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In-Depth シチズン、2世紀目の歩みをスタート

超薄型エコ・ドライブ、ハイテクウォッチのプロマスター、ハイブリッド型スマートウォッチ、ミッキーマウス・ウォッチなど、新作が目白押しなのだ。

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日本のシチズン時計株式会社は、昨年100周年を迎えた。同社の前身は、1918年に東京で設立された、時計製造ベンチャーの尚工舎時計研究所である。

ところが、シチズンの100周年記念式典は、アメリカ人やスイス人の基準で見れば控え目なものだった。同社は、昨年3月のバーゼルワールドの会場で、ブースを改造してカクテルパーティを開催した。1世紀にわたる時計作りを象徴する10万個の地板が、ブース一杯に吊るされていた。100周年記念のエコ・ドライブ ウォッチも何作品か紹介され、そこには、年差±1秒という史上最高精度のエコ・ドライブ ムーブメント(キャリバー 0100)を使ったコンセプト懐中時計も含まれていた。

それだけだった。 

シチズンは、もっと大騒ぎすることもできたはずだ。何と言っても、世界を代表する腕時計とムーブメントのトップメーカーである。世界最大の時計メーカーグループの一つであり、昨年度の売上高は約3200億円で、その51%が腕時計部門の売上である。同社の腕時計ブランドのポートフォリオを構成するのは日本ブランドだけではなく、アメリカ(ブローバ)やスイスのブランド(フレデリック・コンスタント、アルピナ、アーノルド & サン)も含まれる。

シチズンには、日本初の耐衝撃腕時計や防水腕時計から、クォーツ技術における優位性を東京のライバル企業であるセイコーと競い始めた1970年代に出された数々のパイオニア的製品まで、腕時計の分野で初の機能を実現してきた誇るべきレガシー(遺産)がある。もちろん、その中には、1976年にシチズン クリストロンソーラーセルで導入された、クォーツ式アナログ時計向けの、光を動力源にした独自開発のエコ・ドライブ テクノロジーもある。

シチズン時計株式会社 前CEO・現会長 戸倉敏夫氏。

にもかかわらず、シチズンはその大事なアニバーサリーで大々的な宣伝をしないことを選んだのだ。 

それはなぜか。それは、シチズンの時計作りの哲学を概説した本で同社が述べているように、「時計作りとは未完成の作品であり、歴史の授業ではないから」だ。「私たちはステータスよりも進歩を大事にします」

101年の歴史を持つシチズンは、世界最大の腕時計と腕時計用ムーブメントメーカーである。

シチズンの企業文化は、断固として未来志向である。私はこのことを、シチズン時計株式会社CEOの戸倉敏夫氏(記事執筆時・現会長)から直接学んだ。2015年に東京のシチズン本社で行われたインタビューで、私は彼に100周年向けての同社のプランを尋ねた。彼は、スイス時計ブランドのアプローチは採用しないと言った。つまり、その機会を利用して、長くて華々しい会社の歴史を強調するようなことはしないということだ。

戸倉氏は、「我々は、過去の栄光に胡坐をかき、自分たちが作った歴史を語るような会社でありません」と語った。「我々は過去を振り返って、自分たちの実績を自画自賛するようなことはしません。我々は将来について語り、次の100年を見据え、新しい製品を発表します。新しいことに挑戦することが常に大事なのです。我々が創り上げたいのは、そのようなイメージです」 

コンセプトウォッチ Cal.0100。

というわけで、100周年をめぐる熱狂は控え目なものだった。そして、100周年のシンボルであるコンセプトウォッチ「Cal.0100」の意味である。シチズン曰く、その腕時計バージョンはまもなく発売される予定である。シチズン ウォッチ アメリカのCEO、ジェフリー・コーエン(Jeffrey Cohen)氏は、次のように語る。そのメッセージは、「前に進み続けるということです。そのような正確性があれば、次の100年間は我々にとって何を意味することになるでしょう?」 

戸倉氏の言葉をきっかけに、2018年の年末、HODINKEEは、ニューヨークのエンパイアステートビルにあるシチズン ウォッチ アメリカの本社でコーエン氏と会った。会社が2世紀目を迎えるにあたり、米国のシチズングループの前途には何が待ち受けているのかを議論するためであった。 


大型取引

コーエン氏の見解では、シチズンの100周年で祝うべきことはたくさんあったそうだ。2018年の動きの中で、米国におけるグループの前途に大きなインパクトを与えるであろう事柄を3つ、すらすらと挙げてくれた。

昨年、米国の中価格帯の腕時計市場が混乱する中、シチズンとその姉妹ブランドのブローバ(2008年にシチズンがブローバを買収)は、1500ドル(約16万2000円)未満の市場セグメントでそれぞれ1位と2位になっている。 

シチズン ウォッチ アメリカCEO ジェフリー・コーエン。

10月、シチズングループとフォッシルグループは提携を発表した。この提携により、シチズンは、急成長を見せるスマートウォッチ市場にプレイヤーとして参入することになる。シチズンがこれまで慎重に回避してきた市場だ。この提携により、シチズンとフォッシルは、協力してハイブリッド型スマートウォッチ(コネクテッド技術を織り込んだクォーツ式アナログ時計)の生産を行うことになる。フォッシルがシチズンにハイブリッド型スマートウォッチの技術を提供し、シチズンが自社用とサードパーティ向けにハイブリッドウォッチ用ムーブメントの生産を行う。(詳細についてはまたすぐに触れる)

シチズンはまた、ディズニーとの大型コラボを発表した。これは、米国におけるシチズンのブランド認知度と腕時計の売上を大きく高めるはずである。シチズンとディズニーは、フロリダとカリフォルニアにあるディズニーのテーマパークの公式時計をシチズンのものとする長期契約にサインした。シチズンは、シチズンブランドのディズニーウォッチを生産し、ディズニーの施設用にシチズンブランドの時計を提供する。

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シェア戦略

シチズンは伝統的なアナログ時計についても諦めていない – しかし、スマートウォッチの世界に踏み込むことに恐れを抱いてはいない。

これらはすべて、米国の中価格帯の腕時計市場で難しい舵取りを迫られている企業にとって、好ましい展開であった。過去3年間、腕時計業界にとって、この市場は最も当てにならないセグメントであった。eコマースとウェアラブル(主に2015年4月にデビューしたアップルウォッチ)の台頭により、クラシカルな腕時計の売上と、これを販売する小売店舗(宝飾店、デパート、大型小売店)の売上は大きく損なわれている。 

この市場の破壊(ディスラプション)が、伝統的な腕時計メーカーに戦略の再考を迫ったのである。多くの主要メーカーが大変革を実行した。例えば、フォッシルグループは、スマートウォッチのカテゴリーを取り込み、「New World Fossil」というプログラムの下に組織の再編を行った。モバードグループは、MVMTやオリビアバートンなど、スタートアップのeコマース・アナログファッション時計ブランドを買収した。セイコーは、グランドセイコーを独立ブランド化し、高級腕時計メーカーとしてリポジショニングするため、中流層向けの競争から距離を置くことを選んだ。

同じグループであるシチズンとブローバは、
米国の中価格帯腕時計市場で敵に囲まれつつも、市場シェアを伸ばしている。

激しい競争の中で、シチズンは伝統的な腕時計と腕時計販売店にこだわりつつ、市場シェアを伸ばす方法を探った。フォッシルグループによれば、昨年の最初の9ヵ月間の米国における中価格帯製品の売上が5~10%減と、伝統的な腕時計の売上が縮小する中、「将来は市場シェアの獲得にかかっています」と、コーエン氏は語った。「それは我々がずっと重点的に取り組んできたことです。伝統的な腕時計の市場でシェアを拡大するため、一番チャンスの大きな場所に目を向けています」 

100周年記念コレクションで登場した、シチズン サテライト ウエーブ GPS スーパーチタニウム F 990。

それが意味したのは、シチズンの新作モデルにおけるアグレッシブな価格戦略の採用や、見過ごされがちなレディス向け腕時計市場へのブローバの進出などである。(例:シチズンのサテライト ウェーブ GPS ウォッチは、2011年にデビューした時は32万円(税抜)で販売されたが、今年の新作モデル(海外限定)の希望小売価格は800ドル(約8万7000円)未満となる価格設定だ) 

また、最先端のeコマース用施策を用意するという意味でもあった。この点について、コーエンは2017年に手立てを講じ、ラルフローレンのバーバラ・グレイス氏をCWA初の最高デジタル責任者として取締役に迎えた。同氏は、CWAのeコマースプラットフォームのアップグレードを実施した。

その結果、昨年上半期における1500ドル(約16万2000円)未満のセグメントの腕時計の売上高で、シチズンとブローバはそれぞれ1位と2位になったとコーエン氏は語った。コーエン氏がシチズンのCEOの職を引き継いだ7年前は、マイケルコースがトップの座を占めており、ブローバは5位か6位であったとコーエン氏は言う。 

今年、シチズンブランドは主にスポーツウォッチのプロマスターシリーズに注力している。価格帯は500ドル(約5万4000円)から2000ドル(約21万6000円)である。コーエン氏は、今年30年目を迎える同コレクションに、新技術を採用すると語っている。彼は、ブローバから飛び出すサプライズについてもほのめかしている。「我々はさまざまな秘策を用意しています」と語ってくれた。


スマートウォッチというサプライズ

シチズンは、2006年にそのコンセプトを世界に発表して以来、Bluetoothウォッチに多額の投資を行っている。写真は、100周年記念コレクションのエコ・ドライブ Bluetooth W 770。

フォッシルとの提携は、中価格帯腕時計市場でのシェア拡大を目指す同社の取組みにおいて、新たな戦線を開くことを意味した。それが、ハイブリッド型スマートウォッチだ。 

多くの腕時計業界観測筋を驚かせたのは、過去数年間、スマートウォッチ製品が同社の縄張りに侵入しているにもかかわらず、シチズンが傍観者の立場を取ったことだった。何といっても、2006年に世界初のBluetooth搭載ウォッチを売り出したのはシチズンである。ところが、戸倉氏は、シチズンのような伝統的な時計メーカーにとって、コネクテッドウォッチは採算が合わないと強く感じていた。彼は、2015年に東京で、ウェアラブルは異なる技術を使った異なるビジネスである、と私に語っていた。シチズンは、スマートウォッチの分野でサムスンやアップルなどと競い合うのに必要なコネクテッド技術を持たなかったのだ。

シチズンは本気でスマートウォッチ市場に
参入します。
 

– – シチズン時計株式会社 戸倉敏夫

これからは違う。提携契約に基づき、フォッシルがシチズンに対し、独自開発したハイブリッド型スマートウォッチ用の技術を提供する。戸倉氏にとっては、これはゲームチェンジャーである。スマートウォッチについての考え方と、彼自身の態度が変わった。戸倉氏は、提携を発表する声明の中で、「スマートウォッチ市場の規模と成長を考え、シチズンは本気でスマートウォッチ市場に参入します」と語った。「我々、シチズンとフォッシルグループは、両者の強みを最大限に融合し、スマートウォッチ分野をリードする企業になります」(シチズングループは、2016年にフレデリック・コンスタントとアルピナというスイスのブランドを買収して以来、高価格帯のスマートウォッチ市場でわずかに存在感を示しているが、これは買収前にフレデリック・コンスタント側のイニシアティブにより始まったものだった)

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スマートウォッチ画面戦争

フォッシルグループは、デジタルとハイブリッドの両方のスマートウォッチへの取り組みを強化した。

フォッシルとシチズンの提携は、スマートウォッチ市場において、2つのタイプのコネクテッドウォッチ間の競争を激化させるものである。デジタル式の文字盤を持つタッチスクリーン型スマートウォッチと、伝統的なアナログ式の文字盤を持つハイブリッド型スマートウォッチである。アップルが作っているようなタッチスクリーン型のウォッチは、市場で最大のシェアを占めている。しかし、ハイブリッド型も追従している。デジタル技術市場を専門とする英国の会社ジュニパーリサーチは、2022年にハイブリッド型がタッチスクリーン型を追い抜き、2017年の出荷台数1700万台から8000万台に増加すると予測している。

タッチスクリーン型とハイブリッド型の両方のスマートウォッチを販売するフォッシルは、ハイブリッド型の利点を次のように説明する。「ハイブリッド型スマートウォッチは、伝統的なアナログ時計の魅力である美しさに技術を融合し、男女問わずにそのセンスを損なうことなく、消費者の生活をより充実させてくれます」 

アップルウォッチのインパクト

スマートウォッチに対する個々の考え方とは無関係に、スマートウォッチが腕時計メーカーの置かれた環境を一変させたことは疑いようがない。保守的なメーカーにとっても、冒険好きなメーカーにとっても同じである。そういう点においては、アップルウォッチ程大きなインパクトを与えた時計は存在しない。

フォッシルとシチズンの提携のポイントは、二つの伝統的な腕時計メーカーがタッグを組み、クラシカルな文字盤を使ったスマートウォッチの市場を拡大しようとしている点にある。両社は、戦略的ライセンスパートナー契約を締結した。これによりシチズンは、フォッシルグループの技術を導入してハイブリッド型スマートウォッチを生産するのだ。 

フォッシルは、この数年間、スマートウォッチの技術に巨額の投資を行ってきた。2015年には、スマートウォッチとフィットネストラッカーを製造するシリコンバレーのメーカー、ミスフィットを2.6億ドル(約280億円)で買収した。 

シチズンは、ミヨタムーブメントの場合と同じように、ハイブリッド型スマートウォッチのムーブメントをサードパーティの腕時計ブランドに販売する。世界最大の時計ムーブメントメーカーであるシチズンは、フォッシルをはじめ、ムーブメントを購入してくれる腕時計メーカーの広範なネットワークを持っている。シチズンはまた、自社ブランドにおいてもハイブリッド・ムーブメントを使用する。どのブランドになるか、詳細は不明である。

 11月、フォッシルの会長兼CEOであるコスタ・カーツォティス(Kosta Kartsotis)氏は、金融アナリストに対して次のように述べた。
「さらに、我々は、機能強化されたハイブリッド型ウォッチを追加で開発、製造、販売するために、シチズンと協力して取り組んでいます」
両社とも、機能強化型のハイブリッド製品の詳細については明らかにしていない。

「ハイブリッド型スマートウォッチが、スマートウォッチ業界の相当な部分を占めるようになると予想される中、両社の提携は、ハイブリッド市場全体の選定、認識、イノベーションを加速させる効果を持つ」
と、カーツォティス氏は語った。


トラベルリテールの成長

シチズン エコ・ドライブ ミッキーマウス ウォッチ。

シチズンのようなマスマーケットブランドにとって、ディズニーとの提携は一種のクーデターだ。
「ディズニーのようなワールドクラスのブランドとの提携は、恐らく当社にとって過去最大の取引」
だったと、コーエンは語った。 

巨大グローバルエンターテインメント企業との提携は、シチズンの知名度を大きく高めることになる。フロリダにあるディズニーのテーマパーク「マジックキングダム」、そしてカリフォルニアの「ディズニーランド・リゾート」のすべての時計に、同社のブランド名が刻まれるのだ。シチズンはまた、ディズニーをテーマにしたシチズンウォッチを製造し、ディズニー メインストリートの中にあるシチズンのブティックで販売される。

今回の提携には、ディズニーウォッチの製造と販売をはるかに超えるメリットがあるとコーエン氏は語る。彼にとって、これは腕時計ビジネスで起きている変化に対するもう一つの回答だ。 

カリフォルニアのディズニーランド内にあるメインストリートに設置されたシチズンの時計。

「ブランドメッセージの伝え方という点では、わずか数年前と今では、世界は大きく変わっています」と彼は言う。「腕時計ビジネスだけでなく、より大きなレンズで見ることが必要です。そうすることで、腕時計ビジネスと最終消費者をつなぐことができます。私は、お客様にとって何かより実験的なもの、メッセージを伝える何か別のやり方が当社には必要だと感じていました」

「チャネルは変化しています」と彼は続ける。「デパートの重要性は低下しています。そしてトラベルリテールが、4、5年前に比べて重要度を増しているのです」

「世界中で9000万人の人々が、ディズニーのテーマパークや施設の中を歩くのです。そして今では、すべてのパークのすべての時計、しかも、誰もが写真を撮るシンボル的存在のメインストリートの時計までもが、シチズンの時計なのです」 

コーエンは結論づけた。ディズニーとの提携は「100周年記念の目玉だったのです」