trophy slideshow-left slideshow-right chevron-right chevron-light chevron-light play play-outline external-arrow pointer hodinkee-shop hodinkee-shop share-arrow share show-more-arrow watch101-hotspot instagram nav dropdown-arrow full-article-view read-more-arrow close close email facebook h image-centric-view newletter-icon pinterest search-light search thumbnail-view twitter view-image checkmark triangle-down chevron-right-circle chevron-right-circle-white lock shop live events conversation watch plus plus-circle camera comments download x heart comment default-watch-avatar overflow check-circle right-white right-black comment-bubble instagram speech-bubble shopping-bag

Just Because ジュネーブ・シールに描かれた紋章の意味

鷲、帝国、そして天国への鍵。

ADVERTISEMENT

ジュネーブ・シール(ポワンソン・ド・ジュネーブ)は、昔も今も、そしてこれからも、スイスの時計製造の歴史のなかで重要な役割を担っている。ジュネーブ・シールは、ジュネーブ・ホールマークと呼ばれることもあるが、フランス語でホールマークを表す言葉はポワンソン(パンチ)であるにもかかわらず、“シール”の方がしっくりくる。ホールマークとは、独立した検査機関が貴金属製品の純度を証明するために付けるマークのことである(何世紀にもわたって時計のケースに使用されてきたホールマークを研究することは、少なくとも、それに興味をもつような人にっては興味深いテーマだ。ひょっとして私が思っている以上にそんな人は少ないだろうか)。

 ドイツ語だともう少しわかりやすい。ゲンファー・シーゲル(シーゲルはドイツ語で“印鑑”)だ。

 ジュネーブ・シールは、2つの条件を満たす時計のムーブメントに付与される。1つは場所に関すること;ジュネーブ市または州で製造されたムーブメントでなければならない。

ヴァシュロン・コンスタンタン トラディショナル・スプリットセコンド・クロノグラフ・エクストラフラット- コレクション・エクセレンス・プラチナ、Cal. 3500

 第2の条件は品質に関するもので、ほとんどが仕上げについてだが、実際の機械的特性に言及したものもある。実績基準と同様に、これらは非常に具体的でとても細かい。筋金入りの時計マニアであっても、これらは少しわかりにくいかもしれない。要件の1つとして、脱進機のレバーには、調整可能なドテピンではなく、しっかりとしたバンク(レバーの動きを制限する、レバーの両側にある壁)があることが挙げられる。なぜこれが品質の証とされるのか、私には少し不思議に思える。なぜならば、この2つの主な違いは、強固なバンクを作るのが難しいということであって、必ずしも優れているということではないからだ(結局のところ、調整ピンで調整することができるのだから)。

 しかし、昔ながらの方法で行うことは、ある意味、シールが保護するもののために設定されたことなのだ。時計製造において、伝統のために時計職人が自らに困難を課しているのを見るのは相変わらず喜ばしい。

 このシールはかなり古く、「有効な法令」は1886年にまで遡る。当時は、最終的にケースに入れて販売するのではなく、実際の時計製造がジュネーブを離れ、スイス国内や海外に移っていった時期だった。また、偶然ではないかもしれないが、正確で信頼性の高い大量生産の時計を最も多く作っていたのがアメリカだった時期だ。品質宣言とは、ジュネーブの時計製造が優れていることを主張し、素材や技術の質が高いことを連想させる方法だったのだ。

ショパール L.U.C. クアトロ、Cal.L.U.C. 98.01-L、左端にジュネーブ・シール

 かつては、ジュネーブ時計学校の検査官がシールを刻印していたが、現在(2012年の最終改定時)は、Timelabと呼ばれる独立した品質管理機関が管理している(要求事項の詳細は、Timelabやその他のサイトを参照してほしい)。シールの存在、目的、そして歴史は多くの時計愛好家に知られているが、実はそれがジュネーブ市の紋章そのものであることはあまり知られていない。

ADVERTISEMENT

 紋章には、紋章学の言語という、愛らしく、古風で、理解しがたい独自の言語がある。“ブラゾン(blazon)”とは、紋章学上の言語で紋章を正式に説明したものだ。ノルマン・フレンチ、英語化したラテン語、オールド(Olde?)イングリッシュが入り混じったもので、そのなかのジュネーブ・シールの記述は、“石の中の剣”のような素晴らしい響きをもっている。

"Per pale or and gules, dexter: a dimidiated eagle displayed issuant from the partition sable, crowned langued beaked, membered and armed of the second; sinister: a key in pale upward contourné gold."

日本語では「金と赤で縦に2分割された盾、左には仕切りから出てきた赤いくちばしと爪をもち、赤い王冠をかぶる黒い鷲の半身(“dimidiated”は“半分しか見えない”という意味で、このあたりをもっと探ってみたい言葉だ)と、その右には金色で左を向いた鍵」という意味になる。“Pale”は紋章学や旗章学において、盾や旗の中央を上下の端から端まで垂直にわたる帯状の模様のことだ。紋章学の全語彙は、それ自体が魅力的なテーマであり、紋章学の語彙に魅了される傾向のある人々の実際の数については、前掲のコメントを参照してほしい(フォースター家の英国支部があり、その紋章は、“Argent on a chevron vert, between three horns sable=垂直のシェブロン(紋章の横向きの山形紋)の上に銀、黒の3本角”であったことが判明している。コーヒーカップに描かれていても悪くない)。

 鷲は神聖ローマ帝国の鷲(かつてジュネーブの司教たちは帝国の王子だった)、鍵は聖ペテロが持つ天の鍵の一つだ。全紋章には、盾の下にプロテスタント宗教改革の標語である“Post Tenebras Lux(闇の後には光を)”という言葉が入っている。

 ジュネーブ・シールは、昔ほど広く使われていない。最大の使用者の一角であったパテック フィリップは、2009年にジュネーブ・シールを放棄し、独自のパテック フィリップ・シールを採用した。これにより、長年にわたる筋金入りの愛好家たちは涙を流し、悲嘆にくれたことはご想像のとおりである。現在では、ショパール、ヴァシュロン・コンスタンタン、カルティエ、ルイ・ヴィトン、ロジェ・デュブイ、アトリエ・ド・モナコが、この方式を採用している限られたブランドである。しかし、ムーブメントにシールが刻印された時計をお持ちであれば、それはこれまで通り品質の証明であり、世界で最も古い高級時計製造の中心地でつくられたという誇りでもあるのだ。