trophy slideshow-left slideshow-right chevron-right chevron-light chevron-light play play-outline external-arrow pointer hodinkee-shop hodinkee-shop share-arrow share show-more-arrow watch101-hotspot instagram nav dropdown-arrow full-article-view read-more-arrow close close email facebook h image-centric-view newletter-icon pinterest search-light search thumbnail-view twitter view-image checkmark triangle-down chevron-right-circle chevron-right-circle-white lock shop live events conversation watch plus plus-circle camera comments download x heart comment default-watch-avatar overflow check-circle right-white right-black comment-bubble instagram speech-bubble shopping-bag

In-Depth 時計のスペック:その意味と意義について

…そして、マーケティングの専門用語を見抜くためのヒントをご紹介。

ADVERTISEMENT

世界中で公開されている時計に関する記事の最後には(そして時計関連ウェブサイトが登場するずっと前から)、一般的に時計の基本的な(時にはそうではない)物理的特性を記載した短いテキストブロックがある。なぜなら、ケースの大きさ、防水性、ムーブメントの製造元などの情報は、その時計が自分の腕に合うかどうかや、そのメーカーが実際の時計製造にどれだけ投資しているかなど、あらゆることを知る上で役に立つからだ。

 しかし、なぜそのようなスペックになっているのかがよくわからないこともある。例えば、石数だ。時計愛好家のなかには、なぜムーブメントに石が使われているのかを知っている人も多いだろうが、知らない人もいる。それでも、石数は時計記事のスペックシートに記載されているだけでなく、メーカーがムーブメントに明記していることが多い。振動数も好例のひとつだ。現代のムーブメントはその生産量を問わず2万8800振動/時で動くものがほとんどだが、大体どこでも見られるにもかかわらず、なぜスペックに記載するのだろうか?

 しかし、スペックシートに記載されている数字の裏には、想像以上のものが隠れている。全体的に見ても個別に見ても、なぜその数字であるのか、そこに何があるかは、時計製造の歴史を知るための方法であり、時計がどのように作られているのかを知るための手がかりともなる。

石数

時計の中に石があることには理由がある。それは輪列のベアリングとしての役割だ。すべての輪列(時計用語で歯車のこと)には、焼き入れされ、研磨されたスチール製の軸があり、その軸は合成ルビー製のベアリングに収まっている。摩擦によるロスをできるだけ少なくし、主ゼンマイからテンプにエネルギーを供給することを目的としているが、適切に注油した石付きのベアリングに収まるSS製の軸には、ほとんど摩擦が起きない。

ランゲ1のムーブメント。右側には耐震用の穴石と受石が付いたテンプがある。

 時計用の石は18世紀初頭に発明された。それには一見して明らかな利点があり、人工ルビーの製造が実用化されてからはありふれたものとなった。石は非常に硬く、毛細管現象でオイルがベアリングから流れ出ないように、非常に精密な形状に加工しなければならない。現在、ほとんどの石はムーブメントに直接圧入により取り付けられるが、A.ランゲ&ゾーネのようにシャトン(真鍮製の枠に石をネジで固定する方法)を採用しているところもある。

 良質な時刻表示のみの時計には、通常17石が搭載されている。これらは、

–テンプのインパルスジュエル(レバーが押して、テンプに衝撃を与える)
–レバーにある2つの爪(ガンギ車の歯が押し付けられ、レバーが前後に動く)
–上下のテンプの軸に穴石と受石をそれぞれセット
–2つのレバー軸用に2個
–2つのガンギ車の軸用に2個
–4番車に2個
–3番車に2個
–センターホイール(2番車)に2個

の計17個だ。石数が増えるのは、自動巻きの場合は自動巻き機構における石の追加、巻き上げやセッティングのためのリューズ巻き機構での追加、日付表示機構の摩擦を減らすベアリングの追加などによるものだ。例えば、ラトラパンテクロノグラフでは、バネ仕掛けのレバーに小さなルビーローラーが付いていて、これがスプリット針のリセットカム(私に言わせれば、高級時計の中で最もセクシーな部品の一つだ)を押して、ラトラパンテボタンを押すと、スプリット針が秒針の下の位置に戻るようになっている。

 一般的には、石数が多いほど高品質な時計であることは、もうおわかりだろうが、これには厳密な法則があるわけではない。例えば、多くのハイグレードな腕時計や懐中時計のムーブメントでは、センターホイールの石を省略して(金属ベアリングを使用して)、精度を落とさないものが多くある。

テンプの上側の軸に付いている穴石と受石。オイルは黄色、耐震バネは表示されていない。受石は、テンプの軸の肩が下側の穴石に接触するのを防ぐ。

 時計ユーザーにとって、石数がどれほど品質と結びついていたかは、特に1960年代に一部の時計ブランドが、機能しない石をできるだけ多くムーブメントに詰め込んで途方もない石数を生み出そうとしていたことからもわかる。その最たる例がウォルサムの100石オートマティックで、17個の機能する石を輪列に組み込み、残りは地板の外周に取り付けられていた。最終的には1974年に国際標準化機構が時計の機能的な石の規格(ISO1112)を制定したことと、おそらくはクォーツショックが重なったことで、すべてが頓挫してしまった。

ADVERTISEMENT

 今日では、時計業界が大量に生産することによるスケールメリットによって、石数が少なくなるということはない。何百万ものセイコー5に搭載されている、謙虚なセイコーのCal.7S36でさえ、23石だ。しかし、数が多ければ多いほど、特に複雑な時計では機能性の向上に注意を払っている可能性がある。オメガのCal.321は17石で、15石は輪列用で、2石はクロノグラフ用だ。Cal.321と同じベースキャリバーであるヴァシュロンのCal.1142は21石だが、これはクロノグラフ用にさらに2石追加されているためであり、さらに2番車にも石が追加されているのではないかと思われる(私は地板を外したCal.1142を見たことがないのだ)。

オメガのCal.321。17石。

 さらに、石数がゼロのクォーツムーブメントに至るまで、すべてのムーブメントに石数が記載されている大きな理由を知りたいだろうか? アメリカに時計を輸入する際には、ムーブメントに石数の刻印が必要で、さらに石数によって輸入関税が異なるためだ(これは装飾的な宝石ではなく、機能的な石を意味する)。

防水性能

防水性は、実際のところ、思ったよりもわからないものだ。防水性能には、ダイバーズウォッチ用と一般的な防水時計用の2つの異なる規格があり、これら2つの主な違いはテストの厳密さと頻度にある。各規格の意味を詳しく知りたい方は、2017年に掲載した共通点と相違点の記事を確認して欲しい。

ジェイソン・ヒートンと“深海の女王”シルビア・アール博士。彼女はゴールドのデイトジャストを着用している。

 一言で言えば、これらの規格が目指すのは、深さの評価がその言葉通りの意味を持つことだ。例えば、30mの防水性能を持つ最新の時計は、30mの水に浸かっても大丈夫でなければならないということだ。参考までに、レクリエーションダイビングは水深30~40mで行われる。だからといって、30m防水の時計でダイビングをすべきという意味ではないが、最新のガスケットやシールを備えた時計は、通常の水泳やダイビング以外であれば、まったく問題ないということだ。

 ダイバーズウォッチのテスト基準は、当然のことながら、より厳格になっている。ダイバーズウォッチの規格では、最低でも100mの防水性が規定されている。これはすでにレクリエーション向けであるスキューバダイビングの2倍に相当する深さであり、この規格を持つ最新の時計は水泳やシュノーケリング、そしてもちろん実際のダイビングにも問題なく使用できるはずだ。

 多くのダイバーズウォッチに関する防水性の評価は、どうしても空想の世界における話となってしまう。例えば、300mとは水深1000フィートのことで、その時点で熱心なレクリエーションダイバーやスポーツダイバーの要件をはるかに超えた、混合ガスを使用したテクニカルダイビングの話になる。現代の水深評価にはある種の劇場型要素があるが、現実世界において100m防水よりも200m防水の方が安心感があるという人が多いのも確かだ。

ケースサイズ

これは非常に簡単なことだ。時計を購入する前に、その時計がどのくらい大きいか(または小さいか)をある程度把握しておきたいものだ。厚さ、ケースの直径、ラグtoラグの寸法、これらすべてが、その時計が自身の手首に合うかどうか、そしてさらに重要なこととして、自身の好みに合うかどうかを判断する材料になる。

 だが、どんなに完璧なケースサイズであっても、わからないことはたくさんある。役に立たないというわけではないが、私は常々、時計を実際に腕に装着したときの最初の感覚以上のものは得られないと感じている。例えば、装着感に大きく影響する要因のひとつに、高さと幅の比率がある。直径が比較的小さなケースでも、比較的厚みがある場合は重心が高くなるため、数字だけを見て想像しているよりも、手首への負担は大きくなるのだ。

IWCのビッグ・パイロット・ウォッチ、46mm。

 もう一つの漠然とした要素は、特定のサイズが特定の時計にどれだけ適するかということだ。例えば、先日紹介したアーノルド&サンのグローブトロッターは45mmの時計だが、ドーム型の風防を採用したことで、全体の厚さが17.23mmという信じられないような数値になっている。この数字だけを見ると、装着感は決して良いとは言えない。しかし、時計全体の文脈で考えると、この時計は北極から見た北半球を回転させて表現したワールドタイマーを中心に据えており、この特別な時計ショーにIMAXサイズのスクリーンが必要となる理由がわかる。一方で、ロジャー・スミスやフィリップ・デュフォーのシンプリシティ(あるいはロレックスのオイスターパーペチュアル)などをこのサイズに膨らませることはあまり名案ではない。こうした時計の45mmバージョンは漫画っぽく見え、いい方法とは言えないだろう。

ADVERTISEMENT
石数、振動数、サイズ、そしてパワーリザーブの裏側に

振動数は、誰もが不思議に思う数字のひとつだ。現代の自動巻きムーブメントの多くは2万8800振動/時で動いているが、ほぼ世界共通であるにもかかわらず、なぜこの数字を入れるのだろうか?

 ほぼ全世界共通だからこそ、例外が注目され、時計のスペックで見る価値があるのだ。すべての機械式ムーブメントは、何十もの技術的な決定がなされ、その一つ一つが必然的に妥協の産物となる。ハイビートのムーブメントは、その他すべての条件が同じであれば、精度の安定性に優れる。しかし、そうした条件が同じになることは決してなく、さまざまな振動数の問題点と利点がムーブメント全体でどのように扱われているかを見ることは、ムーブメントの設計が継続的で興味深い問題である理由の一部となっている。もし最新の時計が1万8000振動/時で動いているとしたら、すぐに目に留まるはずだ。2万8800振動/時以上の振動数も同様だが、高振動の時計を作るメーカーは、一般的に、自分たちが高振動の技術開発に参加していることを潜在的な顧客に知らせている。

オリスのアートリエ Cal.113は10日間のパワーリザーブを備えている。

 サイズは、時計のほかの部分をより深く理解するのに役立つ興味深いものだ。例えば、ロイヤル オーク “ジャンボ” エクストラ シンのムーブメントがどうなっているのか知りたいとする。スペックを確認すると、ムーブメントの厚さは3.05mm、日付なしのバージョンの厚さはわずか2.45mmだ。このムーブメントは1967年に開発され、現在でも世界最薄のフルローター自動巻きムーブメントの記録を保持しており、並外れたものである。

 逆に、自動巻きムーブメント、ETA 7750を搭載したSS製スポーツクロノグラフを見てみよう。このムーブメントは、薄型化を考慮して設計されていないため、厚さは7.9mmあるが、このことを知っていれば、ケースの大きさに関して期待と現実の境目がはっきりする。ロイヤル オーク “ジャンボ” エクストラ シンの厚さは8.1mmあるが、これはもちろん時計全体の厚さだ。デイトナに搭載されている現代的なクロノグラフムーブメントであるロレックスのCal.4130は、6.5mmと(ETA 7750よりも)はるかに薄い。

 そして、パワーリザーブは? さて、まず第一に、ムーブメントの基本的な特性であり、振動数や石数と並んで、自動車評論における馬力の数値と同じように考えることができる。極端なケースを除いて、車に座って運転したときの実際の総合的な体験については、ほとんど何も教えてくれないが、その体験には欠かせない要素だ。加えて、日常生活において時計に何を期待しているのかを知ることができる。例えば、72時間パワーリザーブの時計は、金曜の夜に時計を外して月曜の朝に再びつけても、まだ動作しているはずだ。

平凡なETA/Valjoux 7750 自動巻きクロノグラフムーブメント。

 ムーブメントのスペックを知ることで、そのムーブメントがどのように作られているのかを知ることができる。例えば、あるブランドのクロノグラフムーブメントについて、「メゾンの要求に合わせて独自に開発された」と書かれていたとする。その意気込みに拍手を送る前に、ムーブメントのスペックを見て欲しい。30mm×7.9mmとあれば、それだけで、最愛のメゾンはちょっとほらを吹いるのではないかと疑う必要がある。さらに、48時間パワーリザーブ、2万8800振動/時、25石と書かれていたら、それはもう……証明されたも同然ではないか。

 多くの場合、“専用”とされるムーブメントの輪列のレイアウト、調速機構、石の位置を、ベースキャリバーと思われるものと比較することで疑念を確認することができる。輪列のレイアウトと、それに伴う石の位置変更は困難だからだ。

 スペックを無視するのは簡単で、時計製造の技術的な側面は、多くの時計所有者や愛好家、さらには時計ライターにとっても、あまり興味深いものではないことは理解できる。しかし、それらの意味や理由を理解することで、時計をより楽しむことができる可能性がある。また、ブランドのウェブサイトや販売パンフレットに記載されている以上に、時計に何が使われているのかを正確に理解することにも役立つだろう(最後のパンフレットについては自分で言うのもなんだが、今時、販売用パンフレットを印刷する人なんているのだろうか?)。