trophy slideshow-left slideshow-right chevron-right chevron-light chevron-light play play-outline external-arrow pointer hodinkee-shop hodinkee-shop share-arrow share show-more-arrow watch101-hotspot instagram nav dropdown-arrow full-article-view read-more-arrow close close email facebook h image-centric-view newletter-icon pinterest search-light search thumbnail-view twitter view-image checkmark triangle-down chevron-right-circle chevron-right-circle-white lock shop live events conversation watch plus plus-circle camera comments download x heart comment default-watch-avatar overflow check-circle right-white right-black comment-bubble instagram speech-bubble shopping-bag

In-Depth ゼニス 新作クロノマスター スポーツは定番エル・プリメロとどれほど違うのか?

クロノグラフの永世定番であるエル・プリメロ。その意匠を確認しつつ、今年アップデートされた新作が紛れもなくゼニスのクロノグラフであることを解き明かす。

今年のLVMHウォッチ ウィークで発表され、瞬く間にスターダムへとのし上がったゼニスのクロノマスター スポーツ。当初は、業界で最も有名なクロノグラフに似ているとか、過去にそのブランドへエル・プリメロ ムーブメントを供給していたエピソードも含めて話題となった。今なお人気は加熱しているようで、ブレスレット仕様の白文字盤モデルは店頭に並ばないほどの状況だという。

  “ゼニスにとっては、ブランド始まって以来の出来事”とCEO自ら語るほどの人気ぶりを見せるクロノマスター スポーツだが、一体何がそんなに評価をされているのか、またこれはゼニスにとって新世代のエル・プリメロとして正統な時計であるのか、現在も現役で同社のフラッグシップであるクロノマスター エル・プリメロ オープンと比較しながら考えてみたい。

クロノマスター スポーツは41mm(左)、クロノマスター エル・プリメロ オープンは42mm(右)だ。セラミックベゼルによる引き締め効果か、サイズ以上にスポーツの方が小ぶりな印象を受ける。

 まずはこの2モデルに共通するところとそうでないところを確認したい。といって、実のところほとんどが異なるのだが、少し正確な言い方をすると、2003年に初登場し2012年に現行デザインとなったエル・プリメロ オープンが堅持した特徴をベースに、アップデートがなされたのがクロノマスター スポーツである。長いあいだ形を変えることなくその個性を熟成させたエル・プリメロ オープンを、現代の潮流となっているよりスポーティな方向に調整したものだ。

筆者所有のクロノマスター。購入から5年が経過するが、色褪せない魅力を放ち、ハイビートで時を刻んでいる。

 具体的には、ケースやダイヤルのデザイン、インデックスや針、プッシャーなどの主たるパーツには共通のデザイン言語が用いられている。そしてまったく異なるのが、セラミックベゼル(これが意匠においての一番の差)とムーブメントとなる。オープンでは、ベゼルレスのデザインで文字盤外周にタキメーターが配されていたため、42mmのケースのほぼギリギリのところまで文字盤が配される。一方、41mmのスポーツはタキメーターがセラミックベゼル上に移動されたため、スペックでの差以上に時計のフェースが小さくなった印象だ。

 ムーブメントについては、以前公開している記事「Introducing ゼニス クロノマスター スポーツ、新しいエル・プリメロ キャリバー3600を搭載」で本国の編集長ジャック・フォースターがより詳細に解説しているため参照いただきたいが、端的に説明すると、50年前の設計でよく言えば贅沢な仕様だったエル・プリメロ400にいくつかのアップデートが加えられたものだ。技術的な改良としては、これまで4番車によって駆動されていたクロノグラフの輪列をガンギ車のピニオンによって行なうよう改められた。

 ケースバックやプッシャーなど外装の主たる部分を見ていくと、やはりかなりの共通点を感じることができる。特徴的なポンププッシャーやケースバックの形状などはほぼ同一(オープンではラグに達していた裏蓋のネジ穴をスポーツではより内側に収めるなど、より効率的に改良されているものの)だ。全体のデザイン面については、1980年代後半に存在していた「デ・ルッカ」モデルからケース形状のインスパイアを得たとゼニス側は説明しているが、オープンモデルのケースをよりコンパクトにしたような印象だ。下の比較画像を見るとわかりやすいが、スポーツのラグはより短く角度がついており、42mmと41mmのサイズの差以上に手首での装着感に差が出そうだ。ラグからラグまでの長さを実測してみると、オープンの50.0mmに対してスポーツは46.7mmで、3mm以上コンパクトになっている。リアルな装着感は個々の手首の形状にも左右されるため一概に数字では検証が難しいが、手首周りが17cmで割と平たい形の僕は、オープンのほうが手首にジャストサイズで収まる印象で、スポーツでは手首の内側でコンパクトにまとまった。ラグ形状の恩恵もあり、この2本の装着感ではクロノマスター スポーツに軍配が上がると感じた。ちなみに厚みはオープンが14.05mm、スポーツが13.6mmとなっている。

ADVERTISEMENT

 非常に魅力的に映るクロノマスター スポーツだが、この時計を比較する時間を得られたことで、僕にとってはクロノマスター オープンに対する愛着が増す結果となった。それは、エル・プリメロのエッセンスを確実に継承して現代的に仕上げられたクロノマスター スポーツという存在が、かえって僕のオープンを明確にヘリテージ化してくれたような気がしているからだ。もちろん、クロノマスター オープンは未だに現行コレクションだし、厳密な意味でのエル・プリメロのクラシックモデルは“リバイバル”として発表されているA386A385のことを指すだろう。ただ、まもなく10年に達しようとしている現行オープンがひと区切りし、エル・プリメロが次の時代・世代へと移行していくのは間違いない。そんな移り変わりのなかにあるからこそ、僕は自分の腕にあるエルプリが改めて自分ごと化されていく気がしているのだ。この時計がディスコンとなり現役を退いても同じように感じるだろうか? 僕は、かなり強くその答えはイエスだと思っている。 ゼニス愛好家たちのこうした感情の変化を、現在のCEOであるジュリアン・トルナーレ氏はかなり正確に掴んでいると思う。だからこその、エル・プリメロ再編なのだろうが、今年のはじめに話を聞く機会を得た際にこんなことを語っていた。

ジュリアン・トルナーレCEOが語る、クロノマスター スポーツという進化

 「クロノマスター スポーツの登場によって、クロノマスターコレクションは3つに大別されることとなりました。トノーシェイプが特徴的なリバイバルとこのクロノマスター スポーツ。過去のオリジナルに範をとったニュークラシックの3つです。これらはすべてコンテンポラリーに表現されており、エル・プリメロというレガシーを再構築しています。私は就任直後からその必要性を感じており、エル・プリメロという歴史をまず紐解いて再解釈し、今回のような進化(クロノマスター スポーツ)に取り掛かったのです。この時計、ムーブメントは大変熱心な愛好家の方に愛されていますので、コレクターの方々にヒアリングを重ね、エル・プリメロから捨ててはいけないものが何かを聞き、精査しました。そこで行き着いたのが、単なるムーブメントチェンジではなく、よりコンテンポラリーな雰囲気・バイブスを備えた時計です。スポーティなクロノマスターにはより高い精度が求められ、それにはより高い振動数が必要となりました。よりスポーティなセラミックベゼルを備え、10分の1秒を刻むことのできるエル・プリメロの誕生は、まさに進化を果たしたと言えます。ただし、それを達成したからと先代のエル・プリメロを捨てることはしません。代えがたい家族ですし、長きにわたってコレクターの方からの不満もなかったムーブメントですから。今後も改善を加えながら、ゼニスのコレクションに残る予定です」

ADVERTISEMENT
最終的な考え

 ジュリアンCEOの思惑にまんまと乗る形(?)で先代エル・プリメロへの愛を深めた僕であるが、実はクロノマスター スポーツの出来栄えには舌を巻いている。現在存在している一体型自動巻きクロノグラフムーブメントのなかでも、指折りの性能とクオリティで仕上げられているにもかかわらず、本機はそれを唯一の目玉としていないからだ。ジュリアン氏は、“70〜80年代の歴史を紐解くと、ムーブメントに行き着く。だが、これを人々にすぐに知ってもらうことは難しいのです”と実に冷静に分析し、この時計を完成へと導いたのだ。

 僕にとって衝撃的だったのは、なによりこの時計が装着性のよさにかなりの配慮がなされていたことだ。最近にいたるまでの10年近く、腕時計大型化の時代だったせいもあるが、見栄えがよくともバランスが悪く、またはブレスレットが満足に作り込まれていなかったりして快適な装着性に欠ける時計は多かった。

 最後に、同じプライスゾーンで競合となるような時計たちを挙げつつ、そのなかにおいてはこのクロノマスター スポーツが一押しである理由も述べておこう。条件としては、自社製の自動巻きクロノグラフムーブメントを搭載していること、10気圧防水以上、ブレスレットモデルであることだ。改めて探すと、実に候補が少ないゾーンなのだが、ともに近年アップデートされたモデルで、ブライトリングのクロノマット B01 42と、IWCのパイロット・ウォッチ・クロノグラフ 41を競合に挙げたい。

ブライトリング クロノマット B01 42

97万9000円(税込)

 さて、この3本は丈夫で高品質な自社ムーブメントを備えた時計たちであり、ブレスレットがモダンにアップデートされている点が最大の共通項だと僕は思っている。クロノマットのルーロー・ブレスレットは筒状のコマが肌に当たる面積を少なくしていて見た目に反して快適だし、同じく細かめなコマを採用するIWCのパイロットブレスレットも腕に沿うようなつけ心地だ。しかもこちらはインターチェンジャブル機構まで搭載されている。クロノマスター スポーツのものは最もオーセンティックと言えるかもしれないが、ゲイ・フレアー社製作による過去の意匠を踏襲したブレスレットは非凡な装着性である。

IWC パイロット・ウォッチ・クロノグラフ 41

91万3000円(税込)

 ケースを含む外装面ではほぼ同水準のクオリティ(クロノマスター スポーツだけセラミックベゼルを備えており、これは優位点だが、価格も若干ほかの2本より高い)であるため、このなかから1本を選ぶとすれば最後はムーブメントで判断をすることになる。個々に設計思想とそれを反映したプライスとなっているので、予算内でどのストーリーに惹かれるのかを重視すべきだが、僕の場合は新型エル・プリメロに軍配があがる。クロノグラフ界、時計界のレガシーと言えるムーブメントが1984年に数奇な復活を果たしたうえ、50年の時を経てさらに進化を遂げたというストーリーは、今、あえてこの時計を手にするのに充分な理由となるだろう。

 改めて断っておくと、これは個人の好みが大きな問題であり時計自体の甲乙はつけがたい。僕の主観としては、この3本ではクロノマスター スポーツに最も魅力を感じるが重視するポイントが違えば選ぶ時計は変わるのだ。

ゼニス クロノマスター スポーツ、Ref. 03.3100.3600/21.M3100: ケース、ステンレススティール、41mm、10気圧防水。ブラックセラミックベゼル(10分の1秒目盛りつき)。ムーブメント: エル・プリメロ Cal.3600、3万6000振動/時で駆動、35石。コラムホイール、水平クラッチクロノグラフ、6時位置に60分積算計3時位置に60秒計。針、インデックスは、ロジウムメッキにスーパールミノバ。価格: ブレスレットは116万6000円(税込)、ラバーストラップは、110万円(税込)。

その他、詳細はゼニス公式サイトへ。