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Buying, Selling, & Collecting 日本のマイクロブランド、NAOYA HIDA & Co.に心を奪われてしまった

2021年も、NAOYA HIDA & Co.は魅力的な時計を発表していた。しかし著名なディーラーでありコレクターでもあるエリック・クーは、旧来モデルの繊細な素晴らしさをなおも楽しんでいたようだ。

本稿は2021年4月に執筆された本国版の翻訳です。

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“マイクロブランド”とは、厳密には国際的なコングロマリットに属さない独立系の小さな時計メーカーを指すものだ。しかし実際のところ、この言葉には別のニュアンスも含まれる。カジュアルな腕時計を低価格で製造し、そしてKickstarterやその他さまざまなクラウドファンディングプラットフォームでマーケティングを行うような会社も、この言葉は示唆している。NAOYA HIDA & Co.を、後者の意味でのマイクロブランドだと考える人はいないだろう。しかし、この東京のマニュファクチュールは、ブランドとしては限りなく小規模だ。総生産数は年間10本ほどで、これまでに作られた数も25~30本といったところだ(執筆当時)。

 このブランドの創始者である飛田直哉氏自身も、時計業界における輝かしい経歴の持ち主である。飛田氏は過去30年以上にわたってジャガー・ルクルト、ブレゲ、ヴァシュロン・コンスタンタンと渡り歩き、そして近年ではF.P.ジュルヌとラルフ ローレンに在籍していた。このような有名ブランドで活躍してきた経験が、彼にとって完璧な時計の定義を形作るのに役立ったのだ。そしてある意味、彼の理想は私のそれに近しい。

NAOYA HIDA & Co. TYPE1B。

 私がこのブランドを知ったのは2019年、初めてのモデルである“TYPE1B”の発表時だった。それは1950年代のクラシックなドレスウォッチをスマートに再解釈したモデルのように見えたが、私の好みはあくまでセンターセコンドの時計であるため、購入には至らなかった。しかし2020年4月、ブランドは“TYPE2A”を発表した。このモデルは私の心を捉えた。前作のデザイン性を維持しながら、2Aではセンターセコンドと、パテック フィリップのカラトラバ、そのセクターダイヤルを思わせるレイアウトを採用していた。

 関連するネットのブログ記事をすべて読み、親友のマーク・チョー(Mark Cho。NH TYPE1Bのオーナーで、高級紳士服店アーモリーの経営者でもある)ともこのブランドについて話をした。リサーチの結果として私は飛田氏に連絡を取り、自分の時計の手付金を振り込むに至った。納期は、10ヵ月後とのことだった。

 そして、ついに時計が到着した……、これは見事だ。

NAOYA HIDA & Co. TYPE2A。

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 仕上げは本当に素晴らしい。ルーペを使わなくても、ダイヤルが3層にわかれて構成されているのが明確にわかる。放射状にブラッシュ仕上げが施された外周のトラックリングには、1分刻みと5分刻みのインデックスが精巧にカットされている。さらに、そこから少し凹んだインナーリングにはハンドエングレービングとエナメル加工のインデックスが配されており、ダイヤル中央の3段目にはNAOYA HIDA & Co.のブランドロゴがあしらわれている。

 最近では(大小を問わず)ほとんどのメーカーが、よくてインデックスがアプライドになったシンプルなプリントダイヤルを採用している。また、ダイヤル上に見られるフォントも明らかに今風を装ったサンセリフ体であることが多く、私はこれを嫌悪している。NAOYA HIDA & Co.においては、そのような問題はない。私が有するヴィンテージデザインに向けられた繊細な感性は、手作業によるエングレービングとエナメルを施した数字の縁に刻まれた、小さくも明瞭なセリフ(装飾)にとても満足している。

日本の時計メーカーを率いる、飛田直哉氏。

 それから針だ。この針は本当に素晴らしい。時針と分針はそれぞれがレイヤーの端まで伸びていて、特に秒針はミニッツマーカーの端までしっかりと届いている。完璧な長さだ。一般的な針はプレス成型と機械加工を組み合わせて作られる。しかし、NHの時分針はひと固まりのスティールから機械加工で作り出されるため、通常の針よりもはるかに分厚くなっている。その重量を補完しつつ、パワーリザーブが減少しても常に適切な動作を保証するため、針の裏側はくり抜かれている(おそらく目にすることはないだろう)。

 幅狭のコンケーブベゼルによってダイヤルサイズはより大ぶりになり、時計をよりビッグに見せている。ミドルケースは特に様式化されているわけではないが、サテン仕上げのサイドとハイポリッシュ仕上げの上部を持つ、美しく丸みを帯びたラグが特徴的だ。面取りや華美な装飾はないが、ベゼルの縁にはシャープな仕上げのステップがある。TYPE2Aはもちろん特別薄い時計ではないが、そもそもそれを意図して作られたモデルではない。1930年代から50年代にかけてのデザインは超薄型ムーブメントが登場する以前のものであるため、時計の直径に見合った厚みがある。

 ダークブルーにホワイトステッチ、インターチェンジャブル機能が搭載されたカーフスキンストラップには、精巧な機械加工が施された尾錠が装着されている。バックルの仕上げは非常に日本的で、グランドセイコーに見られるザラツ研磨を思い起こさせる(そして同じく日本のマイクロブランド、キクチナカガワにおいて代表的なブラックポリッシュ仕上げもだ)。

飛田氏が手を加えたバルジュー7750は、クラシカルなムーブメントに一風変わったアレンジを施したものだ。

 このような時計にバルジュー7750ムーブメントを採用したことについては賛否両論あるようだが、飛田氏によればその選択は極めて論理的なものだという。大径ムーブメントを採用することで、サブセコンド(センターセコンドを搭載していないモデルの場合)をダイヤルの中心から遠すぎない絶妙な位置に配置することができ、また“ゼンマイを手で巻き上げる感覚”を向上させることができる。NHでは7750に通常見られるクロノグラフを取り除き、1950年代のヴィンテージウォッチにあるような巻き上げ感覚をムーブメントに与える特別なパーツを付け加えた。

 私自身は自社製キャリバーにこだわるコレクターではないし、ムーブメント愛好家でもない。確かにパテックのRef.215PSやロレックスのRef.1570などのムーブメントは自社製で素晴らしいが、小さなブランドは自社製ムーブメントを開発するために研究開発費を投資することはできない。それに、これほど多くの優れたムーブメントが存在するなかで、自社製ムーブメントにこだわるのは理にかなっていない。むしろ、Cal.7750のような定評のある堅牢なムーブメントは、NAOYA HIDA & Co.のような小規模なブランドにとって理想的な選択肢だと言えるだろう。

TYPE3A。Photo: Courtesy HODINKEE Japan

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 例年通り飛田氏は恒例となった製品発表を先週末に行い、TYPE1とTYPE2を小型化し、TYPE1CとTYPE2Bとして発表した。 どちらもダイヤルにケース、リューズ、針に控えめな改良が加えられている。本当に驚かされたのは、今年発表されたType 3Aだ。今作では6時位置に美しい手彫りの金無垢ムーンフェイズを備え、ヴィンテージ風のダイアルにはブラックエナメルのローマ数字が配されている。Type 1やType 2のシリーズと同様、この新しいTYPE3Aも1940年代から1960年代にかけての計時用時計から審美的なインスピレーションを得ていることは明らかだ。10本すべてが早晩売り切れることは間違いないだろう。

著者の手首と、私物のTYPE2A。

 時計は個人のスタイルを表現するものであり、私が持っているTYPE2Aも例外ではない。ここしばらくスーツを着ていないが、この時計がテーラードシャツの袖口の下に完璧にフィットし、ドレッシーなアリゲーターストラップとマッチするであろうことが容易に想像できる。私は今のところ、ジーンズとスウェットシャツに合わせてカジュアルに楽しんでいる。遠くからは一見して、ヴィンテージのヴァシュロンの手巻き時計と見間違うかもしれない。しかし間近で見ると、より現代的で、より興味深いものであることがわかる。

 モノクロームとマルチトーンが共存するダイヤルは、時刻を確認する際、思わず二度見、三度見してしまうほど魅力的だ。過剰なデザインではないし、オーバーエンジニアリングでもない。正しく機能的である。

 税抜210万円(当時の価格。現在では終売)というこの時計は確かに安くはない。そして、誰もが好む時計でないことも承知している。210万円もあれば3針時計はいくらでも買えるのに、なぜこの時計を選ぼうとするのか? この時計の価値とは何だろう?

TYPE2Aが本当に素晴らしいのはそのディテールだ。

 以下は私的な感想だ。私はこの時計のディテールと、飛田直哉氏自身と自らのブランドを立ち上げるまでのストーリーに痛く惹かれたのだ。私は、マイクロブランドとその初期の顧客との関係をパトロネージュ・システムのように見ている。アーリーアダプターがいなければ、ブランドは生き残れない(こうした点で、NHのようなブランドはKicksterterの同輩たちと案外似ている)。また、NAOYA HIDA & Co.の時計は生産量が少ないため、常にエクスクルーシブであることが保証されている。毎年少しずつ改良と変更を加えながら、NHが年間10~20本以上を生産するなんて想像できない。私の経験上、このようなよくできた少量生産の時計は大量生産された同種の時計よりも経年変化が少なく、価値を保ちやすい。そして、Type 2Aもそうであることを期待したい。

 ゆえに、投資なのだ。でも、そのために買ったわけじゃない。所有することの究極の喜びは、巻き上げ機構の触感と腕につけたときの美しさに尽きる。この時計はその2点を十分に揃えている。NHの購入は、私自身の利益のための金銭的投資というよりも、ブランドの永続性への投資である。そして、彼らが私自身の理念と一致する時計を製造していることを評価することでもある。

 それこそが私にとって、コレクションをすることの本質的な理由なのだ。

エリック・クー(Eric Ku)が時計収集の楽しさに目覚めたのは1997年、カリフォルニア大学バークレー校に入学したばかりのころだった。以来数十年にわたり、彼は時計に関するあらゆる分野のエキスパートとして名声を博してきた。エリックの最近のベンチャーはLoupe Thisというオンラインの時計オークションハウスだ。彼は自分が販売しようとしているものについては、一切書いていない。