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In-Depth セイコー プロスペックス SBDC111(SPB153)をレビュー、1年以上使ってこの時計への思いが変わった

SBDC111は、“新しいウィラード”ではない。まったく別のものだ。

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1年以上前にジェームスが自分用にセイコーのSBDC101(海外版はSPB143)を手に入れたのと同じ頃、私もセイコーのSBDC111(海外版はSPB153)を手に入れた。セイコーの紛らわしいリファレンスナンバーを理解するよりもヴォイニッチ手稿を解読する方がまだ簡単なので、命名を簡単にしよう。SBDC101は、セイコーの最初のダイバーズウォッチである62MASの現代版派生モデルだ。SBDC111(とSBDC109 -海外版はSPB151-ブラックダイヤルモデル)はセイコーの有名な6105-8110の現代版モデルになる。6105は、マーティン・シーンが『地獄の黙示録』のウィラード大尉役で着用していたことから“キャプテン・ウィラード”と呼ばれていた。

 この時計の紹介記事を書いたときから、私はこの時計が欲しいと思っていた。そして喜んで1100ドル(約12万円)を支払い、私の心を純粋に満たしてくれる時計を手に入れた。ついにセイコーは私が望んでいた時計を作ってくれたのだ。実際、期待していた以上のものだった。それはくすんだオリーブグリーンで、予想外の斬新なものだった。

 私は、常に一緒にいられる日常の時計を見つけた。それをつけて何でもできた。セイコーのダイバーズウォッチはどんなに酷使しても耐えられるからだ。貴重品ではなく、どこにでもあるものでもない。特別な感じがするくらいの個性があって、歴史もある。

 私は長年にわたって6105のバージョンをいくつか所有してきたが、リューズをロックするための巻き真をすり減らすことにいつも神経質になっていることに気づいていた。また、水の浸入を恐れてダイビングには使わなかった(最後の1本は1977年製造)。気に入っていたものの、思うようにつけることができなかったのだ。SBDC111はその状況を一変させた。ようやく、6105の素晴らしいレガシーと結びついたセイコーを、どんな状況でも身につけられるようになったのである。

SBDC111は、水辺での活動に最適なパートナーだ。

水中で船首につかまりながら、SBDC111で時間を確認しているところ。常に時間を把握しておくことは大切だ。

 ヴィンテージウォッチを身につけるのと、現代の復刻モデルをつけるのとでは大きな違いがあるが、SBDC111は先人たちへの敬意を払いつつ、現代的なデザインのアップデートと信頼性のバランスを取っている。それに、SBDX031(海外版はSLA033)のために4250ドル(約46万円)を出す気にはなれなかった。私が6105のヴィンテージを集め始めたころは、数百ドルで売られていたオリジナルモデルをダイヤルやベゼルなどのさまざまなパーツをつけて改造している人々がいた。今では6105は安くはない。だからこそ、SBDC111はさらに魅力的な選択となっている。

 この1年余りの間に、SBDC111に関して一つの大きな変化と結論を得た。それは時計の装着感とは関係ない。

 この時計を“新しいウィラード”と呼ぶのは失礼だと思っている。

 1978年、『地獄の黙示録』のウィラード大尉役を演じるマーティン・シーンの腕に、セイコーの6105が装着されることがプロップマスターによって決められた。謎につつまれた組織MACV-SOGに所属する米軍将校がセイコーの6105を身につけていたというのは、歴史的に見ても正しいことなのだ。6105は、コレクターやオンラインフォーラムで“キャプテン・ウィラード”として広く呼ばれるようになり、SBDC111は6105に酷似していることから“新しいウィラード”として知られるようになった。

ウィラード大尉役のマーティン・シーン。写真の6105がどこにあるか知っている人がいたら教えてほしい。

 そしてこの1年で、私はそれが単なる怠惰なニックネームであり、この時計を過小評価しているのではないかという結論に達した。2020年4月にこのモデルを紹介する記事を書いた際には、“キャプテン・ウィラード”という言葉を見出しに入れ、『地獄の黙示録』という言葉を記事中に散りばめたのだが。

 以来考えが変わったが、その理由は次の通りだ。

 HODINKEEで働くなかで、冒険を体現する時計として何度も登場した時計がある。それが6105だ。私が探検に関連した時計を深く掘り下げていくと、少なくとも1本、あるいは数本の6105が出てくるのだ。

 この時計は、人類を前進させるためにプロが実際に着用していたものだ。映画のなかで俳優が身につけるのは良いと思うが、劇中で描かれ称賛される軍隊の行動の多くは現場で起こったこととは一致しない。特にベトナム戦争では。本物の方がはるかに大きな問題ではないだろうか?

トップラグの刻印;“Love Susan.”とある。 右下のラグには日付も入っている。ストーリーを知りたいが、どこから探せばいいのかわからない。この6105に出会ったのは偶然だった。

 また、この時計に愛称をつけるというアメリカ中心の考えは、6105に関して東洋で起こった多くの研究を無視している。流郷貞夫氏の著書『The Birth Of The Seiko Professional Diver's Watch(セイコープロフェッショナルダイバーズウオッチの誕生)』は、日本のコレクターやセイコーの歴史研究家が、6105の歴史について重要な部分をどのように見ているかを知るのに最適だ。

 6105には、祝福すべき瞬間がたくさんあった。そして、それらの瞬間と人々は、SBDC111に吹き込むべき精神を表している。

 Talking Watchesのエピソードを出すとき、通常、制作前の段階でコレクションを調査する。デビッド・ウィリアムズ宇宙飛行士と話したとき、彼はセイコーを所有していると言ったが、それを6105だと特定できるほど事前調査をしていなかった。彼に会ったとき、それが彼のコレクションの一部であることにまったく驚かなかった。彼はこの時計を、2回のNEEMOミッションでの訓練と宇宙での生活の両方で使用していた。まさにそういう時計なのだ。彼にとっては初めてのダイバーズウォッチだったが、私にとっては、6105が仕事をする上でいかに優れた時計であるかを示す新たな一例になった。

デビッド・ウィリアム氏の6105。海の底や宇宙にも行った。かなりの冒険をした時計だ。

 過酷な環境で6105を使用したのは、ウィリアムズ氏が初めてではない。「The Wristorian」と私は、政府文書館の写真記録で発見された時計を記録するという仕事を通じて、70年代に南極で働いたニュージーランド出身の犬のハンドラー、マイク・ウィング氏とつながりをもった。「The Wristorian」のジャスティンとデヴィンの取材に対し、彼は南極での生活を語ってくれた。「1973年10月にフィールドアシスタント/ドッグハンドラーとして南極に行き、1974年2月中旬まで“Dry Valley Drilling Project”という国際的な掘削プロジェクトで働きました。私は23匹のハスキー犬の世話をし、次の夏に向けてすべてのフィールド機器を準備しました…。そのときの時計をもっていますが、もう動きません。砕氷船USCGバートンアイランドの乗組員の一人に裏蓋に名前を彫ってもらいました」

南極でのマイク・ウィング氏と彼の犬たち。左手首につけた6105がしっくりきている。

これらの時計は非常に美しく経年変化する。マイク・ウイング氏は結局、6105を修理してもらった。

よく見ると、砕氷船USCGバートンアイランドの乗組員の一人に依頼した刻印がある。

 先月掲載した記事では、アン・ハートライン氏がセイコーの6105を着用している姿を紹介した。彼女は「Tektite II」のクルーだった。また、記事には掲載されなかったが、6105との関連もある。1976年から1977年までニュージーランドのスコット基地で副司令官を務めたジョン・チャールズ氏の写真をスクロールダウンしてご覧いただきたい。彼のもうひとつの時計は? セイコーの6105だ。チャールズの同僚で、77年にスコット基地の冬期リーダーを務めたジム・ランキン氏も6105をつけていた。南極研究者たちの非公式時計だったのだ。

ウェットスーツの上に6105をつけたアン・ハートライン氏(右)。

右はジム・ランキン氏。左手首に6105をつけている。

 また、70年代から80年代にかけてブリティッシュ・ペトロリアムでテクニカルダイバーとして働いていたデビッド・スティーブンス氏のケースもある。昨年掲載したオメガのプロプロフの詳細記事では、彼が故障したセイコーの代わりにプロプロフを購入したと書いた。そのセイコーとは6105だった。その時計がなぜ故障したのかはわからないが、スティーブンス氏がオメガを購入する前にダイビングの任務を遂行するために最初に選んだ時計であることは確かだ。それがこの時計の価値を物語っている。

デビッド・スティーブンス氏のコレクション。6105とプロプロフは北海で使用された。

 そして、6105の伝説の中でも最も重要な事例についてもまだ触れていない。それはセイコーが限定モデルを作ったほど重要なつながりがある。昨年、SBDX045(海外版はSLA049)とSBDX047(海外版はSLA051)について書いた記事から

 「植村直己は、信じられないような遺産を残した。アマゾン川を単独でラフティングしたり、北極点に単独で到達したり、一度はデナリに単独で登っている。また、日本人として初めてエベレストに登頂したチームの一員でもあった」

日本の兵庫県但馬地方出身の植村直己は、まさに伝説的な存在だ。東洋の世界ではキャプテン・ウィラード以上の伝説と言っても過言ではない。

 彼が選んだ時計は? セイコーのRef.6105だ。 1976年にグリーンランドからアラスカまでの1万2500kmを犬ぞりで単独走行した際に着用していたもので、コレクターの間では78年の北極点遠征の際にも着用していたのではないかと言われている。ニューヨーク・タイムズ紙の記事には、植村氏が直面した挑戦の記録が掲載されている。

 「植村氏は、108分ごとに極上空を通過する気象衛星ニンバスによって、極地での探検中、嵐の日以外はその進捗状況を追跡された。そりに取り付けられた無線送信機からの信号は衛星によって受信され、グリーンベルトにあるゴダード宇宙飛行センターに中継された。植村氏の位置は1日に数回、正確に把握された」

これらはすでに“ウエムラ”と呼ばれているので、SBDC111には使えない。

 私はSBDC111を“新しいウィラード”と呼ぶのをやめた。セイコーのリファレンスナンバーが不可解であることは理解しているし、この時計と『地獄の黙示録』との間には簡単に思い浮かぶ関連性があることも理解している。しかし、科学者、ダイバー、宇宙飛行士、アルピニストなど、多くの人が現実の世界で遂行する立派な仕事のためにこの時計を使っていたことを考えてみよう。先に述べたように、私はこの時計を身につけるという点では考えを変えていないし、これまで同様に良い時計だと思う。むしろ、ウィラードとの繋がりを超えたところにある、この時計の良さがわかってきたのだ。

6105の刻印を見てみよう。そしてこれらの時計が語るストーリーを考えてみてほしい。これらは @johneseiko からだ。6105は本当にすべてを見て、すべてをこなしてきた。

 その意味でも、SBDC111をまずつけてみてから、その世界に入った方がいいと思う。ひょっとしたら将来、あなたの名前がセイコーの愛称で親しまれるようになるかもしれないのだから。

水中写真提供: Trace Ingham.