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Hands-On パルミジャーニ・フルリエ トンダ PF スプリットセコンドクロノグラフは、ローキーでハイビートなマスターピースだ

尊敬すべきアニバーサリー・クロノグラフ。


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ミシェル・パルミジャーニ(Michel Parmigiani)氏に初めて会ったのは、2017年の晩春だった。彼が1996年に設立したパルミジャーニ・フルリエと少人数のコレクターとのディナーのコーディネートをニューヨークで手伝っていたのだ。彼は主賓として出席した。彼が乗った飛行機はスイスから着いたばかりだったようで、彼は明らかに疲れていた。疲労と言葉の壁がミシェルとコレクターグループとの会話の障害になったが、彼はそれを気にすることなく、その夜の会話を楽しんでいた。

A young man stands next to Michel Parmigiani.

パルミジャーニ・フルリエの創業者、ミシェル・パルミジャーニ氏の隣は21歳のときの筆者(右)。

 テーブルの中央に置かれたトンダ クロノール アニヴェルセールは、ポリッシュ仕上げのローズゴールド製で、鮮やかなブルーのグラン・フー・エナメルダイヤルによって引き立てられている。賞を受賞したこのスプリットセコンドクロノグラフは、前年の2016年にブランドの20周年を記念して発表されたものだ。

 その夜、私はずっとその時計に目を奪われていた。当時の私はまだ21歳で、大学卒業まであと2週間ほどだったが、ここで私はニューヨーク大学の年間授業料を吹き飛ばすような値札のついた時計と週末の時間を過ごしたわけだ(ニューヨークで高等教育を受けるよりも高価なものが少なくともひとつはあることを宇宙に証明することになった)。

 トンダ クロノール アニヴェルセールのオリジナルは25本の限定生産で、当然もう二度と見ることはできないと思っていた。しかし、このようなアニバーサリーは、いつだって巡って来るのだ。

The Parmigiani Tonda Chronor Anniversaire sits upright

パルミジャーニ トンダ クロノール アニヴェルセール

時計界の高貴なもの

パルミジャーニは、2021年のジュネーブ・ウォッチ・デイズで、同社の25周年を記念したトンダ PF スプリットセコンドクロノグラフを発表し、喝さいを浴びた。このモデルはトンダ クロノール アニヴェルセールと実質的に同一のムーブメントを採用したプラチナ製のスプリットセコンドクロノグラフで、洗練された新しい外観のトンダ PFコレクションのなかのヒーローウォッチとなることを目指したものだ。

Three-quarter angle of the Tonda PF Split-Seconds

新しいトンダ PF スプリットセコンドクロノグラフ 。

 スプリットセコンドクロノグラフではない新しいトンダ PFコレクションの全貌は、昨年10月のHands-Onレポートをご覧いただこう。しかし、実を言うと私の関心はプラチナケースのスプリットセコンドクロノグラフから離れることはなかったのだ。この時計が、過去5年間にこの時計にかけた重い期待に応えることができるかどうか、そのタイミングをあれから何ヵ月も待っていた。

Three-quarter angle of the bezel of the Tonda PF Split-Seconds

 その機会が訪れた今、言えることは、トンダ PF スプリットセコンドクロノグラフは21歳のときの私が抱いた期待を裏切らなかったということだ。このモデルはオリジナルトンダのデザイン言語を印象的にスマートに進化させたもので、プラチナ製の一体型ブレスレット、それに合わせた42mmのケース、クリーンで繊細なテクスチャー仕上げのプラチナ製ダイヤルによって全体的にさらに良くなっている。スプリットセコンドクロノグラフは、ほかのトンダ PFモデルと同様に、2021年春にブルガリから引き抜かれたブランドの新CEO、グイド・テレーニ氏の頭脳から直接もたらされた多くのスマートな特性を備えている。彼は2021年の春に数々の記録を作り評判となったオクト フィニッシモコレクションの開発を成功させてきた。

The platinum bracelet and buckle of the Tonda PF Split-Seconds

 しかし、このプラチナ製スプリットセコンドクロノグラフがトンダ PFの同クラスと異なるのは内蔵されたムーブメントの品質だ。2017年5月にはまったくわからなかったことが今でははっきりとわかる 。Cal.PF361は、現在製造されているスプリットセコンドクロノグラフムーブメントのなかで最もすばらしく、最も過小評価されており、最も視覚的に興味深いムーブメントのひとつなのだ。

速く、フルリエらしく

手巻きのCal.PF361がこれまでのパルミジャーニのスプリットセコンドクロノグラフと異なるのは、その構造と振動数の両面にある。Cal.PF361は、2016年に発表されたクロノール アニヴェルセールに搭載されたパルミジャーニ・フルリエ初の一体型クロノグラフムーブメントで、この場合の“一体型”とは、デュボア・デプラのようなクロノグラフ専用モジュールを使用せず、Cal.PF361の各要素がメインプレートに取り付けられていることを意味する。新開発の一体型クロノグラフムーブメントは、時計工学のなかでも最も困難な作業のひとつと言われている。

The caliber PF361 inside its first home – the Tonda Chronor Anniversaire.

Cal.PF361は、トンダ クロノール アニヴェルセールに初めて搭載された。

 Cal.PF361がさらにすばらしいと思うのは、このムーブメントが3万6000振動/時(5Hz)というハイビートで動作していることだ。ハイビートのクロノグラフといえば、ゼニスやエル・プリメロが話題を独占するのが常だが、この10年のあいだにいくつかの異なる選択肢も登場している。ブランパンのCal.F385は、このハイビートウォッチのニューウェーブの第一弾として2014年に発表され、すぐにパルミジャーニのCal.PF361がそれに続いた。ちょうど昨年、このグループにスイスのハイエンドムーブメントメーカー、クロノード(Chronode)がチャペックのアンタークティーク・ラトラパント専用に開発した自動巻きCal.SHX6が加わった。

 手巻きのパルミジャーニと自動巻きのチャペックは、現在スプリットセコンド機構を備え、かつ3万6000振動/時(5Hz)で動作する唯一の存在だ。しかし、Cal.PF361は完全に統合されたムーブメント構造を持つ唯一の選択肢であり、最終的にはより洗練された、よく考えられた製品となっている。さらに、Cal.PF361のスプリットセコンド機構は、3時位置のリューズに組み込まれたプッシャーで作動する。この位置は一般的に時計の反対側、通常は10時付近に配置するよりも望ましいと考えられているものだ。

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 ツインコラムホイール、垂直クラッチ、ダブルブリッジテンプ、65時間という驚異的なパワーリザーブ、そしてお待ちかね、18Kレッドゴールド製(!)の堂々たる二重構造のオープンワークブリッジを加え、Cal.PF361のトップダウンの完成度に弱点は見当たらないのだ。2017年のGPHGの審査員もきっと賛成したに違いない。トンダ クロノール アニヴェルセールは、シンガーのリイマジンド トラック1ゼニスのデファイ エル・プリメロ21の初代モデルを抑え、100分の1秒まで計測可能なクロノグラフ部門において、見事勝利を収めたのだから。

Caliber PF361

トンダ PF スプリットセコンドクロノに搭載されたCal.PF361。

 振動数の話は必ずしも楽しいものではないが(すでに頭痛がするようならこれを読んでみて)、3万6000振動/時(5Hz)で作動するクロノグラフは、2万8800振動/時(4Hz)のものよりも機能的に優れていることを理解することが重要だ。3万6000振動/時(5Hz)で動作するムーブメントは物理的に3万6000振動/時(5Hz)で振動するテンプを持ち、ダイヤルサイドについて言うと、2万8800振動/時(4Hz)のクロノグラフが8分の1秒であるのに対し、これは10分の1秒の経過時間(要するにクロノグラフの目的と完全に一致する時間)を測定する能力があるのだ。

 リシャール・ミルは2020年、ハイビートの自動巻きスプリットセコンドクロノグラフ、RM 65-01 オートマティック スプリットセコンド クロノグラフを発表した。しかし、先ほど紹介した4つのブランドが自社製ムーブメントか、“独占”権を持って社外で作らせたムーブメントを使用しているのとは異なり、RM 65-01のCal.RMAC4は、パルミジャーニのCal.PF361のアーキテクチャとレイアウトを全面的に踏襲しているのである。

Parmigiani headquarters in Fleurier.

フルリエにあるパルミジャーニの本社。ヴォーシェの製造工場は徒歩10分ほどのところにある。

 誤解のないように言っておくと、リシャール・ミルはある日突然ミシェル・パルミジャーニ氏にムーブメントの発注をかけたわけではない。すべて“パルミジャーニ・ウォッチメイキング・センター”の中心であるヴォーシェを通じて行われていたのだ。パルミジャーニの親会社であるサンドス・ファミリー財団が所有するスイスの5つの専門メーカーからなるグループによって、パルミジャーニ・フルリエはスイスの時計製造において最も一貫した、最高レベルの垂直統合を実現することができる。パルミジャーニウォッチのほぼすべてのパーツを製造するほか、これら5つの異なる工場(それぞれダイヤル、ケース、ネジ、脱進機、ムーブメントの製造に特化)は、スイスの長い伝統を持つ“エタブリスール(établisseurs)”に対応し、大衆向け機械式ムーブメントの供給元であるETAやセリタに代わるハイエンドな代替品を提供している。

The caliber PF361 in the Tonda Chronor Anniversaire

 パルミジャーニがCal.PF361を発表してから2年後、ヴォーシェはクロノグラフCal.VMF6710を市場に送り出した(VMF 6710の詳細については、The Naked Watchmakerによる分解図をお見逃しなく)。VMF 6710はオリジナルの手巻きスプリットセコンドCal.PF361をさらに小型化したものだ。VMF 6710は完全な一体型構造で、3万6000振動/時(5Hz)で作動するが、自動巻きでスプリットセコンド機構は搭載されていない。しかし、ヴォーシェはこれらの機能のどれかを有償で復活させることができる(あるいは機能を追加することもできる)。

 スプリットセコンド機構を搭載したRM 65-01は、パルミジャーニ/ヴォーシェが設計したムーブメントのノウハウと品質を、時計業界で最も革新的で技術力の高い企業の1社が採用したものなのだ。

ヘビー・ヒッター

 トンダ PF スプリットセコンドクロノグラフは、実に充実した時計であることは間違いない。ダイヤル、ケース、ブレスレットはすべて無垢のプラチナから作られているが、この素材は工具の摩耗が激しいため、非常に時間のかかる作業であることは想像に難くない。(ジャックは2020年に「プラチナの複雑な歴史」についての論文を発表しており、この件において必読の記事となっている)。

A side profile of the Tonda PF Split-Seconds case

 新CEOテレーニ氏の手により、トンダ PFコレクションの多くが改良され、リフレッシュされたが、バシネケースのプロファイルが持つ流麗なエルゴノミクスデザインは、新しい時計が従来のトンダと共有する最も明確な視覚的特徴となっている。トンダ PF スプリットセコンドクロノグラフは、ねじ込み式リューズ、トンダの特徴であるティアドロップ型ラグと新デザインのブレスレット(テレーニの発明)のほぼシームレスな接続など、重要かつ新しいディテールについてもほかのトンダ PFウォッチと共有している。パルミジャーニのダイヤルに新たに加えられた「PF」ロゴは、90年代にミシェル・パルミジャーニ氏が完成させたスケッチに基づいており、これまでのトンダ PFコレクションに一貫して採用されている。

 技術的なこと、ムーブメントの機能、腕につけたときの重さなどには触れないが、新コレクションの明確な目玉商品であるトンダ PF スプリットセコンドクロノグラフとほかのトンダ PFウォッチの最も大きな違いは、ダイヤルの美しさに尽きると思う。

Tonda PF Split-Seconds

トンダ PF スプリットセコンドクロノグラフは以下の時計とともに発表された。

Tonda PF Micro-Rotor

トンダ PF マイクロローター

Tonda PF Chronograph

トンダ PF クロノグラフ

 これまで見てきたトンダ PFのダイヤルは、どれも極めてミニマルなデザインだったが、スプリットセコンドクロノグラフだけは、ほかのモデルで採用されているギヨシェ模様(上図参照)を排除している。その代わり、プラチナ製のダイヤルには軽いテクスチャーを施し、シルキーなサンドブラスト仕上げをダイヤル全体に均等に施している。

The Tonda PF Split-Seconds

 ほかのトンダ PFシリーズと同様に、このスプリットセコンドクロノグラフも外周がくぼんでおり、18Kホワイトゴールドのアプライドインデックスがダイヤルの両脇に配置されている。クロノグラフであることを考慮し、パルミジャーニはこのスペースを賢く使い、そこに30脈動のパルスメータースケールをプリントしている。これは、無作為なレーシングタキメーターよりも、トンダ PF スプリットセコンドクロノグラフを購入する25人の(おそらく)購入者たちの心に響くであろう、意図的な選択だ。

 トンダ PF スプリットセコンドクロノグラフと数日間過ごしたあと、私はこの時計に見える(数少ない)色について考え込んでしまった。この時計には、どこか“自然”を感じるピュアな光沢感がある。プラチナケースのクールな色調は、反射というより完全にマットに近い仕上がりで、実際、光源や窓際に時計をかざすと、光を反射するというより、むしろ吸収しているように感じられた。 つまり、トンダ PF スプリットセコンドクロノグラフはシンプルに光り輝いているのだ。

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いちばん輝くもの

パルミジャーニが、世界的に有名な修復工房と部品やエボーシュのサプライヤーとして外部企業をサポートする一貫生産能力によって、時計産業における「善意の力」と位置づけられている点が重要だと考えている。

A man holds the Tonda PF Split-Seconds in his palm.

 大企業であれ中小企業であれ、ライバルと目される企業のためにこれほど積極的に動いている時計会社はほかにないだろう。パルミジャーニが財団の(ときには赤字で)支援を受けているのは、大局的な視点を提供するのに役立っているに違いないが、我々は一族の信託に支えられた時計会社を少なくとももうひとつ知っている。

 私がここで言いたいのは、17万1600ドルの高級時計製造と評価には、少なくとも小さな善意のコミュニティが起こっているということを理解すればわかりやすいと思う。パルミジャーニの時計製造に対する包括的なアプローチは、このハイエンドで非常に複雑なタイムピース内の技術の一部が、最終的に外部の時計メーカーに還元される可能性を提供している。

 しかし、還元されていないのは、私がトンダ PFスプリットセコンドクロノグラフで最も気に入っている点についてなのだ。それは、18KRG製の2層構造、そして蜘蛛の巣状のブリッジと地板で、高速で動くテンプから反響しているように見えるところだ。

Caliber PF361

トンダ クロノール アニヴェルセールに搭載されたCal.PF361。

 ダイヤル側のツインデイトホイールを減算した以外は、2016年にGPHGを受賞したトンダ クロノール アニヴェルセールから技術仕様や美観の面で犠牲になったものはないようだ。(おもしろいことに、クロノール/Chron-orという名前は、クロノグラフの接頭語であるChronと、ゴールドを表す紋章の色合いであるOrを組み合わせて選ばれた)。

 Cal.PF361のブリッジはさまざまな方向に蛇行しており、把握するのが難しいほどだが、ムーブメントの一部を一部を見ることができるようにオープンワークになっている。これはパルミジャーニのアプローチのなかで、ひとつの部分的なデメリットだと思ってしまう。ブリッジが広範囲に及ぶため、ムーブメントの特定の部分、特にセンターコラムホイールと噛み合うスプリットセコンドクランプの開放的な視界が損なわれてしまうのだ。

 このような表現力豊かなムーブメントデザインは、スイスの時計製造において珍しいものであることは言うまでもない。ある種の伝統主義者や純粋主義者の感性と相容れないかもしれない、とさえ言えるだろう。もしあなたがそのよう考えて、より保守的なムーブメントデザインをお望みなら、ルーペでブリッジの角の丸みをよく見てほしい。

The caliber PF361 inside the Tonda PF Split-Seconds

 この時計は、目に見えるすべての面取りが、手作業による繊細な丸みを帯びたアングラージュ仕上げになっており、ブリッジに施された膨大な量の内角がさらに際立っている。このレベルの内角を出すことはハンドメイドの時計製造において最も時間のかかる作業のひとつであり、機械仕上げでは再現することが不可能だ。Cal.PF361には、数え切れないほど多くの内角がある。文字通り、何度も数えようとトライしてわからなくなった(私の最良の推定値は50以上)。

 さらに、Cal.PF361のブリッジ上部はサテン仕上げ、石受け、ネジ頭、ホイールの葉(歯)はそれぞれミラーポリッシュ仕上げとなっている。さらに、見えにくいが(上の画像で左上のコラムホイールの上を見てほしい)、主ゼンマイ香箱に施された繊細なエングレービングは、パルミジャーニの最も特徴的な美学のひとつであるティアドロップ型のラグのような反復模様をなしていることを指摘しておきたいと思う。

The Tonda PF Split-Seconds laying on its side.

 ミシェル・パルミジャーニ氏との運命的な2017年のディナーのあと、私はまだ再びトンダ クロノール アニヴェルセールを直接見ることができていないが(2020年にフィリップス香港で突然現れた。だからまだ希望はある)、トンダ PF スプリットセコンドクロノグラフは私の好奇心を満たす以上のものだった。

 それはまた、現在製造されている最も魅力的な、そして言うまでもなく過小評価されているスプリットセコンドクロノグラフのひとつを体験させてくれたのだ。

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