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Technical Perspective 腕時計の防水表示を正しく理解する2つのISO規格に関する逸話

国際標準化機構(ISO)は、あらゆることを白黒はっきりさせる組織である。


※本記事は2017年11月に執筆された本国版の翻訳です。

時計に関する掲示板やオフ会、トレードショー、展示会、時計にまつわるどんな小さな集会に参加しても、常に人気の話題のひとつは、時計の防水深度表示(リアルでもバーチャルでも)の本当の意味についてだ。その話題を振れば、あらゆる答えが返ってきそうだ ‐ 例えば、100m防水ではシャワーを浴びる以外の用途には不適切だという意見(おっと、これはHODINKEE寄稿者でダイバーでもあるジェイソン・ヒートンに対する宣戦布告だ)がある一方、ダイバーズウォッチですらシャワーに入れるべきではない、なぜなら熱と石鹸が時計のパッキン、さらには内部のさまざまな部品に悪影響をもたらす悪魔の所業だという声もある。

 しかしながら、後述するように“防水性能”や“ダイバーズウォッチ”という用語にはかなり具体的な規定が存在し、それらが意味するところが同じではないことを知るのは、ちょっとした驚きに値するだろう。加えて、これらは2つの基準は、いずれも1947年以来、加盟国の消費者へ標準規格情報を提供してきた国際標準化機構(ISO)が規定した基準によって規定されているのである。圧倒的多数の国々の標準化団体がこのISOに加盟しており(2021年現在で165団体)、対立の絶えない分断化された世知辛い世界情勢にあって、ISOの諸規定は一般に公正妥当と誰もが納得するものとなっている。当然ながら、本拠地はジュネーブにある。

 時計の防水深度評価が完全に規定されているとご存じの読者なら、ダイバーズウォッチの深度表示に加え、そのテスト手順、さらにダイバーズウォッチが備えるべきほかの特徴がISO 6425によって規定されていることもご存じだろう。このISO規格が意味するところを、ダイバーズウォッチの防水深度に関する記事のなかで大雑把に説明したが、そこから得られた情報は非常に明確だ:100m防水は、レジャーとしてダイビングを楽しむには十二分であり、ダイバーズウォッチを製造する大手メーカーでは、表示水深深度から十分なマージンを取ってテストされている(セイコーに至っては、仕様を大幅に超えたオーバースペックなダイバーズウォッチを作っている証拠事例が存在する)。

ロレックス・ジュネーブでは、コメックス社が設計した圧力試験機でロレックスのケースのバッチテストを行っている(「ロレックス 全4工場の舞台裏に足を踏み入れる」で紹介)。

 ISO 6425の規定本文は、この国際機関の窓口からライセンス購入しなければ入手できないが、その要求仕様の概要はWikipediaで紹介されており、ISOは重要な点をいくつか指摘している。


ISO 6425:規定の核心に触れる

 ISOの定義では、ダイバーズウォッチは、水深100m以上の防水性能を備え、かつ“事前に時間設定できる装置”、すなわちデジタル計時装置か回転計時ベゼルのいずれかを、後者の場合は“不注意による回転や誤った操作から保護する”機構をもつ時計とされている。目盛りは60分までで、(少なくとも)5分刻みで配さなければならない。さらに、耐磁性と耐衝撃性の両方の基準を満たし、関連するISO規定に準拠していなければならない(電池寿命の表示など、クォーツウォッチ特有の要件もあるが、本記事では機械式時計の仕様を中心に解説するため省略する)。また、40℃、5℃、40℃の水中に順次(各10分間)浸漬し、防水性を確認する“熱衝撃検査”もある。ちなみに、40℃がバスタブの安全推奨温度の上限であることは偶然ではないだろう。つまり、ISO 6425に準拠したダイバーズウォッチを着用していれば、入浴を自由に楽しむことができる(らしい)のだ。

 防水検査の実地テストは“結露検査”と呼ばれる。手順はシンプルだ:時計をプレートの上に載せ、40~45℃に過熱させたのち、グラスに注がれた18~25℃の水の中に落とされるのだ。この手順で風防の内側が結露で曇れば不合格となる(ただし、湿度の高い環境で組み立てられた時計は擬陽性となり得るが、最新の空調管理された組み立て工場では、その可能性は低いだろう;もちろんロレックスとセイコーが基準だが)。

 この検査は明らかに非破壊検査を目的としている。さらに2種類の“水圧耐久”検査があり、1つは最低10気圧で2時間、もう1つは、リューズの安全性を確認するため10気圧で5N(ニュートン)の下向きの力をリューズに10分間加えるというものだ。さらに3つめの検査として、水深30cmの水中に50時間浸す検査、結露検査、24時間の塩水浸漬検査が用意されている(これは耐水圧ではなく耐腐食検査だ)。

2012年に掲載したジェイソン・ヒートンの耐水試験に関する記事に登場した、ロレックス社製ファゾメーター湿式圧力試験機。

 ここで重要なのは、すべての個体が一連のテストを受けているかどうかだ。ISOでは、すべてのダイバーズウォッチに2時間の水圧テストのみを要求している:ISO準拠国でダイバーズウォッチを製造しているのであれば、ダイバーズウォッチを謳うすべての時計にこのテストを実施しなければならない。そのほかの検査は“型式検査”の規定に基づいて実施されるだろう。基本的に、全生産量のうちの何割を検査するかは、生産規模と型式検査の仕様によって決定される。もちろん、それらを規定するISO 28590も存在する。無味乾燥なISO 6425本文を読んで退屈だと思われる方には、“属性ごとの検査サンプル抽出手順 ‐ISO 2859X系基準群における属性ごとの検査サンプル抽出手順の概要”を読むことをおすすめしたい。まぁ冗談はさておき、このISOは実際にはかなり洗練されている。また、これに関連する一連の規定は、想定される生産規模の範囲において統計的に有意なサンプリングを保証するための極めて厳格なガイドラインを提供しており、消費者を保護し、メーカーに信頼性を実証する責任を負わせるために特別に策定されたものだ。いいぞISO、もっとやれ。


ISO 22810:一般消費者向けのISO防水性能

 もちろん、防水性能を備えた時計がすべてダイバーズウォッチというわけではない。ダイバーズウォッチではない時計は、実際にはまったく別のISO規格で規定されている。それが2010年に最新の改訂が行われた国際規格ISO 22810(一般用防水携帯時計)で、これは同機構が満を持して公表したものであったため、彼らはヘッドラインに駄洒落を付けずにはいられなかったようだ(なお、当該基準は1990年来改訂されていなかった)。オンライン上の議論では、ISO 6425を中心に防水性能が語られることが多いが、実際にはISO 22810の方がはるかに多くの時計を対象としており、ダイバーズウォッチに関するISO規格のような専門的な要求事項も、より一般消費者目線に徹しているといえるだろう。

 この2つのISO規格には、かなり大きな違いがある。ISO 22810では、その範囲が非常に広いため、防水性の最低基準を定めていない。その代わり、非潜水用の時計として可能な限り実用的な検査基準を示しており、また、“長期間にわたって時計の品質を維持するための保証条件と注意事項”を製造者の責任のもとで記載させている。検査を要求するのではなく、検査方法を提供しており、製造段階で“国際規格の要求を満たすことを保証したい場合”には、メーカーの責任で検査方法を取り決めることになっている。メーカーがどのような検査方法を採用するかは任意だが、どのような検査方法であっても、防水表示する以上は列挙された検査項目に合格する水準の防水性を保証しなければならない。

ジェイソン・ヒートンの記事「深海の女王シルヴィア・アール博士とロレックス」で紹介したとおり、シルビア・アール博士は、“防水表示のある”金無垢のデイトジャストでダイビングをしている。

 同機構によると、新たに改訂されたISOでは、例えば30mの防水性能を備える時計があれば、その時計はメーカーを問わず、水深30mまでのあらゆる種類の“水中活動”に適していることの保証を目的としている。実際には、50m防水の時計はダイバーズウォッチではないが、例えば20mの水深まで潜ってもケース内に水が浸入しないことを意味する。‐もちろん、そのISO基準が発効した後に製造された防水時計という前提ではあるが。

 つまり、いかなる防水時計も、使用時に以下の条件を満たすように製造され、メーカーによってテストされなければならないのだ。

 まず、加圧検査後の結露検査において、風防の内側に結露が生じないことが必要だ。重要なのは、実際の加圧がメーカーによって定義される点にある。つまり、最低100mではなく、2気圧で10分間の検査を実施することができる(もちろん、時計によってはそれ以上でも構わない)。浸漬検査もダイバーズウォッチに比べてそれほど厳格でなくともよい。水深10cmに最低1時間だ。熱衝撃検査も同様だが、まったく同じではない。40ºCで5分、20ºCで5分、40ºCで5分を経て結露検査を実施する。リューズに対する5Nの負荷検査は10分ではなく5分に緩和されている;耐塩水性、耐衝撃性、耐磁性検査は不要だ。これらの検査要求項目を見ると、裏を返せばダイバーズウォッチは、非ダイバーズウォッチに比べ全体的に非常に頑丈であることを要求されることがわかる。また、メーカーが希望すれば、実際に水に浸すのではなく、乾式検査を実施することができる。これにより、検査対象の個体に破壊的なダメージを与えるリスクを回避することが可能だ(検査対象の時計が300万円もするようなヴァシュロンのドレスウォッチであれば、うれしい配慮である)。

ヴァシュロン・コンスタンタンのレ・ヒストリーク ウルトラファイン 1955:3気圧/30m防水だが、これを着けたままシャワーを浴びる勇気はあるだろうか?

 オーナーの立場からみて、最も大きな違いは以下のとおりである:ISO 6425に準拠したダイバーズウォッチを購入した場合、その時計、つまりその個体が耐圧検査を受けていることがわかる。また、そのモデルが製造中にサンプル検査を行い、ほかの多くの検査項目に適合していることもわかる。一方、一般用防水携帯時計の場合、検査回数の規定は一切課されずメーカーの裁量に任されているため、原則としてサンプル検査になると推定される。例えば、500時間の品質認証が付いたモンブランの時計を購入した場合、その時計は最低でも3気圧の防水性を得るために、乾式と湿式両方の加圧検査が個別に実施される。したがって、一般論として情報が提供されている場合は、メーカーの仕様と検査内容の両方を考慮に入れるのが賢明だ。

 防水に関するISOの末文には、オーナーへのアドバイスが次のように記載される:

・ケースを開けるたびに防水検査を実施すること

・適切なストラップやブレスレットが装着されているか確認すること

・急激な温度変化を避けること

・ガンガンぶつけないようにすること(私流に言い換えている)

・水中でリューズ操作をしないこと

・リューズやプッシャーを使用した後は元の位置に戻すこと(言い換えると、リューズを解放したまま泳がないこと)

・海水に入った後は真水で塩抜きすること

伝統主義:ジェイソン・ヒートンが所有するニコンのニコノス 35mm潜水フィルムカメラ。セイコーのプロフェッショナル ダイバーと合わせて。

 肝に銘じておきたいのは、時計の防水性能はパッキンがあってこそ確保されるものであり、もし最後の点検から数年以上経過した防水時計やダイバーズウォッチを持っているなら、パッキンが劣化して防水性能が損なわれている懸念があるということだ。また、防水性能基準は2010年以降のものであり、それより前の防水時計はその仕様では作られていないことを覚えておくといいだろう。最後に、有名な(悪名高い)“水圧変動”の問題についてまったく触れられていない点にも注目してほしい。機構によると、例えば30m防水表示の時計は、水深30mまでのスキューバダイビング、水中ポロ、水中エアーギター大会など思いつく限りのあらゆる水中活動に適合しているとされる。
 それでは、安全に水中で時計を楽しみ、そしてリューズをねじ込んでおくことを忘れないでほしい。