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VINTAGE WATCHES 懐中時計はあなたのコレクションを(きちんと)補完できるか?

懐中時計が腕時計と並存していたのはそれほど昔のことではなく、現代のコレクションに加えることに意味があることもある。

懐中時計に言い知れぬほどの情熱を持っている私のような人間は、インターネットで最もクールな懐中時計を探すことに時間を費やしている。パテック フィリップ、カルティエ、エベラールなど、非常に印象的なデザインの懐中時計を、比較的手頃な価格で販売しているブランドはたくさんある。

Cartier Pocket Watch

今年の初めに見た、美しいカルティエのプラチナ製懐中時計。

 もうほとんどの人の目が点になっているのがわかる。秋のニューヨークオークションシーズンに、あるオークションハウスの人が私に尋ねた。“どうすれば買い手に懐中時計に関心を持ってもらえるだろうか?”。残念ながら私の答えは、率直に言って、それは無理だというものだった。懐中時計は実用的ではない。デザインのオブジェとして、創造的なムーブメントとして、歴史的な作品として、あるいは時計学を探求するための触覚的なオブジェとして、それらをクールだと感じるかどうかは三者三様だ。ただもしあなたが迷っているのであれば、単にコレクションに加えるためではなく、多くの人が欲しくてたまらないと思う、本当にクールでおもしろい時計を補完するために懐中時計をひとつ(またはふたつ)手に入れてもいいかもしれない。

 数カ月前、平日の夜を過ごすのが好きな私と3人ほどでChrono24で懐中時計を物色していたところ、この記事のアイデアのきっかけとなったある懐中時計に出合った。ユニバーサル・ジュネーブ コンパックス Ref.22549は、魅力的なダイヤルレイアウトと、9時位置のインダイヤルに(オリジナルの“シールド”ロゴをほうふつとさせる)歯車と”Universal Genève Compax”のロゴをあしらっている。この時計は、スピードマスターとユニバーサルに長年情熱を注いでいることで知られるイタリアのディーラー、アンドレア・フォフィ(Andrea Foffi)氏のものである。結果的に、数週間後にモナコ・レジェンド・グループのオークションでフォフィ氏と会うことになった。そこで私は、写真を撮らせて欲しいからとこの時計とほかの3本の時計を持ってきてもらえるよう頼んだのだ。

Universal 25549 pocket watch

 この時計のすばらしさは一目瞭然だと感じた。印象的なダイヤルデザインは、私が長年見てきた多くのユニバーサル・コンパックスの腕時計に似ていた。文字盤の周囲には、同じように珍しい蛍光塗料を塗布した時フォント、大胆なタキメータースケール、そしてミリタリーの雰囲気を醸す超クールな夜光つきのアルファ針がある。

 46mm径のケースには、12時位置にクロノグラフプッシャーを備えた15.75リーニュ(35.2mm)の手巻きムーブメント、ユニバーサルCal.292が収められている。同ムーブメントは、このような実用的な時計にしては想像以上によく仕上げられている。一番不思議なのは、ダイヤルのレイアウトが変わっていて、12時位置に30分積算計、3時位置に12時間積算計、下にスモセコが配置されていることだ。また、全体がわずかにドーム状になっており、ロゴが置かれたカウンターのスペースには、使われていないくぼんだ空間がある。ただそれには論理的な理由がある。

Universal 25549

懐中時計 22549に搭載された、Cal.292ムーブメントのクローズアップ。

22549 caseback

 ソーヴィニヨン・ブランとレモン風味のフィッシュのコースが合うように、この時計との相性は明らかだが、それでも楽しいものだ。ユニバーサル・ジュネーブがつくった腕時計のなかで、最も大きなもののひとつが“アビエーターコンパックス” Ref.22430である。幸運なことにフォフィ氏が、私が見落としていたこの時計も販売していたため、嬉しいことにわざわざ持ってきてくれたのだった。ふたつの時計のサイズが同じ46mm前後であることはすぐにわかるが、それは同じCal.292ムーブメントを使用しているからである。

Universal 25549 Pocket Compax and Universal 22430 Aviator's Compax
Universal Aviator's compax

 ユニバーサルのアビエーターコンパックスは、ヴィンテージコレクターなら誰でも好きになってしまうとても素晴らしい時計だ。アビエーターコンパックスが1950年代のものであることを忘れてはならない。当時46mmという時計は非常に珍しく、また明確な目的を持ってつくられていたため、このようなものはあまり見られなかった。一流のヴィンテージコレクターが、特大サイズのクロノグラフを大量に購入する理由のひとつである。今はクールでないものも、昔は斬新だったのだ。手首に巻いてみると非常に存在感があり、普段使いではなく仕事用につくられた時計だということがわかる。

 ムーブメントを時計回りに90°回転させると、22430のクロノグラフプッシャーは通常の時計の向きに戻る。ダイヤルレイアウトも同様に回転しているが、中央へと少し凝縮されているように感じられる。ムーブメントは変わってないが、文字盤側のデザインは懐中時計と比べてケースとベゼルが厚くなっている。文字盤と風防をフラットにしたり、文字盤フォントのレイアウトを変えたりすることで、時計の大きさや比率が変わってしまったかのような奇妙な錯覚に陥る。

Universal 22430

 後ろから見ると、実際はそうではないことがわかる。どちらの時計もケース幅がムーブメントより少し広いがほぼ同じだ。各ムーブメントには、米国向けのユニバーサルインポートマークである“UOW”が刻印されている。多くのユニバーサルと同じように、これらの時計はおそらくアンリ・スターン代理店を通じて輸入され、その後、ブランドへの関心の高まりとともにイタリア人コレクターによって再び買い占められたのだろう。本モデルは下記のユニバーサルのカタログにも掲載されている。

Universal 22549 and 22430 watches with caliber 292 movements
Aviator's Compax

ユニバーサルの初期のカタログには、アビエーターコンパックスの項目がある。

Pocket Compax

同じムーブメントを搭載した懐中時計のコンパックス。この時計にはさまざまな文字盤のバリエーションとリファレンスナンバーがあり、14Kゴールドでも注文することができた。HODINKEEのヴィンテージ部門でもかつて、金無垢モデルを販売したことがある。

 フォフィ氏が持ってきたおもしろいペアモデルは、そのアビエーターだけではなかった。長いあいだ、ユニバーサルの“A.カイレリ” スプリットセコンド・クロノグラフ Ref.22560は私のお気に入りであった(もちろん私だけではない)。アビエーターコンパックスと同様、44.5mm径という当時としては極端に大ぶりなものだったが、目的をもってつくられたものだった。大胆な数字と太いブレゲ(pomme)針の使用も、ほかのユニバーサルとは一線を画している。

Universal 55VBR Split Second Chronograph
Universal A. Cairelli

 ユニバーサルのラトラパンテは、おそらくコレクターのあいだで最も支持されている時計だ。1950年代半ばのある時点で、イタリア政府はローマの小売業者A.カイレリに連絡し、イタリア陸軍航空隊(AMI)のために多くの時計を発注した。A.カイレリはその後10年ほどのあいだに、ユニバーサル・ジュネーブとゼニスのクロノグラフのふたつの似たような時計を、数量に差はあれど納品しており、ゼニスのパイロット クロノグラフのほうが圧倒的に多く流通している(約2500本注文されたとされる)。ユニバーサルのスプリットセコンドとはまったく別の話だ。

 AMIのために製造された時計の数は100本未満(50本未満という説もある)と噂されており、モノプッシャースプリットセコンドクロノグラフは、地中海での空軍対潜偵察機を使用していた上級将校だけに託されたとされる。軍用ケースバックのエングレービングにちなんで、この希少なリファレンスは“HA-1”とも呼ばれている。イタリアの小売業者のサインをあしらった文字盤には、天文航海用に設計された24時間レイアウトが施されており、夜間のミッションでは夜光塗料がなくても驚くほど視認性が高かった。

Universal A. Cairelli engraving
Universal split second dial signature

 この時計は、ミネルバなどのほかのブランドの珍しい時計に見られるバルジュー55 VBRムーブメントを搭載している。ヴィンテージウォッチファンは、流通が確認されているロレックスのRef.4113(ロレックスがこれまでに製造した唯一のラトラパンテモデル)から55 VBRのことを知っているかもしれない。このユニバーサルムーブメントには、より一般的な30分積算計とは異なる16分積算計もあり、比較的未完成のまま提供されていた。とはいえ、時計製造と歴史という点から見れば、この時計が掘り出し物であることに変わりはない。

Two Rolex 4113

2023年秋のモナコ・レジェンド・オークションにて、コレクターの手首に装着されていた、2本のロレックス Ref.4113 スプリットセコンドクロノグラフ。この記事で私が指したような組み合わせではないが、それでもいい組み合わせだ。

 ロレックス Ref.4113は、100万ドル(日本円で約1億4800万円)の時計になる可能性があるが、ユニバーサルも市場では負けていない。2016年に開催されたフィリップスの“Star, Stop, Reset”オークションでは、素晴らしいコンディションの時計が20万スイスフラン(当時の相場で約2210万円)近くで落札された(フォフィ氏のシリアルナンバーとは8つ違い)。その翌年にはクリスティーズで10万スイスフラン(当時の相場で約1140万円)で売れ、その後の2021年には8万7500ドル(当時の相場で約960万円)で落札された。おそらくこれが最低ラインだと思うが、これだけ数が少ないと、入札者の気まぐれで数字が変わる可能性もある。

 ワインの例えにこだわるなら、時計のポーターハウスまたはTボーンステーキのようなもので、ユニバーサルは大胆でそれと同じようにパンチのある時計に取り組んでいる。この素晴らしいエベラールはユニバーサルのHA-1と同様、素晴らしいストーリーと起源を持つネッビオーロである。

Universal A Cairelli split and Eberhard Mod Mag

 ユニバーサルがAMIと協力したように、エベラールはイタリア軍と密接な関係を持っていたが、ユニバーサル HA-1よりも前からあった。第2次世界大戦におけるイタリアの重要な役割も果たした。

 1942年、連合国は枢軸国間の暗号を解読して大勝利を収めた。暗号が解読されると、遠隔地から信頼性の高い通信を再確立することは不可能となるため、5人のイタリア人飛行士が日本への航空路を確立し、新たな暗号を中継する努力を行った。5日間の飛行では地上通信が不可能になるため、パイロットたちは1942年6月29日に離陸する際、唯一の航行手段となるふたつの腕時計を携えて出発した。ひとつはロンジン リンドバーグ アワーアングルウォッチ。もうひとつは、エベラールの24時間表示のあるスプリットセコンド懐中時計で、エベラールの名前の横に“システマ・マジーニ(Sistema Magini)”という文字がプリントされている。これは探検隊のメンバーのひとり、プブリオ・マジーニ(Publio Magini)を指している。この時計はまた、文字盤上下に曜日と日付のための、ふたつの開口部を備えていた。このふたつの時計は合わせて、2015年11月のフィリップスのオークションで11万2500スイスフラン(当時の相場で約1415万円)で落札されている。

Longines Lindbergh and Eberhard Sistema Magini

2015年11月のフィリップスオークションに出品された時計。Photo courtesy of Phillips.

Eberhard Mod. Mag.

Photo courtesy Bolaffi.

 オリジナルのシステマ・マジーニの懐中時計だけがつくられたわけではない。その後、マジーニの名を冠した懐中時計や腕時計がつくられ、Mod. MaginiまたはMod. Magとも呼ばれた。実際にマジーニの時計を見たのはこれが初めてだった。ラトラパンテの腕時計は3本知られており、そのうちの1本(上の写真)は2019年のイタリアのオークションハウス、ボラフィで15万6000ユーロ(当時の相場で約1905万円)にて落札された。その時計にはバルジュー55のムーブメントが搭載され、フォフィ氏が持ってきた懐中時計はスプリットセコンドクロノグラフではなかったが、文字盤のフォント、レイアウト、針の形、すべてが非常によく似ているものだった。

Eberhard Mod. Magini
Universal A Cairelli 55VBR

ユニバーサル HA-1に搭載されたバルジュー55 VBRムーブメント。

Eberhard Mod Magini

エベラール Mod.Mag. 懐中時計に搭載されたムーブメント。

 最初のペアは販売されているため、よかったら彼に連絡して欲しい。彼の懐中時計を1度買いそうになったことがあるが、今は買えないアビエーターコンパックスと組み合わせるのがベストだと思う。一方、ふたつ目のペアは今のところ彼のコレクションに入っていて値段もつけていない。彼からそれを譲り受けることができたら、きっと幸せ者だ。特に2本目は、ミリタリーの伝統とミッドセンチュリーの大胆な時計製造とデザインの魅力的な組み合わせで、どちらの時計もコレクションとして楽しむことができる。しかし両者を合わせれば、そこにクールなストーリーが生まれ、懐中時計を所有する完璧な理由が生まれるのだ。

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取材協力・時計を貸してくれたアンドレア・フォフィ氏に感謝します。