サンクスギビングの直前、オメガはダイバー300Mコレクションに60周年記念のジェームズ・ボンド・ウォッチを2本発表し、私たちを驚かせてくれた。ひとつは、1990年代初頭に発売されたシーマスター プロフェッショナル ダイバー 300Mを彷彿とさせるもの。もうひとつは、誰も予想しなかったもので、私の頭から離れない時計だ。
ゴールデンアイをテーマにダイヤモンドをちりばめたベゼルを備えるカノープス(ホワイトゴールド、オメガでいうところの)ゴールドのダイバーのことだ。このモデルは、レインボーデイトナをより控えめに、しかし明らかにリュクスに仕上げたスポーツウォッチだと言える。私が知っているモデルを、貴金属と幻想のようなダイヤモンドセッティングによって、まったく新しい雰囲気に仕上げている。
ステンレススティール製とゴールド製のペアウォッチを見たとき、私はシーマスターのステンレススティール製以外のモデルに対する評価をすっかり見落としていたのではと思った。
ボンドだ。ジェームズ・ボンド
映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』に登場するチタン製のシーマスター ダイバー 300M 007 エディションは、時計オタクであり映画ファンでもある私が何度か熱く語ったことのある時計だ。先月の75周年記念モデルでは、メッシュブレスレット、アルミニウムベゼル、マットな文字盤のスタイリングを採用し、その舞台となったこの時計に関するビデオも収録した。
シーマスター プロフェッショナル ダイバー 300Mは、光沢のあるセラミック製の文字盤とベゼルが特徴だが、この時計はマットな文字盤と日焼けした夜光でヴィンテージ感を強調。一方でチタン製のケースとブレスレットがモダンな印象を与えている。実際に手に取ってみると、チタン製ならではの軽快さが実感でき、クラシックな美しさと新しい素材が見事に調和した好例と言えるだろう。
この時計のスペックについては、過去に触れたことがあるし、素晴らしいメッシュブレスレットについても触れた。しかし、ここ数ヵ月で新たな発見があった。このシーマスターは、映画の枠から飛び出したようだ。ボンドに関連するほとんどのオメガの時計は、登場する映画の文脈のなかで生きているが、私は、コレクターや時計愛好家が、ただこの時計が好きだからという理由でこの時計を身につけているのを目にすることが多くなった。もちろん、ケースバックには小さな“007”のマークはあるものの、この時計の人気を遮るようなことはないようなのだ。
そして、ダニエル・クレイグがボンド・フランチャイズから“ディスコン”となった以上、この時計も永遠には存在しないことになる。いずれコレクションから外れたとき、コレクター垂涎ピースの殿堂入りを果たすかどうかは、誰が判断するのだろうか。今後、またレポートしてお知らせしたい。
派手にゴールドに
しかし、シーマスター プロフェッショナルのフォームファクタを反復する方法はひとつだけではない。ボンド流スタイルはより洗練されたアプローチである。より大胆なアプローチとして、クロノグラフがある。42mmのダイバーズウォッチを44mmに拡大し、プッシャーを装備したシーマスター ダイバー 300M コーアクシャル マスター クロノメーター クロノグラフである。
ここで思い出して欲しいのは、これはスティール製ではないということ。オメガの興味深い素材開発について言及できるものであり、それもこのモデルの最も頑丈でヘビー級モデルに注目したい。そう、セドナゴールド(オメガ流のローズゴールドの意)のバリエーションである。セドナゴールドは、オメガが独自に開発したもので、通常のローズゴールドとは異なり、黄色に変色することがない(とオメガは言う)特殊な色調の素材だ。
ゴールドのこの時計について私が気に入っている点に触れる前に、この時計のどの素材バリエーションでも行われていることについて、少し脱線してみたいと思う。リューズガードを追加したことで、ケースに備えられた突起は4つ(ヘリウムエスケープバルブ、リューズ、プッシャーふたつ)となった。そして、そのプッシャーデザインを見ていると、ねじ込み式だと思われがちだが、実際はそうではない。それは見ているあなたがデイトナを意識してのことだろう。このプッシャーはねじ込み式でないだけでなく、水中で作動させることができる。この事実を次のディナーパーティでの小ネタにぜひ活かしてくれ。
私がこの時計に夢中になったのは、そのスケールの大きさだ。44mmのローズゴールドにラバーストラップは、あらゆる意味で面白い。この時計は、純粋なスポーツウォッチにラグジュアリーを注入したものだ。必要なものは基本的にすべて備えているし、必要でないものもすべて備えていると思う。独立した時針、レーザー加工されたセラミックベゼル(光沢なし)、日付表示、そして内部にはクロノグラフ機能を備えている。ゴールドにすることで全パッケージを完成させようじゃないか。私がこの時計が好きになるには時間がかかったが、今ではこの時計を身につけて山を登り、頂上でシャンパンを飲みながら太陽に輝く時計を眺めたいとさえ思う。
漆黒
そこで、太陽の光を受けてもまったく輝くことはない漆黒の時計、シーマスター ブラック ブラックを紹介する。この時計は43.5mmで、0.5mm小さくなっており、コントラストなんて不要だと言わんばかりだ。オメガは誰よりもセラミックを得意としているからだ。スピードマスター ダークサイド オブ ザ ムーンから始まったこの流れは、シーマスターシリーズでも見事に実践されているのだ。私は、スティール製で光沢感のあるブラックダイヤルモデルよりも、ブラックダイヤルとマットグレー(っぽい)ダイヤルのスタンダードなセラミック製シーマスター ダイバー300Mが好きで、それがこのエッセイのポイントのようなものだと思う。とにかく、このブラック ブラックはそのどちらよりも好きなのだ。
時計に熱中する理由のひとつは、楽しみながら、ちょっと変わった時計、つまり、何年かあとに同世代の時計と比較したときに差別化できるような、特別な何かをもたらしてくれるものを見極めることにあると思う。セラミックケース、セラミックベゼル、セラミックダイヤル、セラミック針、そしてセラミックマーカーを備えたオールブラックの時計は、まさにその条件にはまった時計だと思う。そのデザイン性の高さは、時間を確認するという腕時計の本来の目的から外れている(冗談だ、このモデルだって時間はしっかりと分かる)。
ブラック ブラックはオメガのデザインと素材使いの限界に挑戦し、クラシックなものを完全に現代的に表現している。これこそ、アンチ・スティール・シーマスターだ。
金属を混ぜ合わせて
チタンの話、セラミックの話、そしてセドナゴールドの話をしてきた。最後に、昨年ハンズオンしたシーマスター 300のブロンズゴールドを紹介したいと思う。
ブロンズゴールドとはいったい何だろうか? 銅を50%、9Kゴールドを37.5%、残りはガリウムとパラジウムが含まれる(計算はお任せする)。その結果、ブロンズウォッチを所有しているような感覚を味わえる、ある種の貴金属のような時計が誕生。ただ、この合金の場合、通常のブロンズに比べて、経年変化やパティーナの進行が遅く均一であることが特徴だ。
ソーシャルメディアでは、多くの人が新しい300シリーズのスティール製モデルに注目しているように思う。ブロンズゴールドは、私の一番のお気に入りだ。ブラウンの文字盤、ブラウンのストラップ、そしてフェイクパティーナ(フォティーナ)が施された数字が、ブロンズゴールドのケースによく映えている。実際の色味は、少しピンク寄りに感じられる。
オメガのカタログに掲載されている時計の数の多さを嘆く人は少なくない。確かに、シーマスターは数え切れないほどのバリエーションがあるし、スピードマスターだってそうだ。そのなかで、オメガのよさを生かしつつ、さらに何か違うものを加えて、最も面白いものを見つけるのが私のチャレンジだ。ブロンズゴールドのシーマスターは、オメガが得意とするところであり、またヴィンテージ風のデザインに素材の進化をもたらしたものでもある。しかし、これこそが収集の醍醐味、縁の下の力持ちを見つけることなのだ。これらすべてについて、私は正しいのだろうか? わからないが、調べるのが楽しいのだ。
Hodinkee Shopは、オメガの正規取扱店です。
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