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Three On Three シチズンの機械式腕時計 毎日つけるのにふさわしい1本は?

シリーズエイト、プロマスター、そしてシチズンコレクション。実は多彩なコレクションを展開しているシチズンの機械式時腕計のなかでも、特に個性が際立つ3本を比較してみた。


シチズンの機械式

シチズンの時計と言えば、光を電気に換えて時計を動かすエコ・ドライブのイメージが強いかもしれないが、それだけではない。昔から機械式腕時計も作っている。数万円で購入できる買いやすいものも手がけているが、実は自社でヒゲゼンマイを製造できる能力を持つ実力派でもあり(ヒゲゼンマイ製造には高い工作精度を必要とするため、自社工場で生産できるメーカーは世界でも限られている)、以前は腕時計の部品から時計の組立・調整まで自社で一貫製造できるマニュファクチュールとしての実力を遺憾なく発揮した本格機械式ムーブメント、Cal.0910を搭載したザ・シチズン(現在は生産終了)を手がけるなど、ハイエンドなコレクションも手がけてきた。

 加えて、昨年は再び新たな機械式時計開発を推進。高級機の代名詞とも言うべきフリースプラング方式を採用し、クロノメーター規格を超える平均日差-3~+5秒の高精度と優れた審美性を兼ね備えたCal.0200の発表したほか、実に8年の時を経て、新たな自社製機械式ムーブメントとともにシリーズエイトブランドをリローンチするなど、機械式時計コレクションが大きくテコ入れされた。

 その結果、シチズンの機械式コレクションは以前と比べて随分と充実した。特に10万円〜20万円台のプライスレンジでは、前述のシリーズエイトのほか、プロフェッショナル向け本格スポーツウォッチブランドのプロマスター、どんなシーンにも合わせやすいシンプルデザインの腕時計を提案するシチズンコレクションと、それぞれの個性とマッチした機械式腕時計が新たに投入され、多彩なラインナップを展開している。そこで本企画では、ほぼ同じ価格帯で展開しているシリーズのなかから特徴的なモデルをエディター3人が1本ずつ選び出し、「毎日つけてもいい、シチズンの機械式腕時計はどれか?」を3人で検証する。


シリーズエイト 870 メカニカル
By Yu Sekiguchi

2008年に“引き算の美意識”をコンセプトに登場したシリーズエイト。2021年に第2種耐磁性能を備えた新開発の自社製自動巻きムーブメントを投入し、機械式腕時計コレクションとして再始動した。ファーストコレクションとして870 メカニカル、830 メカニカル、831 メカニカルのみっつのスタイルが発表されたが、今回は870 メカニカルをピックアップ。時計の詳細はこちら

ファースト・インプレッション

ついに日本のブランドからも、手の届く価格帯で一体型ブレスレットを備えた機械式時計が登場したと、単純にワクワクした時計。僕が受けた第一印象は、工業プロダクトとしてよくできた美しさがある、ということ。インダストリアルな、日本のよくできた国産車のような雰囲気がある。一方で、機械による切削など工業的な製造プロセスの追求もさることながら、遊びの効いたデザインを加えることでマジメなだけではない時計を生み出せることがシチズンの真の価値なのではないかと、僕は常々思っている。

 シリーズエイトの870 メカニカルでは、ベゼル部分に配されたブラックの耳のようなパーツが特徴的だ。これは、磁力から時計本体を保護するようなイメージからデザインされたと聞いたが、その経緯以上にケース上下、ラグに相当する部分に大きく取られたポリッシュ面と調和し、ひと目でこの時計だと判別できるような個性を与えている。

デザイン、外装について

 基本的に機械切削・加工で作られた時計ながら、ケースに施されたポリッシュとサテン仕上げのコントラストがしっかりついている。もちろん、この仕上げがどの程度のものなのか、価格以上の価値があるのかどうかは、どんな時計を所有しているか、手にしてきたかによって判断が分かれることだろう。金属の質感や仕上げを求める人にとっては、いかに本機が20万円ほどとはいえ物足りなさを感じるかもしれない。特にケースサイドからリューズのあたりは、よく言えばかなり無骨でそっけない気がしてくる。

 ただ、このあとに続くが、シリーズエイトはあくまで総合的に日常使いすることを目指した時計だと予想するため、ケースに関して機械切削を極めてここまでの水準に引き上げたことに拍手を贈りたい。初めて手にする機械式時計として満足度は高いだろうし、仕事・プライベートを問わずシームレスに気を使わず使いたいという人にはかなりオススメできる。

ムーブメントについて

 1万6000A/mまでの第2種耐磁性能を備えているというのがこのキャリバー最大の特徴。これは、日常生活で手放せないスマホやPCにかなり接近しても(具体的には1cm)異常を起こさない性能があるという。また、今回シリーズエイト用に仕立てられたこのCal.0950は、さらに50時間のパワーリザーブを持ち、1、2日使わずにいても動き続けてくれる。このあたりにも、シチズンがこの時計を市民の日常生活に向けたものであることが手にとるようにわかる。2021年はシチズンの機械式時計リブートの年だったが、現代人に向けたブランド哲学を体現するようなキャリバーだと思う。

実際につけてみて

 ケースとブレスレットのつくりに差がある時計は意外に多い。具体的には、ケースとブレスレットの厚みがマッチしていないようなもののことだが、本機はさすがにイチから作られただけあり、ブレスレットが何かの流用品であるような雰囲気は一切ない。870 メカニカル自体が10.9mm厚と薄型設計であるため、ブレスレットもそれに合わせて厚みを抑えている。ブレスレットのコマに入った筋目の程よくあら目でいい具合だ。ケース径は40.8mmで、41mmを切るくらい。最近の時計としては小さい部類ではないが、ケースに入る大きめのカッティングによって腕にのる面積は小さく、またベゼル部分に厚みがあるため文字盤がコンパクトになっている。視覚的にも小ぶりな印象を受けるせいか、一日中腕につけていても煩わしさを感じることはないだろう。

 外装、ムーブメント、ブレスレットとみっつのポイントについて書いてきたが、これらのバランスこそがシリーズエイトで追求されたことだと僕は思う。現代の市民が日常的に毎日つける時計とは何か? という問いに、シチズンが出したひとつの回答だと感じる以上、毎日つける機械式時計として僕がオススメする1本はコレだ。


プロマスター メカニカル ダイバー 200m
By Kyosuke Sato

ISO規格に対応する200m潜水防水を備えた本格ツールウォッチ。ムーブメントにはシリーズエイトの831 メカニカルにも採用されている強化耐磁仕様のCal.9051を搭載。 外装にはシチズン独自の表面硬化技術を施したスーパーチタニウム™を使用する。時計の詳細はこちら

ファースト・インプレッション

 自分でこの時計がいいと選んでおいて、こんなことを言うのも何だが、最初に見た印象は…「デカくて重そう!」だった。ベゼルが分厚く、大胆に凹凸が施されているのもあると思うが、とても大きく存在感があり「これを毎日つけたいと思うだろうか?」と感じたのは偽らざる本音だ。実際、スペックデータを見るとケース径は46.0mm、厚みは15.3mm(設計値)もある。筆者は比較的腕ががっしりしている(手首周りサイズは約19cm)のであまり違和感は感じなかったが、細腕の人にはトゥーマッチかもしれない。
 だが、そうした見た目とは裏腹に、手に取ってみると、この時計は驚くほど軽い。本機の重さは105g。金属ブレスレットではなくウレタンストラップであることを考慮しても、このサイズ感からするとかなり軽量な部類だと言えるだろう。

デザイン、外装について

 ケースもベゼルもダイヤルも、この時計はとにかく立体的なデザインと外装であるのが最大の特徴だ。かなり分厚いラグとケースは、サイドにまで刻みが施された、これまた分厚いベゼルをしっかりとホールドする構造になっている。サイドから見ると台形のようなフォルムだ。リューズは今回取り上げた3本中唯一のねじ込み式。大きなリューズには格子状のパターンを施すことでグリップ力を高めており、わかりやすく“しっかり締めた”感覚のあるねじ込みリューズは精神衛生的にも好ましい。一方、ねじ込み式のケースバック側は立体的ではあるがフラットな形に整えられており、ダイヤル側の見た目に反してすっきりとした印象だ。

 ベゼルには深いピラミッドシェイプの装飾が施されていることに加えてダイナミックなアラビア数字がエンボス状に浮かび上がり、さらに数字と交互にあしらわれたビスが無骨な雰囲気を強調している。ダイヤルに目をやると、ベゼルと同様にピラミッドシェイプの装飾が施され、絶妙なグラデーションカラーが存在感をより際立たせている。また、ベゼルの起点、時・分・秒針、そして3時位置の日付表示の両サイドを含めて、12のインデックスすべてに夜光がたっぷりと施されており、暗所でも瞬時に時間が判読できるほど強力に発光する。

 筆者はシチズンの時計が大好きだ。それゆえ、人より少し贔屓目に見てしまうところがあるのは認めよう。だが、そんな筆者であっても、本機のベゼルに採用された数字の視認性は決していいとは言えない。いや、はっきり言おう。ベゼルの視認性はよくない。日中や光が当たる環境で見るぶんには数字を読み取ることができるが、少しでも光が当たらないと途端に判読することが難しくなる。
 あくまでも日常的につける時計という位置づけなのであれば、それほど気にはならないかもしれない。だが、時計のスペックは明らかに本格的なツールウォッチなのだ。例えば、数字の部分だけ色を変える、あるいは数字に夜光を盛り込むといった仕様でもよかったのではないだろうか? この点は改善の余地がありそうだ。

ムーブメントについて

 本機はシースルーバック仕様ではないため、搭載ムーブメントを見ることはできないが、最新鋭の自社製自動巻きを採用している。シリーズエイトの831 メカニカルにも搭載されているCal.9051だ。調整精度やパワーリザーブはシリーズエイトの870、830 メカニカルのCal.0950に及ばないが、同じく1万6000A/mまでの第2種耐磁性能を備えている。スーパーチタニウム™ケースに、本格的なツールウォッチのスペック、加えて新型の自社製自動巻きムーブメントを搭載して13万2000円(税込)というプライスは、かなりコストパフォーマンスが高いと思う。

実際につけてみて

 いい意味でファースト・インプレッションを裏切る時計だった。見た目にはかなりボリューム感があるが、ケースやベゼルはチタン製、そしてストラップはウレタン製でびっくりするくらい軽いのだ。

 筆者はシチズン独自の硬化処理技術であるデュラテクトを施した、チタンケースのエコ・ドライブ プロマスター ダイバーズウォッチ(PMD56-2981。すでに生産終了の時計)を長年使っている。それこそ実際につけて海に潜ったり、かなりガシガシ使い込んでいるのだが本当に傷がつきにくいのだ。かれこれ10年以上も経つが、目立つような傷はいまだについていない。スーパーチタニウム™ケースを備えた本機は、筆者の所有するPMD56-2981よりも一層進化したもので、さらに傷に強くなっている。すぐに時計に傷をつけてしまう筆者がとても魅力的に感じたポイントだ。

 厚みは若干気になるものの、ケースフォルムは台形で安定感があり、ムーブメントが収まる位置は手首側に近く、重心が低い。加えてラグはかなり短いため、大きな時計であることを忘れてしまうほど腕なじみがよかった。軽くて腕によくなじむこの時計は、毎日つけてもストレスを感じないだろう。


シチズンコレクション メカニカル
By Masaharu Wada

どんなシーンにも合わせやすいベーシックな時計が持ち味のシチズンコレクションとしては異色の、銀箔と漆を用いた個性的なダイヤルを採用したモデル。2種類のダイヤルをラインナップするが、本企画では鈍緋色(にびひいろ)をセレクト。時計の詳細はこちら

ファースト・インプレッション

 毎日つけるという条件で時計を選ぶなら、直感で格好いいと思えるかどうかは重要なポイントだと僕は思います。スペックももちろん大切な要素ですが、日常のなかでふと視線を落としたときに笑みが溢れてしまうような、そんな1本を選びたいものですよね。今回シチズンの機械式時計をいくつか見たなかで、思わず手を伸ばしたのが、このシチズン コレクション メカニカル「鈍緋色(にびひいろ)」。紅葉した森林の薄暮をイメージしたという印象的な文字盤は、1900年創業の老舗の漆メーカーである坂本乙造商店との共同開発によって生まれたもの。

 最初は文字盤の質感に引かれて手に取ったのですが、毎日楽しむ時計としてはもちろん、初めての機械式時計としても最適な満足感の高い1本であることがわかりました。

デザイン、外装について

 鈍緋色のケースは、直径40.5mm×厚さ14.1mmのステンレススティール製でデュラテクト加工が施されています。一見するとシンプルですが、ミラー仕上げとサテン仕上げの組み合わせによって立体感が演出されているのがわかります。ラウンドケースは、オン・オフ問わず毎日つけることを考えるとスタンダードで使いやすい選択肢でしょう。ベゼルは細く開口部が広く取られているため、この時計の主役である銀箔漆文字盤がよく映えます。

 ほかにはない独特な文字盤は、ベースとなる金属板に漆を塗り、硫化させた銀箔をまぶすように載せ、さらにその上からぼかし塗装を重ねることで作られます。硫化銀箔の緑、赤や黄色といった色合いが複雑に重なり合ってできた班柄は、ひとつひとつ職人によって手作業で仕上げられるため、ひとつとして同じものは存在しません。文字盤外周の深い黒が額縁効果となり文字盤を引き立てるとともに、奥行き感が生まれます。光の当たり方や角度、見る時間帯によってさまざまな表情を見せてくれる文字盤は、見ていて飽きません。

 文字盤の魅力は、ユニークなテクスチャだけではありません。僕がとても気に入ったのは、ミラーとマットの異なる仕上げを組み合わせたドーフィン針です。視認性が高くなるだけでなく、写真映えもよくなるため、時計好きとして日々写真をSNSにアップする僕としては、こうした部分も嬉しいポイントです。また、文字盤上の6時位置に24時間計、10時位置にはパワーリザーブインジケーターが配されており、とても機能的。確かに多くの要素があるのですが、煩雑さは一切感じさせず品よくまとまっています。

 ストラップは型押しのブラックカーフレザーで、両プッシュ観音開きタイプのバックルが付属します。サイドに入ったステッチに遊び心があり、カジュアルな装いにもフィットしそうです。

ムーブメントについて

 内部に搭載されるのは、自動巻きCal.9184。最近は同じ価格帯でもロングパワーリザーブのものも多いため40時間というのは少し物足りなさを感じますが、毎日使うのであればそれほどデメリットにはならないでしょう。

 ケースバックは、トランスパレント仕様のためムーブメントを鑑賞することができます。ソリッドケースバックにすればケースの厚みをもう少し抑えられますが、ローターやテンプの動く様子を眺められるのも機械式時計を所有する楽しみのひとつ。毎日つける時計なら、そうした楽しみはひとつでも多いほうがよいかもしれません。

実際につけてみて

 ケースサイズの数字だけ見ると僕の15.5cmと細い手首には少し大きいかもと思いましたが、実際につけてみるとそんなことはなくつけ心地も良好。手首の上での存在感があり、文字盤が大きいため鈍緋色の文字盤についつい見とれてしまいました。今回は試すことはできませんでしたが、自分好みのストラップやブレスレットを装着したときにどんな印象になるかは気になるところ。

 なお、もっとシンプルで控えめなものが好みであれば、同型で繭色というモデルもラインアップされています。


真っ向勝負

今回取り上げた3本のスペックデータを比較しやすいように一覧にしてみた。同じ機械式腕時計と言えども、それぞれ本当に異なる特徴をもつことが見てとれる。


最終的な結論

 3本とも違った個性と魅力を持っており、本当に甲乙がつけがたい。特に今回の企画のように「毎日つけるのにふさわしい1本」というテーマだと、より一層悩ましい。

 例えば、毎日つける時計の条件として、高精度であることを求めるならシリーズエイトの870 メカニカルが最もふさわしいだろうし、傷など気にせずガシガシ使いたいのであれば、プロマスターのメカニカル ダイバー 200mがいいだろう。そして充実した機能や、思わず見惚れてしまうような質感・ディテールを求めるなら、シチズンコレクションのメカニカルモデルはぴったりの選択と言える。

 唯一、懸念材料になるとしたら価格だろうか。取り上げた3本のなかで、シリーズエイトの870 メカニカルだけが20万円を超える価格設定となっている。だが、この時計はブレスレット仕様であり、ムーブメントもほかの2本よりワンランク上のものが搭載されている。そうした点を考慮すると決して高くはないだろう。また、付け加えるならシリーズエイトの870 メカニカルのディテールはほかの2本に比べて一段上に思われた。ラッカー仕上げのダイヤルは表面がきれいに磨き上げられており、極めて平滑で歪みは見当たらない。立体的にカットされたインデックスをもち、針はポリッシュとヘアラインに磨き分けられており、非常に高級感がある。また高精度ウォッチのセオリーに則り、針がきちっとインデックスにリーチしている点も見逃せない。

 さて、今回のテーマは「毎日つけてもいい、シチズンの機械式腕時計はどれか?」である。純粋に毎日つける、そして現代的なライフスタイルにふさわしくシームレスにつけられる時計という観点からすると、さすがにプロマスターはカジュアル感が強い気がするが、例えばシチズンコレクションならストラップをファブリック素材に換える、あるいはブレスレットに換えたりすることで幅広く楽しむことができそうだ。その点、シリーズエイトの870 メカニカルは流行のラグジュアリースポーツウォッチのようなテイスト、そして削ぎ落とされたシンプルなデザインを特徴としており、仕事・プライベートを問わずそのままシームレスにつけることができる汎用性を備えていると言っていい。シーンを選ばず毎日つけることを想定した今回のテーマなら、シリーズエイトが1歩リードしているのではないだろうか。

Photographs by Keita Takahashi