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A Week On The Wrist チューダー ペラゴス 39。確信犯的な妥協を伴う意欲作を1週間レビュー

ダイバーズウォッチのヘビーデューティーなイメージを、この時計はライトに一新してみせた。

Photos by James Stacey

2022年に発表され、大きな話題となったチューダー ペラゴス 39。同モデルは、万能な日常使いのスポーツウォッチを昆虫のように特殊進化させ、この10年間チューダーにおけるダイビングウォッチの最高峰として君臨してきたペラゴスのラインナップに新たに加わった時計である。ダウンサイジングとダウンスペックを経て、よりオーソドックスなデザインに落とし込まれたチューダーの最新ダイバーズは、武骨な兄弟たちと比較して見劣りするものだろうか? それとも、特殊な使い方をしないユーザーに対し、新たな道を切り拓くことに成功したのだろうか?

the tudor Pelagos 39

 それについて僕は肯定的に考えている。というわけで、ペラゴス 39について僕が語らなければならないことは、本稿で最後となるだろう。リリース時の記事についてはこちら、ハンズオンについてはこちら、ユーモアに溢れた比較についてはこちら、そしてHODINKEE ツールウォッチ・オブ・ザ・イヤーにペラゴス 39が選ばれたことについてはこちらで紹介している。もしペラゴス 39について、客観的な理解と主観的な好みを混ぜ合わせた記事をお探しなら、本稿は数千字分の時間の節約となるだろう。この時計は素晴らしいダイバーズウォッチだ。便利で、よくできていて、サイズもちょうどよく、モダンで、繊細で、ツールウォッチ然としており、完璧な装着感をもたらしてくれる。自分のコレクションにほかの時計は必要ないと思わせるような、そんな時計だ。僕も含め、誰もがこの時計を手に入れるべきと思うほどだ。

  その理由を知りたければ、読み進めて欲しい。

これまでの概要
the tudor Pelagos 39

 すでに公開した記事で説明したことを繰り返さないために、スペックと兄弟機について簡単に整理しておきたい。ペラゴス 39は、直径39mm、厚さ11.8mm、ラグからラグまでが縦幅47mmのチタン製ダイバーズウォッチだ。重量はブレスレット装着時で約107g(フルコマの場合)、ラバーストラップも付属する。今のところペラゴス 39の仕様は1種類で、ブラックダイヤルと、夜光塗料を塗布したサテン仕上げのグレー/ブラックのセラミック製マーカーが用意されている。風防はサファイアクリスタルで200m防水、ラグ幅は21mm(側面のラグ穴はなし)、ねじ込み式リューズにクローズドケースバック仕様。付属のチタン製ブレスレットには、チューダーの長さ微調整機構である“T-Fit”が採用されている。希望小売価格は59万1800円(税込)だ。

the tudor pelagos

 競合モデルの比較は後述するが、ペラゴス 39は、厚さ14.4mm、ラグからラグまでの長さは50mm、直径42mmの総チタン製ダイバーズウォッチをベースとした、スタンダードなペラゴスの現行3モデルを含む先代機によりその背景が大きく規定されている。初代ペラゴスはブラックとブルーダイヤル、ヴィンテージ感あふれるLHD(左利き用)の3種展開で、トップレベルの500m防水を実現するためのヘリウムエスケープバルブ(HeV)、フルマット仕上げの外装、自動調節機能付きクラスプを備えたブレスレットなどで構成された高機能なダイバーズウォッチだ。

 2012年に発売され、その後ミリタリー仕様のFXDに進化して以来、ペラゴスはチューダーのダイバーズウォッチのフラッグシップ機であると同時に、(僕の基準では)市場で間違いなく最高のダイバーズウォッチのひとつとなっているのである。

the tudor Pelagos 39

 そして2022年8月、チューダーはペラゴス 39を新しく発表した。このモデルはチタン製でありながら、より小さく、より一般的に着用しやすいプロポーションに進化している。しかし、そのプロポーションは、ペラゴスをより広く、これまで大多数を占めた男性以外の購買層にも認知してもらうための試みの一部として、防水性能の緩和、HeV、自動調整スプリングクラスプの排除、超マット仕上げの削減など、技術的妥協を伴うものとなった。

ペラゴス 39誕生のきっかけとは?

 さて、前回までの記事をおさらいしてみよう。500m防水のダイバーズウォッチの最高峰である現行トリオに、この新型ペラゴスが取って代わることはないとチューダーが明言したとき、これらの要素すべてが、多くの人を驚かせ、さらに喜ばせる時計となるためのお膳立てとなった。ペラゴス 39は、ペラゴスの特徴であるルックスの美しさに、ブラックベイ フィフティ-エイトの秀逸な着用感を融合させた、アップデート版ともいえる時計だ。

the tudor pelagos 39

 ペラゴス 39のデリバリーが開始されて以来、僕やほかの多くの人が述べてきたように、このモデルはペラゴスのマーケットの間口を広げる役割を担っている。ダイビングに特化するのではなく、日常的に使えるダイバーズウォッチとして、丹念に構想し直したのだ。スタンダードな従来のペラゴスは、ニッチな魅力を持っている。僕の手首に限っていえば、厚みも、そして何よりラグからラグまでの長さも、少し大きく感じられる。真面目な話、僕のようなよくてカジュアルダイバー程度の人間にとっては特にだ。

 ダイビングを嗜まない人には、ペラゴスのスペックは過剰なように感じるかもしれない。ペラゴス 39は、従来のダイバーズウォッチとペラゴスを掛け合わせた、チューダーによるカジュアルウォッチだと僕は捉えている。仕様やサイジングの変更によりダイバーズウォッチとしての性能が損なわれることはなかったが、妥協した分、スタンダードなペラゴスよりもハードな印象は薄まった。そして、それこそがチューダーの狙いだ。ペラゴスは素晴らしいが、同時に少し過剰だと感じていた人にとって、ペラゴス 39はとても理にかなっているのだ。

the tudor Pelagos 39

 ペラゴス 39はノンデイトのみで展開されているモダン顔のチューダーで、自社製の自動巻きムーブメントMT5400を採用している。これはCOSC認定のクロノメータームーブメントであり、パワーリザーブは70時間、4Hz(2万8800振動/時)の振動数を誇る。ちなみに、5年間の保証がついたこのCal.MT5400は、すでに人気モデルとなっているブラックベイ フィフティ-エイト 925などに搭載されているものと同じものだ。

 数カ月間考えた末に、僕は納得のいく比喩を思いついた。だが、一部の人たちを怒らせてしまうかもしれない。ペラゴス 39は、パパ(ママ)ダイバーズウォッチなのだ。

the pelagos 39

 Youtubeのクルマ専門チャンネルThe Straight Pipesで、ホストのジェイカブ(Jakub)とユリ(Yuri)は、優秀で魅力的なクルマだがそのモデルの最高性能仕様ではない車種をこう呼んでいる……、“パパ速(dad fast)”と。エンターテインメント性とパワフルさを感じるには十分な速さを備えるが、サーキットでコンマ何秒を争うような走りをしたい人には向いていないクルマという意味だ。ペラゴス 39も、同じような立ち位置にあると思う。

 “パパ” という性別的役割の解釈はさておき(ペラゴス ママに捧ぐ)、もし頻繁にダイビングを楽しみ、必要以上のスペックを備える本当に優れたダイバーズウォッチを持つことに喜びを感じるなら、スタンダードなペラゴスは素晴らしい選択肢となるだろう。しかし僕のように、子供や仕事、生活上の理由で、ダイビングがご無沙汰になったらどうだろう? あるいは、ダイビングは嗜まないが、その楽しさとカジュアルな魅力に引かれるなら? ペラゴス 39はそんな人にぴったりなのだ。ポルシェRS4でもGT3でもなく、4SやカレラTのような存在だ。

the pelagos 39 case back

 もちろん、一般的な実用性を考慮した妥協の産物ではあるが、それでもミニバンに乗ってApple Watchを腕につけるよりはこだわって見えるのではないだろうか?

 万能なApple Watchに対するくだらない嫌味ではなく、ペラゴスに対する言葉として受け止めて欲しい。ダイビングでも陸上と同じように使える、ちゃんとした腕時計を作ったという他意のない賞賛だ。休暇中でないときでも、家にいて日常を過ごすときにも、ともにある存在として。

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手首への装着感は?

 この件は何度か取り上げたことがあるが、僕の手首の大きさ(7in/約17.8cm)では、ペラゴス 39はまさに完璧だ。コマ調整とT-Fitのセッティングを操作する必要があるが、軽くて、フラットで、クラスプまで16mmにテーパード(傾斜)するブレスレットの装着感は実に優れている。付属のラバーストラップよりもブレスレットのほうが断然好みだったと言っておこう。もちろん、NATOストラップを装着したペラゴス 39にも惚れ惚れする。

the tudor Pelagos 39

 T-Fitシステムは簡単に素早く調整でき、手首のむくみを解消するのに十分な調整幅を提供してくれた。T-Fitは初代ペラゴスのクラスプほど好みではないが、ダイビングへのフォーカスを和らげたモデルであることを考えると、T-Fitはその目的に適っており、うまく機能していると思う。

 また、ペラゴス 39はほかのさまざまなストラップとも相性がいい。だが、唯一の欠点はラグ幅が21mmであることだ。これは面倒ではあるが、ミドー(MIDO)のオーシャンスターGMT HODINKEE限定モデル(こちらもラグ幅が21mm)とストラップを共有できるので、個人的には許容できる。両方ラグ幅が20mmだったらよかった? 間違いなくそうだろう。しかしペラゴス 39に限っていえば、これはブレスレットが僕の好みと合致した数少ない時計のひとつかもしれない。それだけ隙がなく、完璧ということだ。

 視認性は抜群、ベゼルは滑らかで素晴らしい感触だ。通常モデルに見られる複雑にせり上がった外周やデイト表示、冗長な表記がないシンプルなダイヤルデザインは、この時計に落ち着いた雰囲気を与えている。赤文字表記のモデル名とチューダーのアイコンであるスノーフレーク針も、それを後押ししているようだ。

 また、ペラゴス 39の最大の特徴であるサテン仕上げのセラミックインサートベゼルは、初代モデルのマットなものから光沢のある質感へと変化しており、旧来のペラゴスとは一線を画す仕上がりとなっている。実際に腕に乗せるとこの変化は大きく感じる。僕は初代モデルの総マット仕上げのほうが断然好みだが、ペラゴス 39のベゼルは僕の腕になじみ、際立った存在感を添えてくれる。

the tudor Pelagos 39

 もし、あなたが腕時計の購入を検討するうえで装着感を重視するのであれば、ペラゴス 39を試してみる価値は十分にあると思う。

パーフェクトな時計か?

 完璧に近いが、あと一歩及ばない。念頭に置くべきいくつかの考慮事項がある。まず、人によっては深刻な問題になり得る、前述した21mmのラグ幅である。第2に、ベゼルとマーカーとを比較した際、針の夜光の明るさが欠けていた点だ。今回夜光ショット(夜光塗料が発光する様子の撮影)させてもらった2本のサンプルのいずれでも、確認できた事象だ。

the tudor pelagos 39

 正確には夜光自体ではなく、他の部品と比べて針の研磨処理が明るくないのだ。しかし、夜間においては夜光は機能的で、長時間の運用が可能だ。願わくはこの点について、チューダーが将来的にマイナーチェンジすることを期待している

 最後にこれは当たり前かもしれないが、もしチタンの時計を所有したことがなければ、その性質については考慮する必要があると思われる。確かに、チタンはSSよりも軽くて強く、低アレルギー性で、腐食に強い(ダイバーズウォッチに最適だ)。だが、チタンは柔らかい金属でもあり、SSに比べて傷や打痕がつきやすい傾向がある。

the tudor Pelagos 39

 チューダーはペラゴス 39にグレード2のチタンを採用している。6%のアルミニウムと4%のバナジウムを含むより高級な合金である、チタン6AI-4Vのグレード5ではない。

 グレード5はグレード2よりも強度が高いが、実用面でどれくらいの差が出るのかについては特にコメントできない。だが、ペラゴスが傷だらけになることは間違いないだろう。それも楽しみのひとつと捉えて欲しい。ひとつやふたつの傷には確かにガッカリさせられるが、日々身につけることで形成される使用痕は特別なものであり、決して残念なことではない。

競合モデル

 ペラゴス 39の競合モデルを選び出すのは、少し頭を悩ませる問題だ。59万1800円(税込)の希望小売価格を考慮すると、ペラゴス 39に最も近い競合モデルは3つの42mmのペラゴスのうちのひとつで、価格はほどよく上乗せされた63万2500円(税込)となる。だがその分、スペック上ではペラゴス 39より高い価値が提供される。

the tudor Pelagos 39

 チタンを使いたくない(あるいは必要ないと感じる)のであれば、ブラックベイ フィフティ-エイトは依然として勝者であり、このクラスではトップレベルのジン U50はSS製で、ブレスレットタイプでも49万8300円(税込)と、さらに手ごろながらほぼ同サイズの(やや大きいが)モダンなダイバーズウォッチを提供している。しかし僕の考えでは、どちらも直接比較検討する対象ではない。SSモデルを打ち消すほどチタンモデルが欲しいか、あるいは非SSモデルにプレミアを払いたくないかのどちらかだと思うが、違うだろうか?

 より低い価格帯ではシチズンバルチックがチタンモデル(13万円以下)を展開しているし、まったく方向性の違うところで、直径44.2mm、95万7000円(税込)のグランドセイコー SBGA463を挙げることもできる。しかしここまでくると、ペラゴス 39の持つ魅力からは遠ざかっていくような気がする。

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 この質問を世界一の時計コミュニティ(TGN)メンバーのSlackに投げかけたところ、多くの人がセイコー SBDC101(海外版はSPB143)、コーアクシャル前のオメガ シーマスター(41mm、Ref.2231や2232など)、タグ・ホイヤー アクアレーサー(ソーラーグラフは40mmのクォーツ式で、税込36万8500円)など、どれも価格以上の魅力にあふれるモデルの回答が得られた。

 最後に、SBDX019(海外版はSLA017)のようなセイコーの高級ダイバーズも、39.9mmで、ペラゴスにずっと近い価格帯だからとコメントで推薦された。しかし、それはもはやチタンでもなければ、ノスタルジーが魅力の大きな部分を占める時計だという点で別物だと僕は考えている。

the pelagos 30

 先述したとおり、チューダーのほかのモデルは別として、ペラゴス 39の競争相手を把握するのは数学の問題のように簡単ではない。チューダーは、ダイバーズウォッチという基本的な考え方を踏襲しながらも、そのレイアウトやサイズ、仕上げにおいて、一般的ではないものを作ることに成功した。なぜ、人々はただのダイバーズウォッチに興奮するのだろうか? 冒頭で、僕が読む手間を省くといったことを覚えているだろうか? まさに今がそのチャンスだ。では、一緒にこの物語を締めくくろうではないか。

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終わりに

 10年にわたるペラゴスの成功を考えると、ペラゴス 39はスマートで完成度が高い、間違いなく魅力的な進化を遂げたモデルである。ダイビングに特化した性能と引き換えに、チタニウムを最大限に活用することで優れた装着感とカジュアル感を得たこの時計は、かねてから計画していた久々のダイビング旅行にも連れていけるほど頼れる存在でもある。

 この時計は、そんな僕たちのためのペラゴスなのだ。

the tudor Pelagos 39
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詳しくはチューダー公式ウェブサイトをご覧ください。HODINKEE Shopでは、チューダーの中古時計を多数取り揃えています。