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Hands-On ベンラス タイプ1 リミテッドエディション

お前は今、軍隊にいる。決してリッチにはなれないぞ、サノバビッチ。お前は今、軍隊にいるんだ。


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私が子供の頃、最初はペンシルベニア州中部、次にニューヨーク州北部の田舎で育ったが、午後や週末の定番は、ギャングを構成する登場人物たちを代わり番こに演じる「軍隊ごっこ」だった。ルールは簡単だ。好きなおもちゃの銃を選び(当時のおもちゃ会社は、できるだけ安く作ろうとしつつも、なるべくリアルに作ろうとしていた)、味方を決め、ダニや蚊を気にせず、森のなかへ踏み込んで敵を追い詰めた。キャップガンは弾切れを起こすという現実的すぎる性質があるため、一般的には好まれなかった。そのため、秋の午後の静けさを破るのは、微量の黒い火薬を発射するという説得力のないポップガンの音ではなく、慣習や伝統に根差したピューピューピューという私たちの声であった。

 敵とのファーストコンタクトで生き残る作戦はないと言われるが、私たちの模擬戦もそうだった。当時から、私はアームチェアー・ジェネラルを目指していたし、議論することそれ自体も好きだった。いったん戦闘に参加すると、最初は必ず戦術に関するタルムード的議論に陥り、実戦では誰の火器が有利だったのか、そして必然的に、「今打ったよ! いや、そんなことない! やったってば! いや、違う!」というやりとりになるのであった。(なぜか、まるでコメント欄を読んでいるようだ)。

 こんな話をしたのは、新作のベンラス タイプ1リミテッドエディションを初めて身につけたとき、あの頃の記憶が鮮明に蘇ってきたからだ。プルーストのマドレーヌを作ったパン職人が誰であれ、「いいかい、今日、私はクッキーを焼いて、そのクッキーがきっかけで読者の白昼夢を呼び起こし、そのせいで本はとても評価され、しかしながら、ほぼ読み終わるのが不可能な本として有名になるだろう。『Infinite Jest』が出版されるまでは」などと思ったわけではないはずだ。その人はクッキーを作ろうとしていただけなのだ。同じ意味で、ベンラスは、幻覚のような勢いで押し寄せてくる子供の頃の記憶の波を打ち立てようとはしていなかったと思うのだが、それでも、そうなったということだ。

 タイプ1の限定モデル(LE)は、オリジナルのベンラス タイプ1をベースとして可能な限り忠実に再現しながらも、より現代的な素材や工法を用いてデザイン、素材、仕上げを行うことを目指したモデルだ。つまり、本機はオリジナルとほぼ同じでありながら、より耐久性と信頼性に優れているのだ。しばらく前にオリジナルとLEの違いについて、ショップが素晴らしい解説をしてくれた。オリジナルはアクリル製のベゼルとクリスタル、LEはサファイアクリスタルとアルマイトベゼルインサート、オリジナルはトップローディングケースとはめ込み式ケースバック、LEはスクリューバック。オリジナルはリン酸塩皮膜処理が施された非ステンレススチールケースで、LEはビーズブラストステンレススティール。以上が主な違いだ。どちらも300M防水だが、オリジナルではケースバックのシーリングや他のガスケットを交換しない限り、この防水性を試そうとは思わない。

 LEは、オリジナルに忠実な無味乾燥な文字盤とリューズを備えており、まさにハードに使い、濡れたまま仕舞うことを望む時計という感じだ。いわゆる“ビーター”と呼ばれるダイバーズウォッチでも、必要以上に危険な場所に置かないように少し気を遣うことがあるが、このタイプ1 LEは外に出て泥だらけになる準備ができているように感じられる - 飾ってあるだけの美しい銃の逆のような時計があるとしたら、この時計だ。

 ベンラス社がこのプロジェクトを始動させたとき、彼らは自分たちが何をしようとしているのかを理解していたはずだ。オリジナルのタイプ 1には多くのファンがいるだけでなく(ミリタリーウォッチフォーラムでこの時計について議論しているスレッドは、筋金入りのミリタリーウォッチマニアが長所と短所を語る場所を探しているならうってつけだ)、しかし、その人気とカルトウォッチとしての地位から、魔女裁判の審問官がイボを鑑定するような疑いの目で細部まで精査されることが確実なモデルでもあるのだ。これは大変に困難な戦いだ。対極にあるような時計から例を挙げるなら、カルティエの最新モデル「タンク サントレ」は、カルティエが下したいくつかの決断に対して、同じように熱烈な批判と擁護を集めている。

 その上、ベンラス タイプ1にインスパイアされた新しい時計はこれが初めてではなく、マラソンもMk IIもタイプ1由来のデザインを作っている(こうした時計たちとベンラスLEにはいくつかの顕著な違いがあるにせよ)。カルト的な人気を誇るクラシックウォッチのハイファイな現代版リメイクは、まさに地雷原であり、あるレベルでは勝ち目のない状況だ。どうしても、「想像力の欠如だ」と思う人と、「想像力の欠如が足りない」と思う人の、両極端の批判を受けることになる。

 私は、ミリタリーウォッチはあまり得意ではない(「サー、コール・ペニントンに会った。コール・ペニントンと仕事をしたことがある。そして、サー、あなたはコール・ペニントンではない)。だから、私は少し違う方向から全体を見ることにしている。ベンラス タイプ1 LEは、箱から出してすぐに驚いた。ノスタルジーに浸ったこともあるが、私が試着した他のフィールドウォッチよりも、見た目も中身もしっかりとしたフィールドウォッチに仕上がっているのだ。インディ・ジョーンズのような、控えめなタフガイのような雰囲気。「トラブルを起こしたくはないが、もし起きたら、最後までやり遂げるのが私の目標だ」と言わんばかりの時計である。潜水艦のハッチのように正確にねじ込まれるリューズ、牧草で育てた牛のアイリッシュバターの上に乗っているかのようにスムーズに回転するベゼル、そして夜光は、外に出て草むらの上に腰を下ろし、星空の下の静寂に耳を傾けたくなるような明るさだ。

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 この時計が私のノスタルジーを強烈に刺激するのはなぜか考えてみたのだが、あの疑似リン酸塩皮膜処理されたケースと大いに関係があるように思う。ビーズブラスト加工は、実際のリン酸塩皮膜処理とよく似ている。それはイギリスで発明されたものだが、クラーク・W・パーカーという人物がアメリカの特許を取得し、1915年にデトロイトでパーカー・ラストプルーフ社を設立して以来、パーカライジング(リン酸塩皮膜処理)と呼ばれるようになったのだそうだ。基本的にはリン酸溶液に部品を浸し、加熱する。化学反応の結果、表面には耐摩耗性、耐腐食性に優れたリン酸塩金属皮膜が形成され、軍事用途ではパーカライジングによって得られる無光沢の表面は、さらに利点となるのだ。

 とにかく、子供の頃はパーカライジングと言えば、極限状態に耐え、敵の心に恐怖を与えるものの代名詞のように思っていた。それに加えて、この時計の鈍器的な雰囲気は、ある種の「見た目は悪いが味はよい」といった魅力がある。この時計は、A-10ウォートホッグのようなものだ(醜い機体が愛されるのは、そのルックスではなく、それが現れたときに、し・ご・と、をするために来たのだということが分かるから)。

 まともな人間は戦争がよいことだとは決して言わない。それなのに戦争が恐ろしいほどの魅力を放っているのは、いつも不思議なことだ。戦争は、古代ギリシャの『イーリアス』まで遡れば、物語や歌のなかで祝われ、それ以来、無数の文化やそのアイデンティティの中心的な存在となっている。しかし、私たちがミリタリーウォッチを愛するのは、戦争が好きだから、戦争を賛美するからだとは思わない。昔の私や仲間たちが、何気ない午後に、戦争がもたらす苦しみや恐怖をまったく想像していなかったように、私たちがこうした時計に魅力を感じるのは、戦争の混乱ではなく、目的意識、デザインの明快さ、そしてスタイルよりも実質を優先させる点なのだ。ベンラス タイプ1に1695ドル(約19万5千円)も出すのなら、他でも時計は手に入る、というのは正しい指摘だ。しかし、私にとって本機は競合他社とは一線を画すものである。それは、オリジナルの精神と目的を可能な限り尊重することを明確に意図したチームによって、一から組み立てられたアメリカン・アッセンブルの製品であることを体現しているからだ。

 「マンデラ効果」と呼ばれる偽記憶の一種がある。実際には起こっていないことを、覚えているつもりになっている、いや、覚えいると思い込まされている。この効果は、1980年代にネルソン・マンデラ氏が獄中で亡くなったという誤った記憶が広まったことから名づけられたが(彼が亡くなったのは2013年)、ありふれたことでも誤った記憶となることがある。例えば、児童書の「ベレンスティーン・ベアーズ」シリーズはベレンスティーンという熊の話だと死の床で誓う人もいるだろう。ベンラス タイプ1は私にとってプルーストのマドレーヌだと言ったが、私の子供の頃にタイプ1はなかった。タイプ1は特殊作戦部隊に支給されるもので、プラスチックのおもちゃの銃を振り回しながら、8歳の友達にエンフィレード・ファイヤーの意味を説明しようとする、苛立った子供のためのものではなかったからだ。いや、私が体験しているのは、むしろマンデラ効果だと思う。私はタイプ1を持っていなかったが、本機があまりにも説得力があるので、なぜか持っていたような気にさせ、最悪、兵士であるのをやめるのは、夕食に帰らなければならないときだけ、というあの頃に私をつなげてしまうのである。

ベンラス タイプ1 リミテッドエディション。ケース、41.5mm x 15mm、ビーズブラスト仕上げのステンレススティール、ねじ込み式リューズ、300M防水。ムーブメント、ETAキャリバー2681、直径19.4mm、38時間パワーリザーブ、25石、2万8800振動/時で作動。ミルスペック・エングレーブド・ケースバック、2ピース・ナイロン・ストラップ。組み立てと調整は米国で実施。世界限定1000本、価格1695ドル(約19万5千円)、売上の一部はボルダークレスト財団のために寄付される。


Shop Talk

HODINKEEショップはベンラス タイプ1リミテッドエディションの正規取扱店です。この時計をお求めの方は、ぜひショップをチェックしてください。