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Hands-On カール F. ブヘラ ヘリテージ バイコンパックス アニュアル

クラシックで洒落感ある意匠にまとめられた、実用的な2つのコンプリケーションモデル。

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カール F. ブヘラは、スイスの時計メーカーの中では地味な巨大企業だ。2008年に初のペリフェラルローターを採用した自社製ムーブメントCFB A1000を発表して以来、たゆまず改良を重ねている。2008年当時CFB A1000は、量産化に成功した唯一のペリフェラルローター採用ムーブメントだった。
ペリフェラルローターには従来型のセンターローターのムーブメントと比較して、いくつかの大きなメリットがある。初登場以来のCFB A1000を搭載した時計をいくつかご覧いただければお分かりになると思うが、例えばムーブメントの地板を隅々まで見渡せることや、ケースの厚さを大幅に薄くできることだ。このため、超薄型時計の記録を塗りかえた数多くのモデルにペリフェラルローターが採用されている(ブルガリなどはペリフェラルローターを熱心に採用し続けている)。 

2008年から11年が経過した今日まで、他のいくつかのブランドからもペリフェラルローター採用のムーブメントが登場している。ここで負けじと同社では自社独自のペリフェラルローターを採用したトゥールビヨンモデルを発売した。2018年に発売開始したマネロ トゥールビヨン ダブル ペリフェラルだ。今年の1月、私は小規模ながらも拡大が進む製造拠点まで足を運んだ。カール F. ブヘラは時計工場をこの1カ所に集約させつつある。トゥールビヨン以外にもブヘラの複雑時計の製造にどのような作業が必要なのか見て取ることができた。例えば、旅行のお伴の定番モデル、パトラビ トラベルテック。この時計には3つの時間帯を同時に表示するユニークなシステムが備わっており、さらにクロノグラフ・メーターも3つある。 

カール F. ブヘラは、ひと目で分かる華美なデザインというより、堅牢で安心して使える時計を作る傾向がある(しかしブヘラの時計は華やかな映画にも登場している。ジョン・ウィックシリーズの『ジョン・ウィック:パラベラム』、シルヴェスター・スタローン主演の『ランボー5 / ラスト・ブラッド』ではスタローンが乗る車の中に、そして興味深いのは『デッドプール2』で未来から悲しみを抱えて現れたクソ真面目なサイボーグ戦士、ケーブルが手首に装着するタイムマシンとしても登場している)。

ハイコンプリケーションで、映画に登場する時計であるというのは、カール F. ブヘラというブランドの最も目に見える側面かもしれないが、普段使いのための興味深い機能にも力を入れているのだという。そんな日常用途を意識した時計のひとつが、今年始めにバーゼルワールドで発表されたヘリテージ バイコンパックス アニュアルだ。スティーブン・プルビレント(Stephen Pulvirent)が、昨年3月に試作品を2モデルとも初めて見せてくれた。そして最近になって我々のオフィスで詳しく検証する機会を得た。

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Cal.CFB 1972 は、ETAムーブメントをベースにデュボア・デプラ社のモジュールを組み合わせたものだ。もちろん、他社製ムーブメントとモジュールの採用は、ネガティブな面もあるが、自社製のアニュアルカレンダー付き自動巻きクロノグラフムーブメントの製造ともなれば、コストが膨大に膨れ上がって全く別の価格帯になってしまう点も忘れてはならない。パテック フィリップの5905Rなどはその一例である。ローズゴールドモデルは、788万7000円と高額だ。ただし時計製造の分野において価格を決定する要素というのは、どんな機能を搭載しているかだけでなく、製造方法の違いも一つの要素であるという点は述べておくべきだろう(もちろん文字盤上のブランド名によっても大きく左右される)。

私が訪れた工場は、ルツェルンのカール F. ブヘラ本社から車で約1時間のレングナウにあり、ジュネーブの優雅な街並みからは限りなく離れた場所に位置する。質実剛健というブヘラの精神は、バイコンパックス アニュアルにもある程度根付いているようで、非常にシンプルな設計だ。針は注射器のような形状で、実用的に使える程度の蛍光塗料が塗布してあり、目立ちすぎないようになっている。オーバーサイズデイトがあり、裏面の小さなムーブメントが動かす文字盤上の情報は見やすい作りだ。タキメーターの目盛りは伝統に忠実なもので、20世紀中ごろのデザインを彷彿とさせるものがあり、この時計全体のデザインもそんな感じだ。月表示窓はあるが4時と5時位置の間にひっそりと隠れている(もちろん何らかの月表示がないとアニュアルカレンダーは設定できないが)。

真正面から見ると、普通のステンレススティールであれローズゴールド色のステンレススティールであれ、この時計はどちらのモデルも伝統的な腕時計のデザイン・ランゲージを尊重した作りだ。劇的な技術革新を狙ったものではない。

バイコンパックス アニュアルは、ムーブメント構築のアプローチをその側面から見せている。サイズは14.05mm x 41mmとかなり厚みのある時計だが、時計を着けたときの厚ぼったい感じが最小限になるよう、ブヘラは相当工夫していると個人的には思う。長く伸びたラグ、リューズの大きさ、ケースと比較したベゼルの寸法、先細形状のプッシュボタンといったすべての要素が組み合わさって、単にサイズだけを基準に考えるよりはるかにしっかりとなじむ見た目になる。

一見目立たない、ラグとケースとの角度から生まれる優美なラインや、ベゼルを単にケースに貼り付けるのではなくケースと一体化させている点も全体としてのまとまり感を出している。派手さはないため、見逃す可能性もあろうが、こうした点もブヘラがムーブメントの機械的な側面を活かした上で、いかに最終製品として優れたものを作るべく工夫したかの証となっている。 

パンダダイヤルのステンレスモデルとツートンカラーのコンビモデルのどちらかを選ぶとしたら、個人的にはツートンカラーの方を選ぶと思う。この雰囲気が好きなのだ。良い意味で懐古的なデザインになっているからだ。パンダダイヤルの2つのクロノグラフレジスター(もちろんアウトサイズデイトも)の方が第一印象は良いのだろう。しかし、ベゼルがゴールド色だと今後も長く使いたいという愛着が湧き、時が経つにつれて若干すり減ってくると、時計に対する愛着も深まっていくのだと思うのだ。

材料工学の限界を超えたり、時計製造分野の既存のデザイン・ランゲージを書き換えたりと、確実に我々が注目する時計はある。マネロ ペリフェラル トゥールビヨンを含めカール F. ブヘラは間違いなくその類の時計を作っているし、2008年にCFB A1000というムーブメントを世に発表したとき、同社は自らが時計製造技術の最も基礎的な部分で革新を起こすリーダー企業であることを一撃で世に示した。しかし、伝統的でセンスがよく、誠実で気取らないデザインと、高品質を兼ね備えた時計を作り続ける意義も間違いなくあると思う。
ヘリテージ バイコンパックス アニュアルはこういったやり方を体現する良い例だ。多くの企業がより高い価格帯の時計を作るべく競い続ける中、ブヘラのように堅実な時計を作るという姿勢は、やや珍しくなってきている。

バーゼルワールド紹介の投稿記事の中に、詳細仕様と価格が掲載してある。さらに詳しくは Carl-F-Bucherer.comにあるヘリテージ バイコンパックス アニュアルの情報をご覧いただきたい。