ADVERTISEMENT
レッセンスは今年で10周年を迎えたが、時計業界で成功すると模倣品が続出する傾向にあるにも関わらず、レッセンスと同じことをしている会社はまだない(そして、レッセンスの創業者ベノワ・ミンティエンスが同社の領域をどれだけうまく開拓してきたかを考えると、今後もそれがあるのかどうかは疑問だが)。レッセンスの時計の基本的な考え方は、同社の時計が初登場してからほとんど変わっていないが、メカニズムやデザインは進化を続けており、一筋縄ではいかないものであるという当初の疑念を払拭してくれた。もちろん "X "はラテン語で10を意味する文字であり、タイプ 1 スリム Xは同社の10周年を記念した限定モデルである。
レッセンスの時計は全般的に、水の流れによって平たく滑らかで丸みを帯びた小石を彷彿とさせるフォルムをしている。手触りも水を帯びた小石と同じような心地良いものだ。このブランドの時計の表面は、レッセンスがROCS(レッセンス・オービタル・コンベックス・システム: Ressence Orbital Convex System)と呼ぶ表示方式と自然に調和している。ROCSは、サテライトギアに取り付けられた入れ子状の凸型円盤が、中心軸を中心に回転するという非常に複雑なメカニズムである。ディスクは、取り付けられた凸面のおかげで、水平面に対してわずかに角度がついており、例えば時表示サテライトは約3°傾斜している。
レッセンスの時計を見ていると、まるでアニメーションを見ているかのような感覚に陥る。その効果は、ROCSのチャンバーがオイルで満たされているためだ。輪列から物理的に隔離されている同社のオイル充填型モデルでは、おそらくその効果が最大限に発揮されている。オイルとサファイアクリスタルの屈折率は同じため、時表示サテライトがクリスタルの表面に浮かんでいるように見えるのだ。しかし、レッセンスはいくつかのモデルでその深さにも工夫を凝らし、文字盤をオープンワークにしてROCSが見えるようにしたものもある(ドバイ・ウォッチ・ウィークの限定モデルやHODINKEE レッセンス タイプ 1H限定モデルのように)。
クラシックなレッセンスの小石のようなケースは、懐中時計ケースに近い心地良い感触を提供しているが(故ジョージ・ダニエルズが懐中時計が腕時計よりも優れていると感じた利点の1つ)、レッセンスの時計を身に着けたときの視覚的、認知的な体験は、他のどの時計にもないものだ。このブランドの時計を着けるということは、時間を告げるという体験がどれほど根本的に似ているかを理解することである。結局のところ、時針と分針を時計の中心の同軸上に多かれ少なかれ配置するという基本的な方式から脱却した時計は、実際にはほとんど存在しない。その理由で、初めてレッセンスを身に着けると、不安な気持ちになることだろう。サテライトの向きは時間と日を通して連続的に変化し(ROCSキャリア全体が1時間に1回転、輪列のミニッツピニオンによって駆動する)、表示システムの運動学は、従来の時計の表示方式にはないやり方で、時間という概念の一過性の性質を強調しているように見える。
レッセンスは、ETAムーブメントをベースに採用することで、しばしば非難を浴びることがある。高級時計に自社製ムーブメントが必要かどうかは複雑な問題だ。何度もお伝えしていることだが、自社製だからといって面白さや品質、信頼性が保証されるわけではない(記事「“雲上ブランドにETAムーブメントは許されるのか?”(読者からの質問に回答)」をご覧いただきたい)。また、供給されたムーブメントにどの程度の改良が加えられているかは、それが適切であるかどうかを評価するうえで非常に重要な要素であることにも注意が必要だ。ROCSは、控えめに言っても、カスタムローターを搭載した2824を使用するのと同じレベルのものではない。また、多くのハイウォッチメイキングの要素と同様に、ムーブメントに何を施すかは、自社製かどうかよりも少なくとも重要なことだ(高級時計製造において使用されるレマニア2310はその一例)。
ROCS の最もシンプルなバージョンである ROCS 1 は、100個以上の部品をベースムーブに追加している。もちろん、複雑さはそれだけで終わりではないし、複雑さが増したからといって必ずしもより良い時計づくりができるというわけでもない。しかし、レッセンスがベースとなるキャリバーに時計づくりの面白さを加えることで、どれだけの進歩を遂げたかを示すために私はこの数字を示した。ムーブメントの分解図を見ると、時計製造における付加価値がどれだけあるかが、よく分かるかもしれない。
下の画像では、一番右端にある小さな円盤がベースキャリバーだが、それ以外のものは全てレッセンスによるものだ。タイプ 1 スリム Xに搭載されている「ROCS 1」は2892-A2をベースにしており、キャリバーが25.60mm×3.60mmとかなりフラットなため、ROCSを搭載しても42mm×11mmと比較的薄い。ROCSを設計するうえでの課題の一つは、負荷が増えたにも関わらず、ムーブメントから適度なパワーリザーブを引き出すことだった。自動巻きシステムは維持されているため、日常的に使用するのであれば問題ないだろう。
レッセンスの現行モデル同様に、タイプ 1 スリムXにもケースの輪郭を邪魔する従来のリューズは存在しない。その代わりに、ケースバックと同じ位置にフォールディングレバーが設置されている。
タイプ 1 スリムのケースは、レッセンスにとってはちょっと変わったものだった。これまで見てきたように、同社の時計は滑らかな凸型のケースが一般的だったが、タイプ 1 スリムのケースは側面に沿って凹んでおり、ラグの部分がわずかに伸びている。タイプ 1 スリム Xのケースはチタン製であるため、ROCSのおかげで部品点数が大幅に増加しているにも関わらず、この時計はわずか67gと非常に軽量だ(2016年における時計重量の標準的な基準であるSKX007が180gであるのとは対照的)。
レッサンス タイプ 1 スリム Xの新機能はパッと見、ややマイナーな感じもするだろう。メインの分表示サテライトと時表示サテライトには、それぞれのサテライトの縦軸に沿って分割された2つの仕上げが施されている(時・分のインジケーターで定義されている)。片面はマット仕上げ、もう片面はサンバーストのサテン仕上げだ。この2つの仕上げは、1日に2回、正午と真夜中の12時に一瞬だけ、文字盤が完全にシンメトリーになる。
これはデザイン上では比較的些細なことのように見えるかもしれないが、実際には時計を使って時間を告げるという体験を大きく変えている。それぞれのサテライトの2つの半分が同期をとったり外したりするサイクルは、文字盤の絶え間なく変化する見え方へのカウンターのような役割を果たしているように見える。手首上での時計の外観が1時間ごとに変化するのとは対照的だ。動作の周期が遅いことから、レッサンスはこの時計を砂時計に例えている。確かにその比喩は適切だと思うが、砂時計は必然的に時の一方向性を思い起こさせる。一方、タイプ 1 スリム Xは、時間の流れを止めているようには見えず、時間の循環性を思い出させてくれる (デザインの微妙な要素として、時表示サテライトの数字10は、様式化された文字Xと砂時計の両方を表していることが挙げられる)。
ROCSサテライトの新しい仕上げは、想像以上に劇的に、時計体験を変化させる。
レッセンスの時計は、ある面では純粋に革命的だが、革新的な時計デザインが苦戦しがちな面でも成功していると考えられる。ROCSは時計学の中でも最も珍しい機構であるが、その相対的な軽さの中にも、形はともかく、精神的には古典的な時計製造の価値観に訴えかけている。レッセンスが伝統的な時計製造と非常に強い結びつきをもっているのは、そこにあると思うし、時計が多用途性をもつ理由でもあるのだ。タイプ 1 スリム Xは、サテライトの仕上げが同期しているため、日常使いが可能であり、その調和のとれたプロポーションは、日常的に着用することを強く求めている。
タイプ 1 スリム Xは40本限定で、価格は212万円(税抜)。「それだけの価値があるのか?」という疑問が出てくるだろう。単純に「余裕があってそう思うならそうだ」というのは、事実上正しいのかもしれないが、それだけではないと思う。良いデザインにどれだけの価値があるのか? ここでいう独占性とは、数の制限ではなく(40本という数は決して多くはないが)、現代の時計製造のどこにもない、時計学的、認知的な経験を意味していることを念頭に置いて、どれほどの価値があるのだろうか?
確かに、この時計は従来の時計製造の価値観に訴えるものではないが、レッセンスが最高の状態で成功しているのは、何百年もの伝統に訴えるのではなく、むしろ、私たちが当たり前だと思っていること、つまり、従来の時間を告げる方法というものが、従来のものであることに気づかなくなってしまっていることを気づかせる点にあると思う。それを再考させる人間の想像力があるからこそ、新鮮で興味深い他の価値観を明確にすることに成功しているのだと私は思うのである。
基本情報
ブランド: レッセンス(Ressence)
モデル名: タイプ 1 スリム X(Type 1 Slim X)
型番: TYPE1.3-S- X
直径: 42mm
厚さ: 11mm
ケース素材: グレード 5 チタニウム
文字盤色: ダークオリーブグリーン色のジャーマン・シルバー製コンベックス(凸状)ダイヤル(半径 125mm)に偏心配置された 3 つの 2 軸サテライト(時表示サテライトは3°、秒および 曜日表示サテライトは 4.75°の傾斜)
インデックス: アプライド
夜光: あり、インデックスと針
防水性能: 1気圧
ストラップ/ブレスレット: オリーブグリーンのカーフスキン ストラップ/ピンバックル
ムーブメント情報
キャリバー: ROCS1 (Ressence Orbital Convex System);Cal.2892/Aベース
機能: 時、分、秒、曜日表示
パワーリザーブ: 36時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 40
価格&発売時期
価格: 212万円(税抜)
発売時期: 7月7日から
限定: あり、40本。
話題の記事
WATCH OF THE WEEK アシンメトリーのよさを教えてくれた素晴らしきドイツ時計
Bring a Loupe RAFの由来を持つロレックス エクスプローラー、スクロールラグのパテック カラトラバ、そして“ジーザー”なオーデマ ピゲなど
Four + One 俳優である作家であり、コメディアンでもあるランドール・パーク氏は70年代の時計を愛している