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Inside The Manufacture ショパール マニュファクチュール、そしてメイランの本社ファクトリーに潜入

家族経営、そして独立系経営だからこそ可能な、真摯だが情熱にあふれた時計づくりがそこにあった。

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ミッレ ミリアの興奮冷めやらぬなか、筆者はショパールのマニュファクチュール取材のためにスイス・ジュネーブを目指していた。ショパールはスイスのフルリエとメイラン(ジュネーブ)、そしてドイツのフォルツハイムに計3つのファクトリーを有するが、今回取材することができたのはスイスのフルリエとメイランにある2カ所。ブレシアからジュネーブへと滞在先を移し、まずはフルリエを、翌日にメイランのマニュファクチュールを取材するというスケジュールが組まれた。

イタリア・ブレシアからジュネーブまではクルマで5時間ほどかかる。お昼にブレシアを出発し、イタリアとスイスにまたがるモンブランを越えて次なる滞在先のジュネーブに着いたのは夕方。この日は取材のない移動日となった。


ショパール マニュファクチュール

ショパール マニュファクチュールが入る建物には、フェルディナント・ベルトゥーのファクトリー、そしてカリテ フルリエ財団の施設(ショパールからは独立している)も入る。

建物に入ってすぐのロビー横には初のカリテ フルリエ認定を取得したCal. L.U.C 9.96(現L.U.C 96.09-L)を搭載する世界限定250本、ローズゴールドケースのL.U.C カリテ フルリエが展示されている。

フルリエはジュネーブから北に電車で2時間、クルマで1時間半ほどかかる山あいに位置するのどかで小さな町だ。古くから時計製造で栄えた土地でもあり、かつてはインバー合金やエリンバー合金を開発し、いわゆる“ギョームテンプ”の生みの親として知られるノーベル賞受賞の物理学者シャルル・エドワール・ギョーム博士を輩出したほか、現在はショパールを筆頭にパルミジャーニ・フルリエ、ボヴェ、そしてムーブメント製造会社のヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエなどがこの地に拠点を構えている。

 ショパール マニュファクチュールはフルリエ駅のほど近く、駅から歩いて数分ほどに位置する4階建てのガラス張りの近代的な建物、そして隣接する古くからある建物で構成されている。同マニュファクチュールが設立されたのは1996年。ショパールの自社製ムーブメントであるL.U.Cの製造に特化したファクトリーとして誕生した。

 現在、建物はすべてショパールの所有となっているが、1993年にマニュファクチュールプロジェクトがスタートした当初は、ほかの会社も入居する建物のワンフロアを間借りする形だったという(なおこの建物は2000年にショパールがすべてを購入し、現代的な要件を満たす作業環境と設備を確保するために改装された)。建物のなかに入ると大きく“CHOPARD MANUFACTURE”の文字があしらわれた入口や、すぐそばにネームプレートが見ることができるが、これはその当時の名残りらしい。

 このショパール マニュファクチュールでは研究・開発からパーツ加工(メインプレートなど。すべてのパーツではない)、装飾、組み立てに至るまで、L.U.Cムーブメントの製造に関するすべてが行われているほか、メティエダールを担うエナメルアーティストやエングレーバーも在籍しており、ビスポークのユニークピースなども製造されている。ここはまさにショパールにおけるオートオルロジュリーの心臓部なのだ。

 それだけに取材制限はかなり厳しかった。撮影を許可されたのは外観や各フロアの廊下など一部のみ。肝心のマニュファクチュール内部の様子はほぼ撮影NGであったため、掲載が可能な広報画像を交えながら、ここでどんなことが行われているかレポートする。なお、フロアの一部にはショパールとは独立した形でクロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥーのファクトリーも入居しているが、本稿ではショパールに関する情報に絞ってお届けしたいと思う。

5軸CNC加工機でパーツをカッティングする様子。©️ Chopard

5軸CNC加工機で加工されたムーブメントのメインプレート。©️ Chopard

荒く削り出した段階で寸法が合っているかクオリティチェックが行われる。©️ Chopard

 まず案内されたのはL.U.Cムーブメントのパーツ製造セクションだ。すべてのパーツがここで作られているというわけではないが、メインプレート、ブリッジ、テンワなどの主要パーツを製造しているという。2台ある5軸CNC加工機を駆使し、穴の位置など加工精度をコントロールをしながらパーツが製作される。一例だが、L.U.C フル ストライクは形状が複雑なため、メインプレートを10個作るのに約3週間ほどの時間を要するといい、穴の大きさのチェックなどクオリティコントールだけで8時間ほどの時間を要するらしい。また、パーツのバリ取りなどはすべて職人の手作業でひとつひとつ取り除かれていた。

小さなパーツのバリ取りを行う様子。こうした細かな工程は職人による手作業だ。©️ Chopard

複雑な形状のメインプレートの場合、そのクオリティチェックも時間がかかる。©️ Chopard

©️ Chopard

ムーブメントの受けにコート・ド・ジュネーブをかけている様子。©️ Chopard

手作業でコート・ド・ジュネーブが施されたムーブメントのブリッジ。ジュネーブシールの規定に従い角には面取りとポリッシュ仕上げが施されている。©️ Chopard

工程を直接見ることは叶わなかったが、パーツに施すロジウムの電気めっき加工もマニュファクチュール内で行われている。©️ Chopard

 続いて案内されたのは、ムーブメントの装飾と仕上げのセクション。近年、ショパールではジュネーブシールを取得するムーブメントの製造を強化しているといい、特にこのセクションの人員が増加傾向にあるという。現在はここだけで15人ほどの職人が常駐しているとのことだった。装飾と仕上げはすべて手作業で行われており、こうしたハイレベルな装飾・仕上げをできる人材は貴重で引く手数多だという。ショパール マニュファクチュールができる以前から30年以上のキャリアを持つ大ベテランをはじめ、キャリア10年ほどの若手まで幅広い職人が働いているが、今後も安定的なムーブメント供給や次世代への技術継承を見据え、現在は特に若い人材を求めているということだった。なお、当然のことではあるが、ジュネーブシールを取得するムーブメントについてはここで加工されたパーツが用いられるものの、最終的にはジュネーブのファクトリーに送られてアッセンブリされる。

エナメルアーティストが調合する釉薬の粉末。©️ Chopard

左の釉薬の粉末を溶きダイヤルに色を載せていく。©️ Chopard

 次なるセクションはエナメルダイヤルの製作やエングレーブを行う部門、ショパールにおけるメティエダール セクションだ。ここではアーティストと呼ぶにふさわしい、伝統的な装飾技術を持った熟練の職人がその腕を振るう。コレクションにラインナップされているエナメルダイヤルモデルを製作するほか、VIP顧客向けのビスポークモデルのダイヤルなどを製作しているという。ちなみに取材に伺った際に、筆者は新作への採用を検討しているというプロトタイプダイヤルを見せてもらうことができた。紹介できないのが非常に残念だが、フランス、そして日本でも知られている“ある伝統工芸技術”を駆使したダイヤル、とだけお伝えしておこう。

現在ムーブメントにエングレーブを行うのはごく一部の限定モデルやビスポークのユニークピースに限られるにもかかわらず職人を抱え、社内で装飾が施される。写真はマニュファクチュールで行われている、19世紀に全盛期を迎えたフルリエ様式の装飾技法であるフルリザンヌ彫りの様子。©️ Chopard

産地・品質保証だけでなく、伝統保護や技術育成という側面も持っているのがカリテ フルリエ規格。今でこそ完成品に対して検査し品質を保証することは珍しくないが、設計や部品の段階から厳しい基準を設け、最終的な完成品を検査するというのは当時としても極めて異例で、世界初の試みだった。©️ Chopard

時計の品質規格としては1、2を争うほど手間も時間もかかる厳格な基準制度であるため、制度がスタートした現在でもカリテ フルリエ認証を得た時計は2300本を超える程度の本数しかない。ショパールでは2005年に初のカリテ フルリエ認証モデルとなるL.U.C カリテ フルリエが登場。写真のモデルは、ショパール マニュファクチュール25周年として2021年に発表されたL.U.C QF ジュビリーだ。L.U.Cコレクション初のカリテ フルリエ認定を受けたステンレススティール製モデルで、世界限定25本と数も少なく、現在は購入不可。©️ Chopard

 カリテ フルリエのセクションも見ることができた。カリテ フルリエは2001年にフルリエに工房を構えるショパール、パルミジャーニ・フルリエ、ボヴェの3社により設立された独立機関、カリテ フルリエ財団によって認証される時計の品質規格制度だ。製品開発上の理由により、現在ショパール以外は脱退してしまったためショパール マニュファクチュール内にテストを行うセクションが設けられており、ショパールのカリテ フルリエモデルの品質テストについてはここで実施されている。同じ施設内にあるものの、あくまでも運営はショパールとは別。カリテ フルリエ財団によって独立して管理・運営されている。

 カリテ フルリエについて簡単にまとめると、特定の審美基準を満たす仕上げとCOSC認定の精度を満たしたムーブメントを持ち、独自の耐久試験(クロノフィアブルテスト)とシュミレーションに基づく歩度テスト(フルリテスト)をクリアする時計であること。そして構想・設計から製造、組み立て、そして本体(ストラップは除く)と構成部品の検査工程が100%スイス国内で行われている時計にのみ与えられる品質認証である。カリテ フルリエ規格に関する詳細を知りたい方はこちらも合わせて読んでみて欲しい。

 このセクションで行われているのは、カリテ フルリエが定めるクロノフィアブルテストとフルリテストだ。まずはCOSC認定を取得したムーブメントをケーシングし、マニュファクチュール内で組み立てられた時計がクロノフィアブルテストにかけられる。その項目には巻き芯の引き・押しの力を測定するサイクルテスト、プッシュボタンや回転ベゼルにかかる力を測定するテスト、耐磁テスト、耐衝撃テスト、そして防水テストなどが挙がる。

 クロノフィアブルテストをクリアした時計はその後、最終テストとしてロボットシュミレーターによるフルリテストが行われるのだが、この内容というのが実にユニークだ。ロボットシュミレーターには、例えば時計をつけたまま走るといった具体的なシーンがプログラミングされており、GPSと連動したコンピュータによってシュミレーターがその動きを再現するのだ。画像がないのが残念だが、筆者が見ることができたテストでは画面にランニングしている人の動画が映り、ロボットシュミレーターはその画面のなかの人の動きに合わせてけたたましい音を立てながら、上下左右に激しく動く腕の動きを再現していた。

フルリエ エボーシュ社。©️ Chopard

 そうそう、今回取材は叶わなったがフルリエ エボーシュの存在にも触れておきたい。2007年にショパールはショパール マニュファクチュールがあるムーラン通り沿いに建物を購入し、子会社となるフルリエ エボーシュ社を設立した。少し紛らわしいのだが、L.U.Cはショパール マニュファクチュールが製造している自社製機械式ムーブメントで、ミッレ ミリアやアルパイン イーグルなどコレクションに搭載されているムーブメントは、この子会社であるフルリエ エボーシュ社が製造しているという。

 またショパール マニュファクチュールは前述のとおり、ガラス張りの近代的な建物と隣接する歴史的な建物で構成されているが、この古い方の建物はかつてフルリエに時計製造工場として栄え、エボーシュSAの一角を成したファブリック デボーシュ ドゥ フルリエ社(Fabrique d'Ebauches de Fleurier SA)だった建物なのだ。ショパールではマニュファクチュール内部に当時の写真を飾り、フルリエの地に息づく時計産業の歴史に敬意を表している。

L.U.CEUMは、趣のある木製の屋根梁を持つ細長い屋根裏部屋を模した内装に仕上げられている。入ってすぐにひと目で全体を捉えることができ、展示は時間計測の始まりからショパールブランドの発祥と、時系列に沿って12のテーマごとにわかりやすくまとめられている。ルイ-ユリス・ショパールが1860年頃に完成させたショパール最古の懐中時計は、部屋の奥で鑑賞することができる。

L.U.CEUMの入り口は実にシンプル。まさかこの扉の奥に数多くの歴史的な名品が展示されているとはまったく想像ができなかった。

 ショパールのフルリエの時計産業史に対する敬意の表れはこれだけに止まらない。ショパール マニュファクチュールには時計博物館も併設されている。それが最後に案内されたL.U.CEUMである。L.U.CEUMは2006年9月にショパール マニュファクチュール10周年を記念してオープンした博物館で、ショパールの顧客に時計製造技術の歴史を紹介し、L.U.Cモデルをその歴史的背景のなかでより深く鑑賞できるようになっている。時間の尺度に着想を得たミュゼオグラフィ(形式)を特徴としており、展示品にはショパールのL.U.Cモデルも含まれているが、ヨーロッパのさまざまな時代、地域の時計職人が手がけた芸術的な傑作を展示している。

 正直なところ、プレスツアーのわずかな時間ですべての展示内容をじっくり鑑賞することはできなかったため、ここではL.U.CEUMに展示されていたほんの一部を写真で紹介するに留めておこう。すべての展示品の詳細を知りたいという方はぜひともご自身の目で確かめていただくのが一番だが、全展示コレクションの解説を掲載したカタログ(『L.U.CEUM Traces of Time: The Chopard Manufacture Collection』というタイトルだ)が出版されているのでそちらを手に入れてみてはどうだろう?


メイランにあるショパール本社内のファクトリー

ショパール マニュファクチュール取材の翌日に訪れたのは、ジュネーブ中心部からクルマで20分ほどに位置するショパール本社、メイランにあるファクトリーだ。ここは1975年に建設された10棟の建物で構成される施設で、総面積は2万6000㎡(うち5000㎡は生産専用)、850人の従業員を抱える。ショパール マニュファクチュールがL.U.Cをはじめとするムーブメント製造、オートオルロジュリーの心臓部だとするならば、ここはショパールウォッチメイキングのすべてを担う心臓部。この施設では時計製造プロセスの最終段階の多くが行われており、ムーブメントのケーシングをはじめ、ケースの精製、研磨、ジュエリーのセッティングのほか、ショパールでジュネーブシールを取得するすべての時計のアッセンブリが行われるのもここだ。

 最初に案内されたのは、金を鋳造するゴールドファウンドリ(金鋳造所)だ。何と言っても特筆すべきは、ファクトリーにゴールドファウンドリが併設されている点にある。つまり社内で金ののべ棒の状態からケースやジュエリーに使用するゴールド素材の鋳造を行なっているのだ。社内にゴールドファウンドリを持つブランドは時計および宝飾品業界でも数が少なく、ショパール以外ではロレックス、パテック フィリップ、ウブロくらいしかない。

 ショパールでは1978年という早い時期から自社でゴールドファウンドリを整え、金ののべ棒の状態からさまざまな添加物を加えて鋳造しているが、ここではイエローゴールドのほかローズゴールド、ホワイトゴールドなど1日に60kg以上のゴールド素材に加工されているという。なお、プラチナ素材の加工はここでは行われていないそうだ。

炉で加工されたゴールドインゴット。

ゴールドファウンドリセクションにはフェアマインド認証ゴールドの使用を示す展示スペースも設けられていた。

 付け加えると、ショパールは2018年の100%エシカルゴールド宣言に基づき、スイス・ベター・ゴールド・アソシエーションのシステム、もしくはフェアマインドやフェアトレード認証制度に参加しているペルーとコロンビアにある小規模鉱山採掘者が採掘したゴールド、もしくは適格なリサイクル可能供給源からの原料であることを審査・確認したRJC CoC認証リサイクルゴールドのみを使用してケースやブレスレットなどの時計パーツやジュエリーに加工している。

 また2019年、アルパイン イーグルで初めて導入されたルーセントスティール™の加工も、このメイランのファクトリーで行われている。ルーセントスティール™はスイスのウォッチメーカーから出る高品質な産業廃棄物、そして医療、航空宇宙、自動車などの産業から排出されるハイグレードなリサイクルスティールを含有したショパールのみで使用されている特殊なSS素材だ。エシカルゴールドと同様、SS素材においても原材料の責任ある、そして持続可能な調達を行い、責任ある製造を確実なものにするという理想に基づき採用されている。

 ちなみにルーセントスティール™は一般的なステンレスティールの1.5倍の磨耗耐性と優れた硬度を備えるほか、極めて均質な結晶構造を持ち、不純物を極わずかしか含まれないため、ゴールドに匹敵する輝きと光度を備えるという3つの類まれな特徴を持つ。素材自体はオーストリアの鉄鋼会社であるフェストアルピーネ社で作られているが、メイランのファクトリーでは棒材の状態でストックされており、そこからファクトリー内にある5軸CNC加工機でケース形状に削り出されたあと、いくつもの鍛造工程を経て加工されていく。ルーセントスティール™を使用したアルパイン イーグルが高額になるのは、素材の価格もさることながら、この工程の多さに起因している。

ケースの加工サンプル。細かな鍛造工程を経て写真のように段々と加工されていく。

 続いて訪れたのはケースの鍛造セクション。ここではショパールの現行コレクションはもちろん、過去のコレクションに至るまでさまざまなモデルのケースの鋳型を管理している。写真撮影は叶わなかったが、鍛造セクションのすぐそばの広大なスペースにはケース加工のNC旋盤がズラリと並ぶ。また同じフロアにはスティールやチタンなどざまざまなサイズの棒材がストックされており、スティールやチタンモデルの外装パーツが棒材の状態から加工されていた。そしてNC旋盤が並ぶ奥ではブレスレットなど加工セクションも設けられている。そう、ショパールウォッチの外装パーツはすべてこのメイランにある本社内のファクトリーで作られているのである。

現行ではないコレクションのケースの鋳型もここにはあり、例えばオーバーホールの際に研磨で対応できないような場合もケースの鋳型が残されているため再生することが可能だ。写真はサンモリッツのもの。

アルパインイーグルの外装サンプル。ショパールのコレクションのなかでも最も工程が多く作るのが難しいという。ブレスレットはリンクも多く手作業で仕上げなければならず、一般的なモデルの2〜3倍の時間がかかるらしい。

 なお、ここでは製品の加工・製造だけでなく新作のプロトタイピングなども行われている。ショパールはもちろんのことだが、クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥーに関しても外装のプロトタイピングはメイランのファクトリーが担っているとのことだった。

写真はL.U.C 16/1860/2、イエローゴールドケースモデル。Cal. L.U.C 1.96(現L.U.C 96.01-L)を搭載し、ジュネーブシールを取得したL.U.Cのファーストモデルであり、誇らしげに展示されていた。

L.U.Cのムーブメントのサンプル。何がどのパーツなのかが細かくわかるように、ひとつひとつ小さなケースに収められている。

 ゴールドファウンドリと並んでメイランのファクトリーで重要な存在が、L.U.Cモデルのアッセンブリセクションだ。前日に取材したフルリエで加工されたL.U.Cムーブメントのパーツの多くがここに送られアッセンブリされている。言わずもがな、ジュネーブシールを取得するモデルはジュネーブでアッセンブリされる必要があるからだ。ジュネーブシールを取得しないモデルの一部はフルリエでもアッセンブリされるが、ショパールによればジュネーブシールを取得するモデルの比率を高めているため、L.U.Cムーブメント搭載モデルのおよそ8割がこのメイランのマニュファクチュールで生産されているという。

 ここからは写真撮影ができなかったが、新設されたビスポークモデルの生産セクション、ハイジュエリーの生産セクション(ここは入口を紹介されただけでなかを見ることすら許可されなかった)などを案内してもらうことができた。また興味深かったのがケーシングまでの一連の工程を行うセクションでの話だ。作業や業務のなかにあるムダを排し、より価値が高いものだけを行えるように作業や業務のやり方を変えていく活動を、参考になった企業に倣い“トヨタ式KAIZEN(カイゼン)活動”と呼ぶが、聞けばショパールでもケーシングまでの一連の工程においてこのトヨタ式KAIZENシステムを導入しているとのことだった。まさかスイスのマニュファクチュールにも影響を与えているとは思いも寄らなかった。

広大なメイランの本社をひと巡りし、戻ってくる途中のガラス張りの廊下での1枚。中庭になんと枯山水の日本庭園があるのだ。ショパール共同社長カール-フリードリッヒ・ショイフレ氏が日本好きであるということをこの取材のなかで聞き及んでいたが、まさか本社のなかに日本庭園を設るほどとは想像していなかった。

待機場所として案内されたミーティングルーム。そのそばにあるガラス張りの入り口を入ってすぐの螺旋階段を上がったところにメイラン ミュージアムはある。

 そしてメイランでの取材の締めはミュージアムだ。そう、なんとここにもミュージアムが設けられているのである。フルリエのL.U.CEUMでは“時の軌跡”をテーマに時計の歴史が包括的に学べるような展示内容だったが、こちらはショパール、そしてショイフレ家による140年以上の歴史にフォーカスした展示内容となっていた。ここメイランのミュージアムは顧客やプレス向けのもので、一般には公開していないという。

ショパールの創業者、ルイ-ユリス・ショパール(1836-1915年)。メイランのミュージアムでは、ショパールがスイス・ソンヴィリエに設立した工房で製作していた初期の懐中時計が並ぶ。

現在ショパールを経営するのは、ショパール一族から事業を受け継いだショイフレ家だ。ショイフレ家はかつてドイツ・フォルツハイムでエスツェハ(Eszeha)というブランド名でジュエリーウォッチなどを製造・販売しており、ミュージアムにはエスツェハ名の作品も展示されている。

2枚のサファイアクリスタルのあいだで自由に動き回るムービングダイヤモンドをあしらった腕時計、ハッピーダイヤモンドのひとつ(1976年)。ショパールのジュエリーウォッチを象徴する存在となった。

こちらは氷のキューブにインスピレーションを得て1999年に誕生したアイスキューブウォッチ。ウオッチコレクションだけでなく、ジュエリーコレクションとしても展開されている。


ラグジュアリーブランドの本質

写真はショパール マニュファクチュールの近くにあるショパール フォーラムの入り口。ここは1773年に建てられた貴族の邸宅をカール-フリードリッヒ・ショイフレ氏個人が購入し改築した施設で、7つの客室が備わるほか、シェフ兼管理人の女性が常駐し料理も振る舞われる。夫妻でよく宿泊するといい、ほかのもVIP顧客を案内したり、今回のようにプレス向けに紹介されることもあるという。

わずかな時間ではあったが2日間にわたってマニュファクチュールを巡り、ショパールがどのように時計づくりと向き合っているのか十分に感じ取ることができた。本当に品質が高いもの、時代を超えて長く愛されるものをつくることに真摯に向き合い、それを具現化するために妥協することなく、熟練の職人たちから脈々と引き継がれてきた失われつつある貴重な技術やノウハウの数々を駆使した時計づくりに情熱を注ぐ。言葉にすると簡単であり、モノづくりを行う企業にとっては当たり前のように思うかもしれないが、どれだけのブランドでそうした時計づくりができているのだろう? それを押しつけがましく行うのではなく粛々と実行しているのがショパールというブランドなのだ。でもそれこそがラグジュアリーブランドの本質であり、あるべき姿ではないだろうか?

 加えてショパールではそうしたブランドとしてのあり方を後世に継承していくことにも、同じように情熱を傾けているようだ。そもそもショパール マニュファクチュールは時計づくりの拠点であると同時にペルラージュ仕上げ、グラン・フー エナメルといった熟練のクラフトマンから引き継がれてきた失われつつある貴重な技術の継承をするべく設立された経緯がある。例えば、失われた技術とされていたフルリザンヌ彫りと呼ばれる技法が復活したのも、このマニュファクチュールがあったからこそだ。

 またフルリエとメイラン双方のマニュファクチュールには時計製造技術学校も設けられており、毎年40名の研修生が教育を受けているという。希少な技術や伝統的な技術を含め、あらゆる時計製造技術を数年間の課程を経て学ぶらは職人を目指すことになるが、聞けば、卒業後は必ずしもショパールに入社する必要はないという。それはショパールのためではなく、最も貴重な遺産は何よりも人であり、後世に残す価値のある専門技術を持つ職人をひとりでも多く育てることが主眼だからなのだとか。

 カリテ フルリエに象徴されるようにそのクオリティの高さがショパールの評価を支えていることはいうまでもないが、なによりもその時計づくりに対する真摯な姿勢こそがショパールが愛される理由なのだと感じた。

ショパール フォーラムのなかから庭を眺めた様子。ここにも時や時計にまつわるアート作品が随所に展示されており、ゆったりと贅沢な時間を過ごすことができた。思わず取材に来たことを忘れてしまうほどに。

ショパールの詳細については、公式サイト