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ドレスウォッチの世界において、タキシードダイヤルのデザインはその名のとおり“トレ シック”(フランス語でとてもおしゃれという意)と呼ばれ、古典的な存在であり続けている。タキシードダイヤルは、黒と白の濃淡のある色を、交互に配置した同心円のデザインコードが一般的だ。そのコントラストはまるで白黒のタキシードのような洗練された印象を与え、気品を漂わせる。あらゆるスティールやスポーツモデルが根強く浸透している現代では、タキシードダイヤルはカジュアルなトレンドとは対照的である。
フォーマルな服装に対するニーズが低下し、オフィスではカジュアルフライデーが登場、さらに飛行機でジューシークチュールのパジャマを着るようになることもあり、タキシードダイヤルを支持する人は以前よりも減ってしまった。だからこそ、私はこのダイヤルが大好きなのだ。
タキシードダイヤルのDNAは、1920年代初期のセクターダイヤルウォッチに直結している。セクターダイヤルウォッチの最も基本となる定義は、同心円を持った文字盤であることと、ミニッツトラックをほかの領域から離して配置していることである。文字盤を分けることで、目に心地よいコントラストをもたらす役割を持つ。
1930年代、アール・デコ(フランス語で近未来的な曲線が詰め込まれたものという意)と呼ばれる、デザイン意識の高い潮流が到来した。アール・デコはファッションや建築、工業デザインなど、時計も含めてほぼすべての分野に影響を与えた。近代性、技術革新、豊かな色合い、そして大胆な幾何学的な様式などを取り入れたスタイルである。これは先行するバウハウスムーブメントが、実用主義を掲げていたのとは対照的だった。
その後20年間、多くの時計メーカーがタキシードダイヤルを製作したため、アール・デコのものなら何でもすぐに手に入るようになった。これによりタキシードダイヤルのデザインは、気品と格式の代名詞となったのである。1930年代から1940年代に生まれたタキシードダイヤルの腕時計は、オメガ、レマニア、マーヴィンなどが代表的だ。しかし、最高傑作の誕生はまだ先だった。
A Week On The Wrist: ユニバーサル・ジュネーブ ポールルーターを徹底解説
ヴィンテージのユニバーサル・ジュネーブ ポールルーターが大好きだったため、2021年にこのモデルで、A Week On The Wristの記事を執筆した。
1950年代に入ると第2次世界大戦が終わり、世界は普段の状況に戻りつつあった。それに伴い、最も有名なタキシードダイヤルの時計が登場する。ユニバーサル・ジュネーブ ポールルーター(旧ポーラルーター)、ルクルト メモボックス リストアラーム タキシード、そしてチューダー オイスター プリンス タキシードの3本である。時計は1本1本異なるが、いずれもタキシードダイヤルの、洗練されたクラシカルなデザインでまとめられている。
ユニバーサル・ジュネーブ ポールルーターの伝統的なストーリーを繰り返す必要はほとんどないだろう。1954年に発表されたポーラルーター Ref.20214(このリファレンス以降、文献ではポールルーターに変更されている)は、ジェラルド・ジェンタによるデザイナーとしての最初の作品として広く認識されていて、彼がこのモデルを製作したのはわずか23歳の時だったという(2021年に傑作と呼んでいたほどだ)。ゴールドカラーのアワーサークルにブラックカラーのセンターが文字盤に立体感と質感を与え、またシャープなドフィーヌ針はまさにタキシードのリボンのような存在感だ。タキシード姿のジェームズ・ボンドがマティーニを飲んでいるような、そんな純然たる気品がそこにある。
タキシードに身を包んだルクルトのアラームウォッチ。Image: Courtesy of Matthew Bain.
ポールルーターの前には、ルクルト(ジャガー社の前)のメモボックス リストアラームがあり、ガジェットやテクノロジーに敏感な人たちに支持されていた時計だった。そのデザインと機能性は、1950年代半ばに世界を席巻したフューチャリズム主義に見事にマッチしていた。最初のモデルは、外側にあるアワートラックの周りに、ゴールドカラーの12・3・6・9のアラビア数字、そして中央には回転するメモボックスのアラームの三角形を配しているのが特徴だった。その時計は、ルクルトのCal.814を搭載し、ケースには18Kゴールドケースを採用していた。ポールルーターよりも伝統的な様式美を感じられたが、コントラストを強調した文字盤だったため、その日の気分でコンテンポラリーな印象を与える時計にも見えた。
チューダー オイスター プリンス “タキシード”
そして最後のピース・ディ・レジスタンス(フランス語で主役という意)は、チューダー オイスター プリンス タキシードである。言うなれば、この3つのなかで最もスタイリッシュかつ、汎用性が高く、ミッドセンチュリーなタキシードダイヤルのなかでも特に人気のあるモデルなのだ。このデザインは、凛々しさを持つポールルーターのモダニズムと、ルクルト リストアラームの金色に輝く伝統なデザインの中間に位置付けられる。
しかし残念なことに、1960年代に入ると郊外への適合というコンセプトに風当たりが強くなり、このスタイルの人気は衰えてしまう。さらに若い世代からはパッセ(フランス語で去年のという意)とも呼ばれるようになった。ドレスウォッチは、アメリカの中流階級や上流階級の生活を彩るほかの多くの装飾品と同様、もはや落ち着きのない多くの若者たちには望まれない、恐るべき支配体制の象徴となってしまったのだ。
しかし我々は今、新しい時代に生きている。クラシックでヴィンテージ感あふれるデザインは、ベーシックなSS製スポーツウォッチの愛好家の集団とは一線を画す、独自の反抗の形となった。かつてスポーツウォッチにタキシードダイヤルを採用することに違和感を覚えたように、今はその逆のことが起きているのだ。
現代におけるタキシードダイヤルの最高峰は、ロンジンの歴史的なアーカイブにある資料をベースにした、ロンジン ヘリテージ クラシック タキシード スモールセコンドと、ロンジン ヘリテージ クラシック クロノグラフ タキシードという、繊細なヘリテージアートから掘り起こしたものだ。それぞれのモデルは当時のインスピレーションとほとんど同じで、今あるヘリテージモデルのなかで最もクラシックな美しさを持つ、2タイプの文字盤を実現している。このふたつのモデルは、ジャズクラブやマティーニが盛んだった時代を彷彿とさせ、モダンなパッケージのなかに古典的なスタイルを表現している。私が考えるに、この2本のモデルは、ヴィンテージ風のタキシードダイヤルの時計に求めるものを、すべて備えていると思う。
現行のモダンなタキシードにちょっとしたインスピレーションを与えたロンジン。
確かに、カルティエ 「ロードスター」 タキシードダイヤルや、ロレックス デイトジャスト “タキシード”など、モダンなタキシードダイヤルを備えた、注目すべきほかの時計もいくつかあるのだが、それ以上にロンジンは、クラシックなタキシードダイヤルが持つ本来の魅力を最大限に引き出し、それを現代のパッケージとして再構築するという最高の仕事をした。
このようなクラシックデザインの素晴らしさは、格式ばった社会に関係なく、デザインそのものが普遍的であるということにある。我々の目はコントラストに引き寄せられるが、タキシードダイヤルはまさにその好例といえる。文字盤の色のコントラストも、カジュアルな世界のなかにドレスアップした人がいるようなコントラストも、時計は身につける人を映し出す。人間である以上、人はみな矛盾をはらんでいる。タキシードダイヤルの楽しみ方と同じで、自分の矛盾を受け入れることこそ、我々の日々の生活に活力を与えてくれるものであり、それはフランス語で“生きる喜び”を意味するのだ。
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