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宇宙飛行した時計、特にスピードマスターに限っていえばTumblrのMoonwatch UniverseはNASAが保管する以外のものとしては恐らく最も完全なアーカイブ写真のコレクションを持っているが、それでも、Moonwatch Universeの創設者フィリップ・コルネイユ(Philip Corneille)は、他の宇宙関連団体からも貴重な写真を収集してきた。1971年、彼はソビエト連邦宇宙機関 (現在のロスコスモス)やNASAに手紙を書いて写真の収集を始めた。それ以来、彼はそれらの写真を取りまとめている。
元NATO士官である彼は現在、王立天文学会のフェローでもあり、時間があれば写真を突き合わせて「ライトスタッフ」(任務遂行に不可欠な資質)を備えた人物が着けた時計を識別している。
Moonwatch Universeで本当に楽しいものといえば、様々なプライベート写真や家族写真があり、私たちが見慣れているのとは違った環境にいる宇宙飛行士やテストパイロットの姿までを見ることができる。それらは、強靭な精神を持つ男たちの別の穏やかな側面を示しているのだ。また、余暇の時間にはどんな時計が着用されていたのかを見るのも興味深い。
コルネイユ氏の作業の範囲とプロセスを理解するために、私は彼に10の質問を行った。彼は、フォトブログMoonwatch Universeの裏側を案内してくれた。
1. Moonwatch Universe設立のきっかけは何ですか?
私は、1994年に初めてオメガ スピードマスターを購入しました。これは、1969年の月面着陸25周年を祝うトランスパレントバック仕様で、シリアル番号のないcal.861搭載のアポロ11号 クロノグラフでした。そのときまでに、私はイギリスの惑星間学会の月刊誌を通して何人かの宇宙飛行士やミッション・スペシャリストに質問を行い、連絡を取っていました。宇宙飛行士たちは私に直接連絡してくれるようになり、回答を雑誌に掲載したりしました。そうして私は、スピードマスターやセイコー A829アラーム・クロノグラフなどの時計がどのように支給され、宇宙飛行士が使用したかについての経緯を知ったのです。
1998年、私はスーパールミノバインデックスのスピードマスター1861を購入しました。この時計を手にしてから、1960年代半ばのCal. 321 スピードマスターに興味を持ち始めたのです。
2016年5月に、私は1990年代製のスピードマスター クロノグラフを両方ともオメガにオーバーホールしてもらったのですが、スイスのビエンヌにあるオメガミュージアムを訪れたときに、私はオメガのヘリテージチームに珍しい写真を何枚か見せました。
ただ、貴重なオメガ アーカイブの舞台裏見学だったにもかかわらず、当時のオメガチームはスピードマスター、シーマスター、レイルマスターのトリロジー60周年記念の準備で非常に忙しかった。そこで、2016年7月に、宇宙飛行士たちが使用した腕時計をはっきりと写している古い写真コレクションのスキャンを共有するため、フォトブログMoonwatch Universeを開設しました。これらの写真のセレクションは、2019年にWatchprint.comが発行した書籍Moonwatch Onlyの第3版にも掲載されています。
2. 歴史上の著名人と彼らが着用した時計を取り上げた多くの写真が公開されていますが、元となった資料はどこから入手されたのですか?
1971年8月、月面で稼働するアポロ15号探査機を取り上げたテレビニュースの一部を見た後、宇宙飛行士たちのサイン入りポートレートや写真をもらうおうと、いくつかの宇宙機関に手紙を書き始めました。はじめの25年間は、こうした写真は簡単に入手できましたが、NASAとロスコスモスの両方がデジタル化していったため、1999年までにインターネットに移行していきました。しかし、特殊な写真はまだ入手可能だったので、私はハードコピーをもらうことにこだわりました。
3. スピードマスターと月面着陸はしばしば注目されますが、あなたの調査を通して明らかになったその他の時計や、それらを身に着けた英雄的な人々についての物語も非常に多くご存知と思います。いくつかご紹介いただけますか?
興味深いのは、宇宙時代の幕開けに、音速の3倍で飛行可能なロッキードA12偵察機を飛ばした軍隊の「パイロット」、NASAの高高度極超音速実験機X-15、マーキュリー計画の7人の宇宙飛行士たちは皆、新しい世界への冒険にふさわしい共通するタイムピースを使用していたということです。1961年、すべてのX-15テストパイロットとマーキュリー計画の7人の宇宙飛行士全員に、音叉を使用したトランジスタ制御のアキュトロンGMTが支給されました。世界初の電子腕時計の到来を告げた214ムーブメントは、実験航空機や宇宙カプセルといった特に厳しいコックピット環境に適していました。
世界最速の時計
アキュトロン アストロノートは、有人宇宙飛行で使用される予定となった最初の時計の1つであり、YF-12スパイ機に搭載された。その成層圏での使用やその他の詳細については、こちらから。
マーキュリー計画の7人の宇宙飛行士は訓練中アキュトロンを着けていましたが、アキュトロンの音叉時計がついに宇宙に飛び立ったのは、最後のマーキュリー計画の飛行となった1963年5月15日の22周回の「フェイス7」ミッションでした。宇宙飛行士のゴードン・クーパー (Gordon Cooper) は、彼の私物のオメガ スピードマスターCK2998-4の従来の手巻き式ムーブメントとアキュトロン アストロノートを比較して試したかったのです。1965年8月、クーパーは、1965年3月のジェミニ3号ミッションで宇宙飛行士ジョン・ヤング (John Young) とヴァージル・グリソム (Virgil Grissom) が使用したように、ジェミニ5号ミッションでもアキュトロン アストロノートを使用しました。注目すべきは、1983年8月にミッション・スペシャリストで医師のノーマン・サガード (Norman Thagard) が、スペースシャトル・チャレンジャー号でのSTS-7ミッション中に、NASAが支給したスピードマスター クロノグラフと一緒にアキュトロン アストロノート腕時計を着用していたことです。
4. あなたの着けている腕時計と、その関係について少し教えてください。
25年来のオメガ愛好家である私は、今でもヴィンテージウォッチが好きで、オリジナルの1039ブレスレットを付けた完全にオリジナルの145.012-67 SPスピードマスター 321 クロノグラフを大切にしています。これは「宇宙旅行者の腕時計」に関する私の無料講義に持っていく象徴的なスピードマスターであり、宇宙飛行したロシアのソコルGP-7S宇宙服の手袋の掌で撮影されました。
5. Moonwatch Universeは、宇宙飛行士の私生活での注目すべき瞬間に焦点を当てています。特に印象的なものはありますか?
アポロの乗組員と接する際、それが郵便の手紙であろうと直接の面会であろうと、宇宙飛行の思い出の中で私物の腕時計を身に着けた宇宙飛行士が何人かいたことを知るのは興味深いものです。アポロ13号 (ジャック・スワイガート/Jack Swigert)、アポロ14号 (エドガー・ミッチェル/Edgar Mitchellとスチュアート・ルーサ/Stuart Roosa)、アポロ17号 (ロン・エヴァンス/Ron Evans) の間に、ロレックス 1675 "ペプシ"GMTマスターは月周回軌道に到達し、月面にまで到達しました。アポロ17コマンドモジュールパイロット、ロン・エヴァンスの"ペプシ"GMTマスターは、月着陸船「チャレンジャー」に搭載され、月面のトーラス・リトローという地点まで運ばれました。この、月へ行ったロレックスGMTマスターは、2009年10月にテキサス州ダラスで開催されたヘリテージ・オークションで競売にかけられ、13万1000ドル(約1400万円)で落札されました。
スペースシャトル時代には、2人のアメリカ人宇宙飛行士が、私物のロレックスの時計を着けて注目を浴びました。NASAのミッション・スペシャリストであるリロイ・チャオ (Leroy Chiao) は、ロレックス GMTマスター"ペプシ"のパイロットウォッチを、コロンビア (1994年7月のSTS-65)、エンデバー (1996年1月のSTS-72)、ディスカバリー (2000年10月のSTS-92) の3つの異なるスペースシャトル・オービターで着用しました。さらに、2004年10月から2005年4月の間、彼は国際宇宙ステーションでペプシGMTマスターを着けていたため、彼個人のロレックスは全部で、229日と8時間を宇宙で過ごしたのです! もう一人の、ロレックスをたびたび着用していたNASAの宇宙飛行士は、スペースシャトルのパイロット、スコット・"スクーター"・アルトマン (Scott "Scooter" Altman) で、4つのスペースシャトル・ミッションにも参加したベテランでした。
最後になりますが、NASA極限環境ミッション運用 (NEEMO) 科学ダイビングプロジェクトの熱心なスキューバダイバーであり潜水技術者である、カナダの宇宙飛行士/医師のダフィッド・ウィリアムズ (Dafydd Williams) についてお話ししないわけにはいきません。ウィリアムズは、海中研究室アクエリアスの海底調査生息地への数回のダイビングに同じロレックス シードゥエラーを着用し、スペースシャトル・エンデバー号に乗船の際はSTS-118ミッションに搭載されたダイバーズウォッチを使用しました。
6. Moonwatch Universeの元の資料を選別する際、予想外の逸話や意外な発見はありましたか?
1968年10月、アポロ7号の最初の有人アポロ飛行までに、NASAは新しいスピードマスター105.012と145.012を採用していました。1969年7月、オルドリン (Aldrin) のNASA支給105.012-65は月面で最初に着用された腕時計で、ほどなく、宇宙飛行士や一般の人々からは、ムーンウォッチと呼ばれるスタイルの象徴と見られるようになりました。しかし既にNASAとオメガは、アポロ計画の長期計画ミッション Jで使用する究極のスペースクロノグラフを設計するため「アラスカ」研究プロジェクトを秘密裏に開始していました。1969年の終わりに、その結果は、5つのアラスカプロジェクトホワイトダイヤルスピードマスター試作品の初回生産として結実。これらは、細長いプッシュボタンが取り付けられた赤色陽極酸化アルミニウムのアウターハウジングに収まるチタンケースに、新合金と潤滑油を備えた861ムーブメントを特徴としています。1972年、宇宙飛行士のフィードバックに基づいて、オメガは宇宙飛行に完璧な腕時計と思われた60分計ベゼルを備えた、アラスカIIプロジェクトホワイトラジアルダイヤルスピードマスターを製作しました。しかし、これらのスピードマスターは、その使用が予定されていたアポロ18号から20号のミッションをNASAが中止したため、月に行くことはありませんでした。
1972年4月までに、米国とソビエト連邦は、アポロ―ソユーズの共同宇宙飛行ミッションの作業を開始する契約に署名しました。それ以来、数人の宇宙飛行士たちがスイスを訪れ、オメガの技術マネージャーであるハンス・ウィドマー (Hans Widmer) はビエンヌにあるオメガ本社に彼らを招待しました。1974年までに、ロシアの宇宙飛行士は、フライトマスターやスピードマスター マークIII自動巻きクロノグラフなど、いくつかのオメガウォッチを着用し始めます。
さらに1977年10月までに、ロシアのソユーズ25号および26号の両方の乗組員は、オメガ アラスカIIプロジェクトスピードマスターウォッチをサリュート6号宇宙ステーションへの飛行に着用しました。チタンがソビエト連邦で調達されたことを考えると、これらのクロノグラフをロシア人が着用したのはふさわしいといえます。この話の全容は、2017年に公開した私の記事「ロシアへ愛を込めて (To Russia with Love)」で読むことができます。
7. 知られざる来歴を宇宙に持ち、あなたを驚かせたのはどの時計ですか?
新世紀が始まってから、数人の宇宙観光客がソユーズミッションに搭乗し国際宇宙ステーションへ飛行しました。2001年4月、アメリカ人企業家デニス・チトー (Dennis Tito) は「宇宙参加者」ミッションを飛行した最初の人物となり、7日間と22時間続いたこのミッションの間、彼はNASAが支給したスピードマスターを着用しました。
しかし、2008年10月までに、スカイラブとスペースシャトルのベテラン宇宙飛行士であったオーウェン・ギャリオット (Owen Garriott) の息子でイギリス生まれのアメリカ人ビデオゲーム開発者リチャード・ギャリオット (Richard Garriott) が、船外活動の機会を含む11日間と20時間のISSミッションの飛行に選ばれました。リチャード・ギャリオットは、特に彼の船外活動のための軽量クロノグラフを開発するため、セイコーに連絡を取りました。セイコーは12時位置にリューズを備えた6つの特別なスプリングドライブ スペースウォークGMTクロノグラフをイチから製作し、リチャード・ギャリオットはソユーズTMA-13ミッションでこれらのうち2つを着用しました。彼の船外活動は中止されましたが、ギャリオットは両方のセイコー スペースウォーククロノグラフをISSに残し、これらは宇宙飛行士ユーリ・ロンチャコフ (Yuri Lonchakov) によって2008年12月23日の5時間38分の船外活動で使用されました。ロンチャコフは、両方のセイコークロノグラフをリチャード・ギャリオットに返却し、 1つはリチャード・ギャリオットによって2009年のチャリティーオークションにかけられました。
セイコーはこれらの53mmスプリングドライブ スペースウォーククロノグラフを100個製造し、すぐに完売しています。
8. スピードマスター リミテッドエディションのすべてについてどのように思いますか? そして最近復活した321についてはどうでしょうか?
多くのスピードマスターファンは、Cal. 321ムーブメントのSSモデルの復活を待ち望んできました。2020年1月7日の#SpeedyTuesdayで、オメガは1965年6月の105.003「エド・ホワイト (Ed White)」スピードマスターに基づくモデルを発表しました。しかし、この「クラシック」スピードマスターは、価格が高く、1960年代のツールウォッチのようなドーム型ヘサライトガラスを備えていなかったため、多くの不満があがりました。
「エド・ホワイト」SS 321スピードマスター
新たに発売されたSS Cal. 321 スピードマスターの詳細については、こちらから。
宇宙飛行の熱狂的ファンは、2020年4月のアポロ13スピードマスター50周年記念を待っていますが、私の親しい友人は、数人の宇宙飛行士が着用したような60分計ベゼルを持つ「クラシック」スピードマスターを望んでいるようです。例えば、アポロ15号のアルフレッド・ウォーデン (Alfred Worden) なども60分計ベゼルを好みましたが、それはタキメータースケールのベゼルは宇宙では役に立たないと考えられていたためです。
9. アポロの時代はどのくらい若い時計ファンに共感を与えると思いますか? また、現代的な魅力を促進するため、ムーンウォッチはどのような位置付けになると思いますか?
2017年、オメガはフラテッロ・ウォッチズ (Fratello Watches) によって作られた#SpeedyTuesday現象を積極的に受け入れました。世界中の (より若い) スピードマスターファンに訴えかけ、効果があったことを証明しています。アポロミッションの50周年記念にちょうど間に合うよう、オメガは、リニューアルされたオメガミュージアムと321ムーブメントでオリジナルの見た目をもったスピードマスター クロノグラフを復刻し、今後に向けて偉大な飛躍を遂げました。個人的には、宇宙飛行士のフィードバックに基づいた、ヘサライトガラスと実用的な60分計ベゼルを採用するツールウォッチとしてのスピードマスター再来を期待しています。
若い人たちのほとんどは腕時計を着けませんが、社会に出れば耐久性のある時計を欲する傾向の若者もいて、機械式腕時計は環境に配慮する次世代の人々にとって必須アイテムとなるかもしれません。
ともかく10年以内に、人類は月面に戻るでしょう。現代のムーンウォッチは、耐久性のあるツールウォッチへの全く新しい興味を引き起こす可能性もあります。
10. 月面着陸が捏造されたと主張する人々に対してはいかがですか?
私は通常これらの人々を無視しますが、そういう人にはいつでも2009年に無人ルナ・リコネサンス・オービターLROによって撮影された高解像度の写真を示そうと思います。これらの鮮明な写真は25kmの高度の月周回軌道から撮影されたもので、アポロの機械設備と、ムーンウォーカーたちが月面を探索したときにできた曲がりくねった小道をくっきりと現しているのです!
スピードマスター プロフェッショナルの全内容の詳細については、ベン・クライマー (Ben Clymer) のムーンウォッチに関するReference Points記事をご覧ください。
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