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2020年、160周年を迎えたタグ・ホイヤーは、旗艦コレクションであるカレラに一大アップデートを施し、タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 スポーツクロノグラフやタグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 クロノグラフという最新世代のカレラを発表。これと並行して、初代カレラにオマージュを捧げたタグ・ホイヤー カレラ 160周年 シルバーダイヤル リミテッドエディションやタグ・ホイヤー カレラ 160周年 モントリオール リミテッドエディションなどの限定モデルを次々とリリースし、過去と未来、両方の観点からカレラというコレクションを彩った。
そして迎えた2021年、我々HODINKEEと共同で製作したこの新作は、過去に主眼をおいた限定モデルである。ヴィンテージ時計を好む愛好家たちの多くが熱視線をおくる60年代のカレラに端を発したこのタグ・ホイヤー カレラ ダート リミテッドエディション FOR HODINKEEは、我々とタグ・ホイヤーとのヘリテージへの旅なしにはなし得なかった1本である。なぜなら、この時計はまだ自動巻きクロノグラフが存在しなかった時代の、小型手巻きクロノグラフのデザインを蘇らせたもの。2017年に発売されたカレラ スキッパー リミテッドエディション for HODINKEEで、ホイヤーロゴと初期のカレラを思わせる小ぶりなケース(それでも39mm径ではあるが)を久しぶりに世に送り出したところからスタートしているからだ。
カレラ スキッパーも、今回のダートも最大の特徴は1レジスターのデイト付きクロノグラフである点だ。これは、主に60年代の第二世代カレラに見られるもので、複雑機構であるクロノグラフに日付表示機構をも搭載したことが当時画期的だった。
本作はRef.3147Nに範をとっていて、9時位置にデイトを配しているところが珍しい。3時に置かれた30分積算計と相まって、全体のアシンメトリーなデザインは現代のクロノグラフで見られる例がほとんどなく、まるでタイムオンリーウォッチのようにミニマルな外観をしているのだ。この時計の最大の魅力は、コンプリケーションを搭載していながらミニマルである、コレだ。
本機のデザインは非常にハンサムで、かなり好みだ。僕はいくつかのブランドの定番クロノグラフも所有しているけれど、あまり機能が全面に出てゴチャゴチャしたものは苦手だ。スポーツやカーレース、アビエーションを支えたクロノグラフのスピリットに惹かれるのであって、その機能をフルに使いたいのでもコスプレ的にそれらを身に着けたいわけでもない。
本機には、普段は、時計として最小限のデザインでありつつ、実は優れたクロノグラフも搭載しているというサプライズがある。本機のクロノグラフプッシャーは、袖口からのぞいたときには普通のクロノだと錯覚させるが、全貌が明らかになったときにはその外観の意外なシンプルさから上品さも感じさせ、さらなる驚きを与えてくれると思う。
さらに特筆すべきは、この黒を基調としたダイヤル構成だろうか。ホイヤーのブラックダイヤルというとヴィンテージ愛好家界隈では特に人気が高く、今では比較的劣化した状態のものであっても高額な値段で取引されることも少なくない。それが、本機であれば、タグ・ホイヤーが誇る最新の製造技術で作られた安心の1本が、78万5000円(税抜)で手に入れられるわけだ。これは、ヴィンテージ・カレラを既に所有する人であっても、普段使いに持つことをオススメできる。(初代カレラについては、エリック・ウィンド氏が執筆した「In-Depth タグ・ホイヤー 初代カレラを解説」の記事がとても詳しい)
"わたしたちは、56年の時を経ても60年代のDATOから粋な雰囲気を感じ取っている。この美しさを永遠に追求するために、過去のタグ・ホイヤーの単純な復刻版を製作するのではなく、今回、いくつかのマイナーアップデートを施した"。このように、HODINKEEで本企画を担当したカーラは語っている。それは、わずかに大きくなったケースサイズであり、搭載するムーブメント・ホイヤー02であるわけだが、今この瞬間から永く使うことのできる(当然、元々のDATO 45よりも)1960年代の空気感を宿したモダンウォッチが誕生したわけだ。
さて、搭載される自社製Cal.ホイヤー02にあたってはクリアにすべき点がある。それは、ローターに"160周年"の刻印があること。
タグ・ホイヤーの160周年の歴史に根ざしており、この周年は2020年のことであるが、その刻印があるのはコロナ禍での製造遅れに原因があるのかもしれない。つまり、この時計は本来昨年中にリリースされるはずだったことを物語っているが、人類史上未曾有の危機による巡り合わせによるエピソードだと思えば、この非凡な時計の1つのストーリーとして理解できる。また、ケース厚は14.7mmと若干厚みのあるサイズ感だが、39mm径ケースと短く切られたラグによって装着感は良好だった(下の写真を確認して欲しい)。
本機の最大の魅力はコンプリケーションを搭載しながらミニマルである、と前述したが、これはカレラの生みの親であるジャック・ホイヤー氏の哲学とも重なる。彼は、クロノグラフの視認性にこだわるあまりに不要な目盛りを嫌うようになり、当時一般的だったテレメーターを不採用としてよりクリーンなクロノグラフダイヤルを創出したという。一方で、現行のタグ・ホイヤー カレラコレクションを見渡すと、こうしたクラシカルな風合いをミニマルに表現した時計は他にない。同社はスローガンの通りにアヴァンギャルドなブランドであるから、クラシックな時計の数が増えれば違和感を覚えるだろうが、この時計は160周年の記念すべきタイミングを祝う予定だった1本だ。タグ・ホイヤーの機能美を体現するようなこの時計を、ぜひ手にとってみて欲しい。
タグ・ホイヤー カレラ ダート リミテッドエディション FOR HODINKEE:Ref. CBK221D.FC6479、価格 78万5000円(税抜)、SSケース、39mm径、自動巻き、自社製Cal.ホイヤー02、2万8800振動/時、約80時間パワーリザーブ、ブラックアリゲーターストラップ、世界限定250本
なお、本機は米国のHODINKEE Shopのほか、特別に日本国内でも本日より販売される。展開店舗は、エスパス タグ・ホイヤー 銀座、表参道、ラゾーナ川崎プラザ、心斎橋、仙台、福岡、広島、タグ・ホイヤー 銀座ブティック 、またタグ・ホイヤー公式オンラインブティックでは日本と米国両国での展開だ。
※2月23日21:45より、タグ・ホイヤージャパン公式オンラインブティックにて先行販売開始。
Photographs by Masaharu Wada
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