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Beginner's Guide 初めて買ったいい時計がグランドセイコーだった理由

2年近くを費やして、極めて根本的な問いを自身に投げかけた。欲望と手ごろな価格が交差するところにあるものとは何なのか? その答えがSBGW283だった。

Photos by Ingrid Nelson

これは、私がハッピーエンドだと思う、欲しいものと実際に手に入れられるものについてのストーリーだ。

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 私が時計業界に飛び込んで2年近く経っていたことを意識したのは、数カ月前のこと。そのときにはちょっとしたコレクションを始めていた。ヴィンテージオメガのデ・ヴィル、G-SHOCK、ルーチ、そしてルーラを、どれもハンブルクの蚤の市で40ユーロで購入した。

 私は本格的な時計を手に入れたくなったのだ。デ・ヴィルは本格的な時計に近いと思うが、私が言う“本格的”とは、金銭的に負担になるものという意味だ。

 というのも、少なくともほかの時計愛好家に比べれば、私の金銭的な負担に対する敷居が比較的低いほうだからだ。ある物事を達成したら、時計に5000ドルを使ってもいいと自分に言い聞かせ、それを達成したのだが、その後、なんとなく心のなかでその数字を1万ドルに釣り上げてしまった。

 正直なところ、1万ドルは時計に使うには妥当な金額だと思った。確かに、それくらいは出せそうだ。というのも、ちょうどこの値段の時計にたくさん気に入ったものがあったため、それが妥当な数字であるという根拠もあった。この価格だと中古のゴールデン・エリプスや、ウブロのトゥッティ フルッティ、タンク アメリカンなど、そしてかなりいい状態のロレックスが買えそうな気がする。

 ただ、時計に費やせる金額と、そうじゃない金額が私にはわからない。それを自分自身に言い聞かせたら、自分にとって時計にかけられる納得のいく金額が1万ドルだった。時計にこれだけのお金をかける余裕なんてありえない。私はその半分も持っていないのだから。その半分がやっとだ。

 だから現実を見つめ直して、また5000ドルに戻したのだ。ここが私の居場所であり、実際には背伸びをしていた部分もあるが、そうしなければ何も楽しめなかっただろう。

 現実に戻された私は、せっかくなので5000ドルで手に入るいくつかの候補を集めた。

 トニー・トライナ(Tony Traina)のロレックス オイスター 6426についての記事を見て、まずこのうちのひとつを検討してみた。クラシックで派手ではないし、仰々しくもない(黄色いSAXEMのウブロを欲しがっている私としては、なぜそのことを心配しているのかよくわからないが)、しかもロレックスだ。つけてみるまではいかなかったが、ネット上でたくさん見た。そうそうトニー、あなたの夢に出てくる3・6・9の文字盤は、私の夢にも出てくるのだ。もしその時計が見つかったとしたら、5000ドル以上すると思う。

 私がこの時計を気に入った理由は、12時位置のロレックスの王冠のロゴが目立ち、非常にシンプルなところだ。それも時刻表示のみ。見ていて飽きない感じはしたが、時計を所有する側としては、そういうわけにもいかないとも思っている。頑丈で丈夫なところも気に入った。

 候補ふたつめは何らかのカルティエ タンク。ここで、私の恥ずかしい話をしよう。カルティエのタンクはベーシックだといつも言いながら、どうしても欲しくなってしまうのだ。問題なのは、私が本当に欲しいものが5000ドル以上すること。例えば、本当に欲しいのはタンク ルイ カルティエでゴールドがいいし、カルティエ タンクのクォーツなんて要らない。そんなバカげたことはわかっているけど、それでも欲しいカルティエを買う余裕がない。

時計初心者が、ついに“夢の時計”をつけてみた話

私はずっとカルティエのタンクが欲しかった。そして素晴らしいものを身につけることができた。

 これはおそらく、私が本当に欲しいロレックス(ゴールドブレスレットのデイデイト)を買う余裕がないことを言うのにいいタイミングだろう。だから、オイスターの6426は可能性があるといったが、実際はなかったことになる。本当に欲しいものを妥協して手に入れるのは、それほど難しいことなのだ。

 そういえば、6000ドルでゴールデン・エリプスをゲットできるかもしれないと自分に言い聞かせた。まず問題なのは、6000ドルもするゴールデン・エリプスは、ちょっと状態がよくないということ。第2の問題は、6000ドルどころか、5000ドルしか持っておらず、税金と送料を付け加えたら、6000ドルが6400ドルになってしまうことだ。

 愛犬のルーシーをInstagramのスター(彼女はカメラが嫌いで、私はひどいステージママになりそうだけれど)にして、ひと儲けできないかと考えたこともあったが、本格的な時計を探すことにそれだけの価値があるのだろうかと思い始めた。つまり、1万ドルを使えないなら、使わなくてもいいのではないだろうか? いやらしく聞こえるかもしれないが、それ以下の数字のものは、私にとって本当に必要なものではないのだ。欲しくない時計ではハッピーになれなかった。私はすでに、高価でない時計が好きだったのだ。気に入った程度の時計はもういらなかった。愛すべき時計が必要だったが、そんな余裕はないし、これからもないだろう。それを求めたらひどいことが起きた人がいる、という話も聞いたことがある。

この金色の可愛い子ちゃんを手に入れたら、もうパテックは必要ない? それと、私のGSはローイングブレザーズ×ハンターのブーツにとても似合っている。

 しかしそんなに落ち込んでもいなかった。なぜなら、今回手に入れられなかった時計を調べる過程のなかでも、自分が好きな要素を、自分が買える時計で探せばがっかりすることはない、ということを知ることができたからだ。

 ひとつの要素として、シンプルさが挙げられる。SAXEMやダイヤモンドは別として、シンプルな時計が好きなのだ。一般的に時計は機能が少ないほどコストが下がるためこれは好都合だった。もちろん、G-SHOCKとノーチラスを並べればそうはならないが、パテックのRef.3411と2499を比べれば一目瞭然である。

 また、多くの時計を巻いてきたので、この作業は嫌いじゃない。ヴィンテージオメガやルーチ、ルーラを巻いているが、どれもパワーリザーブは6時間くらいだろうか? 冗談だ。でも、毎日巻き上げることを考えると、現実的なパワーリザーブを持つ最新の時計は、私が毎日経験しているので簡単だろう。それに、巻き心地もいい。時計を眺めることで、その時計と向き合えるような気がしたし、しばらく動くのであれば巻き上げることも苦にならない。

 どうせ日付け窓はいらないし、時刻だけなら設定も難しくない。ゴールドは無理だから、ステンレスがいい。ダイヤモンドは無理だから、それと同様の効果がある、インデックスが煌びやかに輝くSSがいい。誤解しないで欲しいが、ダイヤモンドが女の子の親友なら、SSは女の子の頼れるベビーシッターになるかもしれないということだ。この例えはともかく、ここでは比較できないものの話をしているようなものである。

 SS、シンプルなデザイン、時刻表示のみ、手巻きキャリバー...これらすべてが、私の気分を落ち込ませることなく、時計のコストを下げてくれるものであった。でももうひとつ、私は、美しい文字盤も絶対に欲しかった。

これはすばらしいとは思わないだろうか?

 だから、私と話していた尊敬する同僚、マーク・ハックマン(Mark Hackman)は、これらの基準にクリアした時計であるグランドセイコーのSBGW283を提案した。私には覚悟ができていた。ひと目見て私の時計だと確信したのだ。

 グランドセイコーについては、スイス製ではないということ以外よく知らなかった。これは一部の人にとってはマイナスかもしれないが、私にとってはむしろプラスだ。グランドセイコーは、スイスの時計に匹敵する時計を作ることができると自負し、それを実現している考え方が私は好きだった。二十四節気の色についてや、2017年にセイコーから別れて独立したブランドになったことは知っていた。ブランドについて少し読んでみると、“歪みのない鮮明な鏡面仕上げに、磨き上げられた平面”にこだわっていることがわかった。読むまで知らなかったが、これにすっかり取りつかれてしまった。

 でも、ブランドよりも時計にこだわった。私は時計初心者なので、自分の好みがそこまで複雑なわけじゃない。質感のあるブルーダイヤルは、初夏の岩手山上空の色である季春(きしゅん)と呼ばれる二十四節気を連想させるもので、涼しげで落ち着きのあるライトブルーが気に入った。岩手山のことは聞いたことがなかったが、ウィキペディアによると北日本にあると書いてあった。きっと夏の始まりから1年中、美しいのだろう。またシンプルな尾錠とリザードストラップがついたプレーンなタイプだった。リザードのストラップはアウトだと思っていたのだが、マライカ・クロフォード(Malaika Crawford)がセクシーだと言っていたので自信を持てたし、ポテンシャルを感じた。

 ラッキーなことに、この時計が本当に欲しいかどうかを決める前に、少しだけ一緒の時間を過ごすことができた。箱から取り出して装着した瞬間、これこそ最高の宝物だと確信した。私が買える値段で、しかも幸せにしてくれる時計だ。

細部にまでこだわったストラップを見て欲しい。

 するどい針とSSのインデックスは、同社の長年のこだわりによるもので、光を受けてきらきらと輝いていた。サイズ感がありながら、重厚でないのもありがたい。というのも、ヴィンテージオメガが私の時計道の終わりとなりえない理由のひとつは、小さすぎるということだ。37mmというサイズ感もちょうどよく、手首になじみ、エレガント(エレガンス コレクションより)でありながら、それほど目立つものでもない。買い物にも行けるし飛行機にも乗れる、オペラにもつけてもいい(私はオペラを観に行くことはないのだが、もしそれが実現したのなら準備は万端だ)。そういうのは着ないのだが、この時計はちょっとしたカクテルドレスのようなもの以外ならなんにでも合うと思う。おそらくそれらのいずれかには似合うだろう。

 ムーブメントについては多く語れないが以前、シースルーバックを少しバカにしたことがあったが、この時計にはそれがあり、この時計がシースルーバックを持っていることをうれしく感じている。こんな素敵な仕上げを見られることに感謝しているのだ。

 この時計でいちばん大切なことは、この時計がもたらしてくれる満足感、完成度の高さである。スプリングドライブの“御神渡り”や、2022年の北米限定モデルの“霜降”と“フロスト”、そしてハイビート36000のように、高価なものになるのは嫌なのだ。この時計は自分を苦しめるようなものではない。あくまでも私の時計であって、私たちはともに平和を過ごしているのだ。

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