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A Week On The Wrist A.ランゲ&ゾーネ 1815 ラトラパント・ハニーゴールド“F. A.ランゲへのオマージュ”を1週間レビュー

A.ランゲ&ゾーネの聖杯ともいうべきクロノグラフと過ごす7日間。

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グラスヒュッテは、時計製造に力を入れているドイツ ザクセン州にある小さな町だ。ドレスデンから車で45分、牧歌的なミュグリッツ渓谷に位置するグラスヒュッテは、ザクセンの森深い丘陵地帯のなかに時計産業の首都が隠されていることを全く感じさせることはない。この街に辿りつくには、かなりの努力とGoogleマップの助けが必要だ。

 それこそがドイツ人の好みなのかもしれない。私なら、グラスヒュッテに向かうアウトバーンに、人口7000人のこの町がいかに特別な場所であるかを示す看板を設置したいと思うだろう。"出口を降りて、ドイツの時計産業の中心地を探そう"というキャッチフレーズを付けて。そしてその横には目立つ時計の写真が添える。

 それも、ただの時計の写真ではない。グラスヒュッテの時計製造175周年を記念して昨年秋に発売されたラトラパント・ハニーゴールド "F.A.ランゲへのオマージュ "限定モデルの写真である。

 ラトラパント・ハニーゴールドは、3つの限定モデルからなるカプセルコレクションのひとつとして発表されたとき、ジャックがIntroducing記事を執筆してくれた。100本限定モデルのため、ほとんどの人は実際に見る機会がないだろう。たとえ見ることができたとしても、手に入れることはできないだろうし、たとえ経済的な余裕があったとしても、見つけることはできないだろう。価格は1622万5000円(税込予価)と非常に高価であるこの時計は、世界中のコレクターの手に渡り完売となった。

 しかし、幸運にも個人所蔵コレクションからお借りすることができたので、今回のウィーク・オン・ザ・リストではその詳細をご紹介したい。


A.ランゲ&ゾーネ初のソロ・ラトラパンテ

 “ラトラパンテ”と“ランゲ”と聞けば、多くの時計愛好家は何かしらの反応を示すだろう。なにしろ、2004年に世界初のダブルラトラパンテの“ダブルスプリット”、2018年には世界初のトリプルラトラパンテこと“トリプルスプリット”をデビューさせたブランドなのだから。そのため、ランゲの腕時計で他の複雑機構とは異なるものを初めて目にしていると理解するのは難しいかもしれない。しかし、事実多くの新機軸を備えているのが本作だ。

ラトラパンテ・クロノグラフ(別名スプリットセコンド)は、センターに取り付けられた2本のクロノグラフ秒針によって、2つの異なる経過時間を計測することが可能だ。これらの針は同時にスタートするが、個別に止めることで正確なスプリットタイムを記録することができる。

 このモデルはスプリットセコンド機構を搭載したA.ランゲ&ゾーネで最も薄いモデルとなった。また、ランゲのクロノグラフとしては初めて、他の複雑機構(トゥールビヨン)を搭載せず、独自に開発した硬度の高い18Kゴールドの合金“ハニーゴールド”のケースに収められているのも特徴だ。ハニーゴールドは、ピンクゴールドとイエローゴールドの中間色で、白金色と見紛うばかりの淡い麦わら色をしており、その色合いは光の加減によって様々に変化するため、捉え難いものがある。

 さらに、ハニーゴールドはビッカース硬度が約300とプラチナよりも硬く、18Kイエローゴールドの約2倍の硬度を誇る(それだけ加工も2倍難しい)。ハニーゴールドの具体的な成分をグラスヒュッテは極秘としているが、これまでのネット上の情報を総合すると、シリコンなどの配合が仄めかされている。いずれにせよ、2010年に発表されて以来、ランゲはハニーゴールドを非常に慎重に採用しており、過去10年間でハニーゴールドを採用した時計は、限定を含めて11モデルしか例がない。実際に目の当たりにすると、その名の通り、非常に甘美な印象を受ける。

 ハニーゴールドのケースにブラックダイヤルを組み合わせたのは初めてのことで、ダイヤルの素材は銀無垢だ。ケース素材に合わせて、ダイヤルの随所にラッカーで吹いたギルトカラーのアクセントが見られる。実際、ゴールドとブラック以外の部分では、レイルウェイ風ミニッツトラックに等間隔に置かれた4つの小さな赤いアクセントが、伝統的なデザインに鮮烈な印象を吹き込んでいる。

 ダイヤルには、もうひとつ見逃せない初の試みが見られる。それは、スモールセコンドと30分積算計のサブダイヤルの配置だ。6時と12時の位置に直列されており、従来のようなダイヤル下側に水平に配置されていたのとは異なる。ダイヤル中央には、19世紀のランゲ社製懐中時計に倣い“グラスヒュッテ・イン・ザクセン”の表記が配され、ダイヤルのバランスが保たれている。さらに、アウトサイズデイト表示も、短くカットされたアラビア数字も、夜光も今作では影を潜めている。一貫したシンメトリー(左右対称)のダイヤルは、クロノグラフの複雑性を隠しながらも、静かで繊細な印象を与え、ダイヤルの下に何が潜んでいるのか想像させない。


Cal.L101.2 - 知っておくべきこと

 これについては実際のところ、想像どおりかもしれない。時計愛好家にA.ランゲ&ゾーネの時計を見せると、必ずと言っていいほどムーブメントを見せろと言われる(ネット上では“ランゲ税”と呼ばれているほどだ)。ラトラパント・ハニーゴールドに搭載されているCal.L101.2は、他のランゲと同様このモデルの特徴と言える。

 この手巻きキャリバーはラトラパント・ハニーゴールドのために特別に作られた新キャリバーだ。2013年に発表された初代“1815ラトラパンテ パーペチュアルカレンダー”に搭載されたCal.L101.1の基本構造を継承している。このムーブメントは、ダブルスプリット、トリプルスプリット、ダトグラフとは全く異なるムーブメントだ。また、多くのランゲ製クロノグラフとは異なり、フライバック機構は搭載されない。

 Cal.L101.2は365点の部品で構成され、36石、3Hzで作動し、58時間のパワーリザーブを備えている。大きなサファイヤクリスタルからはL101.2の内部が覗え、2対のコラムホイールによって制御されたパフォーマンス至上主義を貫くムーブメントだと誇示している。1つ目のコラムホイールは、通常のクロノグラフを作動させ、ムーブメントの中央、脱進機の上にある2つ目のコラムホイールは、スプリットセコンド針の停止とスタートを制御する。

歯車、ブリッジ、ピニオンの内側や外側で、複雑に入り組んで曲がりくねって見えるムーブメントの構造。365個の独立した部品が互いに連携していることがひと目でわかる。それぞれの部品には役割があるのだ。

 この2つめのコラムホイールは、クロノグラフ車の上にあるもう1つの歯車と噛み合っている。クロノグラフのスタート時には、この二番車が両方とも同期して回転する。しかし、10時位置のプッシャーボタンでスプリットセコンド機能を始動すると、一対のラトラパンテ・クランプがスプリットセコンド車を固定し、ラトラパンテ秒針が停止する。クロノグラフ秒針は進み続けるが、もう一度スプリットセコンドボタンを押すと、クランプが上側の歯車のグリップを解除し、ラトラパンテ秒針はクロノグラフ秒針と完全に重なった状態に戻り、ダイヤルを周回する。

 L101.2のスプリットセコンド機構は、他のモデルとは異なるアプローチを採った。巻き上げヒゲゼンマイ(当然ながら自社製)、ハート型カム、先端が平らなリセット・トゥ・ゼロ・レバー、そして多大な手間をかけて組み立てられている。L101.2は10時位置のスプリットセコンドプッシャーと剥き出しのスプリング、スプリットセコンド車停止時の摩擦を軽減するスプリット・レバー(隔離機構)がないのはもちろん、現在主流のラトラパンテの設計を踏襲していない。それでいて、実に印象的で興味深い時計に仕上がっているのである。

 このL101.2の魅力をお伝えするために、後日、A.ランゲ&ゾーネのクロノグラフムーブメントを最もよく知る人物、A.ランゲ&ゾーネの製品開発ディレクターであるアンソニー・デ・ハース氏の解説記事を掲載する予定だ。

 Cal.L101.2には、ランゲのお家芸であるフローラル模様の手彫りのエングレービングが施されたテンプ受け、ブルーに焼き入れされたネジで取り付けられたゴールドシャトン、手作業で磨き上げられた緩やかな面取りなど、グラスヒュッテの伝統的な時計製造に関わる特徴的な装飾が数多く見られる。また、クロノグラフ用のブリッジにも、テンプ受けと同様のフローラル模様のエングレービングが施される。

 ジャーマンシルバー製プレートとブリッジに施された美しい木目調の仕上げは、1Aクオリティのランゲ懐中時計の装飾を彷彿とさせる。スティール製の部品には、繊細な筋目模様が施されている。2020年の "F.Aランゲへのオマージュ "シリーズでは、クロノグラフとテンプ受けに施されたフローラルのエングレービングに、ブラックロジウムのメッキ処理が施される。実際に見てみると、ブラックというよりもダークグレーに近い色になっているが、他のランゲ クロノグラフには見られないコントラストの高い仕上がりとなっている。

 ムーブメントの仕上がりは、複雑時計のレベルを見極めるうえで、非常に重要なポイントとなる。新キャリバーL101.2は手巻き式なので、ローターに邪魔されることなく一日中眺めることができる。


ア・ウィーク・オン・ザ・リスト

 ラトラパント・ハニーゴールドを着けて数日後、気づくのに驚くほど時間がかかったことがある:A.ランゲ&ゾーネの時計は、ケース素材による重さの違いこそあれ、ほとんどが同じような感覚で着用できるということだ。

 つまり、A.ランゲ&ゾーネのモデルの大半は、ケースの形状がほぼ共通しているということだ。特徴的な形状のラグ、そして3ピース構造の丸みを帯びたすっきりとしたラインのケースは全面がポリッシュ仕上げだが、ミドルケースと長方形プッシャーはサテン仕上げが施されている。このモデルのように、ランゲの時計の特別感は、ケース素材に左右される。

 ケースの直径は41mm超、厚みは12.5mmほど。古典的な3針ドレスウォッチには、これよりも厚いものが数多いことを考えると、これは驚くべきことだ。ただし、1815はラトラパンテのなかでは薄い部類に入るが、最薄ではないことを指摘しておこう(詳しくは後述)。

 本作は現代のランゲ・クロノグラフ史の系譜における最新モデルであり、2015年にデビューした第3世代の“1815クロノグラフ”シリーズからデザイン言語を受け継いでいる。より重要なのは、垂直方向にレイアウトされたサブダイヤルがCal.L101系の採用からも類推できるとおり、2013年発表の“1815 ラトラパンテ パーペチュアルカレンダー”からの影響が色濃いことがわかる。また、ムーブメント構造の条件から、プッシャーの配列も変更されている。ラトラパント・ハニーゴールドは、2時位置のプッシャーでセンターセコンドの針をスタート/ストップさせ、4時位置のプッシャーで両針をゼロリセットし、10時位置のボタンでスプリットセコンド機能を発動する。

 ここに、古き良きゲルマン気質が遺憾なく発揮されている。温かみのある貴金属ケースと鮮やかなブラックダイヤルを特徴とするものの、決してバロック的過剰さは感じられない。ラトラパント・ハニーゴールドを初めて手にしたとき、スウェットパンツにパーカーという格好で自宅で仕事をする私には到底不釣り合いなエレガントさを湛えていた。それでも、日常的に身に着けるには、あまりにも装飾的すぎるのではないかという声もあるだろう。

7日間使ってみた私は、自信を持って「そうではない」と断言できる

 ランゲは、ダイヤルに美意識の抑制をかけており、それは驚くべきほどである。ランゲのデザイン理念である左右対称性は、6時と12時に配置された2つのサブダイヤルで完璧に表現されている。さらに、ダイヤル外周にはタキメーターが付いていて、スケール感とプロポーションが絶妙だ。

 このデザイン表現には、ある種コンサバティブ(保守的)な過激さを内に秘めているというのが正鵠を射た表現ではないだろうか。いずれにしても、私はこのデザインに非常に魅力を感じている。

 その上、ラトラパント・ハニーゴールドは、腕に着けたときの美しさも抜群だ。決して派手ではないが、貴金属に収められたスプリットセコンド・クロノグラフらしい静かな信頼感を醸し出している。その重量感は素晴らしく、威圧感を与えずに存在感を示している。また、比較的スリムでコンパクトなケース形状のおかげで、ドレスシーンにおけるクロノグラフとしても十分に通用する。

 ラトラパント・ハニーゴールドをHODINKEEのオフィスで数日間着用していると、雑念が消え、いくつかのことが思い浮かんだ(まず、この仕事をしていることがどれほど幸運なことなのかということだ)。特に、同じ価格帯でいうと、二次流通市場でのSS製スポーツウォッチの需要がどれほど異常なものであるかということを改めて実感した。世界の時計業界では、SS合金の種類やスポーツウォッチのデザインが話題になっているが、ラトラパント・ハニーゴールドは、それらとは全く別の次元に存在するかのようだ。

 入手しやすさのヒエラルキーで言えば、このモデルは象牙の塔のようなものだ。ラトラパント・ハニーゴールドの価格は1千万円台前半で、決してお買い得とは言えない。さらに、100本という少量生産であることから、絶対的な希少性という要素に議論の余地はない。今、この記事の読者は、ラトラパント・ハニーゴールドを腕に着けることができる人の数よりも多いだろうし、私も実物のラトラパント・ハニーゴールドを目にする機会はないだろう。

 もちろん、ランゲがSS製スポーツモデルとして“オデュッセウス”を発表したのもつい最近のことだ。その後、この時計の需要と価値が高まっているのは周知のとおりだ。しかし、私にとってラトラパント・ハニーゴールドは、不合理な熱狂への解毒剤のようなものだ。また、言うまでもないこが、A.ランゲ&ゾーネのブティックでこの限定モデルを購入できた幸運な人のなかで、このモデルを手放して利ザヤを得ようとする者は皆無だろう。

 そして、ア・ウィーク・オン・ザ・リストでも最も難しいとされていることがある。すなわち、実地での検証だ。


競合モデル

 A. ランゲ & ゾーネは、他の時計ブランドが羨むようなクロノグラフのポートフォリオを持っている。ロレックス(2000年)やパテック フィリップ(2005年)に先駆けて、1999年に初の自社製クロノグラフ・ムーブメントを搭載する“ダトグラフ”を発表した。ヴァシュロン・コンスタンタンは、2016年になって初めて自社製自動巻きクロノグラフを発表した。オーデマ ピゲは? 2019年である。

 A.ランゲ&ゾーネ 1815 ラトラパント・ハニーゴールド“F.A.ランゲへのオマージュ”は、名だたるメーカーのモデルと軌を一にしている。ラトラパンテ愛好家にはたまらない、このザクセンの英雄の行く手を阻む刺客達にどう立ち向かうのか。お手並み拝見といこうではないか。

パテック フィリップ Ref.5370P-011 スプリットセコンド・クロノグラフ

 ラトラパント・ハニーゴールドが発売される数ヵ月前、パテック フィリップはスプリットセコンド・クロノグラフのフラッグシップモデルRef.5370P-011を発表した。このモデルは、ブルーのグラン フー・エナメルダイヤルとポリッシュ仕上げのプラチナケースが特徴だ。ラトラパント・ハニーゴールドは、A.ランゲ&ゾーネ初のソロ(秒針のみ)・ラトラパンテであるため、伝統的なスプリットセコンド・クロノグラフの分野でパテックとランゲの比較が可能になったのは初めてのことである。

パテック フィリップ Ref.5370P-011 スプリットセコンド・クロノグラフ

 Ref.5370Pは、明らかに非の打ちどころのないタイプの時計だ。2015年に初めて発表されたとき、ベンはこの時計を「パテック フィリップがここ数年でリリースした最高の時計の1つであることは間違いない」 と評した。この賞賛は本気だ。

 2本の時計を並べて一見しても、どちらも貴金属ケースにタキメータースケールを備えた手巻きのラトラパンテ・クロノグラフだ。しかし、共通点はそれだけではない。外観上の最大の違いは、サブダイヤルの配列とケース素材の色で、これは個人の好みに依る。しかし、ハニーゴールドは、私に言わせれば「特別」であり、判断を下す前に実際に見る価値がある。これは時計ブランドのマーケティング部門がそれらしく名付けた合金ではない。特別なものであり、腕に着けることで違いを生み出すのだ。

 技術的には、Ref.5370Pのラトラパンテ機構は、ランゲのように10時側ではなく、反対側の3時位置のリューズ仕込まれたプッシャーで作動する。また、パテック製Cal.CHR 29-525 PSには、ランゲのCal.L101.2にはないスプリットセコンド用のレバーが搭載されている。このように、パテック フィリップのアプローチはより古典的なものであり、ブランド全体が取るジュネーブ寄りのアプローチにも合致していると言えるだろう。

パテック フィリップ Cal.CHR 29-525 PS

 その他の違いとしては、ブレゲ数字対アラビア数字、エナメル対シルバーダイヤル、ケース厚がランゲの方が1mm薄い12.60mmであることなどが挙げられる(ランゲのケース形状はより現代的で、Ref.5370Pのデザインは1940年代のパテック フィリップのクロノグラフに色濃い影響を受けている)。そして、価格だ。ブルーダイヤルのRef.5370P-011の希望小売価格は3152万6000円(税込)だが、ラトラパント・ハニーゴールドの方が1000万円以上手頃だ。繰り返そう。"手頃"だ。

 普段から4桁万円以上の時計を購入する人にとっては大した金額ではないかもしれないが、億万長者ではない人にとっては検討の余地があるだろう。

 “ボスを殺すなら、一撃で仕留めなければならない(米ドラマ『ザ・ワイヤー』より)”。A.ランゲ&ゾーネは、ドイツの伝統的な精密さをその出自にしているので、今回の直接対決ではA.ランゲ&ゾーネは及ばないと私は思う。しかし、5.25mm厚のCal.CHR27-525PSを搭載したパテックのスプリットセコンド・クロノグラフRef.5950Aなら話は別だ)。 

ヴァシュロン・コンスタンタン トラディショナル・スプリットセコンド・クロノグラフ・エクストラフラット

 ジュネーブ湖畔のメゾンから登場したスプリットセコンドの最新作は、Watches & Wonders 2021で発表されたヴァシュロン・コンスタンタンの トラディショナル・スプリットセコンド・クロノグラフ・エクストラフラットだ。このモデルは、ヴァシュロン・コンスタンタンの超高級コレクション“エクセレンス・プラチナ”のモデルであり、ペリフェラル・ローターを備えた自動巻きムーブメントを搭載したプラチナ製モノプッシャー・スプリットセコンド・クロノグラフだ。

 本機はわずか15本しか製造されないため、ランゲの記念モデルよりもさらに高級なモデルとなっている。また、内蔵されているCal.3500は、ランゲのCal.L101.2のような最新鋭ではないが、それに近いもので、これまでの採用例は2015年の“ハーモニー・ウルトラシン・グランド・コンプリケーション・クロノグラフ”に搭載された1本のみである。ラトラパント・ハニーゴールドはその薄さで注目されているが、VCは厚みが10.72mmとさらに凌駕している。トラディショナルは、その名の通り、色相を重ねたダイヤルを採用し、すっきりとしたシンプルな美しさを備えている。ただし、6時位置のパワーリザーブ表示は、自動巻きには必要のないものだが。

ヴァシュロン・コンスタンタン Cal.3500

 前述したRef.5370Pと同様、本機にもプラチナが使用されており、販売価格を上げる要因となっている。また、Cal.3500は、世界で最も薄い自動巻きモノプッシャー式スプリットセコンドキャリバーだが、これもその要因とひとつだ。結果として、15人のオーナーになるためには3762万円(税込参考価格)支払う必要がある。

 ラトラパント・ハニーゴールドがバーゲンプライスだとは言わないが、この2本を見て、ヴァシュロンの製品を好む理由を15万個も見つけることはできないだろう。

モンブラン 1858 スプリットセコンド 限定モデル

 ドイツ生まれのスイス製メゾン、モンブランは、かつてミネルバ本社があったヴィルレのクロノグラフ・マエストロに製造委託してスプリットセコンドを製作しているが、なかでも特に注目したいのが本モデルだ。近年、モンブランのラトラパンテは数多く発表されているが、いずれもモノプッシャーと豪華な手彫りの手巻きムーブメントという、非常に伝統的な技術手法に則っている。

 パテック フィリップやヴァシュロン・コンスタンタン、さらにはA.ランゲ&ゾーネと比べても、モンブランのスプリットセコンドは十分比肩するものだ。2019年にはブロンズケースの100本限定モデルが3万1000ドル、2020年にはグレード5のチタンケースにグラン フー・エナメルのブルーダイヤルが印象的な100本限定モデルが3万6000ドル、そして2021年のWatches & Wondersで発表された“ライムゴールド”(本当の話だ)の18本限定モデルが約5万ドルで登場した。3モデルとも昔ながらのカタツムリ型のタキメータースケールを採用している。これは本格的なスイス時計であり、比較的魅力的な価格帯でもある。

マニュファクチュールCal.MB M16.31は、自社製ヒゲゼンマイを用いて、古典的なスイスの手作業で仕上げられている。MB M16.31は、20世紀初頭に懐中時計用に設計されたミネルバ製Cal.16 リーニュをベースにしている。当然ながらモンブランのスプリットセコンド・クロノグラフは大型で、44mm×14mm程のサイズである。

Cal.MB M16.31

 モンブランのM16.31は、大型のテンプにしては2.5Hzというハイビート仕様であり、ルーペで覗くのが楽しいムーブメントだ。その点はランゲのCal.L101.2も同様だ。それは独自の貴金属合金を使用しており、世界有数の時計メーカーとしての地位を確立したブランドに相応しい仕上げである。

 私はモンブランのこれらのモデルが極めて過小評価されていると考えているが、A.ランゲ&ゾーネ 1815 ラトラパント・ハニーゴールドはまさに並外れたモデルといえよう。

A.ランゲ&ゾーネ ダブルスプリット/トリプルスプリット

 ラトラパンテ機構は1つの時計に何個必要だろうか? A.ランゲ&ゾーネだけが、その答えが2個以上であることを教えてくれる。繰り返しになるが、A.ランゲ&ゾーネは今日のモデルに搭載されている独立型ラトラパンテを発表する前に、世界初のダブルラトラパンテとトリプルラトラパンテを発表した。言うまでもなく、A.ランゲ&ゾーネのカタログには、ここに複雑機構を挿入した様々なスプリットセコンド・クロノグラフが長年にわたって登場している。

A.ランゲ&ゾーネ トリプルスプリット

 ダブルスプリットとトリプルスプリットは、時計製造における驚くべき偉業だ。つまり、これらは、A.ランゲ&ゾーネがこの30年間、高級時計の世界に与えてきた忘れがたい影響を物語る、驚くべき技術的成果なのだ。もし、世界初のモデルを持つことが重要であるならば、ダブルスプリットかトリプルスプリットのどちらかを選ぶことをお勧めしよう(この2つのうち、私はトリプルスプリットに軍配を上げる -そう、スプリット全部だ)。しかし、快適さや日常的な着用感を重視するのであれば、もし私がラトラパンテを所有することになれば、常に着用することになると言っても過言ではないだろうから、新製品の1815ラトラパンテがお勧めだ。

それに、そう、ハニーゴールドもある


単なるオマージュなのか、それとも大義のあるものなのか?

 ラトラパント・ハニーゴールドを見ていると、F.A.ランゲの保守的なザクセンの伝統と、A.ランゲ&ゾーネの復活で急増した複雑で過激な時計作りの間に、本当の意味での緊張感が感じられる。

 Cal.L101.2の装着感や仕上げを吟味したり、時刻を見て金色の文字盤の輝きを確認したり、ハニーゴールドのケースの光沢を肌に当ててて感じると、175年のドイツ時計の歴史がこの時計につながっていることを実感できる。

 F.A.ランゲとその子孫にとって、今日のA.ランゲ&ゾーネの時計は、彼らの個人史の記念碑的存在であり、彼らのライフワークの虜になった証人でもあるのだ。だからこそ、A.ランゲ&ゾーネがこの時計を創業者へのオマージュと呼ぶ理由は理解できる。それは、過ぎ去った時への賛美であり、手首を飾る現代流の記念碑なのだ。

A.ランゲ&ゾーネ 1815 ラトラパント・ハニーゴールド"F.A.ランゲへのオマージュ":ケース、41.2mm x 12.6mm、18Kハニーゴールド製、表裏両面サファイアクリスタル。文字盤はブラックのシルバー無垢。ムーブメントはCal.L101.2、ラトラパンテクロノグラフ、30分積算計(32.6mm x 7.4mm) 、58時間パワーリザーブ、36石、2万1600振動/時。プレートとブリッジはフロスト/グレイン仕上げのジャーマンシルバー、クロノグラフのブリッジとテンプ受けには手彫りエングレービングが施されている。世界限定100本。グラスヒュッテの時計製造175周年を記念して、1815 フラッハ・ハニーゴールド、トゥールボグラフ・パーペチュアル・ハニーゴールドとともに発表された。価格 1622万5000円(税込予価)。ブティック限定。詳しくは、A.ランゲ&ゾーネ へ。

動画制作:デビッド・アウジェロ

写真撮影: ティファニー・ウェイド