時計という不思議な世界を取材した短い経験でわかったことがひとつある。それは自分自身で意外に思うことも「あり」だということだ。自分の好みは決まっているから他の時計を受け入れることはない、などと決めつけないこと。私は「スティール製ブレスレットのスポーツウォッチ」が好きで、これまでもそうだったし、たぶんこれからもそうだろう。しかし、だからといって、たまに自分のテイストでない時計が目にとまらないわけではない。それはたいていゴールドのもので、私の場合、それはイエローゴールドなのだ。
LVMH Watch Weekに向けたウブロの製品プレビューに足を踏み入れたときのこと。ニューヨークの摩天楼にあるブランド担当者が待つ部屋では、ライトで照らされたどちらかというと質素なテーブルに、ビュッフェのように新作が広げられていた。
サンブルー、インテグラル、ビッグ・バンなど、すべての時計がそこにあった。私がウブロから知り、期待したものを実際に目にすることができた。超モダンで、しばしばスケルトンが用いられ、ケースサイズも大きくなりがちなデザイン。そして、ふと下を見ると、プレゼンテーションではあまり注目されなかった作品が目に飛び込んできた。イエローゴールドの輝きと、落ち着いたマットブラックの文字盤がただそこにあった。以前にも見たことがあるはずだが、どこかが違う......そんな時計だった。
「あれは?」と聞いてみた。
「ああ、クラシック・フュージョンのイエローゴールドのこと?」
そう、まさに私が望んでいたものだ。
その時計は、控えめなマットダイヤルとサテン仕上げのゴールドケースで私に語りかけてきた。異世界のような時計が溢れるなか、この時計はシンプルであることを訴えてくる。手に取ると、すぐにその重みを感じた(ゴールドだからなのだが)。ケースは非常にウブロらしく、下向きに傾斜のついた厚いエンドリンクが特徴だ。この時計は、ウブロの新しいイエローゴールド・コレクションの他のふたつの時計、ビッグ・バン ウニコやスピリットオブ ビッグ・バンと並んで置かれていた。
これがウブロの45mmだったら、私の腕では歯が立たない。しかし、私はすぐにこの時計が42mmであることを知った。イエローゴールドでは初めてだ。クロノグラフでありながら、1980年に発表されたウブロのオリジナルモデルのエスプリが感じられた。ブランドを構築した土台となったものだ。
プレゼン会場を後にしてようやく我に帰ると、心の遠くでかすかな声が聞こえてきた。「週末に持ち帰ってレビューしてみようか?」この2万6800ドル(日本での税込販売予価は313万5000円)かかる質問に、私がどう答えたかは、ご想像にお任せしたい。
その週末じゅう、私はこの時計を身につけ、この時計のどこが好きなのかだけを抽出しようとした。理論的には、私の嗜好とはまったく逆だ。ゴールドの輝く世界に心を奪われたとしても、それはロレックスのデイデイトのような、よりクラシックなものになることが多い。最も冒険的なものでは、ニクソンが拒否したイエローゴールドのスピードマスターだろう。
で、どうだったか? このモデルは1980年に発売されたウブロのオリジナルモデルが、時を経てクラシックに生まれ変わったようだ。今、このゴールドのクロノを見ると、オリジナルのデザインの影響が感じられる。それは時代を超越しているのだろうか? そうかもしれない。イエローゴールドとラバーのこの特別な組み合わせは、40年以上経った今もなおここにあり、そして機能している。
私はマットな文字盤に目がないが、この時計もそうだ。しかしそれ以上に、ダイヤルにゆとりがある。時刻を表示しながら、クロノグラフは容易に読み取ることができるのだ。ウブロはこの時計がどれだけオリジナルの精神を呼び起こすかを強く意識しており、シンプルであることを選択した彼らに私は拍手を送りたい。
一方で、ムーブメントであるCal.MHUB1153には、仕上げの面で多くの要望がある。もし、私に選ぶ権利があるなら、この時計はクローズドケースバックがいい。
サテン仕上げとポリッシュ仕上げを組み合わせたゴールドの表面や、ブラックのミドルケースなど、ケースの作りには高級感がある。通常、視覚的な魅力は文字盤のデザインに限られるが、ウブロの場合は違う。
そして、時計とラバーストラップをつなぐドラマチックなエンドリンク。これは間違いなく、クラシック・フュージョンのビジュアル的特徴だ。42mmのサイズでは、いろいろ取り入れるのは難しいかもしれないが、私はこのデザインが他と違っていて気に入っている。イエローゴールドの華やかさは、いつもと違う雰囲気にマッチするのだ。しかしこれが45mmだったらそうなるか非常に疑問に思う。45mmだと、私の手首が金色のハイデザインな手錠にはめられたような感じに見えそうだ。
妻のカシアも、この時計を楽しんだようだ。つけると格好いいということは、私も妻も実証済みだ。42mmというサイズも、彼女の手首にはぴったりだったと認めよう。(リード画像参照)
時計界では、ウブロについて、あるいはウブロと同価格帯の他のブランドとの比較について、非常に多くの議論が交わされている。私にとってウブロは、価格、デザイン、またはその両方において、常に創造的破壊者のような存在だった。しかしこの時計は、ウブロとしてはかなり穏やかな印象だ......ウブロとしては。現実の世界では、この時計は決して気づかれずにはいられないだろう。私と違って派手である。私がこの時計を好きなのは、それがちょっとしたファンタジーだからかもしれない。もし、これが私のデイリーウォッチだったら、私はどうなってしまうだろう?
ウブロ クラシック・フュージョン クロノグラフ イエローゴールドは、42時間パワーリザーブの自動巻きクロノグラフCal. MHUB1153 を搭載。ケースは42mm、18Kイエローゴールドで、ラバーストラップが装着されており、価格は313万5000円(税込)。
Photos, Kasia Milton
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