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Hands-On セイコー 6105 ダイバーズとは別の時間軸から来たもの 

実は現代版SPBラインの新モデル“アイスダイバーズ”であり、アメリカ市場限定だ。

今月初め、セイコーの内藤昭男社長が「ブランドの原点に戻る必要がある」とやや過激な発言をした時、私は彼の言い分を完全に理解したが、こんなに早く実現するとは思っていなかった。セイコーがセイコー プロスペックス “アイスダイバーズ”の新作3モデルを発表した。セイコーによると、このモデルのダイヤルは“氷河でできた雄大な氷に光が反射したときの色合いや質感”からインスピレーションを得ているそうだ。抽象的なマーケティングコピーを突き詰めていくとセイコーの最近のベストリリースの1つが見えてくる。しかし悪いニュースもある。ウミガメをモチーフにしたタートルモデルと同じように、またしてもアメリカ市場限定モデルなのだ。

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 2020年4月に発売されたSPB151(日本ではSBDC109)とSPB153(日本ではSBDC111)は、“新ウィラード”とも呼ばれる6105-8110を見事に生まれ変わらせたモデルだが、その呼び名はこの時計を過小評価していると思う。その後ブルーダイヤルのSBDC143(限定モデル。海外版はSPB183)、そして昨年5月にはフォティーナをテーマにしたSPB237(日本ではSBDC143)が発売され、あっという間にそれをプラットフォームにしてしまった。そして、アメリカ限定の“アイスダイバーズ”トリオは、今までの中で最も興味深いものかもしれない。6105にインスパイアされたSPBシリーズ(SLAシリーズではない)の小さなファミリーのなかで、アイスダイバーズはトップに位置している。3つの新作はいずれもブレスレットタイプで価格は1400ドル(約16万円)。SPB153と比較して300ドルのプレミアムは、ブレスレットが付属していることと、もちろん限定モデルであることによるものだ。

 技術面では、今回取り上げたアイスダイバーズと従来のモデルは、すべて同じスペックであることに注目したい。Cal.6R35を採用し、ケースとブレスレットにはセイコーのスーパーハードコーティングが施され、ベゼルインサートはアルミニウム製だ。シリーズ間の差別化はシンプルに見た目とブレスレットやストラップの選択肢によって図られている。

 そのなかで、ひとつだけ注意すべき違いがある。セイコーはSPB237から、ダイバーズウォッチとして認められるため、現代のISO規格に準拠して3時位置にチョップドマーカー(縦長の変形マーカー)を入れている。ダイヤルバランスを完全に崩すような大問題と言いたいのではなく、数年後にはコレクターにとって長所になりそうな予感がする。セイコーはこのデザイン変更を直接公表していないが、3時位置のチョップドマーカーは、プロスペックスシリーズのなかで多くの時計に登場している。アイスダイバーズにも採用されているし、おそらく今後はセイコーのダイバーズすべてに採用されるのではないだろうか。

 私はSPB153を1年以上愛用しているが、このケースの着け心地がとても気に入っている。外観は6105のように見えるが、手首の上でのケースの感覚は少しトリミングされた現代のタートルに近いと感じている。アイスダイバーズは、SPB153と同じように、つまり7.25~7.5インチ(約18.5〜19cm)の手首にぴったりと装着できる。このセグメントの多くのセイコーと同様に、ブレスレットは弱点だが、それを修正するための選択肢は無限にある。ワッフル、タイヤトレッド、チョコバーなどのストラップとの相性は抜群だ。これは、ほかのどのモデルよりも、6105のオリジナルデザインと共通点が多いからだと思う(もちろん、我々のスタンダード、ブラックダイヤルのSPB151は除く)。

セイコー 5 アクタスはあまり見かけないヴィンテージセイコーだ。この写真は、セイコーのヴィンテージスポーツモデルに見られる面白いダイヤルの例として、現代のeBayオークションから引用した。

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70年代、セイコーはファンクをもたらした。派手で視覚的に変わったダイヤルが当たり前だった。“スシロール”や“UFO”など、何十種類ものモデルがセイコーのカタログに掲載され(これらのモデルをまとめたフラテロ(Fratello)による記事を見てほしい)、セイコー 5 アクタスのなかにはフュメダイヤルを使ったグルーヴィーなシリーズもあった。70年代のセイコーは、62MAS、6159、6105、6309などの伝統的なプロフェッショナルダイバーズが比較的控えめであったにもかかわらず、当時流行したデザインをダイヤルに取り入れることを恐れなかった。ダイバーズには視認性や機能性が重視されたのだろうが、それが昔のツールウォッチを好きな理由でもある。実際に現場で日々使われていたのだから。

 SPB265は青みがかったグリーンのテクスチャードダイヤルだが、実際に見てみるとフュメの経年加工はそれほど目立たない。その代わりに、SPB263とSPB261ではそれが顕著で、これらのモデルもダイヤルに“氷”のようなテクスチャーが施されている。見た目にも70年代の雰囲気が漂っているのだ。

 しかし、もしセイコーが60年代、70年代の6105のデザインを自由にしていたらどうだろう? そうすれば、この新しい“アイスダイバーズ”のような時計ができあがると思う。70年代のデザインを多く踏襲しつつ、半世紀近く経って登場したのだ。 もし、セイコー 5 アクタスやほかのスポーツダイバーズモデルのプロダクトマネージャーが、6105における将来のデザインの方向性について意見を出したとしたら、きっとこんな感じになると思う。

 セイコーの歴史のなかでこの時代を再訪して6105を再解釈し、SPBの全レンジ中でも比較的入手しやすいものにしたことは素晴らしいと思う。6105は1977年に生産を終了しているが、もし生産が継続されていたら、6309と同じ道を辿っていたと思う。つまり、製造サイクルの後半になって、モデルに色や個性を加えるということだ。6309-729Bを見れば、その意味がおわかりいただけると思う。もしセイコーが6105のデザインを推し進め、77年以降も生産を続けていたらと想像してみてほしい。

 まるでタイムスリップして別の道を歩むかのようだが、結局は同じ場所にたどり着くだろう。それがこのアイスダイバーズなのだ。

Photography: Spenser Heaps