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It's Complicated 1815 ラトラパント・ハニーゴールド“F. A.ランゲへのオマージュ”の心臓部を解析する

1815 ラトラパント・ハニーゴールド“F. A.ランゲへのオマージュ”の特集をアンソニー・デ・ハス氏をお招きして届けよう。

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先日、1815 ラトラパント・ハニーゴールド“F. A.ランゲへのオマージュ”とひと時を過ごした。この時計については、A Week On The Wristの記事でお読みいただいたか、私が緊張しながらドイツ語の名前をぎこちなく発音する様子をご覧になったかもしれない。この時計のレビューは、私がスプリットセコンド・クロノグラフを身につける経験に初めて深く足を踏み入れるきっかけとなった(それはもう、楽しくて仕方なかった)。

 確かに、プレスツアーや展示会で時計を手に取ったことはあるが、実際に自分の腕につけて長期間過ごしてみたことはなかった。A Week On The Wrist公開後もその魅力に引き込まれていたところ、それを見た同僚のエディターから技術面のレビューを書いてはどうかと提案され、本記事の公開に至った。

 それでは、A.ランゲ&ゾーネのスプリットセコンド・クロノグラフがどのようにして作られたのか、その理由とともに紹介しよう。


スプリットセコンドの基礎知識

 ラトラパンテ・クロノグラフは、スプリットセコンドとも呼ばれ、センターに取り付けられた2本のクロノグラフ秒針を使って、2つの異なる時間を計測することができる機構を指す。これらの針は同時にスタートするが、正確なスプリットタイム(途中経過時間)を追跡するために、各々を停止することができる。実際の使用例として最もよく挙げられるのは、 レースでのラップタイム計測だ。

(Redditのユーザーが、レゴで再現したスプリットセコンドが、イメージに役立つだろう。)

 2014年、HODINKEEの寄稿者であるPH Zhou氏は、インターネット上でラトラパンテ・クロノグラフに関する最も優れた、そして最も網羅的な記事を執筆した。本記事では彼の記事を取り上げるつもりはないので、ラトラパンテとは何なのか、どのような仕組みになっているのか、詳しく知りたい方は、ぜひ読んでみることをおすすめする。

 A. ランゲ&ゾーネは、2004年に世界初のダブルラトラパンテ・クロノグラフ“ダブルスプリット”を発表して以降、スプリットセコンドコンプリケーションの権威として、その名を高めた。その14年後には“トリプルスプリット”を発表しているが、それ以前にもA.ランゲ&ゾーネは、“1815 ラトラパント・パーペチュアルカレンダー”に見られるような、まったく異なる系統のラトラパンテ・クロノグラフを市場に送り出している。2017年には、フュゼとチェーンのトランスミッションに、トゥールビヨン、クロノグラフ、ラトラパンテ、永久カレンダー機構を加えた“トゥールボグラフ・パーペチュアル "プール・ル・メリット”を発表した。

A.ランゲ&ゾーネ 1815 ラトラパント・パーペチュアル・カレンダー

A.ランゲ&ゾーネ トゥールボグラフ・パーペチュアル “プール・ル・メリット”

 A.ランゲ&ゾーネが最もシンプルなスプリットセコンド・クロノグラフである1815 ラトラパント・ハニーゴールド“F. A.ランゲへのオマージュ”を発表したのは、2020年の秋だった。そして、そこからが本題である。


ランゲに学ぶスプリットセコンドの仕組み

 1815 ラトラパント・ハニーゴールド“F. A.ランゲへのオマージュ”は、2時位置のプッシャーで2本の秒針をスタート/ストップさせ、4時位置のプッシャーで両針をゼロリセットし、10時位置のボタンでスプリットセコンド機能を開始する。時計内部では、9時位置に通常のクロノグラフを作動させるコラムホイールがあり、ムーブメントの中央、脱進機の上にあるスプリットセコンド針のストップ/スタートを制御する2つめのコラムホイールを備えている。

 この第2コラムホイールは、中央のクロノグラフ車の上に備えられたもう一つの歯車に噛み合っている。クロノグラフが最初の計測を開始すると、両方のセンター車が同期して回転する;しかし、10時位置のリューズでスプリットセコンド機能を作動させると、一対のクランプ(締め具)がスプリットセコンド車を挟み込んでラトラパンテ秒針がダイヤル上で停止する。クロノグラフ秒針はそのまま進むが、もう一度スプリットセコンドのプッシャーを押すと、クランプが上側の歯車の拘束を解除し、ラトラパンテ秒針がダイヤル上のパートナー(クロノグラフ秒針)と完全に並走するのだ。

A.ランゲ&ゾーネ製Cal.L101.2

 L101.2に搭載されているスプリットセコンド機構に対するランゲのアプローチは、他社とは異なる。そこで、A.ランゲ&ゾーネのクロノグラフムーブメントを最もよく知る人物、同社の製品開発ディレクターを務めるアンソニー・デ・ハス氏に話を聞いた。

 最近開催されたWatches & Wondersのデジタルショー期間中、彼はZoomで「ラトラパンテの複雑機構には常に妥協がつきものです」と私に語った。「うまくやれば、もちろん私たちはうまくやりたいと思っていますが、ラトラパンテを使用する際に、確実に時間を測れるようにする必要があるのです」

アンソニー・デ・ハス氏‐A.ランゲ&ゾーネの製品開発ディレクター

 A. ランゲ&ゾーネでは、ラトラパンテ・クロノグラフに2つの異なるアプローチを採って実装した。ダブルスプリットやトリプルスプリットでは、スプリットセコンドの歯車を停止させた時に生じる摩擦を軽減するアイソレーション(分離)機構を採用している。トゥールボグラフや1815 ラトラパンテ(1815 ラトラパント・パーペチュアル・カレンダーおよび1815 ラトラパント・ハニーゴールド“F. A.ランゲへのオマージュ”)では、スプリットセコンド車の下にあるハート型のカムと、彼が“引き紐”と呼ぶ小さなスティール製コイルを使った、よりクラシカルな方式を採用している。

 「我々は“そうだな、うちではアイソレーション機構を搭載したラトラパンテしか作っていないね”と言うこともできたのですが、この機構はどうしても厚みが出てしまうのです」と彼は語る。「ダブルスプリットにもトリプルスプリットにもアイソレーターが必要なのです。なぜか? ラトラパンテのミニッツカウンターには通常より多くの摩擦が発生するからです。いずれも瞬間的に針送りする仕様のため、抵抗が大きくなるのです」

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 Cal.L101.2が作動しているときは、その美しさに目を奪われる。ムーブメントはプッシャーの動きに反応して自由に動いているかのようだ。しかし、それはすべて計算されたバレエのようであり、リセットボタンが押されるまで待っている。そして、リセットボタンが押されると……。

ピョーン※

 ラトラパンテ機構は、バネとカムを使った軽快な挙動で、一旦停止した秒針をダイヤル上どこにいてもパートナーと合流させる。まるで一度も離れたことがないかのように(※残念ながら、この時計は実際には音は鳴らないが)。

センターブリッジの36 RUBINEの“36”の真下を見ると、小さなバネがあるのがわかる。これが、1815 ラトラパント・ハニーゴールド“F. A.ランゲへのオマージュ”や1815 ラトラパント・パーペチュアル・カレンダー、トゥールボグラフなどのラトラパンテ機構を実装している。

 ヒゲゼンマイと同様、ランゲはこの“引きバネ”を自社製造している。グラスヒュッテの時計職人が、薄いスティール片を工具で伸ばして慣らし、ムーブメントに組み込む準備をする。これは非常に繊細さを要する作業で、スプリングの許容範囲や引っ張り強度を測定するだけでなく、時計の振り角が落ちないよう、正しく安定してリセットできるだけの圧力をかけられるべく、組み立て時に細心の注意を払う必要があるのだ。

 「膨大な数の複雑機構を搭載した時計を作ったとしても、やはり時間計測機として機能しなければなりません」と彼は続けた。「妥協は許されません。時計コレクターやオーナーがラトラパンテに触れているときに、テンワが悲鳴を上げてしまうようではいけません。腕時計は時間を示すものなのですから」

これはトゥールボグラフ・パーペチュアル “プール・ル・メリット”に搭載されているCal.L133.1の、上で紹介したCal.L101.2との類似点にお気づきだろうか?

 Cal.L101.2の特徴は、引きバネだけではない。スプリットセコンド車の下には、半左右対称のハート型カムが配置されている。ここで興味深いのは、1815 ラトラパント・ハニーゴールドでは、スプリットセコンド機構の最も抵抗のあるポイントが、予想されるような30秒のところではないということだ。例えば32秒でラトラパンテを止めた場合、秒針はリセットされると15秒の時と同じように反時計方向に戻る。カムの分岐点は、実は約36秒のところにあるのだ。

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 これは、スプリットセコンド車が停止した時点のエネルギー蓄積量の結果である。その下に配置されているクロノグラフ1番車は回転を続けているため、余分な抵抗が発生し、一時停止の時間が長すぎるとテンプの振り角に悪影響を及ぼす(運動エネルギーはどこかで回収されなければならない)。

ここでは、引きバネ、カムにセットされたルビー、クロノグラフブリッジ、水平クラッチ機構、第1コラムホイールを見ることができる。

 リセットカムの最も低い位置にセットされた1個のルビーは、スプリット針が主針と一緒に回るのを補助する役割を担う。ラトラパンテがスプリットすると、スプリット針用歯車軸に取り付けられたルビーはクランプで固定されるため、静止状態になる。ルビーがスプリットセコンド車と引きバネ、そして第1クロノグラフ歯車とカムをつなぐ接点となっているのだ。針がスプリットされると、カムは回転し続け、ルビーはスプリングの圧力で固定されたカムの端に沿って上下に移動する。ラトラパンテがリセットされると、引きバネの圧力が直接作用し、ルビーがカムの最も低い位置に押し戻され、スプリット車をリセットし、スプリットセコンド針がクロノグラフ秒針に追いつくための正確な位置が指定される仕組みだ。

上の画像で、第2コラムホイールに連動してセンタースプリットセコンド・クロノグラフホイールをクランプが挟むのがわかるだろうか。

 しかし、これらはクランプ(またはペンチ、またはレバー、またはアックスなど、好みに合わせて呼ぶといい)なしでは実現できない。A.ランゲ&ゾーネは、驚くほどシンプルな方法でこれを製作した。一般的なスプリットセコンド・クロノグラフムーブメントには、スプリットセコンドメカニズムが作動した時にクランプと連動する2つのスプリングレバーがある。このレバーは、クランプの爪を物理的に押し下げ、スプリットセコンドの歯車を瞬時に停止させるためのものだ。

 ハス氏によると、従来はクランプの片側に1つのスプリングを配置し、それをもう一方側に移すという方法をとっていた。「しかし、この方法ではクランプの中心がずれてしまう危険性があります。クランプの中心がずれていると、スプリットセコンド歯車の中央にセットされた軸石に負荷を与えることになります。クランプがうまく調整されていないと歯車の進行方向が一方向に偏ってしまい、さらに摩擦抵抗が大きくなります。引きバネで実現した微調整をは歯車の中心から外すことで損なってしまうのです」

Cal.L101.2

 Cal.L101.2は、この問題を解決するために、非常に長い直線状のクランプを採用した。クランプは内側にカーブしてコラムホイールに噛み合い、“Made In Germany”と刻印されたブリッジの内側にあるバネ式のピボットを介して互いに連結される。この方法では、コラムホイールの切り欠きによってのみ、クランプに連続的な圧力がかかる。つまり、プッシャーを作動させる以外に外力を必要としないため、ラトラパンテの複雑性が最小限に抑えられ、機構全体の信頼性を高めることができたのだ。

 トゥールボグラフと1815 ラトラパント・パーペチュアルカレンダーは、スプリットセコンド機構だけに突き詰めれば機能的には1815 ラトラパントと同じ。そこに新たなコンプリケーションを重ね、いくつかの要素を入れ替えて、同じことを繰り返すだけなのだ(そんな簡単なことでいい?)。

 A.ランゲ&ゾーネ ダブル&トリプルスプリットのラトラパンテ機構とは、まったく別モノなのである。

A.ランゲ&ゾーネ   1815 ラトラパント ハニーゴールド“F.A.ランゲへのオマージュ”:ケース、41.2mm×12.6mm、A.ランゲ&ゾーネ製ハニーゴールド合金、風防/裏蓋にサファイアクリスタルを使用。ダイヤルカラー:ブラック、銀無垢。ムーブメント、Cal.L101.2、30分積算計付きラトラパンテ・クロノグラフ、32.6mm×7.4mm、パワーリザーブ:58時間、36石、振動数:2万1600振動/時。プレートとブリッジはつや消し/グレイン仕上げのジャーマンシルバー製、ロジウムを施した手彫りのクロノグラフブリッジとテンプ受け。世界限定100本。グラスヒュッテでの時計製造175周年を記念して、“1815フラッハ・ハニーゴールド”と“トゥールボグラフ・パーペチュアル・ハニーゴールド”とともに発売。価格:1622万5000円(税込)。

Live Photography, Tiffany Wade

A.ランゲ&ゾーネのラトラパンテの複雑さを理解するためにご協力いただいたアンソニー・デ・ハス氏とジャック・フォースターに感謝します。

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