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Historical Perspectives 時計のムーブメントが、なぜキャリバーと呼ばれるようになったのか?

もしかしたら考えたこともなかったかもしれないが、我々は今回そのことについてまとめることにした。

本稿は2017年3月に執筆された本国版の翻訳です。

 “キャリバー”という単語にはさまざまな意味があるが、時計製造においては“ムーブメント”と同義語である。ムーブメントを“キャリバーXYZ123”などと称して呼ぶことは、時計業界全体で一貫した、きわめて普遍的な慣習となっている。これは何度も目にする言葉のひとつだが、銃器の世界とウォッチメイキングの世界の両方で使用されていることを不思議と疑問に思ったことはないと思う。だが、心配無用。HODINKEEがあなたに代わって、あなたの疑問(と調査したこと)を解決しよう。

comparison of different rifle rounds

50口径(左端)から22口径(右端)まで、さまざまなサイズの弾丸。

 もしかしたら、銃器におけるこの用語の用法をまだご存じない人がいるかもしれない。説明しておくと、基本的には弾丸の直径、またはある直径の弾丸を発射するために使用される銃器の銃身内径を指すのに使用される。例えば、50口径の弾丸の直径は0.5インチである(メートル法でも記すことができ、一般的なNATO弾は5.56mmと表記される。“キャリバー”を使用するのは、私が知る範囲では英数字と組み合わせた際に限られるようだ)。

 銃の世界における“キャリバー”の語源は、フランス語のcalibreからルネサンス後期のアラビア語であるqalib(弾丸を鋳造するための型)をたどり、古代ギリシャ語のkalapousこと靴職人のラスト(靴を製作する際の木型のこと)まで遡る。

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 興味深いことに高級時計財団(FHH)によると、この言葉が時計用語として使われたのは、フランスで活躍したイギリスの時計職人ヘンリー・サリー(1680-1729)の作品において「……1715年ごろ、さまざまなムーブメントの受け、歯車、香箱などの配置や寸法を示すために使われた」のが初めてだという。時代が進むにつれ、この言葉は「ムーブメントの形状、ブリッジ、時計の製造元、メーカー名などを示す」ために使われるようになった。そして次第に、ムーブメントそのものを指すようになっていった(IWCの“ジョーンズ・キャリバー”などがまさにそうだろう)。つまり、ウォッチメイキングと銃器産業の両方において、直径を表す言葉として使われてきた歴史があるということだ。そして、どちらの場合にも、その直径が規定されたものを指すようになったということである(おそらくメトニミー、つまり換喩的に)。

IWCの初期型D. H. クレイグ “ジョーンズ・キャリバー”。

 現在では、ムーブメントを“キャリバーxyz123”(つまり、“キャリバー”の後にETAキャリバー2892-A2のようにムーブメントの型番を付ける)と呼ぶのが一般的だ。おもしろいことに、“キャリバー”という言葉はその歴史の大部分においてある特定の立場の人物をも意味し、その用法は今日でも生きている。たとえば、小説版『ゴッドファーザー(原題:The Godfather)』では、ドンの甥であるジョニー・フォンタンが映画プロデューサーのジャック・ウォルツを“本当に90口径のペッツォノヴァンテ(大物)みたいだ”と称している。

 フランス語圏の時計業界では当時、ムーブメントをキャリバーと呼び、その後にムーブメントの直径、そしてしばしばムーブメントの特殊な機能を示す略称を付けるのが一般的なやり方であった。例えば、ジャガー・ルクルトの1877年(当時はマニュファクチュール・ルクルト・ボルゴー&シー)のアーカイブには、製造されたムーブメントのひとつとしてキャリバー16Tが記載されている。このことから、このムーブメントが16リーニュのトゥールビヨンであったことがわかる。

 ちなみに1リーニュは2.2558291mm(16リーニュのムーブメントは直径約36.09mm)に相当する。リーニュは現在でもウォッチメイキングにおける計測単位として用いられており、また奇妙なことに、ボタン製造や男性用帽子のバンドに使われるリボンの計測にも1/12 プス(pouce、フランスでのインチ表記)が使用されている。

By Library of Congress Prints and Photographs Division, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2554720

1800年代中ごろにマサチューセッツ州ウォルサムにあったアメリカン・ウォッチ・カンパニーを描いたリトグラフ。

 ウォッチメイキングと銃器産業のつながりはこれだけではない。アメリカでは、いわゆるアメリカン・システム(19世紀前半のアメリカ合衆国の政策で重要な役割を果たした重商主義的経済計画)による精密な大量生産方式と機械製造が世界で初めて採用され、部品交換が可能な時計ムーブメントの作成が可能になった。このシステムは、マサチューセッツ州スプリングフィールドの連邦兵器工場で小銃の大量生産に使われていた製法を、ウォルサムのようなアメリカのメーカーが時計製造に応用したものである。

 HODINKEEのルイ・ウェストファレンは、第2次世界大戦までの数年間とそれ以降、類似または同一の直径を持つ異なるムーブメントの数が増加するにつれて、ムーブメントの直径と機能を用いたムーブメントの呼称から移行する傾向が見られたと述べている。しかし、第1次世界大戦以前においても、この命名規則が普遍的なものであったわけではなかった。バルジュー 22はその一例である。しかし、その慣習はまだあちこちで息づいていて、たとえばパテック フィリップのカタログにはキャリバー17’'' LEP PS IRMが掲載されている。このムーブメントは17リーニュで、レピーヌで、プチセコンドで、インジケーション レゼルヴ ド マルシュで……、すなわち、直径38.35mmのレピーヌキャリバー(輪列用のブリッジを備え、フュゼを持たないムーブメント。18世紀後半にこの構造を開発した時計師ジャン=アントワーヌ・ルピーヌにちなんで名付けられた)であり、スモールセコンドとパワーリザーブインジケーターを備えているということがわかるのだ。