trophy slideshow-left slideshow-right chevron-right chevron-light chevron-light play play-outline external-arrow pointer hodinkee-shop hodinkee-shop share-arrow share show-more-arrow watch101-hotspot instagram nav dropdown-arrow full-article-view read-more-arrow close close email facebook h image-centric-view newletter-icon pinterest search-light search thumbnail-view twitter view-image checkmark triangle-down chevron-right-circle chevron-right-circle-white lock shop live events conversation watch plus plus-circle camera comments download x heart comment default-watch-avatar overflow check-circle right-white right-black comment-bubble instagram speech-bubble shopping-bag

A Week On The Wrist IWC パイロット・ウォッチ・クロノグラフ “トリビュート・トゥ・3705”を1週間レビュー

カルト的人気を誇る90年代のクラシックモデルが(さらに)ブラックになって戻ってきた。

Play

IWCは1990年代に発売された、現在ではカルト的な人気を誇るRef. 3705フリーガークロノグラフ・ケラミックにオマージュを捧げるモデルを発表した。発売当初は人気がなく、数年しか販売されず、約1000本しか製造されなかったため、製造中止になったときには忘却の彼方に消えていく運命にあるかに見えた。

左がオリジナルのRef.3705、右は2021年に発売されたトリビュート・トゥ・3705。

 しかし、ミュージシャンのニック・ドレイクから映画『ビッグ・リボウスキ』に至る多くのカルト的な人気を誇るカルチャーと同様、Ref.3705も近年再評価されている‐発売当時は無名で傍流であり、まさにその出自が需要を押し上げたのだ。価格は着実に高騰しており、オリジナルのRef.3705はIWCファンのみならず、ヴィンテージやそれに近い筋のファンからも熱烈な支持を受けている。IWCは、往年の定番機ではないものの、今やヴィンテージ界隈で新たなスターとなったRef.3705の新バージョンを作ることを決めた。それがパイロット・ウォッチ・クロノグラフ "トリビュート・トゥ・3705"である。

オリジナルモデル

 オリジナルモデルであるケラミック(セラミックのドイツ語発音)製Ref. 3705は、1994年から1998年まで販売され、スティール製のRef.3706と併売された。Ref.3706は、そのケース素材のおかげで、より広い範囲でアピールすることができた。当時、セラミック製の時計ケースは珍しく、またセラミックという単語自体に不信感を抱かせるものがあった。中国明朝時代の花瓶はセラミック製であり、来客時以外は出してはいけない良質のウェディングチャイナもセラミック製だった。祖母が持っていたハンメルのフィギュアコレクションは、そのうちの1つを私が壊してしまい、そのために大金を払ったが、それもセラミック製である。物質学者でない者にとって“セラミック”とは、要するに「目をつぶって見たら壊れるもの」の代名詞であり、それがこの新素材をすぐには成功させないことにつながっていたのだろう。

こちらがオリジナルのRef.3705。壊したら、お代をいただこう。

 この先入観はおそらく不公平なものだっただろう。しかし、人生は目端の利く者ものろまな者も平等に不公平なものである。そしてその人気の高まりは、一般の人々が時計製造におけるセラミックを徐々に受け入れるようになったことと軌を一にしている。

 なぜ、セラミック製の時計ケースが信頼されて然るべきなのか? 時計製造に使用される工業セラミックは、航空宇宙産業や自動車産業など他の産業でも使用されているが、いただきもののティーカップよりもはるかに頑丈だ。セラミックスの種類は非常に多く、ほとんどの定義は各々の経験則に基づいているといっていい。セラミックスは(通常)非金属で、硬く、脆く、耐腐食性があり、(多くの場合)電気の伝導性が低いものだ。金属や金属合金が、光沢があり、延性があり、電気をよく通し、比較的柔軟性があるのとは対照的である。

Ref.3705、黄色く焼けたトリチウム夜光塗料。

 セラミックと金属合金には、それぞれ長所と短所がある。セラミックは、その硬さゆえに傷付きにくく、ベゼルに広く採用されている。また、時計によく使われる金属合金よりも軽く、化学的にも不活性なので、耐アレルギー性でもある。しかし、強く叩くと、へこんだり曲がったりするのではなく、粉々になってしまうのが難点だ。

 一方、金属合金の欠点は、破壊ではなく変形だ。しかし、金属は傷付きやすく、重量も重く、(金属によっては)アレルギー性の皮膚炎症を引き起こす可能性もある。どちらが良いかは実際に身銭を切って試してみないことには判らない。セラミックに興味のある方に朗報なのは、工業用セラミックは脆いとはいえ、かなり丈夫だということだ。脆いからといって必ずしも壊れやすいわけではなく、セラミック製の時計ケースを割るには、表面にかなり強い衝撃を与えなければならない。

 確かに、インターネットの混沌とした情報の渦には、セラミックケースが大崩壊してハンプティ・ダンプティのようになっている写真が出回っているが、実世界はそのようなことで溢れているわけではない。また、時計王国の至る所で、セラミックケースやベゼルなどが時計愛好家の期待を裏切っているという不満が上がっているわけでもない。案外丈夫なものだ。

 しかし、時計製造とは、長所を伸ばし、短所を減らすことを追求することに他ならない。そして、IWCはトリビュート・トゥ・3705において、ハイテク(素材)を全面に押し出してきたのだ。

 この「トリビュート」モデルを見る前に、後知恵にはなるが、オリジナルの魅力的な点を振り返ってみる価値がある。Ref.3705は、魅力的なハイブリッドモデルのひとつである。当時、機械式時計のルネッサンスが既に始まっていて、各ブランドが革新性を真剣に競い始めていた時代であった。当時の基準では、39mm × 15mmとやや大きめの時計で、ムーブメントにはバルジュー/ETA 7750が搭載されていた。当時は、IWCがクォーツ革命前のムーブメント技術の遺産を再構築するための本格的な投資を始めるずっと前で、7750は信頼性の高い自動巻きクロノグラフムーブメントの数少ない選択肢の一つであった。

 私が初めてRef.3705を見たのは、既に生産終了してから数年後のことだったが、非常にハンサムな時計だと感じた。オールブラックのトレンドはずっと未来の話であったし、Ref.3705はセラミックとメタルの素材の組み合わせがとても魅力的だった。ケース自体はブラックの酸化ジルコニウム(IWCは1986年にセラミック製ケースを開発した業界のパイオニアだ)だが、リューズ、プッシャー、裏蓋はステンレススティール製で、このツートンカラーの視覚効果は、日常的に見られるものではなく、どちらかというとテクニカルに見え、非常に目を惹くものだった。

 もうひとつの魅力は、磁気の影響を防ぐために軟鉄製のインナーケースを採用していることだ。今となっては時代遅れな解決法だが、それを言えばゼンマイや歯車を使った機械式時計など元も子もなく、私は軟鉄製のケースが醸し出す、プロペラやシルクのスカーフ、夜明けのパトロールに奔走するパイロットのイメージに好感をもったし、今でも変わらない。シリコンや常磁性合金は、確かに磁場に対処するための最新の解決策をもたらすが、もし私たちが素材科学の最新技術に関心があるだけなら、「(舌を噛みそうな名前の)金属における国際学会詳報」を読んでいることだろう。 

Ref.3705 ケラミック、2016年。

 Ref.3705は、昔も今も、IWCの伝統的なモデルだ。余裕があり、あからさまなデザインや美意識を感じさせないこの時計は、あらゆるレベルで正確な性能を発揮する‐つまり、ぼんやりと鑑賞するのではなく、時計を身に着けて、人生を楽しむための時計なのだ。

質感におけるアート:トリビュート・トゥ・3705

 トリビュート・トゥ・3705を手にした瞬間、興奮を覚えたことをまずは伝えたい。非常に敬意を払って作られたオマージュであることに加え、オリジナルに非常に忠実なため、私はすぐに1990年代、そして私が初めてIWCの時計に出会った頃に戻ったような気がした。このトリビュートはRef.3705に非常によく似ており、まるで20年前のIWCのカタログから抜け出してきたかのように感じられる。

 さて、私にとってこの時計は、プルースト著『失われた時を求めて』の挿話に出てくるマドレーヌ(菓子)のような存在に感じられるが(時計学的にも他の点でも)、実際にはオリジナルと同じではない。41mm × 15.3mmとやや大きめで、本作はブラックで統一されているのが目立つ。これは、ケースの素材が異なることを示すヒントでもある。Ref.3705では、工業用セラミックを採用している。一方、トリビュートではセラタニウムが採用されている。これはIWCが名付けた特殊なチタン合金の名称で、セラミド加工された金属の層が重ねられているのだ。

 “セラタニウム”とは、“セラミック”と “チタニウム”を組み合わせた混成語である。しかし、IWCが採用した素材には、当初の段階ではセラミック素材が全く含まれていない。純粋な金属であるこの素材は、まず通常の方法で機械加工され、最後にビーズブラスト仕上げが施される。そして、最後にセラミックが登場する。削り出しで仕上げられたケースは、高温の炉に入れられる。その熱で、大気にさらされたケースの表面で化学反応が起こり、セラミックへと変化していく。セラミックの表面層はコーティングではなく、下地のチタン合金素材の一部であり、(PVDコーティングのように)表面に塗布されたものではないため、下地から欠けたり剥がれたりすることはない。

 私の知る限り、IWCは合金の組成を公開していないが、可能性としては、一部がニオブであることが考えられる。IWCは2001年にニオブを含むチタン合金の特許を取得しており、それによると、合金を800℃に加熱すると“質的にニオブの酸化物からなる耐久性のある黒い表面層”ができるとのことであるが、これは(断片情報からの)推測に過ぎないものだ。

 セラタニウムは、特にチタンや一般的なメタルケースの利点と、セラミックの利点を併せもつ、非常に優れたソリューションであるように思える。セラミックスの耐傷性はそのままに、ケースのボディはオリジナルのチタン合金を採用しているので、多少なりとも割れたり、粉々になったりすることはないはずだ。

 オリジナルモデルとトリビュートモデルのもうひとつの大きな違いは、ムーブメントだ。Ref.3705は信頼性の高い頑丈なムーブメント、Cal.7750を採用しており、このムーブメントは20世紀の時計製造における偉大なサクセスストーリーの一つとなっている。しかし、トリビュートにはIWCの自社製キャリバー69380が採用されている。

IWC Cal.69380。

 Cal.69380の基本的な構造はCal.7750と共通しているが、多くの違いがある。最も重要な点は、IWC独自の二重爪巻上げ機構を採用していること、そして7750で採用されているレバー&カム機構の代わりにコラムホイールを使用していることだ。受け石の数も7750の25石に対し、Cal.69380は33石と多く、パワーリザーブも7750の42時間に対し、46時間と若干長くなっている。

 嬉しいことに、Ref.3705からトリビュートまで変わらないのは、軟鉄製のインナーケースの採用だ。いわゆる軟鉄製の耐磁性ケースは、純鉄ではなく、ニッケルと鉄の合金で、磁力線の優先的な通り道を提供することで機能する。つまり、磁力線はムーブメントよりもインナーケースに流れやすいのだ。トリビュートの内部は、ムーブメントとそれを覆う装甲の両方において、3705へのオマージュとなっている。

A Week On The Wrist

 初めてトリビュートを見たときは、圧倒された。Ref.3705を最後に見たのは、2016年にコレクターの方からお借りしたときで、それ以前は時計を取材している間に1、2回しか見たことがなかった。5年前に見たときも、2000年代初頭に見たときと同じように、印象に強く残った:あまり話題にならず、実際に見ることもほとんど無いレアな時計として。

 トリビュートは、もちろんRef.3705の完全なレプリカではない。サイズ、ムーブメント、ケース素材、そしてもちろん、トリチウムの代わりにスーパールミノバを採用するなど、多くの重要な点で異なっているからだ。にも関わらず、2本の時計を並べて見るとすぐに分かるように、Ref.3705と同じように感じられ、オリジナルモデルの精神を鮮やかに再現している。

 私が手にし、装着する機会を得たIWCのセラタニウム製時計は、これが初めてではない。そのような時計は、2017年に発売された“アクアタイマー・パーペチュアル・カレンダー・デジタル・デイト/マンス“50イヤーズ・アクアタイマー"が最初で、その後も数モデルリリースされている。軽くてタフで、艶のあるセミマットの表面は、光を程よく反射して心地良い質感を与える一方で、光を程よく吸収してオリジナルのステルス性を保つという両義性を備えたクールな素材だ。
 トリビュートには、オリジナルのようなスティールとブラックの混合素材という構造は持たない。しかし、オマージュウォッチにおいてオリジナルに絶対的に忠実であることは、諸刃の剣でもある。Ref.3705のスティールとセラミックの組み合わせは、1990年代の時計ケース技術の限界と制約の結果であり、結果的に興味深い視覚効果をもたらしたが、現在ではより良い技術的解決策が存在するのに、トリビュートで敢えてそれを再現するのは、安っぽい印象を与えただろう。

 私はトリビュートについて、オリジナルの文脈で語ることに多くの時間を費やした。トリビュートは、結局のところオリジナルを想起させるだけでなく、その細部において多くの点でコピーを試みている。もちろん、このトリビュートや他のオマージュウォッチは、それ自体がどうなのか、また、過去だけでなく現代の機械式時計に対してどのような位置を占めているかという観点から評価することができ、またそうすべきなのだ。

 オマージュとしてではなく時計として、私はこのトリビュートを大成功だと考えている。日常使いの時計として、少なくとも私が手にした1週間ほどの間は、オリジナルと同等の満足感を得ることができ、技術的にも間違いなく優れていると断言できる。オメガ スピードマスターが通常生産モデルであるのに対しトリビュートは限定モデルであるが、オリジナルモデルへのリスペクトに満ちたアップデートに注目したい。一方で、トリビュート・トゥ・3705は、オリジナルのRef.3705と同様、日常使いすることができる時計だ。瞬時に読み取ることができる高い視認性、クロノグラフは気取らず正確に目的を果たすことができる。また、コラムホイールのおかげで、オリジナルよりもスムーズでプッシュボタンの統一感のある感触が得られるのは特筆すべき点だ。

 また、オリジナルモデルよりも安心して身に着けることができた。確かにセラミックはケース素材として様々な金属に取って代わる完璧な素材だが、私にとっては、非合理的ではあるものの、脆さのイメージが払拭できない。セラタニウムの技術的な優位性は無視できない。しかし今日、セラタニウムに代わる素材はあまりにも多く存在する‐例えば、硬化処理を施したチタン合金は、数値上は必ずしもセラタニウムほど硬くないが、実用上のメリットはほぼ同じで、十分に硬いといえる。しかし、自分の時計を見て、そのケースがとんでもない不運に見舞われたとしても、他のケースよりも耐えられる可能性が高いことを知るのは、やはり安心感が違う。

 私にとって、トリビュートを身に着けることは、時計製造の歴史、そしてIWCの歴史の中で、まったく異なる時代を思い起こさせる。Ref.3705(およびスティールモデルのRef.3706)は、デザインの美しさを追求するのではなく、当時の予算と素材の制約の中で可能な限り読みやすく、機能的で、耐久性のある時計を作ることを目的とした、可能性の追求を示しているように思われる。結局のところ、1%の人にしか買えないような道具は、道具として成立しないし、ブラジル木製柄の金メッキハンマーは、道具というよりも、キッチュ(しかも悪趣味な)の類、あるいは革命を扇動する存在である。

 トリビュートは、純粋な道具としての基準から少しだけ逸脱している。まず、限定モデル(1000本)であることから、通常生産モデルとは異なる色眼鏡で見てしまうことだ。154万5500円(税込)という価格は、限定生産された(そしておそらく需要の高い)時計としては妥当なプレミアムだが、一般的に広く使用され、魅力的なツールウォッチの価格帯には遠く及ばない。しかし、オリジナルのRef.3705は、もし見つけることができたとしても、現在では2万スイスフラン(約234万円)前後で販売されていることを考慮する必要がある(A.ランゲ&ゾーネ復活の立役者であり、機械式時計ルネッサンスの重要人物である故ギュンター・ブリュームライン氏が所有していた個体は、2018年にそれよりもかなり高い価格で落札された)。

 もしRef.3705に惹かれたのであれば、収集性や過去の歴史よりも、素朴で機能に従ったデザイン(ブランドは本質的にツールウォッチではなく、ツールウォッチらしく見せることで大きな利益を得ているので、本物を見つけるのは年々難しくなってきている)、トリビュート・トゥ・3705は真剣に検討する価値があると私は思う。そう、実に素晴らしい時計だからだ。

 とはいえ、私にとっては、そしておそらくHODINKEE読者にとっても、「旧き良き時代」を彷彿とさせるものであることは否めない。この時計は、時計愛好家の一部が本当に望んでいるものであり、特定の時代にある会社が製造したある時計へのノスタルジーに頼っているにも関わらず、オリジナルの魅力を十分に発揮しており、このジャンルにおける説得力のある作品に仕上がっている。しかし、この時計は、過去の歴史やIWCの歴史という点と点を結ぶ、非常に魅力的な時計でもある‐時を告げる機械なだけにタイムマシンともいえるだろう。

IWC パイロット・ウォッチ・クロノグラフ "トリビュート・トゥ・3705": ケース、セラタニウム(外面にセラミド加工を施したチタニウム合金)、41mm × 15.3mm、6気圧/60mの防水性。両面反射防止加工を施したドーム型サファイアクリスタル。針、ロジウムメッキとスーパールミノバ。ムーブメント、IWC Cal.69380、コラムホイール式自動巻きクロノグラフ、IWC二重爪巻上げ機構、2万8800 振動/時、33石、パワーリザーブ46時間。世界1000本の限定生産、価格は154万5500円(税込)。

本記事執筆のためにオリジナルのRef.3705を貸与してくれたAnalogShift.comに感謝申し上げたい。

オンライン購入限定。日本では0120−05-1868へ要電話問い合わせ。
その他詳細は、IWC公式サイトへ。