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Editorial エベラールへの止められない情熱

これは幼い頃、“ジョニー・ワン・ノート”と呼ばれていた私による、エベラールへの(少し)執拗なラブレターである。

本稿は2016年12月に執筆された本国版の翻訳です。

 子どもの頃、父は私のことを“ジョニー・ワン・ノート(単調かつ変化に乏しいという意)”と呼んでいた。なぜかって? 私はある特定のことに夢中になると、最終的にその熱が冷めるまで、何度もそのことばかりを話すからだ。とても魅力的な個性だったのは確かである。奇妙かつ多様な子どもの頃のこだわりのうち、最も奇妙なもののひとつに、彫刻刀との強烈なロマンスがあった(誤解されやすい表現であることに今気づいた)。革小物に、手作業で友人の名前を入れたり、下品なフレーズでグラスをカスタマイズしたりと、そんな夢を広げていた。

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 今思えば、友だちがいたのは奇跡である。

Eberhard Scafograf 200

エベラールは、スカフォグラフシリーズでゴージャスなダイバーズウォッチをいくつか発表している。

 この愛嬌のある特徴は、私が大人になるまで生き続け、花開いた。これが時計とどう関係するのか、あくびをしながら自問するかもしれない。1年前、私は偶然、エベラールというブランドを見つけ、すぐにグラスのカスタマイズを考えた(比喩的に言うと)。今では13本所有している。そして妄信的なカルト信者と同じように、なぜほかの人たちが、これが時計史上最高のヴィンテージブランドのひとつであるとわかっていないのか、私には理解できない(大げさでもなんでもなく)。

Eberhard enamel dial

クロノグラフとエナメル文字盤は、決して悪い取り合わせではない。

ツートンカラーの文字盤も悪くない。

 今、私は主に1930年代と40年代の、エクストラ・フォルトコレクション以前の時計について話している(50年代および60年代についてはまた後ほど)。イタリア人以外ほとんど知らないかもしれないが、“プレエクストラ・フォルト”とは、50年代に登場したエクストラ・フォルトより前に登場した時計を分類するために作られた造語である。したがって“プレ”がつく。簡単だろう?

 この時代、エベラールと競合他社との違いを即座に区別する点がいくつかある。

Eberhard Pre-Extra fort

エベラールの文字盤はごちゃついているが見やすい。これは並大抵のことではない。

 ひとつ目は文字盤のサイズだ。30年代や40年代の時計はまさにリリプティアン(非常に小さい)であり、視力が明らかに後退していったのはこのせいである。文字盤は分子レベルで小さく、スポーツウォッチなら分子2個分の大きさかもしれない。人々は、今が何時なのかわからず遅刻しまくっていたか、あるいは狙撃学校の講師を務める(鋭い視力を持つ)80歳以上の老人かのどちらかだ。

 ほとんどの時計が32~34mmの範囲にあったのに対し、エベラールはなぜか39~40mmという非常にモダンなサイズの時計を製造していた。ただ誤解しないで欲しい。私は執事に手首を持ってもらわなければならないほど大きい、フリスビーサイズの時計は好きではないが、37~40mmの範囲であれば、私の手首にはぴったりだ。

Eberhard Pre-Extra fort

上の時計と似ているが、こちらはギルトダイヤルなのが印象的。

 次にデザインだ。元アートディレクターとして、エベラールの誰かがブランドのあるべき姿について明確なビジョンを持っていたことは明らかと言える。タイポグラフィへのこだわりが絶妙なのだ。すべての文字盤のすべてのフォントは、周囲の要素とバランスが取れている。またエベラールのロゴは、最も洗練されたもののひとつだ。文字盤の色使いもいつも美しく、意外性がある。文字盤のデザインは質素ではなく、むしろ忙しないと言っても過言ではないが、均整の取れたごちゃつきであるためにすべてが心地よく調和している。エベラールは常にイタリアで人気があるのだが、エクストラ・フォルトより前のモデルを見るとその理由がわかるだろう。彼らは芸術的であると同時に古典的でもある。何より素晴らしいスタイルを持っているのだ。

Eberhard Extra-Fort Split second

スプリットセコンドクロノグラフのような、クールな複雑機構が搭載している限り、エクストラ・フォルトは私に合っている(ここで見ることができるすべての針)。

 最後に、どうやら言うべきことらしいので申し上げるが、彼らは独自の自社製ムーブメントを製造している。これは時計製造について詳しい人にとっては重要なことのようだが、私には関係ない。しかしそれを言及しなければ、私はHODINKEEにいる逞しくて屈強なスタッフたちから容赦ない非難を受けることになるだろう。

Eberhard Scafograf 100

エベラールダイバーの最初のモデルであるスカフォグラフ100は、私が気に入った特大のトライアングルインデックスをたまたま備えていた。

 1940年代の豊かで華麗なデザインは、1950年代のかっちりとした服装と、エクストラ・フォルトシリーズ誕生につながった。率直に言って、それ自体は立派な時計だと思うし、コストパフォーマンスも優れていると思うが、初期の時計ほど興奮することはない。

 この時代に注目すべきはエベラールのダイバーズウォッチである。特にごく少数(せいぜい数百本)製造されたスカフォグラフ100、そしてシリーズ1と2のスカフォグラフ200だ。ロリポップ秒針や大きな幅広のアロー針など、誰もが好むデザインを備えた、美しくもユニークな文字盤デザインを備えている。また、60年代に登場したコントグラフについても触れておく価値がある。これはこの時代の、最も美しく繊細でユニークなクロノグラフのひとつだと思うのだ。

Eberhard Scientigraf

超セクシーに見える耐磁ツールウォッチ、サイエンティグラフ。Photo: @mr.mlw via Instagram

 そして最後になったが、ロレックスのミルガウスに対するエベラールのアンサーウォッチであり、驚くほど珍しいサイエンティグラフを挙げよう。この素晴らしい例は友人のマティアのものだ。彼が恩を感じて時計を譲ってくれることを願って写真を載せる(心理学的なことはよくわからないが、今はそれしかできない)。

Eberhard Contograf

コントグラフをよく見ると、クロノグラフに日付窓をうまく組み込むことができると示している。

 ということで、ここでヴィンテージエベラールウォッチに対する(少し)執拗なラブレターを終わろう。いいものを見つけるのは簡単ではない。市場にはあらゆる種類の怪しげな商品があふれている。いちばんいいのは、完璧なサンプルを研究することなので、Instagramの@doctorsteelitaly@mattioandreをチェックして欲しい。彼らは恐ろしいほどに美しい例を所有しており、時折必死のメールを送らせるほど私を嫉妬で満たしている。手っ取り早く簡単に偽物を見分ける方法は(これは完璧な方法ではない!)、ロゴと文字盤の下に“Swiss Made”と書かれているかどうかの2点だ。これらの時計は、リューズや針も交換されていることが多いため、それらも合わせて確認を。

 特にギルトダイヤルは価格が高騰しているが(なかには高騰していないものもある)、あなたの新しい親友(私)の言葉を信じて欲しい。きっと飽きずに使えるだろう。

フィリップ・トレダノ(Phillip Toledano)はアーティストであり、自動車愛好家でもあるが、最近になって時計収集の沼に頭から飛び込んだ。彼はウィットと愛嬌、そしてセンスを武器に、あっという間に著名なコレクターになった(Talking Watchesで特集されるほどに)。今、彼はコラムニストとして、混迷を極める時計界で自らの道を切り開こうとする者としての試練と葛藤を語ってくれている。今後もお楽しみに。Instagramでは、時計とクルマの両方における彼の奇妙な冒険譚を追うことができる。