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Second Opinions ゼニス デファイが示す挑戦への揺るぎない意志

“眠れる森の美女”が、時計愛好家向けのニッチなブランドから未来を見据えたグローバルブランドへと変貌を遂げ始めた。

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LVMHウォッチウィーク 2022から早くも1週間以上が過ぎた。LVMHグループに属するブルガリ、ウブロ、タグ・ホイヤー、そしてゼニスの4ブランドが3月30日から4月5日にかけて開催予定のWatches and Wonders Geneva 2022に先駆け、オンラインで2022年の新作時計をいち早く発表。HODINKEEでは、これら新作を紹介する記事をまとめて早々に公開した。

 各ブランドからさまざまな新作が発表されたが、なかで最も筆者が興味を引かれたのはゼニスのデファイ リバイバル A3642、そしてデファイ スカイラインだ。時計の詳細は、ローガン・ベイカー(Logan Baker)がすでに濃密な記事を執筆し、魅力を余すことなく解説してくれているので、ぜひそちらをチェックしていただきたい。本稿ではこのふたつの新作に関する記事、そしてスイス本国プロダクト担当ディレクター、ロマン・マリエッタ(Romain Marietta)氏、そしてCEOのジュリアン・トルナーレ(Julien Tornare)氏へのインタビューを通して感じた、ゼニスの今とこれからについて筆者の考えを記していく。

1969年に誕生したエル・プリメロ、Cal.3019PHCの基本設計を今に受け継ぐCal.400。

ゼニスと聞いて、真っ先に何が思い浮かぶだろう。多くは「エル・プリメロ」と答えるのではないだろうか。言わずと知れたクロノグラフムーブメントの傑作だ(詳細は割愛するが、気になる人は、ぜひとも記事「エル・プリメロ、そしてゼニスをも救ったシャルル・ベルモの物語」を読んでみて欲しい)。実際、エル・プリメロはブランドの核を成すものだが、「ゼニスらしい時計は何か?」と問われると、これがゼニスであるというアイコニックなモデルはすぐに思い浮かばなかった。それはなぜか? 主力コレクションとしては以前からクロノマスターがあるものの、サイズ、ケーススタイル、ダイヤルカラーなど、それこそ外観はさまざま。加えて単にエル・プリメロを名乗るシリーズやエリートコレクションなどにも、エル・プリメロを搭載するモデルが散在。多種多彩であった反面、どれがメインなのかがぼやけていた。そのため、少し前までのゼニスには、わかりやすいアイコンが不在という印象が拭えなかった。実際、トルナーレ氏は過去のHODINKEEのインタビューで「ブランドの方向性がわかりづらい状況がありました」と答えている。

HODINKEE Japanによるインタビューに応じるゼニスCEO、ジュリアン・トルナーレ氏。2019年

 そんな状況が一変するのが2017年。トルナーレ氏がゼニスのCEOに就任してからのことだ。CEO就任以降、彼は進化したエル・プリメロムーブメントの発表と同時にコレクションの整理、リ・ポジショニングを推し進めた。現在、ゼニスの柱となるコレクションはデファイ、クロノマスター、パイロット、エリートの4つ(アイコンズを含めると5つ)。これらを軸に、例えばクロノマスターであれば、オリジナル、リバイバル、オープン、そしてスポーツなどいくつかのサブコレクションを紐付けている。結果、バリエーションは相当数あるにもかかわらず、各モデルにおける特徴の可視化がずいぶんと進んだ。

 付け加えると、トルナーレ体制となって以降、ゼニスは過去に販売してきた自社製品へ積極的に目を向け、そのデザイン的な特徴を現行コレクションに取り入れていった。クロノマスターを例に挙げると、クロノマスター オリジナルのデザインは1969年に初めてエル・プリメロを搭載したA386に範を取ったもの(ほかにもA384、A385などがあった)だし、昨年発表されて話題を集めたクロノマスター スポーツは1960年代に存在したA277、1988年から1996年にかけて製造されたデ・ルッカ、そして1995年に登場したレインボーといった名作のシグネチャーをディテール各所に盛り込んだものとなっている。

2022年新作の核を成す、新しいデファイ スカイライン。

 これはデファイコレクションにおいても同様だ。オクタゴンケースと12面ベゼルは、1969年に発売されたオリジナルデファイのひとつ、A3642が持っていたデザイン的特徴がインスピレーションの源(厳密に言うとオリジナルは14面ベゼルだった)である。この特徴を持つモデルとして、ひと足先にリリースされたのが昨年のデファイ エクストリーム。そしてデファイのなかでも柱となる重要なモデルとして今年発表されたのが、2年前から開発がスタートしたという新しいデファイ スカイラインだ。

 こうしたコレクションの整理とリ・ポジショニングは見事に成功を収めていると言っていいだろう。特にクロノマスター スポーツはその人気に生産が追いついておらず、世界中でデリバリーが遅れている。国によってまちまちだが、納品までに4〜8ヵ月ほど待たねばならない状況だという。この状況を受け、先日のインタビューでトルナーレ氏は次のように語った。

 「クロノマスター スポーツだけでなく、スカイラインもすでに多くの発注をいただいており、滑り出しは好調です。ですが、生産については頭の痛い問題となるでしょう。なぜこのような状況になっているのか、説明させてください。ゼニスは進化を遂げていますが、決して変わってはいけないことがあります。それは生産における制約にもなっていますが、ゼニスの時計はすべて自社製ムーブメントでなければならないということです。外部調達は一切していませんし、これからもそれはありません。ムーブメントを外部調達すれば、生産はどれだけ楽になることでしょう。もちろん利益が上がると思いますが、それだけは絶対にしないというのが、現在のゼニスの方針です。成長の阻害要因を排除することが私の仕事であり、正しい道筋で成長を遂げていくことがおそらくユーザーの皆様が我々に求めていることだと思いますし、ゼニスの真正性を高めることに繋がると考えています」

2022年はデファイの年となります。

デファイのリ・ポジショニングを行うのが

今年の大きな目標です。

– ゼニス CEO, ジュリアン・トルナーレ氏

 さらに氏は続ける。

 「2021年を振り返ってみると、ゼニスにとって記録的な実績を収めることができた1年となりました。この原動力となったのがクロノマスターのリ・ポジショニングの成功です。リバイバルをはじめ、オリジナル、スポーツなどさまざまなモデルをリリースしました。そのような形でクロノマスターを大きな柱とすることによって今日の成功がもたらされたと言っていいでしょう。そのため、今後もこの戦略は踏襲していきたいと考えています。そういった意味で、2022年はデファイの年となります。ですから、今年はこのデファイをクロノマスターと同じようにしっかりとした大きな柱として育てていくために、欠けている部分を充足させ、新しい価値を注入し、デファイのリポジショニングを行うのが今年の大きな目標です」

 コロナ禍においてもゼニスのビジネスは大きな成長を遂げることができたと、トルナーレ氏は振り返る。具体的な数字は差し控えるという前置きはあったが、2021年の売り上げの数字は2019年と比べて2ケタ増、2020年比では3ケタ増だという。

昨年リリースされたクロノマスター スポーツ。今なお多くのバックオーダーを抱える状況だという。


ゼニスのリ・ポジショニングが功を奏した背景

コレクションのリ・ポジショニングは、なぜ成功したのか。もちろん、製品が魅力的であるということは言うまでもない。この成功の根本には戦略的なモデル展開、そしてユーザーに対する丁寧なコミュニケーションにあると筆者は思っている。すなわち、ヒストリカルピースに敬意を表したリバイバルモデルを投入するだけでなく、同時にヒストリカルピースからデザイン的特徴を受け継ぎつつ新たな革新性を盛り込んだ挑戦的モデルを同時に投入することで、コレクションの歴史と真正性をしっかり訴求しているという点だ。リバイバルモデルは言うまでもないが、クロノマスター オリジナルもスポーツもムーブメントに新世代のエル・プリメロ Cal.3600を搭載している。またデファイ スカイラインでは、一見スモールセコンドに見える9時位置のインダイヤルは10秒で1周するユニークな10分の1秒インジケーター。そのムーブメントはCal.3600をベースにしたCal.3620という新ムーブメントである。トルナーレ氏はこう話す。

デファイの歴史の正統性をアピールするべく製作されたデファイ リバイバル A3642。

 「デファイ スカイラインとリバイバルは同時に皆様にご案内しなければいけないと考えていました。それはなぜか? デファイというコレクションの全体像をしっかりとお伝えしたいからです。デファイを活性化させ、新しいポジションを与える上で、当然ながらこれまでの主要なコレクションを振り返り、さまざまなオプションを検証しました。そして、デファイを再定義したのです。デファイはゼニスにとってクリエイティビティの粋であると。ベゼルの形状、非常に画期的なスタイルとダイヤルデザイン。インデックスも非常に特徴のある形状となっています。ブレスレットもそうです。1960年代後半というのは、時計づくりが本当に大きく花開いた時期だったと思いますが、それを特徴づけるのがゼニスにとってデファイではないかと考えたのです。そして、そんな当時のイノベーションの粋であるデファイを現代に橋渡しする上で、過去の名作を皆様に見ていただき、背景を理解いただいた上で、 新しいスカイラインをお見せしたいという考えがありました。当時のクリエイティビティの粋だったデファイのオリジナルをリバイバルでお伝えし、そして新しいラインを展開することが論理的に正しい道筋だったと思ったのです」

 「スカイラインにはエネルギーがあると感じています。それは大都市で感じられる、必要とされるエネルギーです。このスカイラインを身につけていただくことで、大都市の生活を象徴するような建築工学的なデザイン、そしてエネルギーを感じてもらいたいと考えていますが、その象徴のひとつがエル・プリメロです。と言っても、それはこのムーブメントをスケルトンにして見てもらおうということではありません。大切なのは感じてもらうこと。9時位置のインダイヤル、小さなカウンターで10分の1秒で時を正確に刻むエル・プリメロが脈拍を打つように動き続けることで、人間の持つエネルギーを表したようなパルスを、バイブスを感じることができる。スカイラインはそういったモデルに仕上がっていると思います」

9時位置のインダイヤルはスモールセコンドではなく、ベースとなるエル・プリメロ Cal.3600が備えている1/10秒カウンターを生かした10秒で1周するユニークな10分の1秒インジケーターだ。

 スカイラインが発表された当初、筆者は10分の1秒インジケーターの採用にとても懐疑的だった。それが何の役に立つのか? 普通のスモールセコンドでよかったのではないか? と。だが、トルナーレ氏の話を聞き、また実際に時計に触ることで10分の1秒インジケーターの採用に心から納得することができた。きっとありふれたスモールセコンドでは印象に残ることもなかったし、感動はしなかっただろう。機能的かと言われたら肯定はし難いが、10分の1秒インジケーターの動く様は思わず見入ってしまうし、そんな時計を身につけるということはとてもワクワクする体験だった。高級時計において、こうした時計をつける楽しさ、ワクワク感を提供できるか否かというのは極めて重要なポイントだと思う。

 彼は過去のとあるインタビューでこんなことを言っていた。「長い歴史を持つ多くの企業は、安心できるため、過去を繰り返す傾向がある。過去のリバイバルやトリビュートはある意味、非常に安全で、現在の場所にとどまることができるが、それはいずれ枯渇するもの。それだけを続ければブランドは死ぬだろう。そしてダイナミックで革新的であり続けること、21世紀の時計を作り続けることがブランドを未来へと導くことができる。イノベーションを歴史からの逸脱ではなく、その一部として見ることが重要で、本物であり続けることはブランドにとって絶対に不可欠である」。そして「ラグジュアリーとは過去を繰り返すことではない。革新をもたらすこと、創造性をもたらすことによって、ラグジュアリービジネスは新しい世代にも興味を持ってもらうことができる」

 まったくもってその通りだ。過去の繰り返しではなく、常に革新的なものを提案し続けることこそ、歴史あるラグジュアリーブランドの本質だと思う。クロノマスター スポーツにせよデファイ スカイラインにせよ、発表当初は“とある時計に似ている”と揶揄されていたが、それはまったく的を得ていないものだと筆者は思う。だが幸か不幸か、これらの新作はユーザーにインパクトを与えることに成功した。衰えぬクロノマスター スポーツの人気ぶりや、デファイ スカイラインの好調な滑り出しは、新しいユーザーの取り込みにしっかり結びついていることの表れと言っていいだろう。


エル・プリメロとともに進化を続けるゼニス

 「より真正な、より価値のあるブランドを嗜好するというのがコロナ禍で見られた顕著な消費者行動です。日本の消費者の方々について言うと、時計に関する知識が非常に深く、技術的なことをよくご存じで、我々はそうしたゼニスをよく知る方々に向けて注力してきました。つまり、ゼニスが真正性、真正な価値、そしてブランドの魅力をしっかりと維持していることを皆様が理解してくださり、我々はその魅力をさらに向上させることに努めてきたのです。日本は言うまでもなくトップマーケットのひとつですが、中国でもアメリカでもヨーロッパでも、そして中東においても記録的な業績を収めることができました。これまでゼニスはどちらかと言えばニッチでコストパフォーマンスの高い、真正なDNAを継承するブランドとして知られていました。今日の成功は、ようやくグローバルブランドへと生まれ変わるきっかけとなったのではないかと振り返っています」

 各マーケットで新規層をうまく取り込むことに成功したゼニス。一方で、トルナーレ氏は「若干の若返りはあったかとは思うが、顧客層の変化という意味ではあまり変化はなかった。特に日本の場合、購入層はそれほど大きくは変わっていないと思っている」ともコメントしていた。それは挑戦的な新作が、旧来のゼニスファンにも認められていると捉えることができよう。戦略的なモデル展開、そして歴史に基づいたユーザーとの丁寧なコミュニケーションによって着実に地盤を固めつつあるゼニス。そんなブランドが目指す未来は明るい。何せエル・プリメロという唯一無二の武器に敬意を払いながら、決してそれに胡座をかくことなく、デファイ スカイラインのような、つける楽しさとサプライズを込めた時計を生み出しているのだから。

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時計の詳細は、ゼニス公式サイトへ。