立ってきます。現在データベースに存在する唯一の大きなギャップは、初期のソビエトに関する情報です。ソビエト時代の画像があったとしても、多くの場合、画質がよくありません。私が早い段階で設定した基準のひとつは、非常に高い水準の経験的証拠を維持する必要があることでした。私たちは学問的な観点からこのプロジェクトに取り組む必要があったのです。私はこのデータベースを調査済みで専門家の審査を受けたものにしたいと思いました。グループには「おいおい、ただの趣味なんだから、そこまで入れ込まなくても!」と思ったメンバーも数人いたと思います。

 しかし、私がエントリーを追加するとき、正しい判断ができたと確信しています。正しいかどうか確信が持てない場合は、エントリーにクエスチョンマークを付けます。推測はしません。単なるポートレート写真や訓練の写真ではなく、ミッションそのものに関連する証拠が必要なのです。ソビエトの資料のなかには、時計を着用している飛行士の訓練の様子を撮った写真がたくさんありますが、それは重要な情報ではありません。証拠価値のあるミッションの写真を探すのは本当に大変です。

Astronaut in space

STS-123に搭乗したこの写真のグレゴリー・H・ジョンソン(Gregory H. Johnson)氏は、コボルト(Kobold)のファントムを装着している。

それがデータベースの構築中に直面した課題のひとつだったわけですね。プロジェクトの進行が遅れた要因はほかにありますか?

 どの情報が重要かを決めるには、どこかで線引きをする必要があります。最近のブルーオリジンの宇宙飛行がいい例です。特別なブルーオリジンのロゴ入りストラップが付いたスピーディを着用している宇宙飛行士の宣伝写真は山ほどあります。写真に写っているすべての宇宙飛行士がこの時計を着用しています。でも、ご存じですか? 宇宙で実際にこの時計を着用している人のミッション写真は一枚もありません。だから、この時計は私のデータベースに登録していないんです。

 また、私は「Apple Watchは宇宙時計か」というような哲学的問題にも対処しています。Apple Watchは時計というよりは、たまたま時間もわかるコンピューターのようなものです。ですから、どこかで線引きをしなければならないし、その線は動くかもしれません。1918年にさかのぼって、「うわあ、すごい。飛行機ってかっこいいな。飛行機に乗ったすべての時計のデータベースを作ろう」と思ったところを想像してみてください。それは、答えのある本当の問いです。繰り返しになりますが、それは経験的な問いなのです。その時点では問いに答えられるかもしれませんが、1925年には答えられなくなります。

 同じことが宇宙時計にも言えます。

Astronaut in space

アイクポッドは“宇宙時計”と聞いて思い浮かびそうもない時計だが、2009年にSTS-129に搭乗したリーランド・D・メルビン(Leland D. Melvin)氏はアイクポッドを着用していた。“時代性”を強く反映している時計だ。

そして今、我々はその転換点を迎えようとしているのでしょうか?

 実在する問いは、「このデータベースにはまだ価値があるのか」です。その答えは確かにイエスだと思います。これは宇宙開発とのつながりを形成し、宇宙開発ミッションの遺産を保存するプロジェクトです。宇宙観光旅行は、それとまったく別の話です。宇宙観光旅行の分野については、私は少しやる気をそがれています。

データベースを構築していて気付いた傾向は何かありますか? スピードマスターは山ほど見たと思いますが。

 いちばん驚いたのは、シャトル時代(1981年~2011年)です。カシオやセイコーが宇宙船に持ち込まれました。シャトル時代は宇宙時計の歴史上」初めて“何でもあり”になった時代です。突然、手首につけるあらゆる時計が宇宙時計になりました。この時代になって初めて宇宙飛行士は、父親の時計や祖父の時計など、個人的な思い入れのある時計を宇宙に持っていくようになりました。ダイヤルにミッションパッチが刻印された時計を見るようになったのも、このころが初めてです。山ほどのアール・デコ調の時計も宇宙に行っています。それを発見できるのは、ちょっとすごいことです。

Astronaut in space

宇宙に行った6139はイエローダイヤルのセイコー 6139-6005だけではない。1985年にSTS-51-Iに搭乗したリチャード・O・コビー(Richard O. Covey)氏がこの写真で身につけているのも6139だ。

データベースは、コレクションの傾向を知るのに役立ちますか? 例えば、我々はモバードのデータクロン HS 360が宇宙時計であることを最近まで知りませんでした。そして当然ながら今では、コレクターもこの時計に興味を持っています。

 おもしろいのは、そのような情報がまさにデータベースのなかに存在することです。例えば、“ポーグ”について話すときに、私たちはイエローダイヤルのモデルのことを話しているのでしょうか? もっと具体的に言えば、イエローダイヤルが付いたアメリカ市場バージョンのことを話しているのでしょうか? なぜこの話をするかと言えば、ブルーダイヤルのモデルも宇宙に行っているのですが、そちらの方にはイエローダイヤルと同様のコレクション価値がないからです。しかし、その情報はすでにデータベースに存在しています。データベースは、コレクションのガイドというよりは、参照基準としての役割を果たすように作られています。このデータベースに商業的価値はまったくありません。これは単なる情熱に根差したプロジェクトなのです。

まさにその通りですね。この趣味には、この種の情報がもっと必要です。ロバートさん、ありがとうございました。

このデータベースの出力を見れば、いかに膨大な情報がデータベースに蓄積されているかがわかるだろう。

このインタビューは、わかりやすく簡潔に編集されています。画像の提供元は、ロバート・ジャクソン氏とWatches Used In Space Explorationデータベースおよびデータベースに表示される各宇宙機関です。