1973年のアカデミー賞で、ジャック・レモン(Jack Lemmon)は2部門のオスカーを受賞するためにステージに上がった。ひとつはアカデミー脚色賞、もうひとつはアカデミー脚本賞で、当時は別の名前で呼ばれていたが今はそんなことどうでもいい。重要なのは、誰がこのふたつの賞を取ったかだ。1本目はマリオ・プーゾ(Mario Puzo)とフランシス・フォード・コッポラ(Francis Ford Coppola)が『ゴッドファーザー(原題:Godfather)』という小さな映画で、もうひとつはジェレミー・ラーナー(Jeremy Larner)による『候補者ビル・マッケイ(原題:The Candidate)』で、ロバート・レッドフォード(Robert Redford)が出演している。興味深いことに受賞のために壇上に上がったとき、コッポラはアル・パチーノ(Al Pacino)とマーロン・ブランド(Marlon Brando)による有名な庭のワンシーンに貢献した、伝説の脚本家ロバート・タウン(Robert Towne)に感謝の意を表した。ラーナーはまた、『候補者ビル・マッケイ』への彼の貢献がなければ、脚本が完成することはなかっただろうと述べ、タウンの功績を公に認めた。
私がこのふたつの映画に言及する理由はただひとつ。間違いなく、『ゴッドファーザー』はメディア史における最も偉大な映画的偉業のひとつとして、その地位を確固たるものにした。一方で『候補者ビル・マッケイ』は、制作された時代の遺物として忘れ去られているが、そうであってはならないはずだ。レッドフォードが重要な上院議員候補者として主役を務める、この鋭い機知に富んだ政治風刺は、時代を超越した映画であるだけでなく、そのスターが同じく時代を超越したロレックスのダイバーズウォッチを身につけている。70年代の映画における象徴的な時計として確立したのだ。
注目する理由
HODINKEEでこのWatching Movies記事を書いてから、今週で3年を迎える。2023年はシリーズにとってそれほど多作な年ではなかったかもしれないが、記念日を祝う機会を逃すことはない。私をよく知っている人なら、レッドフォードが私の好きな俳優のひとりであること、『大統領の陰謀(原題:All The President's Men)』(1976年)が私の好きな映画であること、そしてこの日を飾るにふさわしい人物と作品がたったひとつしかないことを知っているだろう。そこで今日は、私が“レッドフォード・赤サブ三部作”と呼んでいる最初の映画『候補者ビル・マッケイ』(1972年)を取り上げることにした。2作目の映画は、前述した1976年のウォーターゲート事件の再話。3つ目は『出逢い(原題:The Electric Horseman)』(1979年)でこれはいずれ紹介しよう。
しかし、今日は風刺映画の礎であり、レッドフォードをハリウッドの実力者として、単なる俳優以上の存在として確固たる地位を築いた映画に焦点を当てる。この映画で彼は、自身が持つ影響力のようなものと、意味のある映画を制作するために適切なスタッフを集めるなど、正しい方法で映画を作る能力を示した。『候補者ビル・マッケイ』はアメリカの政治機構の裏を追跡し、候補者がいかにしてほぼ完全な作り話から生み出されるかを描いている。レッドフォード演じる公益弁護士ビル・マッケイ(カリフォルニア州知事ジョン・J・マッケイの息子)は、勝ち目のない上院議員選挙に出馬することになるが、そこがポイントだ。この痛快な映画は、スキャンダル、偽善、そして絶対的なプライバシーの喪失など、スポットライトを浴びる候補者になることがどのようなものかを描いている。ネタバレにならないように言っておくと、この映画は有名な、そしてそれにふさわしい“さて、これからどうする?”というセリフで幕を閉じる。
Watching Moviesセクションの1周年記念として、ロバート・レッドフォードと彼の赤サブが登場した『大統領の陰謀』にフォーカスを当てる。
そしてこの映画は、その鋭い脚本、ドキュメンタリー風の撮影、レッドフォードの控えめな演技の両方において、全員にこの映画を見ることを強くすすめたいが、私がこの映画に夢中になるのは、レッドフォードの手首につけられた時計のためでもある。ロレックス サブマリーナー Ref.1680(赤サブ)は、おそらく私が最も好きなヴィンテージウォッチであり、その理由の多くは、この映画と『大統領の陰謀』のレッドフォードとのつながりにある。これらの映画では、彼はただ時計をしているだけではない。まるで時計が画面のなかのひとつのキャラクターであるかのようだ。以前記事でも書いたように、これは彼自身が所有するサブマリーナーであり、複数の映画で銀幕のなかで手首につけたいと思ったということは、彼とサブマリーナーのつながりを物語っている。また、の2本の映画でプロデューサーを務めたことについても、彼が何かを語っている。というのもこの両作品には、彼が演じた役柄に自分自身の本当の姿を登場させたいと思うほど、彼にとって本当に意味のあるものだったからだ。
ロレックス サブマリーナー Ref.1680は、デイト表示を搭載した最初のサブマリーナーである。デビュー当初は、サブマリーナーの文字が赤で描かれ、デイトバージョンとノンデイトバージョンを区別していた。このRef.1680は1969年から1975年までと、比較的短い期間しか製造されず、その後サブマリーナーの文字は再び元のホワイトに戻された。レッドフォードのサブには、この時計に付属していたオリジナルクラスプがあり、シングルエンクロージャーのリベットブレスレットと思われるものが付いている。
インターネットを調査して、かなりの写真アーカイブを調べたが、私が知る限り、レッドフォードは『明日に向って撃て!(原題:Butch Cassidy & The Sundance Kid)』(1969年)の大ヒットを受けて、お祝いとして赤サブを買ったようだった。彼はポール・ニューマン(Paul Newman)にサンダンス・キッド役に抜擢され(妻のジョアン・ウッドワードの協力もあった)、それが彼のスターへの飛躍のきっかけとなったことは間違いない。ニューマンとロレックス デイトナの組み合わせは、スターと時計の組み合わせとしてよく知られている。しかしレッドフォードの出演作を見直し、1970年代から1980年代まで彼がサブマリーナーをつけているのを見れば見るほど、同じくらい注目に値すると思う。ふたりが生涯の友人であることもその理由のひとつだ。
いずれにせよ、『候補者ビル・マッケイ』は私の映画好き人生のなかでも感傷的な位置を占めており、赤サブは単なる小道具であることを超越し、スタッフが選んだ小道具時計では伝えられない真正性の層を加えていると思うのだ。そして『大統領の陰謀』と同じように、この映画はスクリーンに映し出される赤サブをゆっくりとみる時間を与えてくれる。
見るべきシーン
映画の中盤あたりで、マッケイはわざと、不運な上院議員への立候補に深く関与する。彼をより親しみやすくし、そして現職のクロッカー・ジャーモン(Crocker Jarmon)に勝利するためにテレビスポットを制作するために、メディアの専門家チームが彼を担当してテレビCMを制作する。マッケイは事態の進展についてあまりいい気分ではなく、(ピーター・ボイル演じる)キャンペーンの責任者がやって来たとき、このプロセス全体に疲れ果てている自分に気づく。マッケイはソファに横たわっていた体を起こすと(00:42:44)、両手を顔に当て、手首の赤サブに目をやる。
映画の最後のほうでは、レッドフォード演じるマッケイがテレビのニュース番組の撮影にやって来る。このシーンで特におもしろいのは、ロレックスがプロダクトプレースメント(広告手法のひとつ。実在する企業名や商品名を、小道具や背景として登場させる)をしていないという事実と、この映画がドキュメンタリー風に撮影されたという事実を考えると、まったくの偶然だと思うがロレックスの文字が書かれた机の前に座っていることだ。このシーンでは、マッケイは笑いをこらえきれずに爆笑し、抑えきれずにコーナーを終えるのだが、その間、机に置かれた彼の手首の赤サブ(01:33:43)が見える。
『候補者ビル・マッケイ』(ロバート・レッドフォード主演)はマイケル・リッチー(Michael Ritchie)監督、小道具はダグ・フォン・コス(Doug von Koss)担当。AppleやAmazonでレンタルすることができます。
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