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In-Depth ロレックス エクスプローラー Ref.14270について知っておくべき全てのこと

知るべきでないことも教えよう。

ロレックス エクスプローラー Ref.14270は時計史の中でも特異な立ち位置にある。ヴィンテージと呼ぶほど古くもなく、クールと呼ぶほど新しくもない―腕時計界の鵺(ヌエ)のような存在である―収集家のコミュニティでは、稀少性が尊ばれる存在ではないが、熱心な固定ファンのついたモデルである。時計製造技術とデザインの新機軸到来を誘った最初のスポーツロレックスの称号に相応しい存在なのだ。
 シンプルでありながら、ロレックス エクスプローラー Ref.14270は、あまり話題とならない腕時計でもある。発売から30周年を迎えた今こそ、この眠れる巨人にスポットライトを当てたい。

 ロレックス エクスプローラーはその系譜を今さら紹介するまでもないかもしれないが、まずはまとめてみよう。歴史的に、このモデルは神話づくりとマーケティングにおけるロレックスの才能を体現している。モデルの着想となったのは、1953年のエベレスト遠征であった。エドモンド・ヒラリー卿とテンジン・ノルゲイは、エベレスト登頂の際に白いロレックス オイスターパーペチュアルを着用した。もちろん、この冒険にロレックスが参加したのは偶然ではなく、オイスターケースの性能を示すために同社が意図的にブランディングしたものである。白いロレックス オイスターパーペチュアルの高精度なクロノメーターは、この冒険に参加しただけでなく、帰国してから70年近くもの間、その物語を語り継いできた。ロレックスのブランド構築におけるマスタークラスともいえるこのモデルは、本質的にはエベレスト登頂を果たした時計に似ているが、今ではその名も "エクスプローラー"にすり替えられている。

有名な1953年のエベレスト遠征でのエドモンド・ヒラリー卿とテンジング・ノルゲイ。よく見ると、非常に有名な時計を見つけられるかもしれない。

画像出典:Getty

 エクスプローラーのRef.6350が発表されたのも1953年のことだった。厳密には最初のエクスプローラーではないが、文字盤にエクスプローラーの名前が表示された最初のモデルだ。3・6・9時位置にアラビア数字、36mmケースサイズ、ブラックダイヤルを備えたこの時計は、エクスプローラーのデザイン文法の基礎となった。Ref.6350は、ダイヤルの模様がハチの巣のように見えることから「ハニカム」と呼ばれるようになった。1954年にRef.6610へ代を譲る前、わずか約1年間しか生産されなかったので、非常に珍しい時計とみなされている。この時計は、マットブラックのダイヤル、金色のアラビア数字、そしてお馴染みのダイヤルレイアウトを備えていた。Ref.6610は、その後1963年にリリースされた長寿モデルのRef.1016の前駆体であった。Ref.1016は、デザインバリエーションの主役を務めるのに十分長い期間(正確には27年)生産された。アルビノダイヤルからスペースドゥエラー、エクステンションブレスレット、金のアンダーライン、ソリッドリンクブレスレットに至るまで、これらのバリエーションの各要素が、収集の魅力を高めているのだ。

エベレスト登頂を果たしたホワイトダイヤルのロレックス オイスターパーペチュアル。この時計は現在、スイス・チューリッヒにあるベイヤー美術館に収蔵されている。

ロレックス エクスプローラー Ref.6610

 Ref.1016は、エクスプローラー伝説の中で重要な役割を果たした。イアン・フレミング、ウィリアム・ギブスン、HODINKEEのファンであるゲイリー・シュタインガートなどの著名人が選んだ時計として、文壇ではかなりの名声を得た。Ref.1016はその神話を増幅し、エクスプローラーの将来への基礎を築いた。3・6・9のダイヤル構成、12時位置の三角形のマーカー、1時間おきに配置された長方形のマーカー、メルセデス針セット、そして "EXPLORER "のマークは、この小さな時計が時計界の巨人へと成り上がるのに貢献したRef.1016の常套句であった。しかしながら、終焉はやがて訪れ、1989年(正確な日付は少し曖昧だが)、Ref.1016は次の世代へと道を譲った。

ロレックス エクスプローラーRef.1016


新生エクスプローラー

 ロレックス エクスプローラーRef.14270は、時計ライターであるウォルト・オデッツをして「時計学的には全く価値がない」と評される一方、ベン・クライマーが購入した最初のロレックスである。Ref.14270は1989年のバーゼルフェアで発表され、ロレックスをスポーツとラグジュアリーの岐路に立たせた。同社が高級時計の製造技術を少しずつ取り入れていく中で、ツールウォッチとしての古典的な特徴は徐々に淘汰されていった。それは、他の象徴的ロレックス・ツールウォッチがデザインコードの変更を実施していたのと軌を一にする。ツールウォッチの王として長く君臨してきたロレックス サブマリーナーは、マットダイヤルを光沢のあるものに変更し、塗装されたマーカーをホワイトゴールドで囲んだアプライドマーカーに変更した。
 1980年代は、クオーツ危機後の世界における変化の時代であり、再発明と先進性の時代でもあった。ヴィンテージデザインのトレンドは遠のいていたが、いずれにしても、ロレックスは常に進取(注:自ら進んで物事をすること)の精神をモットーとしていたのだ。

エクスプローラーRef.14270が発売された1989年のフェアに酷似しているであろう、1986年頃のバーゼルフェアの写真。 画像出典:Basel World

 では、最もストイックなダイバーズではないスポーツウォッチに対して、比較的多くの細かな、しかし抜本的なデザイン変更を行ったことに対する市場の反応はどうだったのだろうか? ロレックスがRef.14270を発表したとき、顧客からある種の驚きをもって受け取られた。機能的には先代機と同じだったが、文字盤にはかなりドラスティックなアップデートが施されており、もちろんムーブメントも刷新されたからだ。続く11年間、ロレックスはデザインの様々な側面を実験し、洗練されたものにし続けた(それは今日でも同じことが言える)。

 しかし、時間は全ての傷を癒し、目新しさは陳腐化してしまった。そのため、ロレックス エクスプローラーRef.14270は、一般的に退屈な時計であると考えられており、収集の世界では埋没した存在だ。あなたは1つどころか、このモデルの全てを見てきたって? それはきっと違う。このタヌキのような時計は、ひとつのリファレンスの中に幾多のバリエーションが存在し、奥が深いだけでなく、潜在的には非常に収集性の高い時計なのだ。時計の世界には、常に別の扉が開いている。ロレックス初のモダンモデルであるRef.14270は、アイコニックピースとしての地位を確立しつつあるのかもしれない。

 それでは、この時計の隅々にまで目を通し、隠されたディテールを探ってみるとしよう。


名前の背景

 あるモデルのミクロなディテールを研究することは、少し混乱が生じ得る。このような混乱に対処する方法の一つとして、複雑さを単純化するための命名規則を作成することがある。エクスプローラーRef.14270の場合、1989年から2001年までの間に存在した4つの主要なバリエーションのそれぞれを表す名前を考えると理解が容易だ。実際、最初の名前は既に触れたとおりだ。

 それは、"ブラックアウト"、"T-Swiss"、"Swiss Only"、"Swiss Made "。これらのバリエーションは、それぞれのダイヤルの派生形に合わせて名付けられている。Ref.14270に伝わるところ、ダイヤルは時間の経過と共に最も明白な変化が見られる場所であり、このような区別することは理に適っているのだ。


シリアル番号の範囲と生産期間を理解する
品番と生産年の対応表

E品番:1990年

X品番:1991年

N品番:1991年

C品番:1992年  

S品番:1993年

W品番:1994年

T品番:1996年

U品番:1997年

A品番:1998年

P品番:2000年

 便宜的にまずこの時計を4つの主要なカテゴリに分類し、生産の時系列を説明しよう。Ref.14270の製造期間中は主に4つのバリエーションが存在し、上述したようにそれぞれのモデルを識別するために略記名が付けられている。

 1989年から1991年までは "ブラックアウト" 、1991年から1998年までは "T-Swiss "、1998年から99年までの過渡期にあたる " Swiss Only " 、そして1999年から2001年の生産終了までは " Swiss Made"という文字盤のバリエーションが存在した。怪しい部分や重複する部分があるものの、これらはRef.14270における共通項を表している。ここでは、ダイヤル、ケース、ブレスレット、クラスプ、そしてムーブメントの仕様を見ながら、その審美面に基づいてこの時計を検証しようと思う。

 先述したように、同一のリファレンスに属する時計を判別する方法を見つけるのは難しい。単に時計に名前をつけるだけで網羅できるわけでもない。簡単な解決策としては、時計のケースに刻まれたシリアル番号を参照することだ。各シリアルは特定の識別文字で始まり、その文字は、その時計が製造された年を教えてくれるだろう。対応する年号とシリアル番号は正確で、信憑性は高いものの、これはロレックスが公表している情報ではない。むしろ、シリアル番号の範囲と年号の情報は、コレクターが何年にもわたって収集した経験値から得られたものなのだ。エクスプローラーRef.14270では、上記のように10のシリアル番号範囲がある。E品番とX品番は、エクスプローラーRef.14270のラインの中で最も古くから知られているリファレンスだ。希少な "ブラックアウト "エクスプローラーはE品番後期とX品番初期に該当する。

 N〜S品番にかけては"フローズン "ダイヤル(ブラックラッカーダイヤルがエイジングした一種)の個体を発見することができるが、詳細は後述しよう。1994~1996年にかけて生産されたW品番は、ケースのラグホール有りからラグホール無しへの移行をもたらした(1994年頃)。1996~1998年にかけて製作されたT~U品番は、トリチウムダイヤルのエクスプローラーの最後期を代表するモデルで、フリップロック式クラスプを採用した―クラスプについては後ほど詳細を説明する。

 1998〜99年頃には、U品番とA品番に"Swiss Only "のダイヤルが登場した。"Swiss Only "は、ダイヤルの蓄光料にルミノバを使用しており、トリチウムからの移行を表す。1998年頃からルミノバ登場のためトリチウムダイヤルは段階的に廃止され、ロレックスはダイヤル底面のプリントを従来の "Swiss T>25 "から "Swiss "のみへと変更した。

 これらの"Swiss Only "のダイヤルは、ロレックスがスーパールミノバを採用してダイヤルの表記を "Swiss Made "に変更するまで、U品番後期とA品番に短期間しか使用されなかった。"A "品番モデルでも、ダイヤル下部に "Swiss Made "の表記があり、ルミノバからスーパールミノバへの変更を意味する。P品番は最終リファレンスのRef.14270で、こちらもダイヤルに "Swiss Made "の表記とスーパールミノバが施された。


技術仕様について

 Ref. 14270の各モデルは、クラシックな直径36mmのサイズを貫徹した。このモデルの全バージョンは、光沢のあるブラックラッカーダイヤルに、ホワイトゴールド製アプライドマーカーとアラビア数字を配したモダンなデザインを採用。ダイヤルにはRolex Oyster Perpetualロゴの下にExplorer のマークが、ダイヤル下部には "Superlative Chronometer" と表記される。全てのモデルで折り畳み式、または中空構造のエンドリンクブレスレット、サファイアクリスタル風防を備えており、往年の傑作機ムーブメント、Cal.3000―先代Ref.1016に搭載されたCal.1570のアップグレード版―を搭載する。

ロレックス Cal.3000

 Cal.3000ムーブメントは、パワーリザーブ48時間、27石、4Hzの振動数を特徴とする。これはセンターローターと秒針停止機能(ハック機能)を備えた両方向自動巻きムーブメントだ。ムーブメントの直径は28.5mm。ブレゲ巻き上げヒゲゼンマイを備えない最後のロレックス社製ムーブメントだった。平ヒゲゼンマイの採用にも関わらず、Cal.3000は日差+4/6秒の精度で、クロノメーター公式認定取得を達成した。ヒゲゼンマイは緩急針による介入がない代わりに、テンワに偏心錘( マイクロステラナット)を備えている。

裏蓋を開けたRef.14270から覗くロレックス Cal.3000。

 ロレックスは完全自社製(買収によって実現したわけだが)を謳う前であったため、耐震装置にキフ社製を採用していた。キフ耐震装置は、人気の高いインカブロック耐震装置に置き代わるものであった。ムーブメントを見てみると、キフ耐震装置は、テンプ上部のルビーの周りに金色の、三つ葉または四つ葉のクローバー型のスプリングクリップが付いていることで分かる。

 ロレックスは革新的な企業である。11年の生産期間中、Ref.14270は多くの変更、改良、大なり小なりの調整が行われた。これらの多くは素人目には全く気づかないものであるが、注意深く見ると、これまた驚きの連続なのである。


ブラックアウト:1989~1991年

 エクスプローラーRef.14270 "ブラックアウト "は、非常に明白で適切な理由から付けられたニックネームだ。ダイヤル上の数字はブラックアウトされており、後のモデルでは白で塗りつぶされていたのに対し、このリファレンスではダイヤル上のアラビア数字はブラックアウトされている。生産された全てのRef.14270本のバリエーションの中で、このモデルは最も切望されており、収集性も高いとされる。この時計自体の生産数は非常に少なく、E品番後期とX品番前期のシリアルナンバーでしか見られなかった。"ブラックアウト "エクスプローラーは、過去30年のロレックスの中でも最も希少なモデルとされており(特にE品番台)、発売時の評価が低かったと言われている。下写真をご覧いただきたい。

 エクスプローラーRef.14270の初期ロットは、3・6・9のアラビア数字がブラックエナメルで埋め尽くされたグロスダイヤルであった。これが新型エクスプローラーのオリジナルデザインであった可能性が高いが、ロレックスがアラビア数字をブラックアウトしたダイヤルでは視認性が不十分であると判断する前のものであった。 Ref. 14270の3・6・9アワーマーカーがブラックエナメルで埋め尽くされているモデルは、全て1990年と1991年の製造年に対応するシリアルナンバーだとされている。初期のダイヤルには銀色の刻印があるとされる。
 しかし、ことはそんなに単純ではなく、"ブラックアウト "の製造期間中、2種類の異なるシルバープリント表記が使用された。"フラット "と "メタリック "だ。前者はより落ち着いたトーンで、後者はキラキラとした輝きを放つ。生産が軌道に乗り、ロレックスがX品番台に移行するにつれ、シルバープリントのダイヤルが不足し始めたため、通常のRef.14270モデルからホワイトプリントダイヤルに変更されたが、3・6・9インデックスはブラックアウトされたままであった。

 初期のE品番台のシルバープリントRef.14270"ブラックアウト"の中には、通常モデルに比べて、夜光付きドットの位置が外側に離れた特別な秒針を備えている個体がある。このX品番台への過渡期に、ロレックスは特別な秒針の生産を中止し、通常のRef.14270秒針に変更された。X品番台の最終モデルである"ブラックアウト "には、ブラックの3・6・9数字のみが採用され、初期の"ブラックアウト "にあった特別なパーツ群(シルバープリントダイヤル、特別な秒針など)は採用されなかった。

 "ブラックアウト " エクスプローラーの内、長年にわたってメンテナンスサービスや再仕上のためにロレックスに送られた個体は、おそらく標準的なRef.14270の秒針とシルバープリントやメタリックプリントのダイヤルに交換されたと思われる。また、ダイヤル上にティファニーのWネームが刻印された個体が希少とされる。これらの "ブラックアウト "ティファニーの個体は、今日の市場で最も入手困難である。


T-Swiss:1991~1998年

 "T-Swiss "エクスプローラーRef.14270は、リファレンスの中で最長寿命モデルだ。トリチウム夜光、ホワイトペイントを施したアラビア数字、グロスブラックダイヤルが特徴的で、Ref.14270の真髄を非常によく体現している。また、このカテゴリの中で最もバラエティに富んだ時計でもある。1991年頃に登場した"ブラックアウト "に続く"T-Swiss "はE品番台からU品番台まで幅広く存在する。

 "ブラックアウト "と同様、1994年頃まではラグホールに貫通した穴があったが、1994年頃にはラグホールのないプレーンラグに変更された。全てのダイヤルバリエーションにトリチウム夜光が塗布されている。トリチウム夜光塗料を採用した"T-Swiss "Ref.14270 エクスプローラーは、モデル中最多の変更が加えられた。これらの変更は、クラスプ、ダイヤル、ラグだ。それでは正確な違いを見ていこう。

 まず、ダイヤルだ。明確な生産年表はなく、それは "ブラックアウト "モデルと並行して生産された可能性が高いからだ。この時計のためのホールマークは、典型的なロレックスの前口上表記で、白いテキスト、白のペイントで埋められた数字、および6時位置の下に "T < 25 "テキストを配している。"ブラックアウト "と同様、いくつかのティファニーの刻印があるバリエーションが存在する。

 次にケースだが、最初の4~5年間はラグホールが存在しており、これはストラップの交換をはるかに簡単にしてくれた。さらに、"T-Swiss "の名を冠しながらも、ルミノバで埋め尽くされたアラビア数字をもつ、U品番台後期の珍しいモデルがある。これらは一部の業界では"トリチノバ"と呼ばれている。噂によると、トリチウムの使用を中止したにも関わらず、ロレックスは"T < 25"と書かれたにダイヤルに夜光入りのアラビア数字を使用していたとされるが、これば在庫が余っていたためだそうだ。これは100%本当かどうか誰かが知っているが、我々はそのような亜種が、実際に存在していることを知っている。昔の西部劇でよく言われたように、伝説が事実になると、それは出版されるものだ。ロレックスによる製造欠陥が、この希少でユニークなダイヤルの出現を引き起こしたというのが実情だろう。

 E~T品番台はオイスタークラスプを採用していたが、1996年頃にフリップロッククラスプに変更された。ダイバイーズ向けではないロレックスの時計のフリップロッククラスプは、ダイビング用のエクステンションがないためにコンパクトになったという点で異なっていたが、それでも安全マージンを確保していた。

 また、1992年頃にはC品番台の "T-Swiss "ダイヤルのバリエーションが生産されていたことにも注目して欲しい。このバリエーションの製造記録はあるものの、Ref.14270全体の中では最も入手困難な品番の範囲であることから、これは特に興味深い点だ。もしC品番台のエクスプローラーを発見したならば、非常にラッキーだと思って良い。


Swiss Only: 1998〜99

 Swiss Onlyは、Ref.14270の歴史の中で、過渡期のモデルとして知られるようになったモデルである。ロレックスの世界では、"Swiss"のみダイヤルは一般的に交換サービス用のダイヤルであると認識している人が多い。この場合、"Swiss"のみのダイヤルは、トリチウムからルミノバへの移行を表している。
 このモデルと前述の「トリチノバ」モデルとの間には、多少の重複があるかもしれないが、ロレックスの神話にはそういった事例が日常茶飯事である。"Swiss"モデルは、Ref.14270の中で最も短い期間に生産されたモデルで、U品番とA品番のモデルに見られる。これは正式にトリチウムダイヤルのエクスプローラーの終わりと、非放射性物質であるルミノバへの移行を示したのだった。

 このモデルは、トリチウムモデルと重複し、" Swiss Made "スーパールミノバモデルの前身となるため、過渡期のモデルと考えられている。このモデルにはフリップロック式クラスプの78790が採用されているが、クラスプのバリエーションは短い期間の間、不変であった。これまでのダイヤルバリエーションとは異なり、"Swiss Only"エクスプローラーでは、ラグホールのないプレーンなラグを採用した―つまり、ストラップ交換は容易ではなくなったのだ。

 概して"Swiss Only"は、"ブラックアウト"と同様に、他のモデルに比べて非常に少ない生産本数であることが分かる。しかし、"Swiss Only"ダイヤルは、"ブラックアウト"エクスプローラーのような希少性はなく、現在の価格にも織り込まれていない。しかし、短期間に生産されたという事実は、いつでもその状況が変わる可能性があることを意味しているのだ。


Swiss Made:1999~2001年

 エクスプローラー Ref.14270という進化し続ける列車の終着点は、" Swiss Made "ダイヤルだ。全ての道はここに通じており、デザインの進化、外観や手触りの微調整を重ねるごとに、この形に辿り着いたわけだ。未来のエクスプローラーは全て、この唯一無二のデザインを現代のロレックスの完成形として振り返り、そしてもちろん、将来のエクスプローラーもこれを踏襲するだろう。" Swiss Made "エクスプローラー Ref.14270はA品番台から最終形のP品番台まで存在する。

 " Swiss Made "エクスプローラーは、他でもないスーパールミノバを夜光塗料として採用しているが、さまざまな意味で現代のスポーツロレックスの縮図である。厳重なクラスプシステム、経年変化しない夜光塗料の表面処理は、50年後でも出荷時と変わらぬ姿を維持するだろう。

 最終ロットのエクスプローラー Ref.14270は、およそ3年間生産された。このロットのダイヤルは、後継モデルのRef.114270と実質的に同じだ(両モデルの唯一の違いは、ムーブメントとRef.114270ではステンレス無垢のエンドリンクを使用していることだ)。このモデルには、フリップロッククラスプ78790が採用されている。全ての" Swiss Made "エクスプローラーには、プレーンラグが採用された。
 また、エクスプローラーの多くのモデルには" Swiss Made "表示があるが、旧式のオイスタークラスプを採用している点に留意が必要だ。これらに騙されないように:これはロレックスがRef.14270に使用した(交換用)サービスダイヤルに "Swiss Made "のマークが付いているためだ。


フォントと書体のデザイン

 私は、書体デザインの妄信者であることを認めよう。私にとって時計の魅力の一部は、ダイヤル上のフォントスタイルだ。ロレックスの場合、彼らが提供した2000年以前のモデルは期待を裏切らない。エクスプローラーRef.14270に関し、私のようなフォント愛好家の興味をそそるようなバリエーションが存在する。いくつかの違いを紹介しよう。

ダイヤルの上半分

 こちらはシルバー印刷の"ブラックアウト "エクスプローラーだ。ダイヤルの特徴は、書体が細くなっていることと、ロレックスのコロネ(王冠)の個々のポイントに細長いラインが入っていて、トップの丸みがはっきりとしていること。希少なティファニーWネーム "ブラックアウト "エクスプローラーの場合、"Tiffany "の白文字とそれ以外のシルバー印刷との違いとコントラストを実感することができる。

 続いて、ホワイトペイントで埋め尽くされた数字が特徴的な"T-Swiss "の文字盤を見てみよう。ここでは、王冠の外観に若干の変化が見られる。丸みを帯びたトップが少なく、ラインが短く、王冠自体の底が太くなっている。また、ブランドロゴのフォントスタイルにも変化が見られる。このダイヤルは、「R」と「P」が触れるように太く、大胆な文字を特徴とする。いくつかの初期の"T-Swiss "モデルは、"斜めのS "と呼ばれる"OYSTER"の「S」の文字にわずかなバリエーションが存在する。"ROLEX"のロゴ自体、このモデルではより太くなっている。

 "Swiss Only "ダイヤルを採用したこのモデルは、いくつかの変更点があり、過渡期のモデルとして際立っている。文字が細くなったことから、"スキニーダイヤル "エクスプローラーと呼ばれるようになった。王冠は「くち」が小さくなり、指が長くなり、先端がはっきりとした円形に戻った。フォントは太いままだが、 "ROLEX" の「R」のように全体的にコンパクトになっている。スイス限定モデルの主な特徴は、"EXPLORER "の細い 「O 」と"PERPETUAL "の細い 「A 」だ。このモデルでは「S」が通常表記に戻った。

 "Swiss Made "は、細長い線と顕著な円形のトップをもつ、より細い書体と王冠に戻っている。細い 「O 」と細い 「A 」はなくなり、親しみやすい書体となった。エクスプローラーのロゴについては、ブランドロゴが少し目立たなくなり(「E」と「R」を参照)、Ref.114270やRef.214270のエクスプローラーのような、より現代的な書体デザインになった。

 他にも、"Superlative Chronometer Officially Certified"表記のように、Ref.14270のどの個体にも浮かぶ活字設定のバリエーションが存在する。"ブラックアウト "は、この種のモデルの中で最も文字サイズが小さく、(高さの点で)短い字体だ。他のモデルも同様で、"Swiss Made "は全バリエーションの中で最も太いフォントをもつ。 

3・6・9 派生ダイヤル

 ダイヤルのフォントと書体に違いがあったように、Ref.14270の4つの派生ダイヤルでアラビア数字の外観にも違いが存在する。これらの変更がどのようなものであったか、もう少し深く掘り下げてみよう。

 ご存知のように、"ブラックアウト "の数字は黒いエナメルで塗り潰された。これは、白い塗料がないため、数字が太った外観をもつことに起因する。6と9の隙間は長方形で、数字のセリフや端の部分は、いずれも鋭角的なデザインとなっている。

 "T-Swiss "のダイヤルには、白でペイントされた数字が採用された。この塗装によって、数字がより鮮明になり、少し細くなった。6と9の開口部は大きくなり、より丸みを帯びていることに注目されたい。

 その過渡期的位置づけにふさわしく、―"スキニー"ダイヤルの―"Swiss Only "ダイヤルも、白塗りのインデックスの中でも最も細い数字が特徴的だ。さらに、各数字の端は先の"T-Swiss "に比べて短く、より大胆な角度になっている。6と9の開口部は、より長方形寄りに回帰した。

 "Swiss Made "の派生形は、数字の先端がより短く角張っているのが特徴だ。最も特徴的なのはホワイトペイントだ。これは、どのモデルよりも厚塗りされた数字で、数字自体の外観に関しては"ブラックアウト "に酷似している。この派生形では、6と9に長方形の穴がある。

パティーナ(経年変色)

 もちろん、全ての派生形が計画通りというわけにはいかない。中には自然に発生するものもあるが、経年変化によって時計が完全に変化することもある。40年前には、このような変化を「ダメージ」と呼んでいたかもしれないが、現在では「誠実さ」と呼ばれる。エクスプローラーRef.14270では、数字ではなくマーカーにのみトリチウムが塗布されていたが、これらのダイヤルに発生したパティネーション(経年劣化)によって、数字は真っ白でありながら、マーカーは淡いクリーム色に褪色するという興味深いコントラストが生まれた。ほとんどのエクスプローラーRef.14270のトリチウムモデルは、サブマリーナーやGMTマスターのように劇的に経年劣化することはない。その理由は、1990年代までにロレックスはホワイトゴールドのアワーマーカーの中にトリチウムの夜光塗料をより安定的に塗布する方法を開発した結果、はるかに優雅なエイジングプロセスを実現したからである。

"フローズン"ダイヤル

 時と共に変化するのはマーカーだけではなく、ダイヤルも同様だ。ラッカーダイヤルのグロスブラックは、"フローズン"ダイヤルとして知られるようになった個体もある。

 初期の"T-Swiss "モデルでは、ブラックの光沢ラッカーダイヤルは、凍ったような、あるいはひび割れたような経年変化を露呈する。これはスパイダーダイヤルとは異なり、グロスダイヤルの表面の光沢と経年変化が組み合わさって、氷のような質感を与えるのだ。


ブレスレットとクラスプ

 クラスプの違いに注目すると、この時計の奥深さに気づくだろう。普段はあまり興味のある分野ではないかもしれないが、この時計がどのようにして短いスパンで進化してきたのか、超ミクロの意味で興味をそそられる分野だ。クラスプは、特定のモデルの年代や独自性を示す最良の指標の一つとして機能するため、とりわけ興味深いものだ(オイスターブレスレットの進化についての詳細は、2017年のHistorical Perspectiveの記事をご一読されたい)。

ロレックスのブレスレットとクラスプデザインを、シングルオイスタークラスプからモダンなフリップロッククラスプまで一堂に会した。

シングルオイスタークラスプ:1989~1996年まで採用された78350/60ブレスレットクラスプ

 シングルオイスタークラスプは、ロレックスの長年の伝統を象徴している。1960年代にまで遡ると、このクラスプはエクスプローラーの定番となっていた。Ref.14270の生産開始時には、78350/60のブレスレットクラスプが搭載されていた。このブレスレットの特徴は、オイスタースタイルのリンクとシングル刻印のオイスタークラスプだ。クラスプの形状は長方形で、中央部にはエンボス加工が施されている。このクラスプは、1989~1996年までの生産期間の大半に採用された。

"ヘビーデューティ"ダイバーズクラスプ:E品番初期(1991年頃)の希少なエクステンション機構付クラスプ93150

 ここに私たちはエクスプローラーRef.14270の感覚的、技術的な基準とはかけ離れた、最初のユニークで興味深いクラスプの個体を紹介しよう。エクスプローラーの中には、93150のダイバーズスタイルのクラスプで出荷された個体があることが知られている。これらのブレスレットの主な特徴は長くて太いクラスプで、その上にオイスターブレスレットのリンク模様が刻印されており、フォールディングダブルクラスプとダイバーズエクステンション機構が内蔵される。この個体の正当性については議論の的となっており、誰かがブレスレットを間違って取付け、再販しただけではないかと主張する声もあるが、1995~1996年製のT品番台の一定数のエクスプローラーにこのクラスプをもつ個体が存在することを裏付ける証拠もある。

 これこそが、ロレックスの世界では何でも可能であることを示す好例である。エクスプローラーのダイバーズスタイルのクラスプを所望した、スペシャルオーダーの結果であると考える人もいるが、裏を明かせば現実的な問題ゆえだ。
 1996年に、エクスプローラー(エクスプローラーII、GMTマスターIIと共に)はフリップロック式クラスプに初めて移行した。1995年頃―そして1991年には、いくつかの個体では早くも―ロレックスは真の基準のもとでオイスタークラスプを改善するというアイデアをテストしていた。このテストの一環が、93150スタイルのクラスプが取り付けられたエクスプローラーRef.14270のリリースである。同じ頃、エクスプローラーIIにも同様の個体が見られるようになった。E品番台とT品番台のエクスプローラーの保証書には、93150のクラスプがロレックスによって取り付けられ、工場から出荷されたことを示す書類が残っている。

オイスター フリップロック クラスプ:1996~2001年に採用された78790A

 1996年からロレックスはエクスプローラーにクラスプ機構78790Aを採用し始めた。これらのクラスプは前述のダイバーズブレスレットに似ているが、クラスプはかなり小さく、薄くなっている。

 ダイバーズタイプのクラスプと同様、78790Aにもフリップロッククラスプ機構が採用されており、手首への装着感が格段に向上した。現代では、エクスプローラーRef.214270は、はるかにモダンな仕様ではあるが、基本的にはフリップロッククラスプ機構を採用したままである。実際にクラスプ機構78790Aは、現代のスポーツロレックスと実質的に同じだが、それは他のほとんど全ての点で異なっている。現行モデルは、外観において "肉厚"であるだけでなくフィット感と仕上げにおいても、より強固なものとなっている。ロレックスの伝統的なオーバースペック志向に加えて、現在のクラスプ機構には内部に組み込まれたマイクロアジャストシステムも含まれている。20年の歳月を経て、エクスプローラーRef.14270のフリップロッククラスプは、近代的スポーツロレックスの元祖としての地位を確立していると言える。

 エクスプローラーRef.14270の全てのモデルには、製造期間中、どのクラスプも、“中空(空洞の)”のエンドリンク ブレスレットとしても知られる558B折り畳み式エンドリンクが搭載されていた。折り畳み式、とはエンドリンク、つまりラグの間にあるケースに固定するリンクが文字通り中空になっていることを意味し、その結果、ケースへの接合に微妙な隙間が生じる。これが、時計のガタガタした音のようなものを発生させるという声もある。私は、実際にはリンク同士が触れ合う音だと考えているが、話が脱線するので元へ戻そう。
 この時計は、558Bのエンドリンクブレスレットと組み合わされたさまざまなクラスプを見てきたかもしれないが、ブレスレット自体はジュビリーが登場したことがあったものの、常に一貫していた。どのクラスプ機構を使っているのか気になる場合は、ブレスレットの裏側にクラスシリアルが刻印されている。558Bブレスレットは万人向けではないが、当時の仕様であることは確かで、後継機のRef.114270ではない、エクスプローラー Ref.14270であることを如実に示す特徴だ。


モダンタイムズ

 ここまでで少し触れてきたが、エクスプローラーRef.14270のデザインが現代の多くのモデルに与えた影響は大きいと言っても過言ではない。Ref.114270は直径36mmサイズのエクスプローラーの最後のモデルだ。前述の通り、P品番台はRef.14270の11年間の生産期間の中で最後のロットとなった。K品番台は次の進化版であり、新しいリファレンスとしてRef.114270が発表された。余分な "1 "は、堅牢なエンドリンクブレスレットと新しいムーブメント―Cal.3130―を表しており、ダイヤルの下部には "Swiss Made "と表示されている。

ステンレス無垢のエンドリンクブレスレットと新ムーブメント ロレックス Cal.3130を搭載したエクスプローラーRef.114270。

 続くエクスプローラー Ref.214270は、エクスプローラーの歴史の中で最も偉大な進化を遂げたモデルと言えるだろう。ケースは直径36mmから39mmにサイズアップされ、ダイヤルはグロスからマットに変更された。このリファレンスは現在、2つのバージョンを経たことで知られている。マークIとII。マークIの文字盤は、ホワイトゴールドのインデックス(ホワイトペイントを施しておらず、夜光塗料も使用していない)と、悪名高いほど短い分針で知られる。ロレックスは36mmモデルの分針をそのまま使い、39mm径ケースに組み込んだという説もある。言うまでもなく、このモデルは製造中止となり、将来的にはレアモデルになるとの噂も流れている。
 Ref.214270マークIIは、ロレックス エクスプローラーの現行モデルである。それは39mm径のままだが、よりRef.14270に似ている。これは、1989年に発表されて以降、近代的なモデルとしては初の試みとなる、アラビア数字に全て夜光塗料を装填しているためだ。この時計をより深く、俯瞰的に知るには、ジェームス・ステイシーの「A Week on the Wrist ロレックス エクスプローラーRef.214270を1週間レビュー(動画あり)」を読まれることをお勧めする。

39mm径の現行エクスプローラー Ref.214270、マットダイヤル、全てが発光するアラビア数字。

A Week on the Wrist:ロレックス エクスプローラーRef.214270を1週間レビュー(動画あり))」

現行型のロレックス エクスプローラーについて知りたい?

ジェームズ・ステイシーの A Week on the Wrist ロレックス エクスプローラーRef.214270を1週間レビュー(動画あり)はこちら

 Ref.14270は、現代のロレックス エクスプローラーを語る際に基準となる存在だ。専門家でなくても、発売から今日に至るまでのデザインの一貫性を知ることができるからだ。多くの点で、Ref.14270は二次流通(中古)市場内での立ち位置を見ると、過小評価されている。Ref.14270はロレックスの製品ラインナップに大きな影響を与えてきた。この影響力は、3・6・9の数字をもつ最もシンプルなオイスターパーペチュアルから、現行エアキングにまで及んでいる。つまり、現行のエクスプローラーが今日存在し得るのは、Ref.14270のおかげなのだ。


収集価値

 エクスプローラーRef.14270は時計収集の世界では掘り出し物なのだろうか? もし誰かがこの類のことを予測することができれば、1970年代にはもっと多くのデイトナが小売店で売られ、後世に残ることになっていただろう。ヴィンテージ・ロレックスの特徴の一つは、細部にまでこだわっていることである。これは、稀な例外を除いては(私が想定しているのはエクスプローラーRef.214270マークIの「スモールハンド」だ)、現行モデルにはあまり当てはまらないことだ。Ref.14270は、現代ロレックスの範疇に辛くも含まれるが、この例外に当てはまるだろう。私たちが見てきたように、単一のリファレンスの中に非常に多くのバリエーションがあり、それは現行の腕時計というよりもヴィンテージウォッチのような役割を果たしている。収集価値といえば、Ref.14270についての見解を得るために、数人のコレクターやディーラー(エリック×2人+ゲイリー×1人)に話を聞く機会を得た。

 有名なコレクターであり、ディーラーであり、10PastTenのオーナーでもあるエリック・クーにとって、エクスプローラーは "最も完璧なロレックス "の象徴である。彼は、Ref.14270が生産されていた時期に収集と仕事を開始し、それは "私が今まで愛した最初のロレックス "だったと述べている。 エリックは、Ref.14270は比較的手ごろな価格ではあるが、共に過ごすことで、現代的な時計の内にヴィンテージらしき感触を得ることができると述べている。もう一つの興味深い留意点は、この記事で前述したが、エリックが繰り返すと、実際のところ―大部分―Ref.14270のトリチウムは、ほとんどエイジングをしないという事実だ。「Ref.14270は、愛好家でない普通の人にとっては、今でも新品のロレックスのように見えます」と彼は言う。

 HODINKEEの元寄稿者でWind Vintageのオーナーでもあるエリック・ウィンド氏は、何がヴィンテージウォッチの資質となるかについて次のように語っている。「何が時計をヴィンテージたらしめるか、過去20年の時系列を観察すれば、合点がいくでしょう」
 彼は、エクスプローラーII Ref.16570"ポーラー"の相場を引き合いに、ネオ・ヴィンテージウォッチの価値が高騰していることを指摘した。エクスプローラーRef.14270は昨年だけでも多くの取引事例で50%の値上がりを見せており、その中でも特に研磨されていない個体が多いが、他のロレックスと同様、未研磨品を見つけることはますます難しくなっていると同氏は指摘した。Ref.14270の相場の未来についてエリックは、「本当に素晴らしいRef.14270はすぐに1万ドル(約106万円)になると信じています」時が経てば分かるだろう。

 エクスプローラーRef.14270は、日本のテレビドラマ「ラブ ジェネレーション(フジテレビ)」の劇中に登場したことで人気を博し、クーが言うところの「日本の90年代後半から2000年代前半を象徴する時計」となっている。ポップカルチャーと時計を掛け合わせることで、全体的なコレクション性や魅力に影響を与えることができる事例だ。「1996年に米国の小売業者から30本を購入し、日本で販売したディーラーを知っています。彼は現地で2時間のうちに完売させましたね」

 Ref.14270について強いこだわりをつものは、時計業界だけではない。HODINKEEのセコンド担当秘書、またはミニッツ担当大臣(誰に聞くかは人それぞれだが)であるゲイリー・シュタインガート氏も同様の意見だ。
「完全にNOS(New Old Stock;デッドストック)の時計を購入して、ステッカーを貼って、圧力テストをして、水泳、冒険、タキシードのための唯一の時計にしたらどうでしょうか? Ref.1016の方がきれいだけど、新生児を扱うように気に掛け過ぎてしまうから。Ref.14270は、山登りとマティーニをこぼす生活のために作られました。Ref.14270はロジャー・スミスのように誇らしげに、毎日着用していても文句ひとつ言わずにきっちり稼働するのです」(ジャック・フォースターとロジャー・スミスのTalking Watchesのエピソードでは、ロジャー・スミスは彼のエクスプローラーについて話しているが、彼はそれがエピソードの時点で大体13年か14年前のものであると言及していることから、あるいはRef.114270かもしれない)。

 実際には、収集価値の全体的な考え方、そして時計を望ましいものにするものは、相場次第とならざるを得ない。どの時計も相場の低迷から免れることはできないが、Ref.14270は確かにそのうちの一つを経験した。ロレックスがその後継モデルであるRef.114270を発表したとき、この新しい現代版のモデルはどの正規代理店でも購入することができたため(今日では信じがたいことかもしれないが)、それは事実上市場に氾濫することになった。その結果、当時のRef.14270の相場は崩落してしまった。しかし、相場に翻弄されたのは、この時だけではなかった。

 2010年には、次の、そして最も劇的な進化を遂げたロレックス エクスプローラーが発表された。新たに搭載されたフルホワイトゴールドのアプライドアラビア数字は、往年のエクスプローラーを彷彿とさせるものであった。聞き覚えがあるだろうか? ブラックアウトのことを思っているなら、その通り。それは、Ref.14270シリーズの中でも最も収集価値の高いモデルであることは間違いないが、市場の気まぐれに翻弄されてしまったのだ。当時、新しいRef.214270が正規代理店で容易に入手可能であったため、"ブラックアウト "はかなりの価格下落に見舞われたのだった。

 では、Ref.14270とその収集価値の今後についてはどうなるだろうか? まあ、我々は何かを学んだとしたら、この趣味の大半は―より良い表現がないので―成り行きまかせということになる。Ref.14270は現代のロレックスのアイデアに多くのことを遺した時計であるし、今後何年にもわたってその古き良き時代のミニチュアとして楽しむことができる時計なのだから。


締めくくりに

 エクスプローラーRef.14270は、まったくもってユニークなモデルだ。それはまさに現代のロレックスの始祖なのだ。ホワイトゴールド製の外周マーカー、グロスダイヤル、サファイアクリスタル、これらは全て現代ロレックスのツールウォッチの定番ともいうべき特徴であり、1989年にこの時計で事実上デビューした。J.R.R.トールキンは『指輪物語』の中で、“月の光は、明るい星を除いて全てをかき消す ”と書いた。
 エクスプローラーRef.14270に当てはめると、注目することもなく無関心に通り過ぎるかもしれないが、それは無視するにはあまりにも明るい星だ。これは、ロレックスがコレクションの中核をなすモデルのデザインを大胆に変えたことの証である。Ref.1016からRef.14270へとモデルチェンジしたことで、ロレックスはリスクを冒しながらも、長年にわたってトップを走り続けてきた伝統を踏襲しているのである。

 ボブ・ディランの同名のドキュメンタリーのように、彼らは振り返らず、前だけを見ている。Ref.14270はさまざまな意味でのテストケースであり、常に変化し、微調整され、全生産期間中にわたりアップデートされた。それが完全に表出した完成品を見るには、その後継モデルであるRef.114270や、現行モデルであるRef.214270を見る必要がある。いずれにしても、この時計は高級時計製造の重要な時代を象徴するものであり、エクスプローラーの名にふさわしいものなのだ。次に時計を手放しで否定するか、勘に従ってみるときは、もう少し深く掘り下げてみてはいかがだろうか。特にロレックスに関しては、必ず称賛すべき点があるはずだからだ。

編集記: エリック・ウィンド(Eric Wind)、エリック・クー(Eric Ku)、 ゲイリー・シュタインガード( Gary Shteyngart )の3氏に対し取材協力に感謝申し上げるとともに、Craft & TailoredAnalog ShiftBob's Watches には本稿のための撮影画像の提供を感謝する。

Photos; ケイジア・ミルトン(Kasia Milton)