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In-Depth ダイバーズウォッチのマーキングを読み解く

一見シンプルに見えるこれらの時計は、時にはそれほど単純なものではなくなる。


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本稿は2018年5月に執筆された本国版の翻訳です。

ダイバーズウォッチはシンプルな生き物だが、かなりの水圧下でも経過時間を判読できるという重要な役割を持つ、いわば“固くて重い生き物”だ。ブランパンのフィフティ ファゾムス、ロレックスのサブマリーナー、ゾディアックのシーウルフといった初期のモデルは、300フィート(約90m)防水、鮮明な文字盤、回転する計測リングを備えていた。ではダイバーズウォッチが進化していくなか、改善すべき点は何だったのだろうか。ベゼルをラチェット式で固定し、ストラップはネオプレンスリーブ(ダイビング用のウェットスーツ)用に調整され、もちろん防水性はアップした。しかし、手を加えることのできる範囲が限られていたため、各時計ブランドはダイバーが水中で問題を解決できるようなソリューションの実装に取り組み、より安全なダイビングの実現に努めた。デジタルダイブコンピュータがそれらの困難な作業を引き継ぐ前の時代に、これらの解決策がベゼルや文字盤(場合によってはストラップ)という形で現れ、ダイバーが全体的な時間を把握するだけでなく、無減圧時間や減圧停止時間を計算する方法を組み込んだのだ。

 今日、ヴィンテージや“ヴィンテージにインスパイアされた”モデルに見られる、これらのダイバーズウォッチマークは、減圧の理論を知っているダイバーでさえ、判読が難解で、ほとんど象形文字のように見えるかもしれない。そこで本記事では、人気のダイバーズウォッチカテゴリでよく知られた(そしてあまり知られていない)さまざまな例を取り上げ、これらのマーキングの解読を試みていく。

基本的なルールに則っていれば、深海の圧縮空気(高圧により、体積が縮小された空気)を吸っても影響をある程度抑えることができる。Photo: Gishani Ratnayake

 おそらく、この入門書の最良の出発点は、PADI(スキューバダイビングのプログラムを開発する機関)コースにならないよう減圧について説明することだろう。テクニカルダイバー(経験豊富かつ資格のあるダイバー)のなかには、ヘリウム、窒素、酸素をさまざまな割合で使用する混合ガスを使い呼吸する者もいるが、ここではより簡単にするために、古きよき圧縮空気のタンクを背負ったダイバーを例に見ていく。私たちが呼吸する空気は、およそ79%の窒素と21%の酸素で構成されている。これをアルミやスティール製のスキューバ用ボンベに詰め込むと、3000ポンド/平方インチ(psi)に圧縮される。ダイバーがタンクのバルブに取り付けて呼吸するレギュレーターは、水深に応じて圧縮空気の圧力を周囲の水圧に合わせて調整する。これは圧力が高すぎると肺が損傷する可能性があり、逆に圧力が低すぎると、体にかかる水圧に逆らって肺を膨らませることができないからだ。

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 特定の基本的なルールに従えば、深海で圧縮空気を吸うことによる影響はかなり穏やかだ。上昇中は息を止めないこと(空気が膨張して肺が破裂する)、深く潜りすぎないこと(窒素は深く潜るほど麻薬的効果を誘発し、空気中の酸素は一定の深さ以下では有毒になる)、そして深海で過ごす時間に注意することだ。そしてこの後者のルールにおいてダイバーズウォッチが活躍する。

完璧に区切られた経過時間ベゼルを備える、ロレックス シードゥエラー 4000。Photo: Christopher Winters

 大まかに言えば、深度ごとにダイバーが減圧のために水面に上がる途中で小休止するまでの最大許容時間は決まっている。これは潜水時間が長ければ長いほど、不活性な圧縮窒素が体内に浸透してしまうからだ。この“無限圧潜水時間(NDL)”を超えたら、ダイバーは水面に戻る途中にある特定の深度で休憩を取り、呼吸によってこの過剰な窒素分を体内から排出しながら、そこで“停滞”する必要がある。減圧制限を守らなかったり、減圧のルーティーンを省略したりすると窒素が膨張し、関節、肺、脊柱内にどんどん大きな泡が発生する。これにより海面気圧に戻ると身体に大きな痛みや麻痺が生じ、最悪死に至る可能性もある。この減圧症には“潜水病”という別の名称でも知られており、痛みが原因で寝返りも打てなくなることがある。

 最もシンプルな形式のダイバーズベゼルは、各深度の無減圧縮潜水限界を示す一連のスレート(ダイビング中に他者とコミュニケーションが連携できるノート)と組み合わせて使用する。分針の反対側にゼロマーク(通常は矢印)を合わせて、時間が経過するとベゼルに潜水時間が表示される。深度計に表示された最大深度に対して許容される最大時間を知ることで、安全に潜ることができるのだ。古くから“120ルール”として知られる信頼性に疑問のあるルールがある。それは120から最大深度を引くとノーデコ(無減圧で潜れる時間)タイムが出るというもの。したがって、80フィートの潜水では水面に戻るまでに40分かかるということだ。ピンチの時はもちろんだが、マルチレベルダイビング(ダイビングコンピュータを活用し、2~3段階ほど水深を変えて潜水時間を伸ばすダイビング)や、各深度での滞在時間も重要な要素となる。

左手首にはロレックス サブマリーナーを、もう片方の手は減圧計画スレートを持っている。

 シンプルな経過時間ベゼルの1歩先をいくのが、1967年にドクサが特許を取得した“ノーデコ”ベゼルである。このダブルスケールベゼルは、外側のリングに制限値をエングレービングすることで、見にくくて防水性のないダイブテーブル(各深度の最大潜水時間を一覧で記したもの)の代わりを果たした。降下時にゼロマークを分針に設定すると、水深60フィート(60分)から190フィート(4分)の深さまでの浮上タイミングを目盛りが示してくれる。このベゼルの種類は、エテルナやホイヤーといったほかのブランドにも採用されていたが、主に遊泳用の水深にとどまる、無減圧潜水を厳守するスポーツダイバーをターゲットにしていた。同様に、シチズンも1980年代に発表したダイバーズウォッチ、アクアランドに付属していたラバーストラップにノーデコ目盛りをプリントした。

 しかし、このベゼル(それとシチズンのストラップ)には限界がある。ノーデコダイブ後も残留窒素が体内に残るため、連続してダイビングする場合は新しいテーブルを参照する必要があり、新しい調整済みのノーデコベゼルでは、これらの新しいノーデコリミットは考慮されないからだ。

1969年製のドクサ サブ 200 Tグラフ。メートルバージョンのノーデコベゼルが付いている。

 無減圧限界を超えて水中にとどまりたい、あるいは深く潜りたいダイバーにとっては、減圧が必要になる。これは事実上水面への直接経路がないため、アドバンスダイビング、または“テクニカル”ダイビングと呼ばれている。時間は、洞窟の屋根や凍った湖面と同じくらい固い天井(厳守しなければいけない)となり、少なくとも潜水病になりたくなければダイバーはその下にいなければならない。減圧については、ダイバーが各深度でどれだけの時間を過ごすか、最近ではどのような混合ガスを使用しているかによって決まるため、単純なルールや簡単に覚えられる方程式などない。

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 例えば去年の夏、イギリス空母ハーミーズの沈没船を潜ったとき、最大深度は175フィート(約53m)で、その沈没船に費やした“ボトムタイム(潜水時間)”は21分だったが、浮上する途中の各深度で減圧しなければならなかったため、合計で39分ほど長くなった。私は4本のタンクを携行し、浅い深度で空気から50%の酸素を混合し、そして最終的に100%酸素混合に切り替えた。ダイブコンピュータがほとんどの計算をしてくれたが、それでもシンプルな経過時間ベゼルは便利だった。また、すべての減圧プラン(デスクトップアプリケーションを使って計算したもの)を手首のスレートに書いて、登りの各減圧停止地点でベゼルをバックアップタイマーとして使っていた。この場合、ベゼルの目盛りで見られる、より細かく区切られたハッシュ(多くの場合、最初の15~20分に1分刻みである)が役に立つのだ。

回転ダイヤルと開口部で減圧時間を示す、アラーム付きのヴァルカン クリケット ノーティカル。

 1960年初頭、ハンネス・ケラー(Hannes Keller)博士(物理学者、芸術家、ダイバーであったスイスのルネサンス期の人物で)は、新しいヘリウム混合ガスを呼吸して世界深度記録の更新を目指した。彼はヴァルカンと協力して、深度中毒である彼の脳にアラームで浮上時間を知らせるだけでなく、水面に戻る途中の減圧停止時間を計算できる時計を作った。1961年に発売されたクリケット ノーティカルは、ほとんどのダイバーズウォッチが回転ベゼルを搭載するシンプルな3針時計だった当時としては画期的なものだった。ヴァルカンは機械式アラーム機能と内部の回転タイミングリングだけでなく、減圧プロトコルを備えた多層ダイヤルも備えていた。ダイヤル全体は、ひとつのリューズを使用して回転させ、大きい開口部からは、ダイヤル上の同心円状のリングにプリントされた深度に対して、減圧時間が下層に表示されるようになっていた。外側のリングの経過時間を利用して、この円形のテーブルと順応性のある内側のスケールにより、ダイバーは安全に潜水停止することができたのだ。

1962年に、1000フィート(約30m)の潜水記録に挑むハンネス・ケラー博士。Photo: Courtesy Vulcain

 1970年代には、フォルティスがマリンマスターの文字盤用に、この減圧テーブルより複雑ではないくらいの類似したモデルをリリースしたが、それにはアラーム機能がなかった。開口部と回転ダイヤルの代わりに、フォルティスは減圧テーブルが付いた色分けされたマルチカラーダイヤルを採用したのだ。これは当時、ダイバーは自身がいる深さをメートル/フィートスケールで測り、適切なカラーリングを辿って自分のボトムタイムを見つけたあと、15フィート(約4.5m)の深さでその時間減圧するのが一般的なやり方だったが、より深い深度での減圧が標準となった現在では、非常に危険な方法とみなされている。

水深150フィート(約45m)のなか、この文字盤を解読してみて。1970年代のフォルティス マリンマスター。Photograph by Atom Moore, Analog/Shift

 スイスのブランド、ジェニーは、時計で初めて水深1000mを達成したことで知られる。同ブランドが1971年に取得した減圧スケールベゼルの特許も画期的であった。フォルティス マリンマスターの文字盤と同様に、ジェニー カリビアンのベゼルには潜水時間に相当する深度が表示され、それを超えると15フィート(またしても、今では時代遅れになった慣習だ)での減圧に必要な分数が印字される。このベゼルは(遠視でなければ)文字盤の周りの円をなぞるよりもはるかに読みやすく理解しやすい。回転ベゼルで内側のスケールを使用して経過時間を追跡し、深度計を確認してベゼルの水深を見つけ、その深度で過ごした最も近い時間まで外側へと進み、最後に、いちばん外側のリングを使用して必要なデコタイムを取得するのだ。

1971年に特許を取得した減圧ベゼルを備えたジェニー カリビアン。

 最後に、最も難解な、そして最も困惑させたダイバーズウォッチのマーキングは、最も人気を集めるダイバーズウォッチのなかのひとつに属している。アクアスター ディープスター クロノグラフは、60年代半ばにジャック=イヴ・クストー(Jacques Cousteau)自身の依頼で開発されたモデルだ。彼の率いるダイバー集団は、深さと海中生活の境界を押し広げていた。水中時計の専門ブランドであるアクアスターは、潜水時間を計るだけでなく、連続してダイブしたときの体内の残留窒素を計算できる時計の開発に挑戦した。以前、ダイブテーブルがダイブ1回目以降にどのように変化するかについて話したのを覚えているだろうか? ディープスターには、通常どおり経過時間を計測するためのデュアルスケールの回転ベゼルが装備されていたが、さらに体内から余分な窒素がどの程度で排出されるかを計算するための時針用目盛りがふたつも付いていた。正しい数値を見つけるために、アクアスターは相互参照するための別の表を提供した。時針がベゼルの“Normal”領域に達すると、ダイバーは標準的なダイブテーブルを使ったダイビングに戻ることができるのがわかる。ダイビングはスポーツであると同時に科学であることは間違いなく、アクアスター ディープスターはその証拠である。

クストー含む多くのマニアから支持を集めたアクアスター ディープスター。Photograph by Atom Moore, Analog/Shift

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 1980年代後半になると、デジタルダイブコンピュータが登場したことで従来のダイバーズウォッチは終焉を告げた。現在ではバックアップ装置として、あるいは航海補助(タイミングのスイム距離等に使える)としての利点があるにもかかわらず、アナログ時計を身につけたダイバーはほとんど見かけなくなった。優れたダイブコンピュータは、潜水中にさまざまな深度で過ごした時間、ノーデコタイムを長くするための凝縮された混合空気の使用などを調整しながら、無減圧潜水時間の制限をリアルタイムで計算し、上昇時間や上昇速度が速すぎるときには警告もしてくれる。さらにスペックがいいものだと、減圧時間を計算し、ダイビングの途中でガスが切り替わることも考慮してシリンダー内のガス残量を読み取ることができるものもある。

 しかし、ダイバーズウォッチのマーキングの歴史を簡単に振り返ることで、その過程でどのようにアナログ手段だけで問題が解決されてきたのか、そして一見シンプルに見えるダイバーズウォッチが、いかに世界有数の海底冒険へとダイバーを連れて行くのに役立ってきたかを知ることができる。

新旧の出合い。

アクアスターのベゼルについて協力してくれたクリス・スコット(Chris Scott)氏とクリス・ソール(Chris Sohl)氏、そして写真の一部を提供してくれたAnalog/Shiftに感謝します。