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Hands-On シチズン シリーズエイトの880 メカニカルが僕のファーストGMTウォッチになるかもしれない

リスタートから2年が経ってからの完全新作。880 メカニカルは、国産のファースト“フライヤー”GMTとして価値のあるモデルだ(少なくとも僕にとっては)。

先日開催されたHODINKEEのイベントで、GMTウォッチを検討しているという男性と話をした。すでにダイバーズ、クロノグラフ、パイロットとほかのカテゴリでは意中の時計に出合っているものの、GMTウォッチにおいてはそもそもまだ手にしたことがなく、ファーストGMTとして何を選ぶか迷っているのだという。僕自身も(旅行需要の回復を見越してか)各ブランドからリリースが続いているなかで関心が高まっていたところだったので、このテーマでしばし盛り上がった。GMTウォッチを特に機械式時計で探す場合、その入り口のハードルはまだまだ高いように感じている。クロノグラフやダイバーズなどほかのカテゴリと比べてそもそもの選択肢が少ないうえに、トゥルーGMT……、HODINKEEでいうところの“フライヤー”GMT(時間をいちいち止めずとも、GMT針だけ独立して調整可能なタイプのGMTウォッチ。詳しくはこちらから)を求めるなら予算に多少の余裕も必要になる。だからこそみんな、出来のいいフライヤーGMTウォッチが30万円以下で発表されると聞けば我先にと飛びつくし、同じプライスレンジにあるモデルと積極的に比較をしたがるのだ。

 ゆえに、2021年に再始動してからまもなく2年が経とうとしているシチズンのシリーズエイト(Series 8)から、フライヤーGMTがリリースされると聞いたときは胸が躍った。過去のモデルを見ている限り30万円以下で提供される可能性は高かったし、何より870メカニカルなどでも見られた工業プロダクト的なある種そっけないデザインは僕の大好物だ。おそらく「880メカニカル」は僕のファーストGMTウォッチになるぞと期待をしながら、対面の日を指折り数えていた。

ブラック文字盤に黒×青のツートンベゼルを備えたRef.NB6031-56E。

 すでにジェームズによるIntroducingもあるが、簡単に紹介しておく。880 メカニカルはシリーズエイト(Series 8)再始動から実に2年越しの完全新作だ。ブラック文字盤とブルー文字盤の通常モデル2型(ともに税込22万円)と、ゴールドカラーの限定モデル(税込24万2000円)の計3型でこの秋に展開される。いずれもモダン&スポーティな機械式時計ブランドを標榜するシリーズエイトのコンセプトにのっとり、エッジの立った金属感の強いSSケース&ブレスを備え、シチズンによる自動巻きムーブメント9054を搭載している。ケース径は41mmで、厚さは13.5mm。870 メカニカル(10.9mm)や831 メカニカル(10.1mm)と比較すると若干厚みが出ているものの、GMT機構や両方向回転ベゼルが追加されていることを考えれば許容できる範囲だ。

 さて、具体的な掘り下げを行う前に告白しておきたい。880メカニカルの実物を初めて目にしたとき、実は素直に飲み込むことができなかった。というのも、880 メカニカルはこれまでのシリーズエイトの文脈から少し外れたところにあるように見えたのだ。僕はシリーズエイトのGMTモデルと聞いて、フラットな文字盤にワントーンのメタルベゼルを備えた(それこそエクスプローラー IIのような)ソリッドなモデルを想像していたし、それに近しいものが提供されると勝手に思い込んでいた。だが、今回の880 メカニカルがシリーズエイトのGMTウォッチとしてどこを目指したモデルなのか、一度冷静になって思案を巡らせていると自分なりの答えが少しずつ見えてきた。結論から言うと、これはまさにシリーズエイト、ひいてはシチズンらしさを詰め込んだ、国産機械式フライヤーGMTのエントリーモデルだ。

SS素材にゴールドIPを使用した世界1300本限定モデル。


GMTウォッチ入門者を狙い撃ったデザイン

880メカニカルは特に通常モデルに関して、ベゼルに実に潔い配色がなされている。いわゆる“ペプシ”であり、“バットマン”だ(限定モデルのゴールドを“ルートビア”とする声もある)。思わずニンマリとした人も多いことだろう。僕は改めて880 メカニカルと向き合ったとき、これは実にシチズンらしい手法だと思った。

シチズン機械式再活宣言 再び大きく動き出した機械式時計開発の舞台裏

リローンチ当時のデザインコンセプトについて、こちらでシチズンのキーマンに語ってもらっている。

 そもそもシリーズエイトのリブランディングにあたり、シチズンが掲げたキーワードは“モダン・スポーティ”だった。企画当時に興っていたファッションのカジュアル化、スポーツウォッチ需要の高まりを受けて導き出されたもので、830・831・870メカニカルに共通するブレスレット一体型の構造やエッジを立てたケース形状に色濃く現れている。これは2020年ごろに引き続きトレンドの中心であったラグジュアリースポーツ的な時計作りをわかりやすく(2体構造のベゼル、白蝶貝ダイヤルなどの味付けがあったとしても)表現しており、8年の時を経てのシリーズエイト再始動にあたって、時計愛好家と機械式時計入門者の別を問わず人々の耳目を集めるのに十分な役割を果たしていたと思う。

 そう考えると、2年ぶりの完全新作であり、GMTウォッチトレンドのさなかに発表される880 メカニカルがそのエントリーモデルとなるにあたり、この配色をとったことにも納得がいく。これはGMTウォッチのアイコンとして万人がひと目で理解できるデザインだ。今後、異なるベゼルのバリエーションが登場する可能性があったとしても、初手としては間違いない選択だろう。

 ベゼルのカラーリング以外にも、880 メカニカルに込めた意図が読み取れるディテールがある。例えば、シースルーバックの採用だ。これは、よっぽど緻密なあしらいを施したムーブメントを搭載した場合か、もしくは何かしらのカテゴリでエントリーモデルとしてリリースされるときに多く見られる、機械式時計に対する所有欲をわかりやすく刺激する手法である。過去のシリーズエイトでは、時計本体の厚みやそこから派生するつけ心地を考慮してソリッドバックが装備されていた。今作はムーブメントとして新開発のCal.9054を搭載してはいるが、美観のうえでの大きなアップデートは見られない。それにもかかわらず今作でシースルーバックを採用した点には、機械式時計入門者にも改めてアピールしたいという意図が感じられる。ソリッドバックを採用することで、この価格帯でのライバル、ミドー オーシャンスター GMTの厚さ13.3〜13.4mmに肉薄することができたかもしれない(880メカニカルは13.5mm)。しかし事実、機械式時計入門者ではないものの、GMT初心者の僕は少なからずワクワクした。

 また、ブレスレットにも注目したい。880 メカニカルのブレスは、テーパーが入ったことで既存のシリーズエイトのそれとは性格が異なるものとなった。ぱっと見では小さな変化だが、これによりさりげないドレス感が生まれている。ひとコマひとコマに施された丁寧な研磨が醸し出す高級感も手伝い、同機を大人の仕事着にもマッチする1本に引き上げている。

880 メカニカルでは、限定モデル以外のシリーズエイトでは初めてシースルーバックが採用された。

 なお、やはり880 メカニカルがシリーズエイトの流れにあるのだと強く実感するポイントもあった。それが、2体構造なども利用した繊細かつ立体的な磨き分けだ。例えば870 メカニカルでも、ベゼルを2体構造としてそれぞれに異なる処理を行うことで、正面の顔に奥行きが出るように配慮されていた。下の写真を見てもらえばわかるが、880 メカニカルにもその効果は如実に現れている。880 メカニカルではケースそのものを2体構造とし、ヘアラインの“キメ”や向きを変え、エッジにポリッシュを施すことで、サイドにも立体的で見応えのある美観を獲得した。個人的には、リューズに目立つロゴや刻印を刻まなかったことも賞賛したい。このビューの主役はあくまで緻密な磨き分けにある。

 そして、シリーズエイトらしい工業製品感を強調するブレスのエッジの立て方、粗くかけられたヘアラインも同様だ。880 メカニカルがちゃんとシリーズエイトの文脈にあると再認識させてくれる。

ピッチが異なるヘアラインの繊細な使い分けは、2体構造のなせるワザだ。

 あえて今項を最後に持ってきた。880 メカニカルにおいてもっとも象徴的なディテールである、ダイヤルのあしらいについてだ。ブランドいわく、日本的な紋様である市松模様に東京の夜景、立ち並ぶビル群を掛け合わせた柄だという。なるほど、確かに中心から左右対称にランダムな凹凸が広がっている。シチズンが施した都市型チェッカーは、強化ガラスをインサートしたベゼルの存在を考慮したものだろう。ベゼルが鮮やかに光を反射する分、ダイヤルは場所に応じてやや控えめに主張をする。このバランスを狙ってどれだけの調整を行なったかはわからないが、実際に手に取ってみて、素直に素晴らしいと思った。

 これはいわばシチズンがシリーズエイトで表現しようとしているモダンさの一環であり、エントリーフライヤーGMTというだけではない存在に880 メカニカルを位置づけようとする“らしさ”だ。東京発、世界基準のフライヤーGMT。そのポジションを狙い撃たんとする、シチズン シリーズエイトの意図が感じられるように思う。

光の当たり方により、この新しい市松模様は、ベゼルのきらめきと調和する独特の陰影を見せる。

 繰り返すが、880 メカニカルはシリーズエイトの完全新作である。リスタートから2年の沈黙を経て(そのあいだに周年モデルとしてカラーバリエーションがあったとしても)、ブランドとして次のステップに向かおうという気持ちが込められている。その答えがトレンドとなりつつあるGMTウォッチの入り口としての提案であり、現代人に必須となるディテールの結集だ。そのスペックに対しては(第2種の耐磁性能や防水性能を含め)信頼しているし、価格に対しても文句はない。あとは、そのなかに垣間見える個性を含めて気に入ったならば完璧だ。僕はひと足先に人生初のフライヤーGMTのポジションを880 メカニカルに託そうと思う。たとえこの先、僕が当初想定していたようなワントーンベゼルでフラットな文字盤のGMTウォッチがシリーズエイトから出たとしても、こんなにブランドの意図がありありと表現されたフライヤーGMTにはならないだろうから。

限定モデルの文字盤は、夕陽に照らされる秋の草原をイメージし、通常モデル2型とは異なるあしらいをとっている。ベゼルのブラウンも手伝い、実に情緒的だ。

シチズン シリーズエイト 880メカニカル。Ref.NB6031-56E(ブルー/ブラック)、Ref.NB6030-59L(ブルー/レッド)、Ref.NB6032-53P(ゴールド)。直径41mm、厚み13.5mm。SSケース、SSブレス、両方向回転ベゼル、シースルーバック、10気圧防水。シチズン製Cal.9054(自動巻き、時・分・秒表示、デイト表示、GMT、パワーリザーブは約50時間)。価格は税込22万円(Ref.NB6031-56E、Ref.NB6030-59L)、税込24万2000円(NB6032-53P)。NB6032-53Pのみ1300本限定。2023年秋発売。